赤嶺さん家の友奈さんが学校へ行くそうです 作:バロックス(駄犬
この作品は他の作品と比べて頭の力を抜いて作っているので展開がはやいです。あとは赤嶺ちゃんの可愛さを前面に押し出していければと思っています。
-----神舞白奈ちゃん~、私が新しい勇者部の部員としてスカウトしてきました~。
流星が駆け抜けるかの如く、乃木園子から放たれた一言は勇者部部室を一挙に喧噪へと染め上げた。
推薦された本人、神前白奈こと赤嶺友奈はその衝撃的な事実に一言も発することなく、されど身動きする事すらも出来ない。
「ちょ、ちょっと乃木! なんで部長である私に断りもなく新入部員の勧誘を!?」
勇者部部長、犬吠崎 風が乃木園子へと詰め寄る。小学生の園子はシノビの如く中学生の園子の後ろへと隠れた。
本来、部員が新入部員を勧誘する事には何も悪い点はない。
しかし、彼女たちは勇者部。
特別なお役目を担った少女たち。
敵襲などが起きた際に樹海化の影響で勇者たちは樹海へと転移される。
この神樹が作り出した異世界でもその法則は変わらないので、一般人からすれば急に勇者部の部員が消えるという現象が起きるのである。
今までは身近に一般の生徒が居なかったこともあってか大きく話題になることもなかったが、
目の前に一般人がいるときに樹海化で人が消失するという超現象を引き起こすのはまずい。
それを危惧しているのだろう。
「実は実は~勇者部にうってつけのイベントが今月あるんよフーミン先輩~」
「それがこれなのです~」
ふふん、と鼻を鳴らして園子(中)は言う。
それに合わせる様に園子(小)が一枚の用紙を部員たちに見せつけた。
白の画用紙にカラフルな色で描かれていてその内容はこうである。
――――讃州市中学校演劇コンクール開催のお知らせ
「讃州市の中学校の部活動がそれぞれ演劇を行うんよ~、参加する学校は大きく取り上げられるし名実と共に勇者部の名を世に知らしめるチャンスだと思うんよ~」
「だ、だから乃木? そういうのはまず部長である私に話を通して―――」
「優勝した部活動にはうどん無料券一年分を贈呈”するらしいんよ~」
「やるわ!絶対出場する!名声欲シイ!うどんが欲シイ!」
「白奈ちゃんの入部も認める?」
「認める!認めちゃう!」
即落ちだった。
即落ち2コマなみのスピード落ち。
うどんの魔力は計り知れない、この部長相手ならうどんをいくらでも送り付けてやれば苦悩の末に寝返ってくれそうだな、と赤嶺は思った。
優勝商品であるうどん手に入れるがべく、この後は犬吠崎 風は校内中を奔走することになるだが。
そして勇者部部員も何故か景品のうどんに釣られていたのか滅茶苦茶ヤル気になっていた。お前ら馬鹿か。
しかし、この大会の問題点は一つある。
赤嶺も最近知ったことだがこの学校には本職の演劇部が存在するのだ。そして大会に出場できる部活動は一つのみ。
本職の演劇部の者たちだって多分参加したいと思うだろうし、ここで勇者部を参加させるような学校だったら赤嶺はまず、この学校のモラルを疑う。
(いやぁ……というか、この学校には演劇部があるんだし流石にその部を差し置いて勇者部が出場する事なんて不可能なんじゃ……)
内心、ケラケラと笑う赤嶺。
だが放課後、彼女を待っていたのは――――、
「我ら勇者部が見事!演劇大会に出場する権利をもぎ取ってきたわ!」
勝利の笑みを浮かべて『出場』の二文字を書かれた紙を勇者部たちに見せつける犬吠崎 部長の姿だった。
「おおー!大会に優勝して、必ずうどんを手に!」
「最高です部長!」
「部・長!」
「
歓喜に震える勇者部部員を他所に赤嶺が一人だけ口をあんぐりとさせていた。
なぜだ。なぜこいつらにイベントが行わせたのだ、教師たちよ。
和気あいあいと今後の展望を語る勇者部部員が騒ぐ中、赤嶺友奈は確かに瞳に捉えた。
――――二人の乃木園子が薄暗い笑みを浮かべていた。
こいつら、
確かに旧世紀から神世紀にかけて大赦の中枢と化している乃木家の名前を使えば、大抵の事はまかり通ってしまうだろう。
小さな中学校に娘の居る部活動を出場させるように働きかけることも、造作もない。
なんとうことだ、奴ら人間として腐りきっていやがる。
こうして、神舞白奈こと赤嶺友奈の勇者部入部と謎の演劇イベントへの参加が決まったのであった。
この時の赤嶺は少し注意散漫だった。
赤嶺はストレスが原因の頭痛を発生させながら、乃木園子という悪魔二人から邪悪な視線を送られている事に気付かなかったのである。
〇
部活動が終了し、部員が解散したその直後、
赤嶺友奈は人気のなくなった音楽室の椅子に座った状態でロープに縛られていた。
「なんで!?」
思考するよりも先に声が出る。
そそくさに帰路につこうとした赤嶺の背後から何かが迫り、袋のようなものを頭に被せられてからそれ以降の記憶がない。
袋の内側で何やら甘い香りがしたあたりから眠くなった気がした。睡眠薬か。
「んっふふ~、逃げられないんよ~」
「大人しくお縄についてください~」
もうすでに縄についてんだけど。
そう内心で突っ込む赤嶺は自身を眠らせ、この音楽室へと連れてきた二人の少女を見据える。
中学生と小学生の乃木園子だ。
「もしかしてと思ってたけど、二人ともどういうつもりなのかな?事の次第によっては……」
意識を集中させて、本来の赤嶺友奈が持つ身体能力を開放しようと画策する。
勇者としての力を発揮すれば、この程度の拘束など一瞬に引きちぎれる、そう判断する赤嶺。
「ふふふ、そんなに急かさなくてもいいんだよ~赤嶺ゆーゆ」
「-----っ!?」
赤嶺が行動を起こすよりも早く発せられた乃木園子の一言に全身が硬直した。
彼女たちは神舞白奈が赤嶺友奈だと気付いていた。なぜだ。
その事実に驚愕を受ける。
「乱暴なことは余り好きじゃないんです~。そこは理解して落ち着いてください~」
小学生の園子が腰に手を当てて言う。なぜドヤ顔なんだ。
あと、この拘束されている状態は既に乱暴にされていると思うのだが気のせいだろうか。
「大丈夫だよ、赤嶺ゆーゆ。 ここで白奈ちゃんが赤嶺ゆーゆだと知っているのは私たちだけさ~」
「だけさ~」
エコーがかかったようにゆらゆらと揺れる乃木園子たち。
罠かもしれないが、正体を知られているのがこの二人だけだと知って安息のため息をつく。
『よォし! よくやった乃木園子!そのまま正体をバラされたくなかったら言うことを何でも聞いてもらうという条件で赤嶺ちゃんとイチャイチャしろ!
中立神もお前たちの百合展開次第では人類の味方に付いてくれるらしいぞ!』
赤嶺の脳内で、
あとさりげなく中立神の名前を出すな。未プレイ者が困惑するだろうが。
強引に造反神とのリンクを切断した赤嶺は再度、中学生の園子に問う。
「なんで私だってわかったの?姿とか骨格も変わってるから普通は赤嶺友奈だって判別できないと思うんだけど」
うーんとね、と中学生の乃木は唸って言う。
「
「なので~、この問いかけにもシラを切るようでしたらごめん、って謝って素直に開放するつもりでした~」
要はカマかけただけかい。
と、自身の変装術式を勘だけで見破られた事に赤嶺は肩をがくっと落とす。
流石は乃木の子孫、と言ったところか。
直感と閃きのキャパシティは多分人類史上でコイツらが最強だろう。
推理ゲームとかやったらヒントなんて与えなくても第一部で犯人に言い当てる、そんな気がする。
「……何か目的があるんでしょ? 他の勇者部に私の正体を明かさないでここに縛って連れてきたんだからさ」
本来、造反神の勇者である赤嶺は勇者部からは敵として認識されている。
園子たちが他の勇者に自身の正体の事を聞いていたのなら今頃20を超える勇者に、束された赤嶺が囲まれているというリンチ五秒前みたいな状況が出来上がっているはずだ。
「実は……赤嶺ゆーゆには今度の勇者部で出場する演劇で~主役を
(……は?)
「……は?」
赤嶺の脳内と現実で同じ言葉が発せられる。
にんまりと笑みを浮かべる園子たちは楽しそうに赤嶺を中心にクルクルと回りだした。なんだ、新手の煽りか?
「いやぁ、せっかく赤嶺ゆーゆとなっちが一緒の学校に居れるんだし、楽しいイベントがあったら楽しめるようにしなくちゃいけないと思ってね〜」
「演劇内容は”シンデレラ”、脚本はもちろん私たちなのです~。 このシンデレラのお姫様役を赤嶺先輩にやってもらおうと思いまして~」
「だいたいわかった」
どこぞの破壊者のように端的な返答をする赤嶺は園子たちの意図をある程度は理解したつもりである。
要は私たちのネタになれと。
園子たちが企画してこのぶっちぎりにふざけた演劇に参加して、勇者部同士でエモい掛け合いしまくって小説のネタ帳を埋め尽くしてほしい、というわけだ。
やってられっか。
などと、否定的な考えをしてみるとしよう。そうなれば、
「なっちに言うよ~?」
「大人しく私たちのネタ…ごほん、勇者部のイベントに参加するといいのです~」
最悪だ。
赤嶺は某天才物理学者と同じように、今日という日を決して忘れないだろう。
イベントとという名の魔のゲームに参加しなければ、この讃州中学での赤嶺の生活は今日にでも終焉を迎える。
それはつまり、憧れである古波蔵 棗と一緒の学校生活を送れなくなるという意味と同意。
赤嶺は生殺与奪を乃木園子に握られた状態であった。
抵抗の余地など皆無なのである。
赤嶺は園子の思惑通り、演劇・シンデレラに参加することになったのだった。
「もちろん王子様役はなっち先輩だよ~」
「乃木園子さん……あなたできるじゃない」
尊敬する棗とシンデレラの王子と姫を演じることが出来る。
それは赤嶺にとって最大の喜びであった。
今でも、実際に演劇をやっていないにも関わらず棗に見つめられて舞踏会で踊るシーンを想像したら顔が熱くなるのを感じる。
その上で赤嶺は疑問に思うところがあった。
それは、シンデレラの主役をやってもらう、ではなく、もぎとる、という言葉だ。
「ちなみにお姫様の役は立候補者がいるから、演者候補で競い合ってもらって、その勝負を制した者がお姫様役の権利を得ることにしたんよ~」
脳内の疑問に答える様に中学生の園子が言う。エスパーかお前は。
彼女は続けて、
「イっつんとあんずんが"棗さんが王子様をやるんだったらお姫様役は譲れない!"ってすごい顔で迫ってきてね~。
流石に二人の意志は乃木の力を使ってもどうにも出来なかったんよ~」
「だから赤嶺先輩のお姫様役は、二人と直にバトルしてがっちりもぎ取ってほしいのです~」
(……イっつん、あんずん。 犬吠崎 樹と伊予島 杏か……たしかにあの二人はお姉さまにゾッコンだったけ……生意気な)
縛られている腕の先、赤嶺の拳に力が入る。
せっかく造反神から与えられた仮初の身体と敵である乃木園子から棗とお近づきになれるチャンス。
それをみすみすとどこぞのアイドルの追っかけ程度のファンに明け渡してなるものか。
赤嶺の瞳に闘志が宿った。
「やる気満々だね……そのっち、これは嵐の予感ですぞ……ビュオオオオオ!!!」
「園子先輩~、メモ帳の貯蔵は充分ですか……ビュオオオオオ!!!」
嵐を予感させると言いながら勝手に風を吹かせている園子ズなのであった。魔法使いかお前らは。
―――――後日。
砂塵が舞い上がる讃州中学のグラウンドで三人の少女がそれぞれ対峙している。
ジャージ姿の少女たちは背伸びをし、軽い伸びをすると挨拶代わりと言わんばかりにこれから打倒する相手を見据え、刃の如き目力で睨み付ける。
「ぽっと出の新人が……棗先輩のお姫様は私です!」
「ワザリングハイツ……舐めないほうが身のためですよ?」
「あなたたちキャラおかしくなってない?」
一人は犬吠崎が妹の樹。
一人は西暦勇者、伊予島 杏。
一人は神舞白奈こと、赤嶺友奈。
龍(赤嶺)が、虎(杏)が、リスのような小動物(樹)がにらみを利かせ、ピリピリとした雰囲気はこれからの激戦を予想させる。
(お姉さま……あなたの為に、私は絶対にお姫様役を手にします……火色舞うよ)
赤嶺は御役目の際に口癖となっていたセリフを胸の内で口にする。
シンデレラ争奪戦の火蓋は、今まさに切って落とされたのだった。
----果たして栄光は、一体誰が手に。
ストーリー要約すると、なんやかんやで演劇コンクールに参加する羽目になった。同時に勇者部入部。
そのっちに正体がバレてそれをネタに演劇に参加しろと脅される。
シンデレラ争奪戦開始。
各種補足。
シンデレラ
・乃木園子執筆シンデレラ。多分読者が見た瞬間「なぁにこれぇ」状態になるほど自由な台本になる予定。それに付き合わされる赤嶺ちゃんかわいそう(KONAMI感
いっつん
・照井、私の方が芸歴は上だ。棗さんの隣は私が頂く。
なお、次回出落ちの模様。
ワザリングハイツ
・最近4凸まで成長した私の力を見せてやる。棗さんにゾッコンでも、タマッち先輩は永遠のヒーロー、それは多分死ぬまで変わらない。
赤嶺友奈
・悪魔に唆されて勇者部とシンデレラを奪い合うことに。
邪魔するやつらは全員ゴッ倒す。
造反神
・百合厨。赤嶺ちゃんと棗ちゃんがイチャイチャしてくれれば目の保養にもなるし、赤嶺ちゃんも満たされるし、他の神様だって人間と百合の素晴らしさに気付いてくれるはず。
中立神
・どっちに味方するか迷ってる神様。百合ってやっぱ最高だわ。
次の話を持ってきたまえ、交渉はそれからだ。