中野家の実子   作:TL警備員

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攻略開始

 

その日は、俺のバイトが日をまたぐ前に終えた日だった。予定もなく、泊まる家の宛もない俺は何も考えず上杉家へと向かった。今となっては実家よりも実家のような温かさで迎え入れてくれる俺の唯一の憩いの場。その場に何やらうなだれながら、机に伏せる親友がいる。

 

 

「こんな時間に何してんの?フーちゃん太郎?」

 

「…あぁ…零治か…」

 

「ん?なんだそりゃ?小テスト、中野………」

 

「どお思う…?」

 

「いや〜、はっはっは…うん。5人合わせて100点満点のテストなんて新しいな〜」

 

「はっはっは〜!5人合わせて500点満点だ!」

 

「……」

 

「……」

 

「いや、その…」

 

「とりあえず、謝れ」

 

「ごめん、フーちゃん太郎…」

 

 

バイト終わり、正直にすぐにでも風呂に入ってらいはを抱きしめながら眠りたいというのに無二の親友が頭を抱えていたのが運の尽きだ。いや、話しかけない訳にはいかなかった。なんせあからさまに頭を抱えていたのだから。にしても、流石にこれは零治とて想定外である。何とあの姉妹、全員が赤点候補生だったのだ。

 

それも、ちょっとやそっと馬鹿じゃない。超がつく馬鹿である。この深夜に差し掛かる時間帯に高校No.1の頭脳が悲鳴をあげていたのだから。

 

 

「で?マジでどーすんの?」

 

「わからん…やる気があればどうにでも出来るが…それさえない。まず、勉強嫌いがすぎる…そして俺の事も嫌いすぎる。」

 

「いや、最後のは聞いてねーよ」

 

「はぁ…」

 

「ん?フーちゃん太郎、その答案貸してみ…」

 

「別にいいが、頭痛が酷くなるぞ…」

 

「いいから…へぇ〜…」

 

「何が、へぇ〜だ…答案1つで分かることなんて……あった…」

 

「彼を知り己を知れば?」

 

「百戦危うからず!」

 

 

その答案を見た時。直ぐに分かった。重大な事実に気づいてしまった。上杉風太郎は頭はいいが脳みそが麻痺していたため気づいていなかった。そう、あの姉妹は皆点数こそ酷いが、当たっている問題が被っていなかったのだ。そして、零治が何よりも目をつけたのは点数。あの中で唯一赤点を免れている人物だ。

 

 

「フーちゃん太郎。真っ先に落とす奴、分かるな?」

 

「あぁ!」

 

「ちなみにその子の特徴は?」

 

「ふっ…ショートカットに変なリボンをつけたのヘッドフォン、うさ耳、星アクセサリーだな!」

 

「うん、ゴチャゴチャ…」

 

 

こうして、キャパオーバーした上杉風太郎の戦いが始まり、中野零治はそれをただただ生暖かい目で見つめることを決めた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「5限は…現国…いいや、サボろ…はぁ、フーちゃん太郎のやつ上手くいったのかね〜」

 

 

現在、昼休み真っ只中である。あるものは食事をし、あるものはそれらを済ませ授業の準備に勤しむ中、中野零治は屋上の安定の位置にて空を仰ぎ見ながら寝そべっていた。屋上は滅多に人が来ない。そんな中でも最も人目につかない最高のスポットを独り占めし、日頃の疲れを取るべく欠伸をしながら眠ろうとするとドアが勢い良く開く。

 

 

「んあっ?…んだ……?って、あれは…フーちゃん太郎と…―――3番目…!」

 

 

屋上の更に上の高台に身を隠し、盗み聞くように零治は2人の会話にドキドキしながら耳を傾けた。

 

 

「陶晴賢!」

 

「陶晴賢…!!」

 

「…すえ、はる、たか?」

 

 

零治が話を盗み聞きしてようやくわかった。3番目は何も歴史が好きなのではない。歴史、特に日本史においての戦国武将が好きだったのである。フーちゃん太郎もあまりのことに動揺を隠せず、いつもの癖で前髪をいじり出す始末である。それを隠していたかったのか3番目は急にしおらしくなっていた。そこにすかさずフーちゃん太郎がフォローを入れる。

 

 

「クラスの皆が好きなのはイケメンな俳優とか美人なモデル…それに比べて私は髭のおじさん…変だよ」

 

「変じゃない!」

 

(いや、変ではあるだろ)

 

「自分が好きになったものを信じろよ」

 

(フーちゃん太郎…俺とふたりで徹夜した内容は…殆ど三國志だったよ!!!)

 

 

フーちゃん太郎は勢いでどうにかできると判断したのか何やら得意げに自分のことを晒し、何とか頭の隅にあったような情報で3番目との会話を果たせたような気になっていた。だが、彼は知らない。彼女がどんなに戦国武将のことが好きなのか、自分がその分野においてどんなに無知なのかを…

 

 

「次の家庭教師の内容は日本史を中心にしてみよう―――三玖、受けてくれるか?」

 

(おわった…絶対に終わった…)

 

 

上杉風太郎は勝った気になっていた。たかが知れた知識で何とかついていけただけだと言うのに、奴は3番目に勝ると思っていたのだ。そんなはずがない。何事においても一点に特化した人間というのは強い。勉強に関しての上杉風太郎がいい例だ。だが、その勉強の中の1つに特化した者にフーちゃん太郎が勝てる理由などなかった。

 

 

「待て!フーちゃん太郎!」

 

「鼻水なんて入ってないよ。なんちゃって…」

 

(え?鼻水?)

 

《!零治、零治!!!》

 

《お前の知らないこと、俺が分かるわけねぇだろ!少なくとも三國志じゃねぇ!》

 

《そのくらい分かる!》

 

「あれっもしかしてこの逸話知らないの?」

 

()()()()()

 

「そっか、頭いいって言ってたけどこんなもんなんだ。やっぱり教わることなさそう…バイバイ」

 

 

そう言って、3番目は一瞬にして絶対零度のオーラを放ち屋上へと繋がる階段を降りていった。俺とフーちゃん太郎はと言うと…その背中をただただ見送るしか出来なかった。

 

 

「…あーあ…お前が調子乗って知ったかぶるから…俺の睡眠時間返せ…」

 

「ふ、ふっふっふ…」

 

「なんだ、フーちゃん太郎…見下されてスイッチ入ったか?」

 

「零治…今日中に図書室の戦国関連の本…全部借りてこい!」

 

「ごめん、俺図書室の備え付けの辞書コーヒー塗れにしたから出禁くらってる。」

 

「………」

 

「で?マジでやるの?」

 

「あぁ、意地でも…あいつらに俺が勉強を教える!」

 

「はいはい…付き合ってやるよ」

 

 

こうして、長い長い2人の2日間が始まった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「泣かぬなら、俺が泣き出す…ホトトギス……」

 

「うぇっ?!どうしたんですか?!なか、…じゃない!え〜と…れい、じ君は…いきなり、失礼だし…うーんと…」

 

「4番目…5年前に会ってんだ…普通に零治君でいいぞ…」

 

 

現在、あの3番目との開拓から2日が経過した。そう、たった2日なのだ。その間、上杉風太郎はもちろん中野零治まで図書室の番人と化していた。図書室が閉まるまで戦国関連の本を読み漁り。間に合わない場合は家へと持ち帰って読み続けた。何故か、零治までもが犠牲となり、その2日間…設営のバイトをしながら本を読み、コンビニの店員をしながら本を読み、ケーキを作りながら本を読み、仕舞いにはデリバリーをしながら本を読まされた。

 

そうして、フーちゃん太郎と互いに読んだ本について語り合い、何とか図書室の本は制覇したのだ。ちなみにその間零治は寝ていない。そのせいで自然と涙が出た。そんな悟りを開きながら中庭の見える渡り廊下で2人を見守っていた時、うさ耳のようにピンッとしたリボンをつけた4番目と出会った。

 

 

「!あはは…零治君は、分かるんですね…」

 

「はぁ?当たり前だろ…お前のフーちゃん太郎に対する距離の近さで分かる。」

 

「えぇー!私そんなに近いですか!?」

 

「あ〜、訂正。馬鹿っぽさでわかる。」

 

「あー!馬鹿って言った方が馬鹿なんですよ!」

 

「残念だったな!日本史、特に戦国時代に関しては俺の右に出るものはお前の3番目の姉かフーちゃん太郎だけだ!」

 

「?風太郎君はともかく何で三玖が出てくるんですか?」

 

「……いや、気のせいかもしれない…」

 

 

少ししょげた雰囲気を見せたかと思えば直ぐに元気になり、バカ丸出しの言葉を発する4番目。こいつだけは何故か苦手意識を持つことが出来ずついつい話してしまう。他の姉妹ならば遠ざけられるのに。まぁ、無理もない。この少女、中野四葉とは1度、京都であっているのだ。

 

それも、フーちゃん太郎を巻き込んでの3人での京都の観光をした仲である。いや、訂正。シンプルに迷子の3人の間違いだった。そんなことはさておき、何とか話を逸らしつつ零治は四葉と会話を続けた。

 

 

「!」

 

「風太郎君…ねぇ〜」

 

「あ、あの…零治君…上杉さんへは内緒にして下さい…」

 

「えぇーどうしよっかな〜」

 

「むむ…だ、だって…仕方ないじゃないですか…私は…あの人のこと…」

 

「わーってるよ!4番目…」

 

「?はい?」

 

「遠慮する必要は、ねぇーんじゃねーの?」

 

「!無理ですよ…だって、私はあの日から何も…変われてませんから…」

 

「……」

 

「…えへへ……って?わぉ上杉さん!」

 

 

4番目、中野四葉に何があったかは分からない。けど、彼女は確かにあの日で足踏みしていた。いや、正確に言うなら、俺と同じあの日に取り残されていたのだ。そう、彼女達の母親の命日。そして、俺の、中野零治の義母の命日に。

 

一瞬空気が重くなったかと思えば、目の前に汗だくのフーちゃん太郎が現れる。確かに驚いたが、それよりも4番目の変わり身の方に驚いた。一瞬にしていつものテンションだ上杉などと口にしだしたのだ。すると、フーちゃん太郎は驚いたように前後を何度も見返す。

 

 

「フーちゃん太郎!こっちは本物!あれが3番目だ!」

 

「!クソ!」

 

「3番目はヘッドフォン!4番目は間抜けなウサリボン!」

 

「零治君?!」

 

「零治!」

 

「あん?!」

 

「ありがとう!」

 

「……頼三樹三郎!覚えとけ!」

 

「あぁ…!」

 

「……ほら…」

 

 

4番目に何か言ったかと思えば血相を変え、重い足を上げようとするフーちゃん太郎。それに咄嗟に助言をし、フーちゃん太郎は3番目を追いかけて走り去っていく。その後ろ姿を見送りながら、4番目から意図しない声が零れた。それほ、きっと彼女が溜め込んでいたものの1つであろう。その時の4番目の悲しげな表情が何よりも証拠だった。

 

 

「やっぱり、全然違う。」

 

「……」

 

「分かってました。風太郎君が頑張ったことくらい…」

 

「……」

 

「分かって、ました…もう、追いつけない…って…」

 

「4番目」

 

「…何ですか?」

 

「ばーか!」

 

「!何ですか!人をいきなり馬鹿呼ばわりなんて!」

 

「うっせ!簡単に言葉にすんな!」

 

「!」

 

「あいつだってな!必死こいて勉強したんだよ!結果がどうこうじゃねぇ!大事なのは過程だ!その過程を捨てちまったら、なんも残んねーだろ!」

 

「……そう、ですね…」

 

「今からでも間に合う!もっかい、惚れた男の前で素直になってみろ…」

 

「考えて、おきます…!」

 

「あぁ、そうしとけ…それと、4番目?」

 

「すんっ!ひっ…く…なん、ですか…?」

 

「このギャラリー…どうにかしてね?」

 

 

 

4番目が悲しみに仕舞いは涙を流している状況。そして、その傍らに佇む金髪の問題児、視線が集まるのは当たり前だった。ましてや、方や先生に頼まれた仕事の最中である。ヒソヒソと周りから話し声が聞こえる。その度に零治は内診冷や汗をかきながらそれを実際に滝のように流していた。

 

それに耐えきれなくなった零治はすぐさま鞄をを持ち、逃げるように走り出した。

 

 

「じゃあな!」

 

「あ、零治君!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

「私!零治君に泣かされたこと黙っておきますからぁ〜!」

 

「!?!?ごめんなさぁーい!!!」

 

 

夕暮れ時の校舎。あるもの達は中庭のベンチでわかり合い。あるものは走り出していた。その後、泣き喚きながら愚痴り倒す零治を収めるのに風太郎は1晩を費やしたと言う。

 

 

「フーちゃん太郎…」

 

「…なんだ?」

 

「俺が、ボッチになっても…そばに居てくれる?」

 

「安心しろ…俺もボッチだ」

 

「あぁ…心もとねぇな…」

 

 

こうして、3番目…攻略完了!とは、いかず…中野姉妹に振り回される風太郎と、それに振り回される零治はこれからも汗水垂らすのであった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

オマケ

 

 

「知ってる?フーちゃん太郎…」

 

「なんだ…」

 

「俺、こう見えてバイト終わり…それも、土木関係…すぐにでも風呂に入ってらいはに抱きついて寝たいんだけど」

 

「安心しろ。明後日には安眠できる。らいはへの抱きつきは許さんがな」

 

「…フーちゃん太郎…」

 

「今度は、何だ?」

 

「この本…日本史じゃなくて世界史…」

 

「………折れた…」

 

「何が?性格?」

 

「真っ直ぐ過ぎて困ってるね」

 

「俺には台風並みに渦巻いてる気がするけど?」

 

「渦巻いてるのはお前の女関係だ。」

 

「……俺には、フーちゃん太郎の女関係が渦巻く未来が見えるよ…」

 

「やめろ、お前じゃないだから…」

 

「いや、本当に…―――ドロッドロだね〜」

 

 

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