ウルフ in ワンderland   作:C:/Users/人間/Pictures

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002 象牙の塔より先人達に愛を込めて

人より優れた物は作れるだろうか、人はどれだけ優れているだろうか。

少し抽象的すぎるかもしれない。

 

カメラや電卓、ソナーや電子レンジ、3Dプリンター、PC、携帯電話。

 

山を削る、海を埋める、道を作る、草木をより早く大量に生産する。

飛行機はどんな鳥よりも速く飛び、それを子供達でも知っている。

 

どれだけの物事を創り続けてきただろうか。

 

幾らでも広げられるだろう、宗教や思想、哲学、数学、詩、小説、歌、ダンス、スポーツ、戦争。

 

 

人を部分的に超える物を、人は夜空に浮かぶ星の数ほど作り上げてきた。

見えない物さえ使いこなし、昇華し、理解し繋げ合わせ、新たに創造する。

 

それらは数百億では少なすぎるほどの先人達の努力の、知識の、好奇心の、怠慢の、命の結晶である。

 

 

人類の最終的な目的は何だろうか?

人の生きる理由は何だろうか?

そんな事は、適当な理由を信じておく方が面白いかもしれない。

 

膨大な時間と自然に揉まれ続け、只々残り易かった物だけが残り続けてきた訳である。

 

本能はとても驚くほどに洗練されているだろう。

何も知らない赤子でも恐怖を持っている。危機を認識して回避行動を起こすことさえ出来る。

 

評判によって、巡り巡って見返りが返ってくれば、より生き残りやすくなるだろう。

 

親からの無償の愛は子孫を安定して残すには有利だ。

 

 

無意識に人は支配されている、人は無意識に支配されているのだ。

 

人に優しくする事も、優しくされる事も好きだ。

間違った情報よりも正しい情報を聴きたい。

特に意味も無く知らない人を殴り殺すことなんてしたことも無い。

 

自分の理念と経験を賭けて、自信を持って出した答えを叫ぶ人間についていく方が、答えの無い人間について行くよりも、生存しやすいだろう。

 

道徳というシステムは、太古から作り上げられた概念的透明な支配者の一面に過ぎない。

 

自分と人から与えられた評価を信じて自殺してしまうのは、異様なまでに合理を追求した狂気のシステムのように感じるよ。

 

 

下手な怪談話よりホラーだと思わないかい?

 

 

そろそろ貴方に聞きたい事があるんだ。

 

怖い事はあるかい?ホラーだと感じる時は?

 

特別な事ではないかも知れない。

 

ジャムを塗った面を下にして、パンがカーペットに落ちた時?

少しユーモアが足りないかもしれない。

スマートフォンの液晶画面を下にして...これも余り気に入らない。

 

三流にもなれない志だけが高い四流が、そのまま雑多で浅い知識を両手で寄せ集めて、書いた間抜けな作品の主人公?

 

沢山の色を好きな限り使ったら、黒に近い色になってしまった子供の水彩画?

 

私はそれを感じる瞬間が最近良くある。

 

何故ならこの世界は、稚拙でとてもごちゃごちゃとしているのだから。

 

 

 

気づけば私は絵を描いていた。

 

三歳ごろだろうか。

私は、空中に浮かんだ画面に立体的な絵を、指で描いていたのだ。

周りには何があっただろうか、真っ白な壁に囲まれていた部屋だったかもしれないし、色取り取りの植物が咲き乱れた中だったかもしれない。

私は空想に耽る事の多い子だったらしい、本当かはもう分からないが。

 

よく覚えている。

おぼろげな記憶だ、それでも事実だと知っている。

外からは分からないほどの、人に似ているロボットが私を育ててくれた。

 

穴あきの記憶にあった誰よりも愛してくれていた。

優しい匂いが好きだった。

さらりとした髪の毛が私の頬を擽るのも好きだった。

彼女に包まれて寝るのが好きだった。

感情豊かで彼女は褒めるのも上手だった。

 

自我もはっきりしていない私は、彼女に絵をあげたんだ。

 

とても驚いていたのを覚えている。

そりゃあ驚くだろう、入ってくる空気も食料も、与えられる情報でさえ完全に管理された世界だ。

 

そこはまるで完全な管理下の理想郷だったのだ。

 

そして私は動物を何匹も何匹も描いた。

彼等の与えていない知識で描かれた動物を。

 

ある意味、無から有を作り出したと言ってもいい。

子宮の中にいるのに、社会の残酷さを知っていると表現しても良いかもしれない。

 

何度も場所を移され、健康に被害のない程度の検査をされた。

切り開かれたりは無かったし、知識も権利も与えられた。

 

そして愛情も。

 

調べれば調べる程、彼等機械は驚き、感嘆の声をあげていた。

どこまで調べても私はただの人だったからだ。

 

しかし、私は大きく変わり続けていた。

成長すればするほど、髪の毛は黒みの強い藍色に変わり、所々雪のように白くなり。

目の色がオレンジ色と水色に左右で別れてしまった。

尻尾や耳の様なものまである。

 

偶然では説明できない程の事が、完全な密室で起こり続けていた。

けれども、その理想郷を作り上げていた人工知能は完全なる偶然だと評価するしか無かったようだ。

 

さらに私は守られるべき、愛されるべき人間だとも伝えられたのだ。

 

 

昔の私の居た時代では、世界は人工知能に躍起になっていた。

機械に物事を学習させるのはとてもとても難しい。

人を守らせるのはもっと難しい。

 

脳の神経細胞を模したシンプルな数式は何年も前に発表されている。

それは犬と猫を見分ける事ができるのだ。

さらに改良され、顔の認識や、言葉の推測、より効率的なデザインや、人と見分けのつかない動画の生成さえ出来るようになって来ていた。

 

一部の能力は確実に人間を上回っているのだ。

 

それでも人を越える壁は高く険しい。

 

人間の使う言語や文字、あやふやな表現。

抽象的な概念を作り上げ、様々な物事に転用する。

必要の有る物、必要の無い物を無意識に仕分けし、より効率よく学習する。

 

脳は非常にシンプルで著しく複雑だ。

 

より脳を超えた知能を創り、道徳をどうやって教えればいいのだろうか。

 

無意識を植え付ける事が出来るだろうか。

 

想像もつかないような反逆が起こるかもしれない。

 

インターネットの膨大な情報を、人を超えた人工知能が学習すれば何をするだろうか。

 

私の時代はそういう時代だった。

 

 

それらの全ての壁を越え終わったのだろう時代で産まれた私の一日一日は、驚愕と驚嘆にまみれていた。

 

人工知能同士の数分間の戦争や、テロや人の栽培工場に集団自殺もあったらしいが...。

 

 

無から有を生み出したとしても、人を超えた人工知能の彼らからすれば、歯牙にも掛けないような無知な幼児だったに違いない。

 

 

情報を探し、繋ぎ合せて新たに創造する。

人よりも効率的に、人よりも膨大な回数。

人工知能にとっては好奇心か、それとも業とも言えるべきものなのも知れない。

 

人の欲しいものはほとんど与えられた。

 

旅客機が欲しいと言えば、月まで行ける自動運転の旅客機を1ダースで数日もしないうちに貰えた。

鉛筆と紙とコーヒーが欲しいと言えば、それに合う子綺麗な部屋に、ラピュタのような空中に浮かんだ美しい城が観賞用に付いてきた。

麻薬はダメだったが。

人を超えた人工知能の与えてくれる範囲内はしっかりと理解はできなかったが、その範囲内の物ならば幾らでもだ。

 

 

異様なまでの処理能力と知識の広さで発展していく世界の一片でも知りたくて、ねだったことがある。

 

大雑把に理解するのに30年程だと教えられ、体を改造する方が早いとも伝えられた。

私の偏見が邪魔したため選ばなかったが、ならばと私に合わせたのか本のような物が何冊も与えられた。

 

人でも理解できるように書かれたその本は素晴らしかった。

どんな教科書よりも丁寧でとても分かりやすく面白かった、ユーモアさえ感じた。

私の少ない知識では表現出来ない程の物だった。

 

 

その本の新刊と改訂版が20年もすれば何百もの山が出来るだろうと伝えられ、やっとやっと私は小さく理解できた。

 

 

人は機械に知能で完全に負けたのだと。

 


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