「あっあ~……体が凝ったな」
巨大な繭の様な機械から出てきたこの男。先程ゲーム内でギルドを消滅させプレイヤーだ。
「飯食お。カップ麺残ってたかな~?」
この男はゲームが発売されて暫くしてから、自身のレベルが上級と言っても問題なくなったタイミングで仕事を辞めてゲームで稼ぐようになった。故にゲームで過ごした時間にはかなりの思い入れがある。その時間全てを捨てるにも等しいことをした彼の表情は随分と暗い。
「飯はいいや。またゲームに入ろう……」
そう呟くと、もう一度繭の中に入りゲームを起動する。いつものRPGを選択すると、眠るように意識を失いゲームの姿が形成されていく。
「ギルド無くなるとストーリーモードの最初の町からスタートするのか……」
長いことこのゲームをプレイしていた訳だが、これは初めてのようだ。ギルドは頻繁に入会したり退会したりするわけではない。その為ギルドを抜けた後に最初の町からスタートすることは意外と知られていないのである。
「取り敢えずプライベートルームに行くか。家買えば楽なんだけど……金が無いか」
100人近いプレイヤー全てに200万クレジットを払ったのだ。長年プレイしているとは言え、それだけの支出をしてしまえば貯金は当然無くなってしまう。
「当分はフリーバトルエリア回ってクレジットや素材を稼いで……」
フリーバトルエリア。クエストやストーリーに関係無くモンスターを倒したりプレイヤー同士で戦ったりすることが可能なエリア。範囲は広大で、奥に行けば行くほど高ランクモンスターが出てくる為、どんなにレベルの高いプレイヤーでも飽きるとこなく遊ぶことができる。とは言え、最近は新人狩りを目的にするプレイヤーが増えたお陰で、使用する人数は減ってきている。
「ん?新人プレイヤーか?」
男の目に1人のプレイヤーが写った。レベルは高そうだ。装備も相当高価で珍しい素材を使う。このゲームではゲームオーバーになった時、持っていたアイテムや装備品はドロップアイテムとして倒したプレイヤーや他のプレイヤーが回収可能。プレイ時間が長いプレイヤーは、害悪プレイヤーやイベント、レイドボス対策の為にフリーバトルエリアでは高価なアイテムや装備を持ち込まないのが定石となっている。
だが、目の前のプレイヤーは高ランク装備でガチガチに固められている。その分ではアイテムも同じだろう。既に新人狩りと思われるプレイヤーが数人、そのプレイヤーに目を付けていた。
(まぁ俺には関係ないか)
パーティーメンバーでもなければギルドメンバーでもない。よくいる新人プレイヤーだ。気にする必要もないと思いそのプレイヤーの後にフリーバトルエリアに突入していく。序盤のエリアには興味も示さず、経験値やクレジット、希少な素材が比較的手に入りやすい奥へと行く。
現実通貨への換金システムがあるため、クレジットは他のRPG系のゲームと比べると手に入る量が少ない。そもそも一月で換金できる量が決まってる。故にあんまりクレジット稼ぎでここまでくるプレイヤーはいない。不定期で開催されるクレジット大量獲得イベントに参加する。
とは言え、廃人プレイヤーとも言えるこの男にとっては特に苦と言う訳ではない。むしろ経験値とアイテムが手に入るなら全然構わないと言う感じでやっていく。
「今時こんな奥まで来るプレイヤーはいないか。アイテム取り放題でラッキーだけど……」
イベントが充実してきたタイミングで、リスクの高いフリーエリアに好き好んで入るプレイヤーは余程の物好きかドM。もしくは廃人だ。
「ッ!?…なんださっきの新人プレイヤーか。なにやってんだよあんなところで……」
何かが歩いてくる音がしたため警戒したが、入り口で見かけた新人プレイヤーだった。ビクビクしながら身を隠せる物がない道の中心を歩いている。
(あんなんじゃ良い的じゃねぇかよ。どうやってここまで来た?)
心の中で毒づきながら、周りを見回してみる。するとちょうど進行方向付けとは反対の場所にある高台に、そのプレイヤーを狙ってる人がいた。周りを警戒しすぎてるせいか、視線にすら気付いていない。
(ゲームオーバーだな)
ゲームオーバーを確信した直後、銃弾が放たれる乾いた音が辺りに響いた。
「え?」
「伏せてろ」
助ける予定は無かったが、放たれた弾丸を装備していた刀で斬り飛ばし救った。
(発砲音からして、サプレッサーは付けてないみたいだな……)
セミオートからフルオートに切り替えたのか、大量の銃弾が飛んでくる。だが、その全てが綺麗に切り落とされていく。
「ラストっと」
最後の1発はバッティングの要領で銃弾を刃の上で滑らして打ち返した。銃弾は撃ってきたプレイヤーの眉間に当たり返り討ちになった。
「近未来エリアの武器か……対人戦には最適だな」
手早くドロップしたアイテムを全て回収しエリアを抜け出して町へ向かおうとする。
「あ、おの!」
「んあ?」
「さっきはありがとうございました!お陰で助かり―ッ!?」
声をかけてきたプレイヤーの首に、抜いた刀を突き付けた。少しでも動けば大きいダメージになることは間違いない。
「この空間ではあんまり他のプレイヤーには近寄らない方が良い。悪質なプレイヤーがお前を倒した後に身ぐるみ剥いでアイテムを売り捌くからな。特に、お前みたいにこんなところまでガチガチに上位ランク装備で固めたヤツが狙われる。分かったな」
そう言われたプレイヤーは全力で首を縦に振って後ずさる。
「まぁ、俺にプレイヤー狩りの趣味は無いんだけどな。早く町に逃げることをお勧めするぞ。サプレッサー付けずにアサルトライフル乱射してくれたお陰で、色々と寄ってきてるからな」
確かに、辺りからは割りと大きめのモンスターの鳴き声が聞こえてくる。現状の装備、刀と回復薬少々。防御力の薄い服。これではこの辺の大型モンスターを相手にするのは厳しい。さっき狙われていたプレイヤーの方は、装備はしっかりしているが、恐らくスキル不足で敗北は免れない。
「早くしろ。逃げるぞ」
そのまま一目散に町へ退散。町へ入ると、改めて助けたプレイヤーから礼を言われた。
「さっきは本当に助かりました。僕、まだ慣れてなくて……」
「慣れてないのにどうやって彼処まで行ったんだよ……」
「えっと、最近までパーティー組んでくれてた高ランカー達が居て、その人達の所でレベル上げてたんです。最近解散しちゃったので、1人で頑張ってみようかな?って思って……」
「気付いたら彼処にいたと?運が良いな」
「えへへへ。よく言われます。あ、僕ウルフって言います!よろしくお願いします!」
「あ、うん。俺は一輝だ。よろしく」
(カズキ?ゲームっぽくないけど……)
「ゲームっぽくないだろ?」
「え?いや。そんなことは……ハハハ」
「気にすんな。本名だからな」
「え!?本名なんですか!?」
「名前考えるの面倒だからな。手っ取り早く自分の名前にした。じゃ」
「ま、待って下さい!その…僕とブレンドとパーティー登録してくれませんか?」
立ち去る一輝だが、ウルフから呼び止められ振り返った。ブレンドとパーティー登録の申請だ。現在ソロ故に特に断る理由はないが、一輝としてはソロで活動したいと思っている。ギルドからプレイヤーが1人、また1人と去っていったのがトラウマになっているからだ。パーティーを組んで、また自分の前から去っていったらと考えると躊躇いが生まれてしまう。
「取り敢えず、ブレンド登録なら。パーティーは考えさせてくれ」
「は、はい!よろしくお願いします!!」
互いのフレンドコードを入力し、登録が完了した。これで相手がログインしているかがいつでも確認でき、メールを送ったりクエストや冒険に誘うことができる。更に購入した家に出入りできたりピンチの時は助けに行けたりなど、ゲーム世界の生活の幅が広がる。
「これで完了だ。これからは気を付けろよ」
この日はこれで解散。ウルフはログアウトし、一輝はプレイヤー達が多く集まり、物を売り買いしたりクエストを受注したり食事をしたりする場所。バトルエリアでゲームオーバーになったプレイヤーはここに転送される事になる。
「おい」
「ん?あぁさっきの」
「テメェ……よくも邪魔してくれたな!」
さっきのエリアで一輝が返り討ちにしたプレイヤーだ。装備ゼロの状態で文句を言いにやって来た。
「お前が邪魔しなけりゃ!俺は装備を失わなかったし!アイツのアイテムも回収できたんだぞ!!なのに横取りしやがって!」
「はぁ……ほらよ」
回収した男の装備全てを返した。売ってもいないし手も付けていない。
「確かに返したぞ~」
これ以上の面倒は勘弁。と言いたげにプライベートエリアに行こうとしたのだが、後ろから銃に弾丸を込める音がした。
「撃つのは止めといた方が良いぞ。非戦闘エリアでの戦闘行為は利用規約違反だし」
「知ったことかよ!お前のアイテム全部奪ってやる!」
一輝の言葉を無視して引き金を引いた。だが、銃弾はでなかった。どんなに引き金を引いてもカチカチと軽い音が為るだけだ。
「それ、手入れしてないだろ。あのエリアで撃ちきった時に壊れたみたいだぞ」
「クッ!ふざけ―……」
言い切る前にこの男は利用規約違反でアカウントが抹消され、綺麗に装備ごと消えていった。