オルガスカイ   作:門倉コゥ

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門倉コゥです。初めての投稿ですが頑張っていきます。感想とかで指摘とかしていただけると幸いです。

始めに言っときますがエロシーン無しでやっていきます。1章とか2章とかバルスカと同じ区切りでやっていくので、初めての方はニコニコとかで見ておくと楽しめると思います。(宣伝ぽくってすいません)

あと第~章(何~話)は基本長いです。普通に万字行くので時間が掛かります。ラストの辺りは下手すると分割します。あと、戦闘シーンは略す(速攻で蹴りを着けるor飛ばす)かもしれませんが極力書いていきます。上手く書けてなかったら突っ込んで大丈夫です。

更新も遅いかもしれませんがぼちぼち頑張っていこうと思います。


第一章『覚醒』

 目覚めると、俺は白い海に漂っていた。柔らかなシーツの感触。

 

 白い布地が陽光に照らされていて、眩しさに開きかけた薄目を閉じる。

 

 おそらくはいつもと同じ、平和な一日の始まり。おそらく今日もいい天気。

 

 窓から差し込む光が、瞼を閉じても、なお眩しい。

 

 だけど、ベッドから抜け出すにはまだ早い。

 

 ーーーだって、聞きなれた呼び声が、まだ、俺の耳には届いてはいないから。

 

 「オルガ…起きて」

 

 ーーーとか、考えていると、ほら、さっそく、『あいつ』の呼ぶ声が聞こえてくる。

 

 「…ほら起きて。早くしないと遅刻しちゃうよ?」

 

 そう、もう起きないと、学園の始業時間に遅れてしまう。さっさと朝食を済ませて、今日も学園に行かないとな。

 退屈な授業をやり過ごせば、午後からは仲間たちとの楽しみが待っている。わかっていながら、俺は聞こえない振りで惰眠を貪る。

 もう少し待てば、『あいつ』の手が、優しく俺を揺り起こしてくれるはずだから…。

 

 「もうっ…仕方ないなぁ…」

 

 ほら、『あいつ』が俺を揺り起こそうと、身を屈める気配がする。

 

 ーーー『あいつ』

 

 俺にとって、ちょっと特別な女の子。

 生まれてはじめて出会った、ちょっと深い関係になれそうな女の子。

 『あいつ』を思うと、胸が切なく痛んでしまう。

 毎日、寮で顔を合わせ、一緒に学園に通っているのに、もっともっと、一緒の時間を過ごしたくて…。

 

 ……なのに、どうしてだ?

 

 『あいつ』の名前が、どうしても頭に浮かんでこない…。

 

 「…オルガ」

 

 『…イツカさん』

 

 「…オルガ、…お~るがっ、オルガッ」

 

 『イツカさん、…イツカさん…、イツカさん…』

 

 「起きてくださいませっ、オルガ中尉っ!」

 

 パンッ!

 

 「……っ!?」

 

 目を開いて最初に見たものは、眼前に迫る鋼鉄の爪だった。

 

 「なんなんだ、こいつは……?」

 

 呆然とする俺に向かって、機械の脚がぐっと突き出されーーー、

 

 ガキンッ!

 

 反射的に引くと、眼前で爪が激しく音を立ててぶつかりあった。

 

 「うおっ……!! 何がどうなってやがる!?」

 

 尻餅をついたまま、俺は腰を動かし後ずさる。掌が、尻が、固いタイルの上でずるずると滑る。

 尻餅……タイルだと!? 俺は、ベッドの上で寝ていたはずだろ!?

 

 慌てて床に目を向けると、俺の下半身は、鋼鉄の甲冑に覆われてしまっていた。

 

 「……何の冗談だよ、おい」

 

 夢に違いない。夢とは思えないほどに迫真的だけど、こんなの現実(リアル)じゃあり得ない。

 

 「俺、ひょっとして、まだ夢を見ているんじゃねえのか……」

 

 だが呟いて顔を上げた刹那、またしても機械の爪が繰り出される。

 

 ガキンッ!!

 

 「ぐっ……!?」

 

 目の前で、機械の歯が食い合わさる。

 機械ーーーまるで虫か蜘蛛のようなそれは、さらに音を軋ませ、俺の身体に組み付こうとする。

 

 「野郎! 離しやがれ!!」

 

 俺は咄嗟に、両手を突き出した。

 

 「何っ!?」

 

 その俺の両手も、いつの間にか甲冑に覆われてしまっていた。いや、これは甲冑じゃない。装着しているわけではなかった。金属の皮膚から直後、鈍い感触が伝わってくる。

 

 「これ、俺の腕……だよな……」

 

 まるで鋼鉄の肌に、神経が通っているみたいだ。思わず息を呑み込もうとして、口が無いことにやっと気づく。

 

 キンッ!

 

 「くっ……!!」

 

 鋼と化した己の身体に驚き、違和感を抱きつつも、その腕を振るう。かろうじて相手の一撃は凌ぐことが出来た。

 しかし機械は、さらに押し掛かってくるーーー!

 いよいよその顎が迫りーーー!

 

 「ヴゥアアアァッ……!?」

 

 ダメだ、防ぎきれねぇ!!

 

 「中尉っ!!」

 

 何処から途もなく聞こえてくる女性の声の方へと視線を移した瞬間、迫っていたはずの機械が吹き飛ばされていた。

 腹を晒したまま機械は体勢を立て直そうともがき出す。

 

 「なんだ……? 今のは……」

 

 思わず呆けていると重い金属音を立てながらこちらに近づく青い機体。その回りには発射口の付いた機械が四基ほど浮いている。

 お礼を言おうとしたが、青い機体は俺から離れた場所にいた機械に目掛けて、手に握りしめていたライフルを躊躇なく撃ち抜く。

 

 ドゴオオォンッ!!

 

 轟音と共に閃光が煌めき、撃ち抜かれた機械の蜘蛛が爆発を起こし砕け散る。

 続いて、俺の視野の一部が四角切り取られ、女性の姿が映し出された。

 

 「大丈夫ですか、中尉……?」

 

 こいつが、あの青い機体を操っていたのか……? 長い髪に金髪碧眼。歳は多分だが、俺より下。いや、同じ位かもしれねえ。どこか見覚えがある気がするんだが……。

 

 「応答が無いので心配しましたわ。どうやらご無事のようですわね」

 

 「あ、ああ。助かった……」

 

 鋼鉄の腕が差し出される。

 俺は深く考えず、差し出された手を握って立ち上がりーーーまたしても、言葉を失ってしまった。

 

 「おいおい……いったいなんなんだよ……」

 

 噴煙を上げる残骸。地平線まで連なる、無機質な巨大建築群。

 上空の漆黒の闇を切り裂くように、曳光弾が横切ってゆく。そして、爆発。その光が網膜に残像を焼き付ける。

 

 例えるならば、地獄。

 いや、この光景はまるで、そうーーー

 

 「ここは……戦場なのか……」

 

 「ええ。まだ戦闘区域内ですわ。この位置からですと、離脱(ログアウト)不能ですから」

 

 「……」

 

 「施設内に自爆装置が仕掛けられていたようですわ。中尉も衝撃で、気を失っていたようですわね」

 

 「自爆装置?」

 

 「はい。付近に味方の識別信号は有りませんわ。……おそらく残っているのは、私達だけかと。幸い損傷は軽微。まだ私も戦えますわ。敵にも混乱が見られるようですから、この隙に脱出をーーー」

 

 「いや……待て。待てって! ちょっと待てって!!」

 

 「了解(ヤー)……なんでしょうか、中尉?」

 

 ここはいったいどこなのか? どうしてこんなところに、俺がいるのか? 聞きてえことは山ほどあるけどよ……。

 

 「悪いけどよ……まず、名前を訊いてもいいか?」

 

 「……はい?」

 

 言いてえことは分かる。今までの話からしたら俺とお前は知っている仲だってことはよ。

 けど、今の俺からしたらお前が誰なのかさっぱりわかんねえんだが……。

 

 「オルコットですわ。セシリア・オルコット。階級は少尉ですわ、中尉」

 

 「セシリア・オルコット……中尉?」

 

 微かにだが、その名に聞き覚えがあった。

 しかしーーー

 

 「セシリア、セシリア……なんだか懐かしい響きはするんだが……」

 

 必死に頭をひねるが、手がかりが掴めない。

 

 「悪い、セシリア。思い出せねえ……。あんたが誰だったのか、思い出せない」

 

 「思い出せないって……そんな、まさか---」

 

 表情画面(フェイスウィンドウ)の向こうで、彼女が、はっ、と短く息を呑む。

 

 「もしかして中尉、私のことがわからないのですか?」

 

 「お、おう……。ついでにその『中尉』ってのも気になってたんだけどよ。それって、俺のことか?」

 

 「はい……オルガ・イツカ中尉。あなたことでしてよ……」

 

 セシリアと名乗る女兵士は、不安げに俺を見つめてくる。でも、俺も何を答えていいのか、正直わかんねえ。

 

 ブー、ブー。

 

 沈黙を単調な電子音が遮った。

 

 「警報! 多連装遠距離ロケット弾(カチューシャ)ですわ! 回避を……間に合わないっ! 伏せてっ!」

 

 ドゴオォオォオォン!!

 

 セシリアの操る鋼鉄の身体が、俺を地面に押し倒し、一拍遅れて、轟音と爆風が身を包む。

 

 「……っ!? カチューシャ!?」

 

 パラパラと降り注ぐ土砂の雨。

 爆風に身体が軋み、痛みが鉄の肌に滲んでくる。

 

 追撃? 爆撃なのか? 俺を標的にしているのか?

 認識と共に、俺の身体が、勝手に慄いてしまう。

 

 「うぅっ、くうっ……!」

 

 追撃。連続して響く衝撃に、肝っ玉が縮み上がる。だけど、その縮み上がるような感触も、かつて確かに味わった気がする。この身体のどこかに、染み付いているんだろうか。

 

 なんとか立ち上がるが、俺の脚はおぼつかない。

 

 「敵がこちらに近づいてきていますわ! ひとまず、この場から離れますわよ!」

 

 「くっ!」

 

 叫んだ俺の声を、至近距離への着弾が吹き飛ばした。熱風と閃光が俺を呑もうとするーーー!

 

 「うおああっ……!!」

 

 次の瞬間には爆炎を逃れ、俺の脚は自然と、地面の上を滑走していた。身体が勝手に反応したみたいだった。

 

 「待ってください、中尉! 単独で行動しては危険ですわ!」

 

 「ヴァアアァアァァア!?」

 

 俺は無我夢中に地面を滑走していると、目の前には幾つか積まれていたコンテナが目に入る。止まろうとブレーキを掛けるがーーー

 

 ドーン!

 

 「ぐはっ!」

 

 「大丈夫ですか、中尉っ!?」

 

 「な、なんとかな……」

 

 まだ悪夢を見ているのだろうか、俺は。

 でも、この衝撃も、感覚も、あまりにリアルすぎる。

 

 「中尉……。まさかISの操作方法まで、忘れてしまったのですの?」

 

 「待てって言ってんだろ! だから、俺は単なる学園生で、中尉なんかじゃねえ!! それに、俺はーーー」

 

 そうだ。俺はあんたが誰なのか知らねえけど、俺、オルガ・イツカはーーー

 

 「俺はオルガ・イツカ、男、IS学園の2年生。仮想工学科の学園生で……ええと、それから……」

 

 「……『それから』、どうしましてよ?」

 

 「ああ、ええと、つまりだな……少し待ってくれ……あと少しで……」

 

 友達と一緒に、学生寮で暮らしていた『ような気がする』。

 仲の良かった女友達が居た『ような気がする』ーーー。

 

 「……」

 

 「どうしてなんだよ……なんで思い出せねえ? クソッ、なにがどうなってんだ!!」

 

 何かが欠け、抜け落ちたように、どうしても記憶の連鎖が続かない。まるで頭に霧がかかったみたいだ。

 

 「記憶の一時的な混乱……生活史に錯綜があるようですわね、中尉」

 

 「どういうことだ!!」

 

 「……落ち着いてくださいませ。ゆっくり、息を吸うイメージをしてください。そして、吐くイメージ繰り返してみてください」

 

 彼女の真剣な表情に促されて、俺はイメージ通り深呼吸を繰り返す。口を持たない鋼鉄の身体なはずなのに、不思議と気分が落ち着いてきた。

 

 「セシリア、だったか……? 俺を中尉って呼んでいたよな?」

 

 「ええ……」

 

 「……もしかしなくとも、俺は軍人……なんだよな?」

 

 「はい。あなたはフリーの傭兵で電脳将校。歴戦のIS(パイロット)乗りですわ」

 

 「嘘だろ……俺はついさっきまで、寮のベッドで寝ていたはず……」

 

 だけど、ベッドに入る前の事をーーーいや、昨日のことさえも、何一つ思い出せない。

 

 「嘘でも冗談でもありません。事実ですわ。ここは仮想空間(ネット)の戦場……。あなたは軍人として没入(ダイブ)中……」

 

 「……」

 

 「中尉は施設の爆発に巻き込まれて、先程まで昏倒していましたわ。推測なのですけど……その際の衝撃で、記憶の一部に、障害が起きたのではないかと」

 

 「そんなことが……」

 

 あるわけないだろと笑い飛ばしてやりてえのに、どうしても、笑うことができねえ。

 もしも、この女性ーーーセシリアの言うことが正しければ、俺は兵隊で、なおかつ学園生時代から今までの記憶が消し飛んでいるわけだが……。

 

 「まるで、記憶喪失じゃねえか」

 

 そう言葉に出すと、我ながら事態の重さを感じる。

 

 「しっ、静かに……」

 

 セシリアは俺をコンテナの影に押し込むと、不意にあるはずのない口を抑えた。思わず俺は息を潜める。

 セシリアはついでに、軽く頭を振って前方を示した。

 

 指し示した方向には鋼鉄の虫が数機。先程、セシリアと戦っていたのと同じ代物だ。

 

 「自動戦闘兵器(ウィルス)……敵ですわ」

 

 「敵……? ってことは、また襲いかかってくんのか」

 

 「幸い、まだ私達ちには気づいていないですわ。敵の知覚装置に妨害(ジャミング)を掛けましてよ。少しの間なら安心ですわ」

 

 (妨害装置(ジャマー)作動中。現在、探知妨害95%)

 

 セシリアの言葉を証明するように、鋼鉄の虫達は俺達の鼻先で、あても無くうろうろしている。

 

 (敵の受動防壁(パッシブウォール)起動確認。現在、探知妨害70%)

 

 「しかし、本当に少しの間だけみたいだな……」

 

 「ええ……」

 

 「逃げることは出来ねえのか? ほら、さっきのように全力で走れば……」

 

 「動いた瞬間、捕捉されますわ。それに、あのタイプは速力重視の強行偵察型。走っても追い付かれてしまいますわ」

 

 「ってことは、どのみち交戦は避けられないってことじゃねえか……」

 

 考えに困って、鋼に覆われた自分の身体を見下ろしてみる。鈍い輝きを放つ、硬質の躯体。

 なのに、転べば痛みを感じ、恐怖に慄きもする。だとすれば、もしもこの身体を破壊されれば……。

 

 (現在、探知妨害50%)

 

 「くそっ、息が詰まりそうだ」

 

 焦りと緊張に、思わず拳を握る。鉄の拳が軋んだ音を響かせた。

 

 「……大丈夫ですわ」

 

 その握り締めた拳を、彼女の鋼の手が包み込む。セシリアが、そっと息を吐き出すように囁いてくる。

 

 「大丈夫ですから」

 

 その青く綺麗な瞳が、真っ直ぐ俺を見据えてくる。

 

 「確認しますの……ご自分の名前と学年は、覚えていますわね?」

 

 その凛とした声を聴けば、俺の心に落ち着きが蘇ってくる。

 

 「オルガ・イツカ。学園の2年生」

 

 「学園生で、2年生なんですね?」

 

 「あ、ああ……そうだが……」

 

 「でしたら、あなたはIS(インフィニット・ストラトス)の操作をご存知な筈です」

 

 「知っている筈って、おい! それに、そのISっていうのは、いったい……」

 

 反論しようとして、何かが心に引っ掛かる。

 

 ーーーIS(インフィニット・ストラトス)

 

 「あなたが忘れることなどあり得ませんわ。よく、身体の感覚に耳を傾けてくださいませ」

 

 「感覚、だと……?」

 

 言われるまま、身体に意識を集中する。そこで今頃になって、自身の脈動を自覚した。微かに鳴動する。自分の中に流れるリズム。この身体を流れるそれは、電磁パルス。

 

 「確かに……わかる。思い出せる……この身体を、脈打つ感触を、俺はよく知ってる」

 

 知覚された電磁パルスの鼓動に導かれるようにして、頭の中でひとつの言葉が影を成す。

 

 「IS……戦闘用電子体……」

 

 仮想空間の法則に適応した人型戦闘兵器。虚構の世界で殺しあうために、人が編み出した虚構兵器。

 

 「そうですわ、中尉。私達が仮想(バーチャル)の戦場で戦うための兵器ですわ」

 

 「戦場……」

 

 「ええ、私達は、今、電脳空間(サイバー・スペース)の戦場に居ましてよ」

 

 電脳空間(サイバー・スペース)

 

 ネット内に構築された、もうひとつの世界。

 人工知能(AI)が管理する虚像の世界。ここは人類の英知が無から生み出した新天地。

 

 (警告:探知妨害率、30%を切りました)

 

 機械音声が会話に割り込み、セシリアがキッと引き締めた。

 

 「私達は敵陣の真っ只中で孤立状態。包囲を突破しない限り、生き延びることは出来ませんわ」

 

 「ああ……」

 

 「幸い、敵軍もほぼ壊滅状態。現在、戦場に展開しているのは、敗残の自動戦闘兵器だけですわ。いけますわね、中尉?」

 

 セシリアが励ますように微笑んでくる。言葉に秘めた確信が、はっきりと俺に伝わってくる。

 

 「……そうだな」

 

 それしか選択肢はない。なら、やるしかねえ。

 

 「了解(ヤー)。武装を初期状態にリセットいたしますわ」

 

 彼女がそう言うと即座に、眼前に装備品リストが表示された。

 ハンドガン、強化装甲の拳、ビームソード、スプレッドボムに手榴弾。記憶の果て、おぼろげに見覚えのある、戦闘用の粗雑な装備群。

 

 「武装の初期設定の完了を確認しましたわ。選択機構、遠近距離センサー、オールクリア。使用武装は、敵機との距離、及び自機の移動モードにより、3種類の装備カテゴリーの中から自動的に選択されますわ。武装はオーバーヒートしやすいですから単一の武器の連打するのは避けた方が良いですわ。複数の武器を効率よく使い分けて下さいませ」

 

 「……」

 

 ……要するに身体が覚えている感じのことをすればいいってことだよな?

 

 「……はぁ。あまりこういう言い方はしたくありませんが、ざっくり言えば遠、中、近距離の3パターンにそれぞれ3種類の武装が使えますわ。けれど、中尉の今の武装は初期設定ですの。そう多く持っていないので上手く使いこなして下さい」

 

 ……なるほどな。

 一定の距離になると使える武器が違うってことだな。近距離なら接近戦の強化装甲、中距離ならビームソード、遠距離ならハンドガンっていう使い方をすればいいんだな。

 

 セシリアの言ったことが正しければ遠距離でハンドガンばかりではオーバーヒートして動けなくなるってことか。そうならないためにも今はやるしかねえ。

 

 (それに……一つ気になるのがある)

 

 ーーー単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『希望の華』。

 

 どんな武装なのか気になるが今は時間がねえ。この戦いを乗り越えられた後で、セシリアに訊いてみよう。

 

 「ああ、やってやろうじゃねえか……」

 

 本当に身体が覚えているなら、できるはずだ。

 

 (妨害装置、解除されました。警告:敵ウィルスにより捕捉)

 

 「いきますわよ、中尉……! 戦闘開始(オープン・コンバット)……!」

 

 セシリアの掛け声に敵のウィルスが一斉に襲ってきた。こっちが避けようと思ったときには既に避けた後だった。

 

 「……っ!? おっしゃあぁぁ、いくぜ!」

 

 想像以上動きに思わず驚きはしたが、動けるなら話は別だ。俺は敵のウィルスに攻撃を与えるため、接近をした瞬間、死角からウィルスがこちらに向かって飛びかかってきた。

 

 「しまっーーー」

 

 ズドンッ!

 

 「油断しないで下さい! 無理せず遠距離からの攻撃をして、隙が出来ましたら一気に攻撃を叩き込んでください!」

 

 そう言うと、セシリアは敵のウィルス一機、一機を確実にライフルで仕留めていく。俺は運良くライフルの攻撃に耐えたウィルスに止めを刺すため、セシリアの教え通り武器を上手く使いこなしていく。

 

 「ヴェアァアァアァアア!!」

 

 強化装甲による渾身の右ストレートを打ち込むと、蜘蛛の機械はコンテナの方へと吹き飛ぶ。激しい爆発音を出して砕け散った。

 

 ……結構いけるじゃねえか。

 俺はセシリアのところへと戻ると、どうやらセシリアの方も終わったらしい。

 ……まあ、ほとんどセシリアのおかげで勝ったようなもんだ。セシリアには感謝しないとな。

 

 「さっきはありがとな。結局あんたにほとんど倒してもらっちまってよ」

 

 「礼には及びませんわ。私の役目はあなたのサポートなのですから。当然のことをしたまでですわ」

 

 表情画面に映し出された彼女の表情はどこか誇らしげに思える。凛とした笑みを浮かべながらこちらに向けて微笑んでくる。その仕草にドキッとしたのは仕方ないと思いたい。

 ……今思えば、俺の記憶は学園生時代のままなんだ。思春期の男子には刺激が強い。ともあれ、

 

 「正直、驚いたんだけどよ」

 

 「ご自身お身体の動きに、ですか?」

 

 「ああ」

 

 そう答えてから、不思議に思った。戦闘前に感じていた焦燥は、今はない。戦いの手応えに、興奮と陶酔さえ感じるほどだ。

 

 この充足……。確かに俺は、戦い方を知っているのか。

 

「本来の中尉の実力はそんなものじゃありませんわ。ですから、あまり心配はしていませんでしたの」

 

 「……」

 

 正直、ピンと来ねえけどセシリアが言うならそうなんだろうな。きっと、俺自身ピンと来ない理由はそこなんだろう。まだ身体の動きについていけてねえ気がするしよ。

 

 「……とは言え、まだ油断するのは早くてよ。今の戦闘で、周囲の敵が我々の存在に気付きましてよ」

 

 「気の休まる暇さえ、もらえねえってことか……」

 

 ……ったくよ。俺は何を思って、傭兵なんかになろうと思ったんだ。

 

 「けどよ、ここで消耗戦を延々続けるわけにもいかねえだろ」

 

 それによ、そろそろリアルな自分とのご対面を果たしたいぜ。

 ここが仮想空間なら、俺の実体(リアル・ボディ)は今頃どうしているのか……。

 

 「先程も申し上げましたが、ここからでは、敵の離脱妨害(アンカー)のおかげで離脱(ログアウト)は不可能でしてよ」

 

 「この場でおはようございますは、出来ねえってことか」

 

 「幸い、ここから、南方に数仮想キロ移動すれば、離脱妨害の範囲から離脱できますわ」

 

 「仮想空間から出るには、そこを目指すしかねえってことか」

 

 「ええ。ですから、敵の手薄な所を狙って突破を……っ!? 中尉! 警戒してくださいませ!」

 

 「なにっ!?」

 

 背後から複数のウィルスが突如、姿を表しオルガに襲い掛かる。

 

 「っ……!? いつの間に、こんな近くに来やがったんだ!?」

 

 完全無意識にその場を避けたお陰で殺られずにすんだ。身体が覚えてなければ今頃どうなっていたかなんて目に浮かぶぜ。

 

 「すみませんわ……! 敵のジャミングに気付くのが遅れましたわ!」

 

 敵の数は約三機。一体はさっきと同じタイプだが、残りの二機は、二本の脚に大きな目玉が中央に一つだけついている。

 どうやらさっきの奴よりかは動きが遅い上に強くなさそうだ。

 

 「……っらあ!」

 

 まずは遠距離からハンドガンを撃ち込む。熱量の関係で連発は出来ねえからな。

 一発、二発、三発!

 

 ドカンッ!

 

 「うっしゃあ……!」

 

 まずは一機、撃破ーーー

 

 「ぐっ……!?」

 

 もう一機が二足を使って頭突きをしてくる。鈍い痛みが伝わってくるが耐えられねえ程じゃねえ。それに、手が無い分起き上がるのにも一苦労のようだ。なら、遠慮はしないからな!

 

 「おらぁ……!」

 

 左足によるローキックを食らわせ中に浮いたところ、すかさずストレートパンチを打ち込む。敵の目玉の中央、ど真ん中にヒットし貫通すると、腕の中で木っ端微塵に吹き飛んでいった。

 セシリアの方も終わったらしくこちらへと近づいてくる。

 

 「これで全部やったのか……」

 

 戦いの緊張が去ると、鋼鉄のボディが、ひりつく痛みを伝えてくる。ふと見れば、脇腹の装甲板にえぐるような銃創が、一筋くっきりと刻まれていた。

 

 

 「銃弾がかすったようですわね。内部には貫通していないようですわ」

 

 「仮想で、しかも鉄の身体なのに、弾を食らうと痛いんだな……」

 

 神経フィードバック。そんな言葉を思い出す。

 ISは単なるロボットじゃない。我が身のように動かすための神経が全身に通っている。

 

 「被弾には気を付けてくださいませ。今、私達は制限無し(リミッター・オフ)でアクセスしていますから」

 

 「つまり、無制限フィードバック、手加減無し……?」

 

 「ええ。ここは仮想ですけど、機体を破壊されれば死ぬ可能性が高いですの」

 

 さらりと恐ろしい言葉を告げてくる。

 

 「……おかげで、またひとつ、思い出した」

 

 通常のアクセスでは、リミッターが行動を制限する代わりに、苦痛やショックを和らげ、実体と魂を、仮想空間での衝撃を守ってくれる。

 しかし、五感への制限無し(リミッター・オフ)アクセス下では、再現された感覚のリアルさに、肉体や精神が耐えられず、死を選んでしまうのだ。

 脳死(フラット・ライン)は仮想空間に深入りした者に付きまとう現象。そして、電脳将校は、仮想空間に深入りするのが商売だ。

 

 「無駄に繊密(リアル)なのも、考えもんだな」

 

 言ってから、足元には先程交戦した敵の残骸が散らばっていることに気付く。

 

 「繊密(リアル)といえば……こっちもか」

 

 ざんがいの小さな破片を踏みしめると、金属の感触がありありと伝わってくる。

 

 「さっき倒した機体にも、操っていたパイロットがいたのか?」

 

 「今まで交戦したのは、全て自動戦闘兵器(ウィルス)。背後に人の姿はありませんわ」

 

 「そうか……」

 

 「仮に戦闘用電子体(IS)が出てきても、躊躇わないでくださいませ。躊躇えば……中尉が死にますわ」

 

 「……お、おう」

 

 彼女の言葉を聞くたびに、これまでのことが全てリアルなのだと痛感せざるおえない。沈んだ気持ちに成りかけていた俺を一目、目を配ると俺の前を通り、こちらへと振り返える。

 

 「行きましょう。一箇所に留まっていると、敵が集まってきますわ」

 

 「……そうだな」

 

 沈んだところでなにも変わりはしねえんだ。今はここを出ることだけを考えりゃいい。

 不安をかき消す思いでセシリアと共にその場を離れるのであった。

 

 ◇

 

 「はっ……はぁっ、はっ……」

 

 息が切れている。肺なんかあるはずねえのに、身体が酸素を欲していた。

 

 あれから何度か戦闘に遭遇することになったが、敵が減るどころか増えているような気がする。戦い方は徐々に慣れてきたが、度重なる戦いの連続に疲れが見え始めていた。

 

 「深呼吸してくださいませ。微弱でも感覚がある以上、身体は生理現象から逃れられないですわ」

 

 ゆっくりと大きく息を吸い、吐き出す。

 鋼鉄の身体は呼吸はしない。ここでの呼吸は、ただのイメージだ。が、気持ちは楽になる。

 

 「ふう……けど、肺も心臓も現実(リアル)へ置き去りのはずなのによ」

 

 「息苦しい時は呼吸する。身体に染み込んだロジックからは、そう簡単に離れたりしませんもの」

 

 「健全なる精神は、健全なる肉体に宿る、ってことか」

 

 「今頃、あちら側では、トランス状態の中尉が、深呼吸しているはずですわ」

 

 「それにしてもよ、俺、いつもこんな感じで戦っていたのかよ」

 

 「そうですわ……っと言いたいところですが、この構造体にこれ程の敵が潜んでいたとは、私達にとっても予想外でしたわ……」

 

 そこまで聞いて俺は、根本的な疑問にぶち当たる。

 

 「そういえば……俺達は、どうしてこんなところで戦ってたんだ? 相手はいったいどんな奴らなんだよ」

 

 「それは……」

 

 セシリアは言葉を濁す。

 

 「申し訳ありませんわ。今話すには事態がやや複雑でしての。とにかく、ここを出ましょう」

 

 「ああ、わかった」

 

 仕方ねえ……。ここで呑気に話している暇がねえのは事実だしな。今はセシリアの言葉に従うとするか。

 

 ◇

 

 それから、無人の構造体(ストラクチャ)を、どれほどの間、走ったのだろう?

 しかし、機械音声(マシンボイス)は一向に、離脱可能を告げてくれない。

 

 「まだ離脱出来そうにねえのか?」

 

 「おかしいですわね。既に目標地点には辿り着きましたのに……調査してみますわ」

 

 フェイスウインドウのセシリアが一度目を閉じる。わずかな間のあと、その目が開かれた。

 

 「わかりましたわ。どうやら離脱妨害を掛けている張本人が、後方からピッタリと付けてきているようですわ」

 

 「何も見えねえけどよ……」

 

 「こちらのセンサーでは捉えていましてよ。私は支援戦闘要員(サポート)ですから……」

 

 「サポート? そういやセシリアの機体、俺と違うな……」

 

 「各種感知装置(センサー)と長距離支援火器を搭載した、支援戦闘要員(サポート)要員仕様の特注機(カスタムモデル)でしてよ」

 

 「なるほどな。しかし、敵が後ろにいるってことはよ、戻って叩くしかねえってことか……」

 

 「中尉、索敵したデータをそちらに送りますわ」

 

 転送されたデータが目の前で展開した。

 

 「おいおい……マジかよ」

 

 映し出された光景に、連戦勝利した高揚感が、一気に消散してしまう。

 数えるのも馬鹿馬鹿しい程の、おびただしいウィルスの群れ。これほどの敵が、俺達を迫ってきているのか?

 

 「叩く……にしては敵の数が多すぎますわね。正攻法では勝ち目がありませんわ」

 

 「勝ち目がねえ、って……ならよ、このまま距離を引き離して逃げるしか……」

 

 「それは無理ですわ。敵も私達と同じ速度で追ってきていますわ。速力で振り切るのは不可能でしてよ」

 

 「……っちぃ! 何か良い手はねえのか!?」

 

 「……」

 

 セシリアはただ、唇を噛み締めている。

 

 ーーー打つ手無し、ってことか。

 そうか、俺、ここで死ぬかもしれねえのか。悟った途端、悪寒が身体を貫いた。

 俺の手が、足が、勝手に怯え、震え始める。

 皮肉なもんだな。こんな記憶がズタズタでも、死ぬってのは怖いもんなのかよ。

 

 「まだ、方法はありますわ……」

 

 「……あん?」

 

 「中尉、先に行ってください」

 

 「……は?」

 

 一瞬、言ってる意味がわからなかった。

 

 「私が時間を稼ぎますわ。その間に中尉は、離脱妨害エリアから脱出してくださいませ」

 

 セシリアは瞬きもせず俺を見つめている。俺もどう答えていいのかわからないでいた。セシリアが、俺のために時間を稼ぐだと? けどよ、それじゃあ、アンタはどうなる?

 

 「……おい、まさかだけど、自分を犠牲にしてまでも助けるなんて言うんじゃねえよな……?」

 

 「特攻なんて馬鹿げた真似は致しませんわ。私、カミカゼは嫌いですの。ただ、時間を稼ぐ……それだけですわ」

 

 ふっと、セシリアは微笑んでみせる。さっきのように胸が高鳴る気持ちが湧いてこない。

 ……なんで、笑っていられるんだよ。

 

 「先に現実で待っていてくださいませ。すぐに、追い付きますわ」

 

 「……」

 

 「私が合図したら、全力で走ってくださいませ。いいですわね、中尉?」

 

 「そんなこと……出来るわけねえだろ」

 

 「時間がありませんわ! 行ってください、中尉……! 今ですわ!」

 

 (敵影多数接近中。大型ウィルス反応多数確認)

 

 「このままでは二人とも犬死にですわ! さあ、早く……行って!」

 

 「……っ!」

 

 ギリっと歯を噛み締め、セシリアから背を向ける。

 ……けどよ。

 

 「出来るわけねえだろが! アンタ、俺の戦友なんだろっ!?」

 

 「中尉……!?」

 

 セシリアは目を大きく見開き驚きをあらわにしている。

 つい、勢いで言っちまったけどよ、後悔したくねえんだよ。まだそんなに時を過ごしてなくても、目覚めてから過ごした短い時間の中でもアンタが俺の大事な『戦友』ってことは、わかるからよ……。

 

 「あぁ、わかったよ! よぉくわかったよ! 今の状況のヤバさにも、今の俺が出来ることなんかねぇってことがよ!?」

 

 「……は、はい? ちゅ、中尉……?」

 

 そうだ……俺は逃げねえ。ましてや、女が身を呈して守ろうとしてるんだ。男の俺が「はいそうですか」なんて逃げたりしたら……ただの負け犬じゃねえか。犬死の方がよっぽどましだぜ。

 

 「けどよ、例えどんな絶望な状況だろうと、俺はアンタを、俺がーーー守ってやるよ!!」

 

 今の俺に何が出来るかなんてわかんねえけどよ……それでも、守れるのならやってやろうじゃねえか!

 

 「……ふ、ふふ」

 

 少ししたらセシリアは笑いを堪えようと、必死に腹に手を当て落ち着かせようとする。

 我ながら恥ずかしいことを言ったと、気付いたときには既に遅し。ダムが決壊したかのように、辺りに笑い声が響き渡る。

 

 「す、すみませんわ……上官に向かってこのような失態をしてしまうとは……」

 

 「あ、いや、なんつぅか……今のことはな……」

 

 やべぇ……勢いで言ったはいいけど、俺に出来ることなんかねえのは確かだしな。ど、どうすればいんだ……。

 

 「危険ですわ……死にますわよ、中尉?」

 

 「何度も言わせんじゃねえ。俺は戦友を、置いては行かねえ。それによ、俺はアンタの上官なんだろ?」

 

 覚悟なら出来てる。後戻りは出来ねえ。けど、後悔だけはこれっぽっちもねえけどな。

 

 「もしも、乱戦とかになっても、中尉のことを助けたりは出来ないですよ?」

 

 冷静に諭すような声。厳しい表情……。それでも、瞳は心配そうに俺を見つめている。

 

 だから、俺は決断の意を言葉ではなく表情に込める。

 

 「……」

 

 「……記憶を失っても、やはり、中尉は中尉なのですね……」

 

 ようやくセシリアが柔らかい笑みを見せてくれた。まるで、花が咲いたようで、俺はその微笑みに見とれてしまう。

 戦場には不釣り合いな人だと……。そんな率直な感想が浮かんだ。

 

 「わかりましたわ、中尉殿。それでは、ご一緒して頂いても宜しくて……?」

 

 セシリアが、俺の手を握ってくる。

 握られた鋼鉄の腕は、いつしか震えることを止めている。

 

 「おう……。一緒に現実(リアル)へ戻ろうぜ、セシリア」

 

 「……了解(ヤー)

 

 セシリアが手を振りかざすと、大型のエネルギー兵器が、その手中へと出現した。

 

 「単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、スタン・フレア……。これを使えば、約十数秒だけ、敵ウィルスの知覚装置を麻痺させることができますわ」

 

 「つまり、目眩ましってことか?」

 

 「ええ……。スタン使用後、その隙に全速力で敵前衛をすり抜け、奥に隠れているサポート機を破壊……そのまま、反対方向へと脱出ですわ」

 

 「おう、了解だ」

 

 これが『窮鼠猫を噛む』ってやつだな……。

 

 (警告:敵機接近)

 

 顔を上げると、雲霞のごとく集まったウィルスが加速度敵な勢いで迫ってくる。

 

 「とにかく、生きて帰りましょう。優先目標は敵サポートーーー他の敵を相手にしている余裕はありませんわ」

 

 「ああ、承知!!」

 

 「いきますっ……! スタンフレア、投射っ……!」

 

 シューン……バシュッ!!

 

 瞬間、世界が輝くミルク色の帳に包まれた。

 光が去った後には、ウィルスの群れが硬直し、地面にへばりついている。

 

 「突っ切りますわよっ、中尉っ……!」

 

 「おうっ……!」

 

 俺とセシリアはISのブースターを全開で地面を走り抜けていく。

 

 (相対速度が速すぎます。減速してください)

 

 機械音声の指示に逆らって、俺達はさらに速度を上げ、ウィルスの群れに突入した。

 

 「激突したらお終いですわっ……! 気を付けてくださいませっ、中尉っ……!」

 

 「くっ……わかってる!」

 

 駆け抜ける。風切る音と共にウィルス群がISのすぐ脇を横切ってゆく。

 激突して転んだら、起き上がる前に、ウィルスが山のように群がってくるに違いねえ……。

 

 「ヴァアアアアァァアアアアッ……!!」

 

 気が付けば、俺は雄叫びを上げていた。不思議な戦慄が身を包み、破れそうなほどに胸が高鳴っていて……。

 

 ーーーこの感触。俺は確かに、どこかで味わったことがある。

 

唐突に、ウィルスの群れが終わりを告げ、ISが一度通過した空き広場の中に躍り出た。

 

 「中尉っ……!」

 

 「あぁ、わかってる……! 目標はあれか……!?」

 

 「ですわ! 早く破壊しないと、ウィルスが復活してしまいますわ!」

 

 「うおおぉぉおぉおぉぉおおおっ……!!」

 

 俺は雄叫びを上げながら、全速力でウィルス向かってゆく。装備のビームソードを手に握りしめ振り上げる。

 セシリアも俺と同じく全速力で敵に突っ込んでいく。手にはショートブレードを握りしめ敵のウィルスに向かって突き刺そうとする。

 

 「「はああぁああぁぁぁああっ……!!」」

 

 二人の重なりあう声。気付いたときには、敵のウィルスーーードローンの胴体を貫いていた。

 刹那、目の前を覆い尽くすほどの光が視界一体を埋め尽くす。敵の残骸が散らばるのを確認すると、セシリアは大声を上げつつプログラムを起動させる。

 

 「離脱妨害解除プロセス起動! 退避しますわ! 飛び降りてくださいっ!」

 

 「あぁ、わかっ……!?」

 

 不味い、足が思うように動かねえっ……!? さっきの時どこかかすったりでもしたのかよ。……けど、止まるわけにはいかねぇんだ!

 

 「中尉っ……!? あれは、まさか……!?」

 

 セシリアが俺の方を向きながら驚きを隠せない顔をしている。……まさか敵の援軍なのか!?

 と、思った瞬間、急に重力が浮いたかと思わせる感覚へと陥る。振り返ると、そこにいたのは見知らぬ白い機体だった。

 

 「……オルガ、無事?」

 

 「お、お前は一体……」

 

 ーーー誰なんだ?

 

 「三日月さん!? どうして、ここに!?」

 

 「セシリアっ……!」

 

 「っ……! わかりましたわ! いきますわよ!」

 

 白い機体とセシリアは、互いにアイコンタクトをすると同時にブースターを起動させる。

 

 「はあっ……!? おい、ちょっとまっ……」

 

 俺が言い終わる前にセシリアと白い機体は地面が切れた端、底が暗黒な穴へと飛び降り出した。

 

 「ヴェアアアァァァァアァアアァッ……!?」

 

 (妨害解除・離脱可能です)

 

 「離脱手続き(ログアウト・プロセス)起動!」

 

 離脱手続き(ログアウト・プロセス)が始まる間際、やっと肝心なことを思い出した。

 

 俺はオルガ・イツカ。フリーランスの傭兵。学園だったのは、もう多分、何年も前の話。

 

 自覚と共に、学園時代の友人達が、くっきりと脳裏に浮かんでくる。

 

 名前も場所も思い出せない。けれど、穏やかな時間があったことだけは、なんとなくだけど覚えている。

 

 記憶の連鎖が途切れているのに、懐かしさだけは感じてしまう。

 

 あの『穏やかな時間』から、どれだけ時が過ぎたんだろう?

 

 俺はいったいどんな人生を辿り、この戦場に至ったのだろう?

 

 最後に一瞥した仮想空間は、戦慄と硝煙に包まれていてーーー。

 

 (……どうして俺は、傭兵なんかになっちまったんだ?)

 

 答えを見いだす暇もなく……。

 

 離脱(ログアウト)ーーー。

 

 俺の魂は仮想(バーチャル)から現実(リアル)の肉体へと引き戻された。




シュミクラム⇒IS

フォースクラッシュ⇒単一仕様能力

また説明するかもしれませんが基本ISもフルスキンです。
武装とか色々突っ込まれそうですが、基本バルスカにそってやっていきます。機体名も基本ISや鉄血のキャラ達の名前だと思っていてください。武装の開発とかのシーンはないと思っていてください。いつの間にか持っていたがちょいちょい(基本主人公のみ)ある。
あとヒロインの選別は基本バルスカに近い人物だったりします。

各ヒロインのエンディングのことですが、ぶっちゃけ全部書く予定。……バルスカ菜ノ葉ルートのエンディングはマジでキツいので、なんとかします、はい。

門倉甲⇒オルガ・イツカ。

レイン⇒セシリア・オルコット。

まあバルスカdive1やった方は知っての通りヒロインの第一ルートはつまり……○○○○です。

白い機体の正体とは一体……?

次回、オルガスカイ第二章『記憶遡行』
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