Eltoria Trilogy Side A&K   作:宮永 悠也

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皆さん、いつもご愛読ありがとうございます♪
作者です♪
アミタ&キリエ編 05 投稿です♪
今話は、このアミタ&キリエ編の最重要とも成り得る回なので、とても大切に時間をかけて仕上げました♪
長々と語るのはあとがきで(笑)
早速本編をどうぞ♪



05 変われない痛み、拭えないあの日

      【グランツ研究所】

 

     [ブロロロロロ…、キキ…ッ!]

 

 

移動用の車両から降り、研究所(ウチ)の玄関へと歩を進め、ガチャリと木製の扉を開く。

砂ぼこりが中に入り込まないように、すぐ扉を閉めるのも忘れずに。

砂ぼこり防止用のフードを下ろして、コートを玄関横のコート掛けに引っ掛ける。

 

 

???「キリエ…♪」

 

キリエ「あ……、、、。」

 

 

左正面から聞こえてきた優しい声、私のママの声。

腰掛けていた椅子から腰を持ち上げて、私の方へと歩み寄ってくる。

 

 

エレノア「お帰りなさい♪キリエ♪」

 

キリエ「うん、ただいま、ママ…♪ごめんね、運転中だったからメールの返信出来なくて…。」

 

エレノア「ううん、いいのよ♪あなたが無事で帰ってきてくれたらそれで…♪」

 

キリエ「ん…♪うん…♪」

 

 

フードを下ろした時に跳ねた髪と、薄く乗っていたであろう砂ぼこりを、ママが優しくパッパッと払い整えてくれる。

優しくて、私のモコモコなくせっ毛越しでもふんわりと暖かさが伝わってくるようだった。

 

 

        [チクン…ッ…!]

 

 

キリエ「………ッ!」

 

エレノア「ん?どうしたの?キリエ?」

 

キリエ「あ……、ううん!何でもないよ…♪」

 

エレノア「そう?」

 

キリエ「うん…♪」

 

 

また……。

暖かい心に触れるだけで、幸せな自分を感じてしまうことで、私の中の傷痕が疼き出す。

向けられる笑顔を、誤魔化しの笑顔で取り繕うことにも胸が締め付けられる…。

でも、そうせずにはいられない…。

普通でいられなきゃ…、変わっていなきゃダメなんだ…。

 

 

???「キリエ…。」

 

キリエ「え…?あ……。」

 

 

奥で弱々しくも優しい声が耳に入ってくる。

ママが笑顔で小さく頷いて、私は声の方へと歩み寄る。

痩せこけた頬の、私と同じくせっ毛を持った声の主がベッドに寝て、私が近寄ると微笑んでくれた。

 

 

キリエ「パパ、ただいま…♪」

 

グランツ「うん…♪おかえり、キリエ…♪」

 

 

ベッド横の椅子に腰掛ける。

 

私のパパ、グランツ・フローリアン博士。

惑星エルトリアを緑でいっぱいにする計画の途中で、病気にかかって、今ではベッドに寝たきりになってしまっている。

でも、パパの体調は最近どんどん回復していってるみたい…。

ユーリや王様達のおかげ。

 

あの事件があったおか…、げ…、、、。

 

 

キリエ「ん……。」

 

 

考えるのを止める…。

心で呟こうとした言葉でさえ噛み殺してしまう。

それは思ってしまってはいけないこと…。

結果が良かったら全部良いんじゃないことは、それこそあの事件があった今では、十分理解してる。

 

その結果さえ、今では(うつ)ろになってしまって、今の自分のあり方に疑問を持って苦しんでいる。

 

 

キリエ「…ん。体調どう?パパ…♪何だか今日はいつもより元気そう…♪」

 

グランツ「分かるかい?今日は特に体が軽いんだ…♪ユーリやママ、王様達のおかげかな…♪」

 

キリエ「ん…♪良かった♪」

 

 

本当に…、それだけは心の底から嬉しいって思える。

パパが元気になれば、エルトリアの研究も更に発展化して、新しい調査の目処も立てられる。

そんなこと以上に…、家族で居られる時間がもっと増えることが私は嬉しい…♪

だけど私には、そんな心の裏に張り付いたモノをずっと気にしていかないといけない…。

それだけが…、、、。

 

 

グランツ「キリエ…。」

 

キリエ「ん…?」

 

グランツ「何か、困っていることがあるのかな…?」

 

キリエ「え……?」

 

エレノア「あ……。」

 

 

え……?何……?

 

パパが何を尋ねてきたのか最初は分からなかった。

遅れてそのあとに、パパが《私の隠していたモノ》に気付いていたことを理解した。

 

 

キリエ「え…っと…、、、」

 

 

まだ、何も話していない。

隠しているのがバレないように、笑顔でいれていたはずなのに、パパは私にそう質問してきた。

 

 

グランツ「話してくれないかな…?

大丈夫…。頼ってくれていい…♪

僕達で良ければ、話を聞くよ…♪」

 

キリエ「あ……。」

 

エレノア「ん……♪」

 

 

とても優しい笑顔を私に向けてくれるパパとママ。

気付いてくれたこと、訊いてくれたこと。

どっちも嬉しくて胸がきゅっと締め付けられる。

でも、パパとママだからこそ、私の抱えたコレを話すのが怖いんだ…。凄く怖い…。

 

でも……、、、。

 

 

キリエ「………私…。やっぱりダメな子なのかもしれない……。」

 

グランツ「ん…?」

 

 

言葉が自然と紡がれていく。

心で怖いと思っているのに、何故か言葉が止まることなく溢れていく…。

 

 

キリエ「私、勝手なことばかりした…。ひとりで思い悩んで…。ひとりで勝手に決めて…、間違って…。いろんな人にも、お姉ちゃん達にも、沢山迷惑をかけた…。」

 

エレノア「ん…。」

 

キリエ「だけど、皆に助けてもらって…。これじゃダメだって…。自分が本当に大事なことをしなきゃって…。だから変わろうと思えて…。

事件が終わって…、大切な友達とも仲直りできて…。

ママとパパのいるエルトリアに帰ってこられて…、やっと幸せになれるんだって思ってた……。」

 

グランツ「うん……。」

 

キリエ「でも…!私、変われてなかった…!!胸にズキズキって痛みがずっと残ってて…!みんなで笑ったり、パパやママに優しくしてもらったりする度に、ズキズキって痛むの…!」

 

 

胸を押さえながら訴える。

視線はシワになったベッドのシーツに釘付けになったまま、段々と大きくなる自分の声に気付いても止められないでいた。

 

 

キリエ「それが苦しくて…!悲しくて…!痛くて…!」

 

 

痛くて…、そう…、ただただ痛む、この胸が…。

心が痛いんだ…。

変われていない自分が悲しくて…。

変われていたと思っていた自分が情けなくて…。

それを皆に隠していることも後ろめたくて余計に苦しくて…。

 

 

キリエ「だから…、お姉ちゃんにも今、ひどいことをしてる…!

昔の私と何も変わらない…!

お姉ちゃんを傷付けて、勝手にまた自分で突き放して…!

私の為に手を伸ばしてくれてるのに、私は怖がってその手を掴めないの…!

それが…、辛くて…、、、辛くて…、、、。」

 

 

視界がぼやける。

シーツのシワが歪みに変わって、じんわりとした熱さが目に溜まっていく。

目を閉じると、頬を伝う感触だけが《涙を流している》ことを私に感じさせる。

 

言ってしまった…。

ずっと抱えてきたことをこんなにあっさりと…。

もう後には戻れない…。

悲しみや辛さをただ無我夢中で吐き出した。

 

パパとママの顔が見れない…。

顔向けできないという意味でもあり、涙で眩んで、もうどんな顔をしているのかも分からないから…。

きっと不安そうな顔で私を見てる…。

また困らせてしまっている…。

 

きっともう…、私は……。

 

 

キリエ「私は……!」

 

 

        [スッ……。]

 

 

キリエ「え……?」

 

 

  …………………………………………………………

 

 

 

    [ヒュオオオオ……ッ!!!]

 

 

環境適応防護服・フォーミュラスーツを装着し、高度を保ちつつ、地面を見下げ眺めながら空の帰路を辿っていきます。

荒野に次ぐ荒野…、視界に入ってくるのはそればかりです。

ずっと先を見れば、ただ一ヶ所、緑色の大地が目に映ります。

 

緑のほぼ真ん中、丘の上にポツンと私達の研究所(いえ)が見えます。

今見える緑は、2度目の魔法…。

1度目は、父さんの魔法で生み出した緑。

エルトリアの大地を研究して、その第一歩の成果。

研究所の周りだけでしたが、それでもそれを保っていられることは誇らしくて、いつかここみたいに、エルトリア全部を緑でいっばいに出来たらという希望にもなっていました。

 

でも、父さんが病で倒れて、母さんや私だけでは十分な研究や対処も出来なくて…。

キリエも、上手くいっていたはずの改良が急変して、大好きな花が枯れ果ててしまったことをひどく悲しんでいましたね…。

それだけエルトリアの大地や植物は、不安定なもので維持が大変で、父さんはほんとに凄いと…。

それと同時に、改めて私には何も出来ないんだと気付かされました……。

私達の緑の魔法(キボウ)は…、そこで1度失われてしまいました……。

 

でも、今目の前には緑が戻っています…♪

王様達やユーリがもたらしてくれた奇跡。

これが2度目の魔法……。

ユーリの魔力的治癒で、父さんの調子も段々と良くなっていって、広がる緑がそれを象徴しているかの様です…♪

 

この魔法を2度と失わない為にも…、私達は力を合わせて頑張っていかなければなりません。

もっともっと緑が広がって、花が咲き乱れるほど緑化が進めば……、キリエも……。

 

 

アミタ「ん……。」

 

 

駄目……、ですね。

自然と時が解決してくれるだろうという甘え…。

それが、私の中にまた存在してしまっている……。

 

いつか解決してくれる…。

いつか分かってくれる……。

 

そんな甘え、もう切り離さないといけないのですが……。

どうしても勇気が持てなくて…。

怖がっているんだと思います……。

私も……、そしてキリエも……。

 

 

???「……タァー……!」

 

 

アミタ「ん…?」

 

 

???「ミー……、タァー……!!」

 

 

アミタ「今何か聞こえたような…?」

 

 

???「アーーミーータァーーー!!!」

 

 

アミタ「あっ…!」

 

 

研究所近くの、まだ緑化がなされていない大地。

そこにピョコピョコと跳ねる水色が見えました。

見間違うことはありません。

そう、レヴィが私に気付いて大きく声を掛けてくれたみたいです♪

 

 

アミタ「レヴィ…♪あ、それにみんなも…♪」

 

 

レヴィの他にも、王様、シュテル、ユーリの姿が…。

急降下して、フォーミュラスーツをパージ、みんなのもとへと降り立ちます。

レジャーシートの上に広がるお皿とコップ、そして食べかけのサンドウィッチが目に見えます。

どうやらみんなでピクニックをしているみたいです♪

 

 

レヴィ「やっほ~♪」

 

ディアーチェ「うぬはまた大声を…。耳が痛くなってしまったぞ…。」

 

レヴィ「エヘヘ♪ごめ~ん、王様~♪」

 

ディアーチェ「全く…。」

 

アミタ「ふふ♪」

 

 

私のせいでレヴィが怒られてしまいました。

申し訳ない気分になりながらも、微笑ましくてつい笑みが溢れてしまいます♪

 

 

シュテル「調査の帰り、ですか…?」

 

アミタ「はい♪反応があった西地区の方で先程まで調査を、それまでは近くの土壌調査を行っていました♪」

 

ディアーチェ「ふむ。シュテルとレヴィもその辺りの調査であったか?」

 

シュテル「私達はそこより少し北の地域ですね…。」

 

レヴィ「うんうん♪」

 

アミタ「そうだったんですね♪」

 

ユーリ「お疲れ様です♪アミタ♪

あ、美味しいミルクがありますよ♪

それにサンドイッチも♪」

 

アミタ「わ♪ありがとうございます♪」

 

 

ユーリが薦めてくれたコップを受け取り、もう片方の手でサンドイッチも頂いて…。

母さんがおやつを用意してくれていると言っていたのですが、ユーリの好意を無駄には出来ません!

これひとつだけ頂くことにします♪

 

 

アミタ「頂きます♪

んくんく…、んん♪

すごく美味しいです♪」

 

ユーリ「ん♪」

 

 

まったりとした口当たりがクセになるほど濃厚なソレは、ジワジワと体にエネルギーを与えてくれているみたいでした♪

あまりの美味しさに顔が(ほころ)んでしまいます♪

 

 

レヴィ「それ、モードレッド達のミルクなんだよ♪♪♪」

 

アミタ「あ♪やっぱりそうだったんですね♪」

 

 

私達が保護してきて、レヴィとシュテルが名付けたあの子達。

群れとはぐれ、サンドワームが群生している地域で助け保護したあの2頭を、調査や研究で忙しい私達の代わりにふたりがよく面倒を見てくれて♪

保護した時は、怯え、怪我もしていたせいで満足にミルクも出ない体でしたが、今ではすっかり元気になってくれていますね♪

 

 

アミタ「こんなに美味しいミルクが飲めるのも、レヴィ達のおかげですね♪本当にありがとうございます♪」

 

レヴィ「えへへ~♪えっへん♪」

 

シュテル「ふふ…♪」

 

 

一瞬照れくさそうに下を向きながらも、次には胸をこれでもかと張って誇らしげになるレヴィ。

そんな様子に、私もシュテルもつい微笑んでしまいました♪

王様とユーリも、呼吸を合わせたように笑っていましたが♪

 

 

ユーリ「サンドイッチは、エレノアがくれたおやつなんですよ♪」

 

アミタ「ん♪確かにこの味付けは母さんの物ですね♪」

 

 

ということは、やっぱりこれひとつにしておかないとダメですね。

同じく私にも用意してくれていると思いますから…。

母さんに申し訳ないのもそうですし、晩御飯の関係も…。

あまり食べ過ぎては晩御飯が入らなくなってしまいますから…。

 

 

ディアーチェ「ふむ、やはり母上様の腕前は素晴らしいな…。我も精進せねば…。」

 

ユーリ「最近、ディアーチェはエレノアと一緒に食卓に立ってお料理を覚えていますもんね♪シュテルもたまに♪」

 

シュテル「はい……♪」

 

ディアーチェ「うむ♪()のが技術を磨き、様々な行程を覚え会得し、命というそのものの輝きをさらに生かす!料理とはまさに、王がやるにふさわしいものよ♪」

 

シュテル「ただ、まだ背丈が十分ではないので、キリエに造ってもらった踏み台は必須ですが…。」

 

ディアーチェ「う……。ま、まあな……。」

 

レヴィ「あ!そうだ!そういえば、さっきキリエもそこを通ってね!アミタと同じで研究所に戻るところだったみたい!」

 

アミタ「あ…、そう、なんですね……♪」

 

 

胸にちくりとした痛みが一瞬……。

キリエの名前が出たその瞬間に、顔がひきつってしまわないように必死に抑えます…。

でも、サンドイッチを持った手は胸の所で止まり、開けていた口を唇を噛むように抑え込まずにはいられませんでした……。

 

頭の中をいろんな思考が巡ります…。

 

キリエが無事に調査を終えて帰ってくれていたことに対して、私は嬉しいと感じながら、複雑な気持ちを抱いていました…。

レヴィが私に気付いてくれなければ(・・・・・・)、研究所でキリエと鉢合わせしていた…。

 

先程まで巡らせていたキリエに対しての想いや、私の弱さを含めた感情を見せたくないという想いが複雑に絡み合って……。

多分、キリエと会ってしまったら、今の私では上手く表情を隠せない…。

嘘が下手な私は、キリエに自分の弱さを悟られるのが怖くて…、だから会わなくて良かった、とさえ思ってしまった……。

 

こんな事では私は…、私達はいつまでも……。

 

 

???「…………い…。」

 

 

アミタ「え………?」

 

 

 

 




ご愛読ありがとうございました♪
前書きから再び参上、作者です♪
今回の話では、アミタとキリエ、ふたりの描写をいっぺんに書いたということもあり、少しボリュームがあった話なのではないかな~と♪
長い時間がかかってしまったのは言うまでもなく、いろいろな設定の調整やキャラクター達の心理描写を深く考えて書いたのでここまで長い本編になった感じですね♪
そして、この話では少し後の展開が気になるように、双方ともの話を中断する形で落とし込みました♪
ここからの描写も、この一章の物語の大切な部分となりますので鋭意製作させて頂きたいと思っております♪

1度乗り越えたからこその不安やその先の今を抱えるキリエ……。
1度味わってしまった、大切な存在が離れていく怖さが拭えないアミタ……。

ふたりを救ってくれるのは、遠き天でも星でもなく、ただ近くに寄り添う温かさ……。

次回はそんな言葉が似合うストーリーにしたいです…♪
では、また次の話でお会いしましょう♪
リリカルマジカル頑張ります♪

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