・何か思いついたお話。
・カップリングだけどまだくっついてはいないっぽい。
「ジャックさん、白雪ってぽっちゃりしてますか……?」
ある日、白雪姫の部屋に呼び出されたジャックはそんな疑問を投げかけられた。自分は太っているのかという疑問を、かなり深刻そうな表情で。
「えっ? 別にそんなことはないと思うけど、急にどうしたの?」
「皆凄くスタイルが良いので時々考えちゃうんです。やっぱり白雪は皆と比べてぽっちゃりさんだなぁ、って……」
「そうかなぁ? 別に白雪姫は太ってなんていないと思うよ?」
誰と比べても別段太っているとは思えないが、そこは女の子特有の拘りやコンプレックスのようなものなのだろう。ジャックの本心からの言葉を、白雪姫は力強く否定した。そして何故か黎明の制服のジャケットを脱ぎ去っていく。
「いいえ! ジャックさんがそんなことを言えるのは白雪のぷにぷに具合を知らないからです! どうぞ触って確かめてみてください!」
「えっ!? ど、どこを!?」
「まずは二の腕です! さあ、触ってみてください、ジャックさん!」
「あ、腕なんだ。良かった……」
思わずドキッとしてしまったジャックの眼前へと、肘打ちするが如く腕を突き出してくる白雪姫。どうやらジャケットを脱いだのは直に触らせるためだったらしい。あまりにも真剣な表情をしているので一瞬変なことを考えてしまったジャックはちょっとだけ自分が恥ずかしかった。
「それじゃあ、ちょっとごめんね?」
お言葉に甘えて、というか白雪姫があまりにも真剣なので促されるまま二の腕を触ってみる。
感触は確かにぷにぷにという表現が相応しいものの、過剰に肉が付いているという印象はどこにもなかった。むしろ心地良ささえ覚える感触であり、肌もきめ細やかで悪い所は一切見受けられない。
「ど、どうですか? やっぱりぷにぷにしてますよね?」
「してるといえばしてるけど、これくらいは女の子なら普通だと思うよ? むしろ肌が綺麗ですべすべしてるし、悪く言う所なんて一つも無いよ」
「そ、そんなはずありません! じゃあ……お腹です! お腹を触ってみてください!」
「お腹……い、良いのかな?」
胸を張るようにしてお腹を突き出してくる白雪姫に、多少困惑しながらもジャックは手を伸ばす。
服の上からなので先程のような肌の感触は伝わってこないものの、柔らかさだけは十分に伝わってきた。軽く力を入れると僅かに指が沈み込み微かな抵抗を感じるあたり、やはり心地良さを覚える感覚である。
ただし指先が僅かに沈み込む光景を目にして、白雪姫本人は不安気に眉を寄せていた。
「……ど、どうですか?」
「やっぱり言うほど太ってないと思うよ? まあ衣服越しだからちょっと分かりにくいけどね」
「そ、そんなはずありません! だって親指姉様はあんなにスレンダーでネムちゃんはあんなにグラマーなのに、白雪だけこんな感じなんですよ? 白雪は絶対ぽっちゃりさんなんです!」
(うーん、眠り姫はともかく親指姫はスレンダーっていうより……いや、考えるのは止めておこう。うん)
ちょっと失礼なことを考えそうになり、即座にジャックは思考を打ち切る。親指姫にだってまだまだ成長の余地はあるはずだ。
「ジャックさんはとっても優しい人ですから、白雪を傷つけないために嘘をついてくれているんですよね? でも、白雪は決めました。そんなジャックさんでも嘘をつけなくなるくらい、はっきりと分かる所を触ってもらいます!」
「えっ!? し、白雪姫!?」
瞳に決意を、頬に恥じらいを浮かべた白雪姫は、あろうことか自らのスカートをたくし上げて行く。
徐々に露となっていく黒のタイツに包まれた両脚。見てはいけないと分かっていながらも目が離せず、そして期待に胸が高鳴って行くのを止められない。ごくりと息を呑むジャックの前で白雪姫は更にスカートをたくし上げ、あと少しで両脚の付け根も露になるという所まで来たその瞬間――
「太股です! 幾らジャックさんでも白雪の太股を触ってしまえば、白雪がとんでもないぽっちゃりさんだということが身に染みて分かるはずです! さあ、触ってみてくださいジャックさん!」
(うん、冷静に考えてみればそうだよね。僕は一体何を期待していたんだろう……)
――下着は見えない程度にスカートをたくし上げた状態で手の動きが止まる。
正直なところ太股を触ってみて欲しいというお願いも大概であったが、ジャック自身はそれ以上に変なことを考えていたので幾分驚きや戸惑いは少なかった。まあ正確に言えば勝手に変な期待をして勝手に肩透かしを食らったせいだが。
「えっと……もし僕が触った後も答えが変わらなかったら、その時は僕が嘘をついてないって信じてくれるかな?」
「は、はい! その時は白雪も信じます!」
多少恥ずかしそうに断言する白雪姫。
逆に言えば触らなければ何を言っても信じないということだろう。ここまで来たらもう触るしか道は残されていない。できる限り疚しいことを考えないようにしつつ、ジャックは覚悟を決めてスカートをたくし上げる白雪姫の前に跪いた。
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ、ごめんね?」
そうして一応断りを入れてから手を伸ばし、黒タイツに包まれた太股に指を這わせた。
「んっ……!」
指先でタイツ越しに肌を撫でた途端、くすぐったかったのか白雪姫はびくっと身体を震わせ小さく押し殺した声を零す。その声が何故だかとても色っぽく聞こえてしまい、ジャックは更に胸を高鳴らせつつ指を動かしていく。
(うわっ、白雪姫の太股すごく柔らかい……)
二の腕やお腹とは比べ物にならないほどの柔らかな感触。力を入れなくても指が容易く沈み込み、癖になりそうな適度な弾力さえ伝わってくる。黒タイツ越しなので肌の感触は分からないのがせめてもの救いであった。直に触れていたら一体どうなったかはジャックにも分からない。
「ど、どうですか、ジャックさん……?」
「――はっ!?」
魅せられたように感触を確かめている最中、頭上からの不安げな声に我を取り戻す。声をかけられなかったらずっと太股を撫で擦り揉んでいたかもしれない。
「その、確かに凄く柔らかいけど、これは別に太ってるわけじゃないと思うんだ。だってこの柔らかさ、何だか凄くドキドキするし……僕は好きだよ?」
「そ、そうなんですか? それなら白雪も嬉しいです……!」
飾りのない本音を伝えた所、白雪姫は恥じらいに頬を染めながらも嬉しそうににっこりと笑う。どうやらやっとぽっちゃりしているわけではないと分かってくれたらしい。
なので安堵したジャックは白雪姫の太股から手を引き、立ち上がろうと腰を上げたのだが――
「――白雪ー、ちょっと入るわよー?」
「えっ!? うわっ!?」
突如として部屋の外から第三者の声が聞こえてきたため、人に見られたら誤解されそうな状況だと分かっていたせいで驚きのあまり足を滑らせて前のめりになってしまう。当然ながら今ジャックの目の前にはスカートをたくし上げた状態の白雪姫がいるわけで――
「きゃっ――!?」
――結果的には白雪姫のスカートの中に顔を突っ込んで、諸共そのまま倒れることとなってしまった。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ! だ、だだだ駄目ですジャックさん! 見ないで下さぁぁぁぁぁい!!」
「わわっ!? ご、ごめん、白雪姫!」
そうなれば当然悲鳴を上げられてしまうわけで、すぐさまジャックは顔を埋めてしまった柔らかくて暖かい所から逃れるよう起き上がり、スカートの中から這い出た。
事故とは言え見てはいけないものを見てしまったり、触ってはいけない所に触るどころか顔を埋めてしまったものの、わざとでないことを説明して誠心誠意謝罪すればきっと白雪姫なら許してくれるはず。なのでジャックは色んな意味で高鳴っている心臓の鼓動を抑えつつ胸を撫で下ろしたのだが――
「……ジャックぅー? あんた私の可愛い妹のスカートの中に頭突っ込んで何してたのかしら? ちょーっとお姉さんに話してみなさい?」
(――っ!?)
――先の事情など全く知らない者からすれば、白雪姫にジャックが襲い掛かっているようにしか見えなかったに違いない。押し殺した怒りに震える声に視線を向けてみれば、額に青筋を浮かべ引きつった笑みを形作っている親指姫がそこにいた。
「ち、違うよ、親指姫! 今のはただの事故で――」
「問答無用! 覚悟しなさい、このケダモノ!」
もちろん誤解だと訴えたものの、傍目には加害者側であるジャックの言葉を簡単に信用してくれるはずもなかった。
結局誤解で本当はただの事故であると親指姫が分かってくれたのは、ジャックが二、三発良い拳をもらった後、羞恥に固まっていた白雪姫が正気に戻り慌てて止めに入ってくれた頃のことであった。