【悲報】氷属性はかませが多いらしい。   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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まさかの好評により続編がでるという。
短編のランキングに載りました!
ありがとうございます!

というわけで急いで仕上げました。
誤字脱字は氷のような心で許してください(迷)


2話

 俺の名前はアイス。世界を束ねる六魔王の一人で『氷のように硬い意志と冷静さを兼ね揃えている』と畏敬の念を抱かれ、氷魔術における最高位の使い手だと自負している。

 

「……フローズ、もう一度報告をしろ」

「はい」

 

 フローズは真剣な面持ちで手に持っていた書類に目を通す。

 

「風の魔王ウィンド様と竜の王ドラゴン様がやられました」

「……そうか」

 

 この報告を聞くのは既に二回目だ。

 そう。この時が、きてしまった。

 

「つまり、だ」

 

「はい……残りはアイス様ともう一人の魔王様のみ。勇者一行の力は着実についており、この迷宮も特に厳重な警戒を増や―――」

 

「違う!」

 

 声を張り、フローズの言葉を否定する。

 

「俺は、俺達は四番目では無かったんだな……?」

「は、はい? そう、ですね……既に四人の魔王様が倒されたので」

「フッ、そうか。そうなのか………」

 

 

 俺は椅子から立ちあがり、コツコツと音を立てながら正面の扉を開ける。

 

 そこには、どこか不安そうな顔をして俺を見上げる部下達の顔があった。

 少し無理に、周辺の警戒やなんかその場から動けない奴(中ボス)を除いた全ての部下を集めたのだ。

 

 つまり殆どの部下は迷宮にいない。今を攻め込まれたら簡単に侵入を許してしまうだろう。

 リスクは承知だ。

 

 だが、少し前に一皮むけた俺から見ればこんな不安な顔で勇者に挑む方がリスクは高い。

 

 

「報告にあった通りだお前達。既に四人の魔王が、勇者に負けて、ついでに秘書を寝取られた。ドラゴンの秘書に至ってはペットとして扱われ空を飛んでいる、つまり、勇者一行は地形を無視する術を手に入れたのだ」

 

『…………』

 

「というか『竜の王ってなんだ?竜王で良くないか?そもそも魔王は六つの属性魔術じゃなかったのか?』そう思う奴もいるだろう」

「脱線してます、アイス様」

「そうか」

 さらっと後ろから指摘される。

 

「そもそも『竜って普通に魔王枠でいいのかよ、他の魔王よりもサイズも見た目も派手でバリバリ目立つじゃないか』と思う奴もいるだろう」

「それはアイス様の話ですアイス様。というかやっぱり脱線してます」

「そうなのか」

 背後の声に感情がどんどん無くなってる気がする。

 

「現状は、勿論芳しくない。四人の魔王がやられたんだ、当然だ」

 

 思わず拳を握り、胸の前に置く。

 

 

「だがな?我々は負けるのか?我々は恐れるのか?こうして焦り、冷静さを欠いてしまえば勇者達の思うつぼだ。しかし考えすぎてしまえば、己の責任に潰されてしまう」

 

 一匹、一匹と部下達の顔を見ていく。

 

 不安、怒り、悲しみ……そんな顔に溢れていた。

 

「そんなことは、お前達も重々承知していると思う………だから、俺はこの場で一つのアドバイスをする」

 

 指を一本立てる。

 

「事実に目を向けろ、そして。しっかりと全体を見てやるんだ。悪いこと、良いことは表裏一体であり。片方にばかり目をやるのは駄目だ。両方を見て、しっかり把握する…………それができれば、己の成長に大きく繋がるだろう」

 

 バッ!と胸に置いていた拳を振るう。

 

「だから、俺から一つ言わせてもらう」

 

――――――鼓舞する、激励する。

 

 一言間違えればそれは部下の反感を買うかもしれないが、しかし。言わないという選択肢は無い。

 

 言わなくてはいけないのが、上司の勤めだ。

 

 だから、言おう。

 

 

「お前達、終盤まで来たということは氷属性はかませではないんだっ!!」

「………えっ?」

『ぉぉぉぉぉぉ!!!』

「えぇ!?」

 

 俺の言葉に、部下達は手を上げて歓喜の雄叫びを上げる。フローズ以外。

 

 中には涙を流して喜んでいる者すらいた。

 そうだ、こうして事実を見るんだ。

 

 俺達は少なくとも五、六番目なのだ。

 最終ラウンド、終盤戦。大詰めに近付く緊迫感の中での戦闘。

 

 

――――――もう、かませとは呼ばせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなったんですか………」

 

 フローズはグラスを片手に、目の前の光景を半目で眺めていた。

 

 

 そこには多種多様な俺の部下達や客人がワイワイガヤガヤと談笑し、料理を口に運び、一発芸をして、伝説のかき氷を一口食べようと城を削る計画を立てている。

 

 つまりは、宴会である。

 万能薬の用意をしなくてはな。

 

「………アイス様、よろしかったのでしょうか?」

「ん?何がだ」

「何がとは。宴会をひらいたことは一度おいておきますが、わかっておりますよね?」

 

 フローズが指をさした先には、どこかよそよそしい客人達の姿があった。

 

 あぁ、その件か。

 

「あの者達は、別の魔王の部下ですよ?何故わざわざ招いたのですか?」

「負けた魔王によって人間達に領地を奪われたのだから、居場所が必要だろう?まぁ勿論、本人次第だがな」

 言い方は悪いが、彼等は敗残兵達だ。

 自分の主が倒されても、別に自分も後を追って死ぬわけではない。

 

 一番不遇なのは、実力があっても勇者と出会うこともなく、かつ魔王が倒されたことに気付かず迷宮に居続ける者たちだが。

 一応声をかけられるだけかけておいた。

 

「戦力の点ではそれはよろしいのです。ですが、相性というものがあるのではないですか………?」

 

 フローズの言葉に、俺は視線を変えずに小さく首肯した。

 現に、視線の先には、炎の様な紅の色の髪の少年少女が、不安そうな顔で身を寄せあっていた。

 

「………そうだな。確かに生まれつきだったり、急な環境の違いについていけない奴もいるかもしれない」

 

 燃え盛る炎に囲まれた空間から一転、冷たい氷の世界に来たのだ。彼等だけではないだろう、氷の世界に慣れるのは時間がかかる。

 

「だがな、フローズ」

 

 俺は彼らに向かって歩き出す真似はしない。

 何故なら。

 

「あっ………」

 

 フローズの口から声が漏れる。

 

 俺の部下が、自分の持っていたマントを外し彼らを包んであげたのだ。

 

 しかも、比較的温かい料理もおまけで。

 彼等だけではない、他の場所でも似たような場面が散見されていた。

 

「俺は部下を信頼しているからな、出るまでもない」

「アイス様………」

「フローズ、お前もそうだぞ?」

「え?」

 

 フローズは目を丸くする。

 

「文句をいいながら宴会の場所を整えたのも、さらにこういった気遣いのための道具や料理を用意させたと他の部下から聞いている」

「そ、それは秘書として管理や補佐は当然のことです…………」

「そうか。それを当然と言えるほど、俺は優秀な部下をもったんだな」

「そ、そんな………恐縮です」

 

 やはり、俺は『こちら』にきて良かったと思う。

 

「ありがとう、フローズ」

「アイス様………」

 

 肩にポンと手を置いて労うと、フローズの頬が自然と緩む。恐らく本人はその事に気づいていない。

彼女はあまり感情を表に出さないからな。

 

「彼等は有志のみ、周辺の警戒を任せようと考えている。他の奴等もある程度の労働は覚悟してもらうがな」

 

 流石にタダ働きは看過できないからな。

 

「………大丈夫ですかね?」

「大丈夫だろうさ。マントとか付けたり装飾変えたら勇者サイドも同じ奴だと気づかなくなるんじゃないか?」

「それは節穴ですよアイス様。それに私がいっているのは、見た目ではなくてチームワークの問題です」

 

 真剣な顔をするフローズ。確かに別属性が取り入れられると、性格や文化の違いでチームワークに大きな支障をきたすかもしれない。

 

「お前の考えは正しい」

「でしたら………!」

「だが、あそこを見ろ」

 

 フローズは、俺の視線を追って目を動かすと。

 

「っ」

 

 そこには先程の少年少女が、マントをあげた部下と仲良さそうに宴会を楽しんでいる光景が広がっていた。

 

「あの光景を見て、また同じことが言えるのか?」

「………いいえ、杞憂で済みそうですね」

 

 クスクスとフローズは笑い、俺もつられて頬が緩む。

 

「………ですがアイス様?何故このような時期に宴会を?」

「こんな時だからこその息抜きだ。新しいメンバーも入って張りつめてばかりではいけないだろう?かといって腑抜けても困る。メリハリは必要だからな」

 

「アイス様……!申し訳ございません。てっきり順番が四番目ではなくなってはしゃいでいると思っていました」

「気にしてないさ」

 

 平謝りしたフローズは俺の言葉に感動したようだ。

 

―――――それにしても順番だと?俺がそんな器が小さい男な訳がないだろうに。

 

 

 聞きたいことを聞き終えたのか、フローズは一度手を組んで体を伸ばす。

 

「ならば、私も今日は息抜きをしましょうかね」

「そうしろ、特にお前は疲れているだろうしな」

「魔王様に言われてしまうとは―――おや?」

 

 ふと、ある文字が書かれた看板がフローズの目に留まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『祝、脱四番目』

 

「―――――いやこれ絶対にはしゃいでますよね!?」

 

 残念、バレた。

 

「――――――大変ですっ!!!」

 

 刹那、城の扉が力任せに開かれた。

 

 

 そこにいたのは、警戒を任せた俺の部下だった。

 奴は肩で息をしながら、俺の元へ駆けてくる。

 

「どうした?」

 

 俺の言葉に、部下は焦った顔のまま吠える。

 

「たった今、闇の魔王ダーク様が負けたとの情報が来ました!!」

 

『っ!?』

「な、に?」

「確かな情報です………闇の魔王は負け。ここが、最後の砦となりました………」

「…………そうか」

『…………』

 

 先程の心地よい喧騒はどこかへいき、広い空間に静寂が漂う。

 

フローズが少し不安げな顔で、俺の方を見る。

「アイス、様」

「報告ご苦労だったな………ふむ。ならばいつ勇者が来てもいいようにしないとな。宴会などしている暇などない」

 

 どこか沈んだ空気、全員が俯く。

 

 

 

 

 

「――――――ただし。明日から、な?」

『アイス様ぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 メリハリをつけろと言っただろう?

 宴会を途中でやめるなど言語道断!

 

 誰か看板を変えておけよ?『祝、六番目』とな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なんか、色々と増えてない氷の迷宮?」

「なんか、増えてますね」

 

「見たことある様な無いような魔物も沢山いますね」

 

――――――勇者の目は死んでいた。

 既に五人の魔王を倒し、仲間も増え装備も整えた。

 空を飛ぶ手段も得た。

 

――――――だが、おかしいと。

 

 魔物の数は増え、心なしか前よりも禍々しく感じる。

 

「何で未だに勝てる気がしないんだろう……」

「城まで一気に飛んで行けませんかね」

「それが楽なんだけどなぁ。飛べる?ファフニー」

 

 背後にいる女性に聞くが、首を横に振られた。

 本来の姿はドラゴンなのだが、今は人の姿を模しているのだ。

 

「無理。飛ぶだけでも危ないと思う、私はまだ鱗のお陰で平気だと思うけど、風と寒さで凍る」

「そっかぁ………ナギ、ブラックはどう思う?」

「迷宮からいくしかないに賛成かな~?この風は止む気配無いから魔術によるものだろうし」

「正直………フローズは絶対に裏切らないと思う。それに会談でも必要最低限しか話してないから、思惑がわからない」

「『冷血の才女』とまで呼ばれてるしね~」

「………二つ名まであるの?君達の同僚」

 勇者は一言、魔王の腹心だった彼女達に聞く。

 

「ひょっとしてだけど、君たち秘書の中の実力で一番強いの誰?」

『フローズ』

「うん詰んでないかなこれもう?」

 

 即答されたフローズという腹心が敬愛する魔王。

 

 もはや、眉唾でも逸話の多い全王よりも質が悪い気がしてきた。

 

「…………一人分の魔王にしか守られてない結界なら、破れないかなぁ」

『勇者様!?』

「冗談だよ、冗談。そもそも氷の魔王を倒せないようなら全王も倒せないでしょ………倒せないよね?」

 

 各々、特に元腹心達が微妙な顔をする。

 

 

「………ま、まぁ一応装備の更新も兼ねて休みを取ろうか。修行して鍛練して、出直そうか?」

 

『はい』

 勇者のスルースキルが若干上がった。

 そこは正直、即否定してほしかったのだが。

 

「戦うんですね、氷の魔王と」

「勿論、勇者なんだ。戦うよ………だけど僕の、君達の命も一つしかない、だから万全を期さないとね」

「はい」

 

 勇者も、腹をくくった様だ。

 

 

 最終決戦は、近い。

 

 

 

 

「あの、ブラックちゃん?」

「…………なに?」

「フローズっていうレク……氷の魔王の腹心って、氷の魔王に対して何かある?」

「何かって………?別に。でも、凄くアイス様の話になると、深い内容は話さないけど誇らしげになるし、たまに頬を赤く染める」

「………これは、早く強くならないといけないかな」

「顔、怖いよ?大丈夫?」

 




全王「え?かませの氷が最後まで残って仲間を集めてるって?何それ怖いクーデター?」
勇者「最近ツレの一人が早く行けと怖い」

すいません戦闘はまだです。
いつになるのかしら………?

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