【悲報】氷属性はかませが多いらしい。   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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頑張りました(震え声)
朝起きたら評価が遥かに自分の予想を超えていて愕然としております。
日間二位……ですと!?

こうなるとかえって冷静になりますね。
本当にありがとうございます!!



3話

 俺の名前はアイス。世界を束ねる六魔王の一人で『冷淡にして冷酷』と恐れられており、氷魔術における最高位の使い手だと自負している。

 

 そんな俺は今、城から離れていた。

 正直、魔王が魔王の城を離れるなんてどうかと、魔王の俺が疑問に思っている。しかも勇者が攻めてくるのはもうここしかないのに。

 

 だがこれはクーデターではない、フローズ達から休みを押し付けられたのだ。

 

「まだ勇者は英気を養うか修行の最中なのでしょう、休むなら今しかないんですよ?」

 と凄味のある顔で言われた為、仕方なく休むことにしたのだ。

 今は管理を秘書であるフローズに任せている。

 

 まぁ、そもそも何故こうなったかと聞かれると俺に原因があるのだが。

 

 俺が、

『実は俺、勇者に無視されてるだけなんじゃないか?俺だけの結界なら破れるんじゃないか?』

 なんてボソリと口にしたからだ。

 

 だが、それも仕方ないと言えよう。

 

―――――まっっったく来ないのだ、勇者。

 

 遅い、遅すぎる。

 五人の魔王を倒す迄はかなりペースが早かったにも関わらず俺の所には迷宮にすら来ないとはどういう了見だ?

 

 一月が経ったぞ。

 五人の魔王を倒した時間はたったの半月だったらしいじゃないか。

 

 つまり二倍じゃないか、二倍。

 そりゃ無視されているかもと思うだろ普通。

 結界の破壊に移行したんじゃないかと不安にも思うだろ。

 

――――――と、いうわけだ。

 だからこそ、気が張りすぎな俺にフローズが提案してきたわけだ。

 

 やれやれだ。優秀すぎる部下を持つと嬉しいが気を遣わせ過ぎている気がして申し訳なくなるな。後で手土産でも渡して………アイツだけに渡すのは公平じゃないな、他の奴等だって俺が休んでいるときに働くわけだろ?

 

………俺の部下、一月前に増えて以来人数把握出来てねぇじゃねぇか………!!

 

 俺は己の無能さを呪った。

 これではどれ程の数を持っていけば良いかわからない。

 

「っ」

 だが、同時に出掛ける前のフローズの一言を思い出した。

 

『―――お土産の類いでしたら、アイス様が休みを満喫してくださればいいです。他の部下もそう願ってますよ』

 

「………本当に、幸せ者だな」

 そう、一人ごちる。

 

 

 ………折角与えられた休みだ、やはり羽を伸ばして満喫するべきだろう。

 

 しかし、逆に仕事ばかりで何をすればよいのかわからない。

 適当に城や迷宮の周辺を散歩をしようにも、かえって目に入った部下たちの気が滅入るだろう。

 それはよろしくない。

 

 

 なので、俺は人間の頃の趣味に興じる事にした。

 癪だったのは人間と、そして自分が人間であった事であり別に人の頃の趣味に対しては大きな嫌悪感を抱いていない。

 

 ちなみに趣味だが、冷気を操り氷像を作ることだ。

 魔術の操作性の向上や集中力の持続にもってこいである、最初は達磨のような物しか出来なかったが、今となっては竜の鱗一枚一枚まで再現する繊細な操作が出来る。

 

 フローズも中々なクオリティだが俺には及ばない、魔王の名前は伊達ではないのだ。

 

 そんな秘書に追い出された訳だがな!

 

 そんな事をいっている間に一つの作品ができた。

 土台を含めて俺の背丈ほどある、六角形の樹枝状の像だ。それは雲に隠れた太陽の光を鈍く反射して輝いていた。

 

 これは雪の結晶である。

 あまり知られてはいないが雪には決まった小さな形があって、それが大量に集まって我々の知る雪になるのだ。

 

 温度によって柱形になったり針のように鋭くなったりと形が変わるが、俺はこの繊細な形が一番気に入っている。

 

「久し振りだが、悪くない出来だな」

 

 満足げに頷いていると。

 

 

 

 

 

「――――――ちょっと貴方!危ないですよ!?」

「はっ?」

 背後から焦燥にかられたような声が聞こえる、反射的に振り返るとそこには一人の青年がいて、さらにこちらにむかって走ってきていた。

 

 その形相は、それこそ焦りと驚きに満ちている。

 

「ここは危険です!氷の魔王はまだ倒してないんですからね!?」

「ん?いや、俺は―――」

「いいから、来てください!!最近氷の魔王はまた力をつけて、いつ人類を滅ぼすかわからないのですから!」

 

 青年は俺の片腕を掴んだと思ったら力任せに引っ張る。

 振りほどけないほどではないが、腕の太さにしては中々に強い力だ、魔術の類いで強化しているのだろうか。

 

 まぁ、しかし。

「………俺はいつから人類を滅ぼそうと企てたんだ?」

 

 何か色々勘違いされている、それは確信した。

 

「何をボソボソと言っているんですか!魔物が来ちゃいますよ!」

 え、そんなボソボソした声だったか?

 

 

 

 

 俺は謎の青年に連れられて、俺は小さな農村に着いた。

 一方向を除いて崖に囲まれているという地形柄、人が住んでいながら魔物に襲われにくい安全地帯となっている。

 

 まぁ、俺の支配下だから勿論把握しているのだが。

 しかし破壊しようにも思ったより監視や門番の目が強く、地形もあって下手に部下を死なせたくない点、大きく出るには及ばなかった。

 

――――――その割りに俺はすんなりと入れたが。

 

 魔王なんだが、魔王扱いされてないんだが。

 確かに顔は割れてないし、不利益になる情報も口止めはしているが。

 

 駄目だろこれ、少しショックなんだが。

 まさか(魔王)はずっと城の中に引き篭もっていると思われているのか?

 

 まぁ、それはさておき。

 どうやら青年とその仲間達はここで宿をとっているらしい。

 

「えっ!農村の方ではないんですか?」

「あぁ」

 

 そして青年は、どうやら俺がこの農村の民だと思ったらしく驚いていた。

 違うとわかると、青年は直ぐに平謝りをする。

 

「すいません、勝手に勘違いしてました………ではどこからきたんですか?」

「あっちだ」

 

 特に何も考えずに、というか反射的に城の方に指をさした。さしてしまった。

 

「………」

 すると、少し間をおいて青年は納得した様にポンと手を叩く。

 

「――――――あぁ、成程。迷子ですね?大丈夫です、ここら辺は白一面ですから迷いやすいですからね?笑ったりしませんよ」

 そう言って爽やかに笑う青年。

 

………この歳で、しかも俺の庭のような空間で迷子とは、他人事なら笑うか頭を打ったか心配するな。

 

―――というか既に笑ってるじゃないか青年。

 笑わないと言った側から破るなんてなんて奴だ。

 

 しかし誤解を解くのも面倒だ。

 正体を暴くのは論外としてそもそも人間は好きじゃない、先程の城の件は棚にあげるとして、早く立ち去るに限る。

 

「えっと、ではお詫びにどうですか?食事なんて、奢りますよ」

「遠慮する、じゃあ俺は――――――」

「そうですか………あのお店、ここの特産品である『デラックスアイスパフェ』は『他地域から来る人がいないかいるかと言われるとどちらかと言うのであればいる』と噂のスイーツなのですが………」

「案内してくれ」

「え?」

「案内を頼む」

「は、はい。わかりました」

 

 これは俺の支配下にある地域の情報を得られる機会だ。見逃す手は無い。

 

 断じて冷たくて甘いものが好きとかそう言うわけではない。

 

「僕も甘くて冷たいの好きですよ」

「そうか、良い趣味だ」

 

 断じてなっ!

 

 

 

 

 

「――――――美味いな」

「そうですね。特にこのクリームが濃厚ですね、温かい紅茶に合います」

「乳製品はこの農場で搾って生成しているらしいぞ」

「そうなんですか!道理で美味しい筈だなぁ」

 

 カチャカチャと、スプーンとガラス容器の当たる音が響く。

 彼はとても初対面には思えない印象を受ける、どこか警戒しにくい、そんな感じだ。

 最初は図々しいお人好しかと思ったが。

 

「それにしても結構、視線感じますね」

「男が甘いものを好むのは珍しいからな。特に農村で見慣れない奴等なら尚更だろう」

「珍しい、やっぱりそうなんですよね……僕も最初は普通でしたけど、僕の仲間達がそういうの好きで、気がついたら僕も好きになっていましたよ」

 

 苦笑する青年の言葉は、どこか懐かしむ様な声色だった。

 

 話を聞くと彼は旅人らしく、世界を回っているそうだ。

 人間のくせに、魔物の跋扈する世界を回るとは酔狂な奴だと思う。

 

 まぁ、俺という見知らぬ男をこんな場所に連れてきた挙げ句飯を共にしている時点で中々に大物だが。

 

「その仲間は、今はどうしたんだ?」

「今は別行動で外に行っています、なんでも抜け駆けは許さないとかで。きっとライバル意識を持って切磋琢磨してるんでしょう。僕なんかには勿体無い頼もしくて良い仲間をもちました」

 

 彼は曇りなき眼差しでそう言った。

 頼もしくて良い仲間なんて、本気でそんな事を言える奴なんて中々いないだろうに。

 

 しかし、仲間か。

 

「………俺も」

「はい?」

「小さい頃は、あまり甘味は好きじゃなかった」

「そうなんですか?」

「あぁ。ツレに良く食べさせられてな?気が付けばそればかり食べていたよ……それでも、赤い果実は苦手だがな」

 

 そう言って俺は容器の縁に果実達をどかす。

 何故か苦手なのだ、赤い果実は。

 昔に転んだか、怪我で出た血がどうこうだった気がするが、細かくは思い出せない。

 

 青年はあまり気にしない様子で話を進めた。

 

「そうだったんですか、そのツレの方はどうしているんですか?」

 

「ある時に喧嘩別れをして、それ以来だな………どこで何をしているか、さっぱりわからない」

 

 どうしている、その言葉はむしろ俺が聞きたかった。

 

 人であった頃など、思い出したくもない筈なのに。

 たまに、ふとしたときに。過ることがある。

 

 

 

――――――感情のままに口論し、別れ際に彼女の腕を無くした、あの瞬間を。

 

 

 気がつけば、視線と共に頭は下を向いていた。

「俺は…………許されないことをした。きっともう会わない方がいいんだろうな」

「―――そんな事、無いんじゃないですかね」

 ふと、青年はそんな事を言った。

 

「なんだと?」

 目を向けると、逆にキョトンとした顔で青年は言った。

 

「彼女も、仲直りをしたいと思っているかも知れませんよ?」

 

「…………フッ」

 その言葉に、思わず鼻で笑ってしまった。

「ありえないさ。彼女を深く傷付けた、心も体もな」

「でも、貴方は仲直りをしたいんじゃないですか?」

「っ」

 

 返す言葉に詰まると、青年はさらに口を開く。

 

「確かに僕は、その事情をよくわかりません。貴方のツレの方も顔も名前もわかりません」

 

 青年は真っ直ぐこちらを見て、ハッキリとした口調で言った。

 

「――――――ですが、このままの関係で終わるのは間違っている事はわかります」

「!」

 

 たかが、十数年しか生きていない青年の言葉。

 だが、無垢で真っ直ぐな瞳が、裏のない言葉が。

 

 思わず俺の頬を緩ませた。

 

「………お前は優しいんだな」

「そ。そんな………それほどでもないですよ」

 

 先程の表情を崩し、まるで別人のように照れる青年。

 してやられたよ、全く。

 

「お前は?」

「?」

「お前は、どうなんだ?」

「ぼ、僕ですか?」

 

 だが、やられてばかりは性に合わないんだよ。

 

「あぁ、何か悩みがあるだろう?それを我慢している、そんな顔だ」

「っ」

 完全に図星だ。

 

 俺の観察眼を嘗めないでほしい。

 ある時なんてフローズに「視線に若干引きます」と言われて自重する位、俺は相手を観察するからな。

 

 この青年には悩みがある、しかもそれを、仲間達には話していないのだろう。もしくは解消する目処が立っていない。

 不遇な奴だ。

 

 彼は先程とは違い、気恥ずかしそうに頬を掻く。

「え、あはは。偉そうなことを言ったのに、なんかすいません………」

「気にするな。俺も仕事柄そういった顔をする奴が放っておけないだけさ」

「仕事………てっきり雰囲気から高貴な貴族の方かと思ってました」

「いいや。あんな世界は俺に合わない」

 

―――――そういえば、親が貴族だった気がしないでもないが、忘れたな。

 

 青年は、無理に作った笑顔を引き、情け無さそうに吐露した。

「………僕は、弱いんです。運命が導くままに、全力を尽くせばなんとかなるって思ってたんです」

 

「ですが、どうしても越えられない壁があって。努力はしている筈なのですが相手も凄くて、時間が経てば経つほどその差は大きくなっていって………正直、自信が無くなってきてるんです」

 

 彼もまた、意図的に重要な所は伏せて話していた。

 それはそうだろう、こうして考えると不思議だが俺たちはつい先程まで顔も知らない他人なのだから。

 

 だからこそ、気兼ねなく言える事もある。

 

「………差が大きくなるなんて、上等じゃないか?」

「はい?」

「お前には目的があるのだろう。大きな目的が、ならば心を燃やせ。頭は冷静にしてその差を縮めるんだ」

 

 そしてそれは、この青年の性格だと自分一人の為ではない。もっと大きな事なのだろう。

 

「いいか?見る限りお前は真面目だ、さらに強さに関して素直さもある」

「あ、ありがとうございます?」

 

「だからこそ、お前は与えられた運命を受け入れろ。どうしても無理なら、ねじ曲げればいいんだ」

「っ」

 

「お前の人生だ。誰かに影響を受けても、お前の人生なんだ、選ぶのは他でもないお前だ。お前の一挙一動で世界が滅ぶ訳じゃないんだぞ。自由に生きろ」

 

 その分、責任は格段に大きくなる。

 不安も、困難も、今まで以上に増える。

 それでも、望むなら。

 

「必要なのは少しの勇気だ…………そして俺はそうして、ここにいる」

 

 青年は難しい顔をして、俺を見た。

 

「後悔は、してないんですか?」

「…………後悔をする暇があれば、俺はこの道を選んだ俺を誇りに思う事にしている」

 

 それに唯一の後悔は、この青年が解いてくれたからな。

 その感謝も含めて、ここまで話したのだ。

 

「久し振りに楽しかった、感謝するよ」

 

 だが、これ以上の長居は無用だ。

 格好よく言ったのだから無駄口は叩かず、格好よく去るのが流儀というものだろう。

 

 金を置いて席を立つと、青年は少し慌てて言った。

「………あのっ!」

「?」

「お名前を、教えていただけますか?」

 

…………名前か。流石に顔と違って名前は出回っているし、馬鹿正直に言うのは不味いだろう。

 

「…………名乗る程の者じゃない」

 

 ならば、このまま名乗らないのがベスト。

 

 

 

 

「―――――――――通りすがりの迷子だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、勇者様~!」

「皆!遅かったね、紹介したい人がいたのにもう行っちゃったよ」

「珍しいですね?勇者様がそんな事を仰るなんて」

「凄い人なんだよ。雰囲気とか、言葉の一言一句に凄味というか説得力があってね………!お陰で僕も決心がついたんだ」

 

 拳を固く握る勇者。その目には燃え盛るような闘志が宿っていた。

「辛い事が待っているかもしれない………だけど、僕はやるよ。世界のために、人類のために!」

『勇者様………!』

 再び奮起した勇者に、彼女達は顔を赤らめる。

 

「ついてきてくれるかい?皆!」

『はい!』

「よし、行こう!氷結の迷宮へ!!」

 

 思わぬ形で、勇者一行が一致団結した。

 

 

 

 

「…………?」

 

………そんな中、一人だけテーブルに置かれたパフェの容器を見て眉を寄せていた。

 

(赤い果実だけ、どけられている..........?勇者、一体誰と話をしてたの?)

 

 彼女はふと思い出す。

 昔に自分をかばって怪我をした、とある少年の事を。

 彼はそれ以来、赤いものが見れないほどじゃないが苦手になった事を。

 

――――――その少年は時が経ち、今は彼女の視線の先にいるはずの事を。

 

「………まさか、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 城に帰ると、待っていたフローズが深く頭を下げた。

 

「――――――お帰りなさいませアイス様。城は特に異常ありませんでしたよ」

「そうか、ご苦労だったな」

「いえ。アイス様こそ満喫した休みは過ごせましたか?」

「その事なんだが………なぁ、フローズ」

「はい?なんでしょうか」

 

 首をかしげるフローズに、俺は言葉を窮する。

 

 確かに満喫したと言えばしただろう。

 思わぬ出会いや収穫もあったし、日頃の息抜きとしてはかなり役目は果たされた。

 フローズには感謝しなくてはならない。

 

 だが、だが。

 どうしても、気掛かりな事があるのだ。

 何か大事な、とても大切な何かを見落としている気がしてならないのだ。

 なんだ?まさかあの青年に何か………。

 

――――――そうか!!

「フローズ」

「はい」

 

 「――――――通りすがりの迷子って、格好良いと思うか?」

「意味わからない上に滅茶苦茶格好悪いですね?誰が言ったんですかそれは」

 

―――――――だよな。




全王「あれ、まだ出番なし(愕然)?」
彼女「まだ名前くれないの(笑顔)?」

尚、色々奇跡的にすれ違った模様。

次話から迷宮攻略が始まると思われます。

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