【悲報】氷属性はかませが多いらしい。   作:ブルーな気持ちのハシビロコウ

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流石に毎日は無理でした、申し訳ないです。



5話

 勇者達は、目の前の存在に気圧されていた。

 

「――――――氷結の迷宮を攻略し、この城にようこそいらっしゃいました。勇者一行」

 

 凛とした声が、広い部屋に響く。

 そこにいるのは、残った最後の魔王の副官だった。

 

「そちらにいる者達から聞いていると思いますが、フローズと申します」

 彼女は勇者一行の、特に元副官だった彼女達を一瞥して後にそう言った。

 

「ご丁寧に、どうも……っ」

 勇者は剣を握り直し、生唾を呑み込む。

 

――――――余裕だ。勇者は彼女から、有り余るほどの余裕を感じとった。

 

 数にしてみたら一対十三人、あまりにも不利な筈なのにも関わらず落ち着いた表情に声色、明らかに今までの相手とは格が違う。

 

「先に申しておきますが、私はそこにいる薄情者達とは違いアイス様を裏切るような真似はしません。情報を得るついでに私を抱き込もうとするのなら、先に無理だと断言しておきますよ」

 

――――――うん、なんか凄く僕が女性に見境が無いように聞こえるのは気のせいかな。

 

 すると、勇者の背後から怒りの混じった声が聞こえる。

「くっ!貴女は上司に報われたからそんな事が言えるのよ!!」

「そ~だそ~だ!私なんて週休一日しかなかったのに」

「残業ばかり!肌のケアが間に合わないのっ!!」

「終われる時間に終われるって…………羨ましすぎる」

「薄情というのなら私達をこんな状況にまでおいやった世間も薄情だと思うの」

「―――――なんか論点変わってきてないかな君達?魔王企業がブラックなのはわかったけど今じゃないよね話すのはっ」

 

―――しかしやはりというべきか、フローズは勇者側に着くことを拒んだ。それは勇者も予想がついていたが。

 

…………正直な話、例えフローズを倒してもなんの情報も無しに氷の魔王と対峙する事になるのだ。

 それは、勝つには相当に苦しいだろう事は火を見るより明らかだった。

 

 しかし、勇者の目はもう死なない。

 

―――闘わなくちゃいけないなら、覚悟を決める!

 勇者は剣を構なおし、キッとフローズを睨む。

 

「長きに渡った因縁を終わらせるんだ!僕達がやらなくちゃいけないんだ!魔物によって人間が虐げられる時代を終わらせる!僕達が救い、人類を、世界を平和に導くんだ!!」

 先程、緩みかけた緊張感を再度締め直すように勇者は喝をいれ、攻撃を行おうとする。

 

 

「――――――その口上は、今考えたのですか?」

 

「………は、はい?」

 しかしピタリと、勇者の動きが止まった。

 

 フローズは表情を変えず、言葉を紡ぐ。

「即席にしては少し長いなと思いまして。前々から考えていたのかと―――しかしそうなると勇者は人類の悲願である魔王様の攻略よりも己の立場に陶酔する自己満足に時間を費やす方だったのですね」

「…………ん、んん?」

「手よりも口を動かして満足しましたか?」

 

「……………え?あれ?そういう攻撃?物理じゃなくて精神に訴える的な感じなの?」

 パチパチと、何が起こってるのか理解できず目を瞬かせる。

 

 勇者は混乱した。

 フローズは首を横に振った。

 

「―――まさか。ですが余裕だと思いましてね?元々私としては、勇者一行は少数で人類を救えと他人任せな期待と政治的圧迫を受けた者達として、ろくでもない魔王に従わされる部下と同じくらい同情したくなるほど不憫な立場にいると考えていました」

「―――今さらっと色んな方向に毒吐かなかった?」

 

「ですが成程。ここまで来るのに散々時間を掛けていましたが、この時の決まり文句の様なそれの為ですか。ならばアイス様に対しても別の口上を用意してあるのでしょう?わざわざ自分の自己満足のために長い口上を考えるとは随分余裕がある――――――というか喋っている間に攻撃されるとは思わないのですか?既に五回は全滅させられそうなのですが。アイス様もそうですが無駄に律儀なのですね?それにしては実力も心構えも伴っていないようですが」

「……………」

 

 一言も噛むことなく淡々とフローズが言い放つと、一気に静寂が訪れた。

 

 

 

『……………』

 チラリ。と視線が勇者の背中に集まる。

 勇者の仲間からは、先頭にいる勇者の顔は窺えない。

 

 しかし前に行って見る勇気も彼女達にはなく、かなり気まずい沈黙が少し続き―――。

 

 

 

 

 

 

「――――――ぐうの音も出ない」

 ガクン、と勇者の膝が折れて倒れそうになる。

 

『勇者様!?』

 彼女達が駆け寄ると、勇者は苦しそうに眉を寄せた。

 

「…………口喧嘩は弱いと思っていたけど、反論の余地もなくここまで言われると普通にショックかな………」

「勇者様!?」

「誰か……誰か薬草持ってない?」

「薬草じゃ心の傷は癒せないですよ勇者様!」

「勇者様気にしすぎです!そんなところも好き!!」

 

 

「――――――どけて」

「!」

 すると勇者達の中から一人だけ跳び出し、一気にフローズに接敵して横蹴りを入れる。

 

 だが、眉一つ動かさずフローズは顔に当たる寸前の場所に強固な氷の壁を作りそれを防いだ。

 

「おや………少しは気骨のある方がいたようですね」

「うるさい――――――レクスを、返して!!」

 

 一度距離をとった彼女の鬼気迫る形相と発言に、フローズは眉を寄せる。

 そして、あるフレーズに反応した。

 

「『レクス』?名前ですか、そんな方はここには…………!」

 

 フローズは怪訝な顔から、一瞬だけ目を丸くする。

 信じられないと、あり得ないと。

 しかし、見た目の年齢や何より片腕がそれを物語っていた。

 

 フローズの顔の変化に元副官達も驚くのだが、彼女は既に眼中に無い。

 

 フローズの意識は、目の前の女性に向けられていた。

 

「――――――そうですか、貴女でしたか」

「……何の話、かな?」

「いえ、こちらの話ですからお気になさらず」

 

 親の仇の様な視線を受け流しながらフローズはそう言って、深く白い息を吐いた。

 

『っ』

 

――――――その姿に見惚れる前に、一気に全員に怖気が走った。

 

 

「―――余計に負けられないと思っただけです」

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前はアイス。世界を束ねる六魔王の一人で『最近秘書の尻に敷かれてる説濃厚』と俺でなく秘書が恐れられている。氷魔術における最高位の使い手だと自負している男だ。

 

 やばいな、ある意味クーデターかもしれないなこの現状…………桶とか、しかもその後に鎖とかも出てきたしな。

 

―――縛り付け過ぎじゃないか?俺とこの玉座を結婚させる気かあの秘書。

 

……まぁそんな彼女も、今この場にはいないのだが。

 肌の天敵である夜だからではない、この場にはもう俺しかいない。

 

 寂しくはない、これが魔王の宿命というやつだ。

 

――――――勇者が、とうとう目と鼻の先に来たのだ。

 迷宮を攻略し、城に入り、俺まであと一歩前の所にいる。

 

 故に秘書であり、副官のフローズが勇者達の元へ向かったのだ。

 

 俺が同行する事は許されない。

 俺はこの場で待ち、勇者を迎えるのだから。

 

 それは彼女の、部下達の信頼を裏切る事になる。

 フローズは強い、それは間違いのない事実だ。

 

 だが相手は十数人、しかも元仕事仲間となればいくら彼女と言えど分が悪すぎるだろう。

 

 例の金も「魔王様は私が負けるとお思いで?」といって受け取らなかった。その意志は固く、俺の方が折れてしまうほどにな。

 

 散々俺のエゴに付き合わせ、そして小言を挟みながらも最後まで付き合ってくれた。

 俺の意思を汲んでくれて、第一に部下を考えてくれた。

 

 正直彼女には、感謝しかない。

 

 

――――――変わったよな、アイツも。

 ふと、彼女との最初の出会いを思い出す。

 

「………いつだったか」

 

 そうだ、あれは俺が新しい魔王になってから数日―――

 

 

 

「―――ただいま戻りました」

「そうか」

 

――――――いーや、勝つんかい。

 

 しかも回想に入る途中じゃねぇか。

 返せ、俺の時間と切なさを。

 

 感謝はくれてやるから。

「そうか」ってすんなりと口から出たけどかなり驚いたぞ正直。

 

「それで?勇者はどうした」

「氷漬けにして放置してあります。あの者達に相応しい末路でしょう」

――――エグい事するなこの秘書、とふと彼女の顔を見た。

 

「っ…………そうか」

 

―――――――――そうか。

 

 その言葉を聞き、俺は玉座から立ち上がり近付く。

 

「ご苦労だったな?強かったろう?」

「いえ。アイス様の足元にも及ばない様な軟弱で脆弱な奴等でした」

「……そうか。ところでもう一つ質問いいか?」

「なんなりと」

 

 その返答を聞いて俺は「そうか」と短く答えて。

 

―――ソイツの首筋に刃を当てた。

 

 手を上げる動作と同時に周囲の冷気を操り氷の剣を創ったのだ。

 

 

「なら聞こう―――――お前は誰だ?」

 

 

 ピクリと『ソイツ』の動きは止まり、首をかしげる。

 

「……………フローズですよ?アイス様」

「違うな、俺の目は誤魔化せんぞ?」

 

 刃をより近づけ、強く脅す。

 自然と手の力が強くなってしまう。

 

――――――あぁ、気分が悪い。

 信頼している者を模倣されるというのは、ここまで虫酸が走るのか。

 

「アイツはそんな『目』をしない。他者への侮蔑の混じったその目に先程からの言葉――――――誰に対してもアイツはそんな感情を向けたりしない」

 

 彼女は冷徹に冷血と恐れられている。

 しかしだ、長年付き合った俺や部下は知っている。

 

 例え冷たくても、フローズは決して努力を否定しない。それは味方でも、そして敵でも同じだ。

 

 俺よりも勇者の一挙一動を把握しているフローズが、仮にも人間側の為に奮起した勇者達を軟弱等と呼ぶはずもない。

 それに、それは負けた部下への侮蔑にも繋がる。

 

 それに言葉に上手く出来ないが、雰囲気も異なる。

 

―――――――――違う、フローズじゃない。

 

 

―――――だが、だとして理由も正体もわからない。

 コイツ何者だ?まさか勇者一行の誰かか?

 一番ありえるが、ならば俺は少し失望したな、勝ちに拘るのは評価するが不意打ちでないと勝負できないのか。

 

 何より変身能力は地味だ。地味すぎる。

 驚かせたいならいっそ全王にでもなって出直してこい。

 

「もう一度聞く、次答えなかったらその首を刎ねる」

 氷の剣の刃を、ピタリと肌に当てる。

 

「お前は、何者だ?」

 鋭い目付きでそう言うと、ソイツは薄く笑った。

 

『…………流石だな?アイス』

「っ」

 

 王の間に響く、決してフローズからは出せそうにもない低い声。

 

 刹那、フローズの体がまるでノイズが入ったかのように揺らぎ、そしてフローズから別の姿が露となった。




次回はシリアスになるかもしれないしならないかもしれない。

そして次回も投稿は遅れてしまう可能性大。
頑張ります。

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