【悲報】氷属性はかませが多いらしい。 作:ブルーな気持ちのハシビロコウ
多分まだ続きます。
あと10話超える場合があれば短編から連載にすると前の感想で載せましたが、今話で変更しました。
短編短編詐欺って怖いですね。
短編ってなんだろう………(哲学?)
―――フローズと勇者一行の戦闘は未だに続いており、熾烈を極めていた。
「はぁ?」
「へえ?」
二つの視線が交錯する。
「―――アイス様の事ならわかると?言われるまでもありませんね」
「ふぅん。それじゃなに、レクスの子供時代知ってるの?苦手な食べ物から寝るときの癖まで知ってるの?」
「憐れですね、その程度で満足しているのですか。しかもその名は捨てたと言っていましたよ―――つまり貴女が知るのは過去の男。私が知るのは今のアイス様です、そしてアイス様についてなら魔王になってからならば全て把握してます」
「全て…………へぇ?そんなに一緒にいるんだ~」
「えぇ、アイス様とは基本四六時中一緒ですので……無くなった背中ばかり追い掛けてきた哀れな貴女と違って」
「………でもアイス様アイス様って、どうせ秘書止まりなんでしょ?四六時中一緒にいて何もないって事は意識もされてないんじゃない?」
「―――貴女は、今言ってはいけないことを言った」
「―――奇遇だね?私も同じこと思った」
―――熾烈を極めていた。
「――――――ハハ。出る幕無いなぁ、僕」
勇者は、乾いた笑みと共にそんな光景を眺めていた。
「というか、あんなに強かったんですねあの子」
「あのフローズと互角なんて……というか会話の内容は聞こえないですけどフローズ怒ってます?なんか前に会ったときよりも凄みがあると思うの」
「………あ、勇者様お茶飲みますかぁ?持ってきましたよぉ」
「お菓子もあるよ~」
「サンドイッチもあります!」
「甘いわね、私はティーセットよ!」
『っ!』
「―――いや『っ!』じゃないよ遠足じゃないからね?というか中身それだったの?道具袋パンパンなのに中身ペラペラ過ぎないかな君達?」
そして、どこか和やかな空気になりかけている一行がいた。
―――普通ならば彼女の援護に回るべきだろう。
それは言われずともわかっているのだ、仮にも力を合わせてここまで来た仲間達なのだから、尚更である。
だが。只の口喧嘩ならいざ知らず。
――――――全方から不規則に生えてくる氷柱、それに付随して雨のように襲ってくる氷の礫。
それを彼女は体を反らしてかわしつづけ、時に氷を破りカウンターすら行おうとする始末。
そしてそれを氷の壁と冷風で接近を許さないフローズ。
その最中に会話していたのだ。何故成立するのだろうかとすら思う。
―――そしてさらに、その速度が増した気がする。
恐らく会話の内容で双方の逆鱗に触れたのだろうと勇者は感じていた。
――――――というか、実は聞こえてた。
勇者の耳は良かったので内容は普通に聞き取れてた。
――――――既に蚊帳の外なんだよなぁ。
その上で、困っていた。
正直勇者は目で追えなくもない、恐らく避けられる。
つまりは戦闘としては成立する。
―――だが、非常に行きにくい。
行って「は?お前邪魔なんだけど?」的な雰囲気になったら中々に堪えるものがある。
……勇者なのに邪魔扱いされるのも不思議な話だが。
勿論、魔王を倒すにはフローズを倒さなくてはならない。
でもだからと言いながらも、会話の内容含めて『あれ』に入れるかと言われたらこう答えるだろう。
『無理だなぁ………』
勇者を含め、声が重なった。
―――命がいくつあっても足りない、と。
ドォン!!!
『っ』
突如、轟音が響き共に足場が揺れた。
勇者は転びそうになった仲間の腰に手を回し支えながらも、音の方に顔を向ける。
『…………』
既に二人も警戒は互いにしながらも戦闘を中断しており。
突如、気味が悪いほどの静寂が訪れた。
そんな中で、勇者はボソリと呟いた。
「あっちの方向って………」
眉を寄せた勇者の視線の先は城の奥だったのだ。
――――――つまりは、魔王が待ち構えている筈の場所。
ドゴォン!!!ドゴォン!!!ドゴォン!!!
『っ!!』
どうしてそんな音が?と疑問に思う前に、更に轟音が響いた。
ビクンと肩を震わせた仲間達を他所に。
流石勇者と言うべきか、あることに気付く。
―――徐々に音が、近付いてるっ!
「っ皆!!気をつけ――――――」
一気に背中に凍ったような感覚に襲われ、叫んだ。
しかし。その警告は最後まで言われることはなかった。 轟音と、奥の部屋で砕けた氷の扉の破片によって途切れてしまったのだ。
「え?」
それだけでは終わらない。
衝撃と共に、大きな人影が勇者の横を通り過ぎたのだ。
――――――いや。通り過ぎたというよりも、吹っ飛ばされたといった表現の方が適しているだろう。
勇者が振り向くと、男が仰向けに倒れていた。
「っあなた、は――――――!」
倒れて動かない男の姿に。
勇者は―――そしてその正体に気付いた彼女『達』は目を見開いた。
「アイス…………様」
「……………レクス?」
彼女は時が止まった様に釘付けになり、そしてフローズは愕然とした。
―――そこにいたのはその白い肌を己の血で赤く染めた、アイスの姿だったのだ。
「残念だったな――――――氷属性はかませといったろう?アイス」
『っ』
すると、壊れた扉から別の人影が現れた。
ほぼ全員の視線を浴びながらも、
その落ち着いた声は明らかな余裕が感じ取れた。
「魔王も、勇者も……長い茶番はここまでだ」
背丈ならば、アイスと同じか少し上だろうか。
―――後ろに流した灰色の髪、鋭い目付きに眼光。
そして服越しからでもわかる強靭な肉体。
―――明らかに只者でない。
既に、その男がこの空気を支配していた。
「全く……我を守るための結界を、この我が自ら壊すとはな……皮肉なものだ」
すると、周囲を一瞥した男は、口を開ける。
「―――我は全王。魔物を、世界を統べる者だ」
「全王、だって…………!?」
勇者は目を丸くする、無理もないだろう。
勇者が、人類が倒すべき相手、魔物の王。
―――それが、今目の前にいるのだから。
しかし、と。
我に返ったフローズは声をあげた。
「な、何故ですか全王様!!何故アイス様にこんな仕打ちを!」
「―――何故だと?」
全王はフローズを一瞥して、嘆息を漏らす。
「………勇者を発達途上の段階で自ら攻めればよいものを、結界で我の行動に制限があるのを良いことにそうせず。人の棲む農村を襲うこともなく、更に他の魔王の部下を集めていたじゃないか?それに信仰の対象は我ではなく己に向けるばかり……これを裏切りと言わずしてどうする?」
「そ、それは誤解です!う、裏切りなど断じて―――――」
「現にお前に立ち塞がる者達は、裏切りといえないのか?」
『っ』
全王の言葉に、以前他の魔王に仕えていた者達はピクンと小さく肩を震わせた。
「まぁ、いい。負けた奴に興味はない」
しかし、気にしないといった様子で全王は続ける。
「アイスは………確かに強かったな。我も何度か肝を冷やした場面があったよ」
突如、全王の体にノイズが走る。
「だが…………奴には明確な弱点があった」
『っ』
「っ!!!!」
その場にいる全員が目を見開いた。
――――――そこには、フローズの姿になった全王の姿があったから。
「やはり元は人間か――――――情に弱く甘い。こうすれば勝手に攻撃は急所をよけ、さらに威力も弱まった……自覚があるか無いかは知らないがな」
「!!」
フローズは、怒りのあまりカチカチと奥歯を鳴らした。
それもそうだろう、自分に化けられて、敬愛しているアイスをここまで追いやったのだから。
だが、全王は続ける。
「さて、フローズといったな?他と比べてお前は優秀だ、我の側近になれ」
「……………は?」
フローズは開いた口がしまらなかった。
しかし全王はそれが理解できないのか、首をかしげた。
「……聞こえなかったか?アイスはお前を含めて部下の強化に力をいれていた、まさか勇者一行と渡り合える程とは思ってなかったが僥倖だ。それにお前の指揮と指示は正確にして合理。さらに従順だ。アイスのせいで行動に制限がかかっていたろうが、我ならば違うぞ?」
一呼吸置き、全王はフローズへと手を伸ばす。
「――――――その勇者達を殺し、共に来い」
「………………」
フローズは、俯いた。
悩んでいるわけではない、答えなど決まっている。
すると、フローズは腕を掴まれた。
振り返ると、腕を掴んだ犯人………背後にいた彼女が信じられないといった顔でフローズを見る。
「まさか、行くつもり?」
「――――――だとしたら、なんですか?」
「本気………?それでいいの?」
彼女の言葉に、フローズはキッと睨む。
―――いい訳がないだろう。
と目で語るように。
本来であれば、苦虫をどれ程噛み潰しても表現しきれない顔をして嘆き、罵詈雑言を浴びせ全王に殴りかかりたい。
だが、それはダメだ。
――――――それだけはダメだ。
そうすれば、恐らく自分も負ける。
どんな背景があっても主人のアイスが負けたのだ、フローズが勝てるかと言われたら難しいだろう。
かといって、勇者側につけるだろうか。
パーティーである以上後衛の回復術士もいるだろうし、上手くやればアイスを治癒してくれる可能性もある。
―――それも厳しい、何より今までの立場というものがある。アイスを救うには時間がいる、だが味方はいない。
ならばフローズが全王につき、交渉で命だけは助けてもらう………それしかない。
可能性はほぼゼロに近い程低い、だが試す価値はある。
―――最優先はアイスを生かすこと。
その為ならば全王にだってついてみせる、と。
秘書であり副官、ほぼ刹那に近い時間でフローズはこの結論を導きだしたのだ。
しかし賞賛の言葉など来ない、来るはずもない。
しかし、全王から非情な命令が放たれた。
「しかしそうだな、仮にも副官、アイスへの忠誠もあるだろう……………お前の手で虫の息の
「―――――――――っ」
まるで殴られた様な衝撃と共に、絶望感に苛まれる。
フローズは、しかし下唇を噛み無表情を貫こうとする。
ここで感情を表に出してしまえば、アイスに確実に不利になる。
冷静に、冷静に思考を巡らせようと考える。
「………」
先程まで対峙していた彼女からの視線など、もはや気にしていられない。
隙しかない、だが彼女も追い討ちのような事はしなかった。
―――出来るわけもなかった。
あまりにも先程の凛とした姿とは違ったから。
「早くしないか。我はどちらでもよいのだ、お前がいなくても問題はないのだからな」
急かされ、余裕が無くなりそうなフローズは胸の辺りを握る。
―――考えなくては。アイス様のため、考えなくては―――!!
「っ」
するとコツン、と頭に軽く拳を当てられた。
一気に思考が途切れてしまい、自然と狭まっていた視界が広がっていく。
「バカね、ほんと」
「………え?」
―――そして振り向くと、そこには呆れた顔をする彼女の元同僚がいた。
その一人がフローズの頭を小突いた様だ。
「ったく、昔から一人で考えすぎなのよねアンタ」
「フレアみたく考えすぎないのも問題だけどねぇ?」
「今は勇者サイドだし~?全王は敵だしね~……勝てる気しないけど」
「全くだ。だが私なら盾くらいならなれるよ、竜の鱗は堅いから」
「……時間稼ぎくらいならしてあげれる、と思う」
一人……また一人とフローズの前に立ち、五人が全王と対峙する。
「あなた、たち……」
「だからほら――――――行きなさいよ。主人の元に」
その背中に、フローズは驚きを隠せなかった。
あんなにも罵倒したのに。
今は敵なのに、何故庇うのか。
「どう、して?そこまでして………敗けは確実、貴女達は勇者の味方でしょう?ならばもっとよいやり方が――――」
慌てるフローズに、彼女達は苦笑する。
「理屈じゃない―――ま、腐れ縁ってやつよ?」
「っ」
その言葉に、フローズは頭を下げ…………呟いた。
過去のアイスの言葉が、過る。
―――『信じる』がわからないって?焦るなよ。
アイスは笑いながら言った。
―――いつか勝手にわかるだろうさ、言葉じゃなくて心でな。
先程まで痛かった胸が、どこか温かく感じる。
「………そう、ですか。これが『信頼』なのですね」
フローズは、そっと顔を上げた。
―――その顔に、もう迷いはない。
「…………私も残ります、時間稼ぎなら私も適任でしょう?」
「はぁ?なら誰がアイス様に説明するのよ」
「いるんですよ………私よりも、適任が」
『?』
そう言ってフローズは、振りかえって彼女と対面する。
その意図を察した彼女は怪訝そうな顔をして、言った。
「…………本気、なの?」
「生憎、冗談は苦手でして」
あまりにも、少ない会話。
だが、先程散々語り合った二人にはそれだけで十分だった。
「――――――アイス様を、お願いします」
そう言って、フローズは頭を下げた。
「……………はぁ~もう!」
それを見て、彼女はため息を溢した。
「――――――アリシア」
「………はい?」
「私の名前だよ、次会ったらそう呼んで」
彼女は真剣な顔でそう言った。
名前を聞いて、フローズは小さく笑う。
「わかりました………素敵な名前ですね?」
「うるさい。次会うときに死んでたら、殺してやるんだから」
「死んだら殺せませんよ?」
「っやかましいわよ……無事でいなさいよ」
「……えぇ、死ぬわけにはいきませんからね」
二人は小さく笑い合い、そして別の方を向いた。
―――フローズは、全王へ。
―――アリシアは、勇者の方へ。
「勇者様」
「うん…………僕も、彼女達の決心を否定したくない」
勇者も頷いて、アイスを担いで他の仲間達と後退を始める。
「―――だから、皆死なないでくれ。生きて帰ったら何でもしてあげるから」
そう、言葉を残して。
主と勇者達の消えた氷の城で。
六人の魔王の副官が、全王と対峙した。
全王は不快とばかりに眉を寄せた。
「フローズ………………お前はもう少し賢いと思っていたが、見当違いだった様だな」
いつもの無表情に戻ったフローズは、淡々と返す。
「えぇ。その節穴では碌な判断も出来ないでしょう―――というか視界に入るのも不快極まりますので逸らしてもらえますか?」
――――――おぉ、過去一番に冷たくて厳しい。
元同僚達は内心でそう呟きながら、小さく笑い。
全王へと、向かっていった。
シリアルはどこ行った!
ギャグじゃなかったのかこの作品!
作者を呼べ!誰だよ作者!
―――はい私ですごめんなさい。
目を通しましたが誤字脱字あれば報告願います。