【悲報】氷属性はかませが多いらしい。 作:ブルーな気持ちのハシビロコウ
俺の名前は『レクス』……皆からバカにされている男だ。
少し名前のある貴族の生まれで、氷魔法に適性があったらしい。
『―――お前は本当に俺の子か?』
『―――本当に、顔だけしか取り柄のないの子ね』
―――だが適性があっても才能はなかった。
『おまえきぞくだろ?ならきぞくどうしで遊べよ?』
『おまえみたいな能無しと遊ぶと、家の名前に傷がつくんだ。悪いな?』
―――そして人望もなかった。
同じ貴族でも魔術の上手く扱えない俺を見て嗤う奴等。
貴族だからと蔑む奴等。
言葉で知る前に『孤独』を理解した。
だから、いつからかわからない。
――――――期待するのを辞めたのは。
そんな中で、俺が一人氷の結晶を作ろうと奮起していると、声がかかった。
『ねぇ、一緒に遊ばない?』
「っ」
彼女はだれだったか、どんな名前だったか。
あぁ、勿論覚えているとも――――――
「………おはよう、レクス」
目を開けると、そこには柔らかい笑顔を向ける彼女がいた。
「…………大きくなったな、アリシア」
俺は、彼女の名前を呼ぶ。
時間は経ったが、間違える筈の無い。
アリシアだ。
俺の人間の頃の唯一の後悔が、そこにはいた。
―――勿論、驚きはある。
だが、何故だろうか。
勇者との一件から薄々と、どこかで出会うとは思っていた。俺も会わなくてはと思っていた。
まさかこんな形で、しかも勇者一行の一人とは思わなかったが。
首だけで右を向けると、勇者の姿が見えた。
―――んん?
やけに見覚えのある顔に、俺は少しだけ目を剥く。
「っ……そうか、お前だったのか?」
「う、うん―――あんまり驚かないんだね?」
「そう………だな。むしろ、納得したくらいだ」
彼ならば成程、納得できなくもない。
あの目に高い志、むしろ勇者としてこれ以上とないほど適任じゃないか。
―――若さを除いて。国がこんな少年に人類の存亡を任せるとは中々に酷だと思うのだが。
そんな事を思っていると、
「あー、いや。そっか、それだけじゃないんだけどね……」
勇者は俺を見てどこか気まずそうに笑った。
「ねぇ、ちょっと?」
俺の顔を掴み、グリンと自分の方に向けるアリシア。
「―――勝手に名前変えて、離れて、久し振りにあってまさかそれだけな訳ないよね?」
―――アリシアの表情が怖い。
「私に何か、言わなくちゃいけないことがあるんじゃない?」
「………そうだな、とりあえず―――」
俺は彼女の目を見ながら、何か期待する様な顔をする彼女を見ながら。
「――――――とりあえず、鎖を解いてくれるか?」
そう言った。
俺は今。体が癒えた代わりに、鎖でミノムシのように巻かれているのだ。
指一本すら動かせないぞ?お前達を待っているときのフローズの縛りですら手首は動かせた。
だから抜け出せたのだが。
確かに再会は喜ぶべきだ。
だが一先ず、現状の理解を―――待てアリシア?何故笑顔でそんな目が出来る?一体、何を―――。
「―――と言う訳なんだ………聞こえてる?アイスさん?」
「あぁっ、勿論ゴフッ!聞いてガハッ!いるぞ……ついでにさん付けはするなグホッ!部下ならバハァッ!まだしもむず、痒い」
「ふん!ふん!ふん!ふん!」
「そ、そう?というかよく返事しようと思ったね………?」
俺は勇者から自分が気絶していたときの流れを聞きながら、未だに外されない鎖によって宙に吊るされ、アリシアの拳を無抵抗で受けていた。
―――要はアリシアのサンドバッグになっていた。
なんでも、アリシアは勇者一行の治癒師らしい。
成長したものだ、昔は擦り傷とかを作られてよく治してもらったものだ。
作ったのも大体アリシアが原因だが。
「しかし」
―――それにしては、おかしい。
治癒師の威力じゃないんだが?殴られる度に変な声出るし、完治していた筈なのに既に治癒してもらわないと闘いに戻れる気がしないレベルで今の俺は負傷しているんだが。
治癒師を呼べ、治癒師は誰だ。
―――アリシアじゃないか。
つまり癒せるか否かは彼女のさじ加減と言うことか。
そうか成程。
――――――俺は全王に怒りをぶつける前に死ぬかもしれない。
既に他の勇者の仲間達はこの光景を見て引いているしな。
―――というか見るんじゃない。全王に負けた挙げ句鎖で拘束されてサンドバッグにされる魔王とか前代未聞どころか歴史に残るわ。
言い伝えるなよ?重要な書物として国の奥底に眠らせるなよ。恥ずかしいからな。
「……しかし、これから全王をどうするかだな」
仮にも魔王の副官といっても、相手は全王だ。
早く援護にいかなければいけない。
「とりあえず私に謝るという選択肢はないの?泣くよっ!?」
アリシアがそう言いいながら、右ジャブを放った。
中々に深く刺さり、鎖ごと俺のからだが大きく揺れる。
「――――――グファ!……謝らないさ、それはまだ後の話だからな」
俺の言葉に、アリシアは怪訝な顔をした。
「……どういうこと?」
「先ずは、フローズ達を助ける……アリシア、お前と話をするのは、その後だ」
―――アリシアと向き合うからには、まずは己のすべき事を終わらせなくてはならない。
俺は彼女に謝らなくちゃいけないことがある。
だが、今ではダメなんだ。
でないと、俺はちゃんと謝った気がしない。
勝手と思われるかもしれないが、これはけじめだ。
「……だから、待っていてくれないか?今度は必ずお前の前に現れる」
――――――
それに、全王から押し付けてきた喧嘩だ。奴から非難されるいわれはない。
「俺は………全王を倒す。これは俺の背負った業だ。今度は勝つ、必ずな……!」
「手伝うよ、アイスさん」
「―――勇者?」
決意した俺に、似たような表情の勇者が一歩前に出た。
「勇者なんだ。こんな所でへこたれて手柄を持っていかれたら格好つかないからね…………それに―――」
一呼吸置いて、勇者は言った。
「―――それに僕は、勇者としてだけじゃなくて個人としてアイスさんを助けたい」
「!……………フッ、勝手にしろ。俺は魔王じゃないからな、お前に敵対する道理もない」
「今度、甘いものでも食べに行きましょうね」
「付き合ってやる……万能薬を用意しておけ、とっておきのがあるからな」
「はい…………え、どうして万能薬?」
勇者は、そっと俺に向けて手を差し出した。
俺はそれに、小さく笑って応える。
…………ガチャガチャガチャと、鎖が鳴った。
「―――――いや、その格好で言われても格好つかないからね?」
―――手が、伸ばせないんだが。
…………ジャラジャラと音を立てながら、未だに俺はミノムシ状態であった事を思い出す。
というか一瞬でも忘れた俺が憎い。
―――いや呆れたように半目で見ているがアリシア、犯人お前だろ?わかってるからな、早く外してくれよ。
しかし、全く外す気配がない。
すると勇者が鎖を斬ろうと、剣を抜こうとする。
「―――あ、勇者様?鎖を斬ったら怒りますから」
ピタッ。と勇者の動きが止まった
「…………勇者?」
――――――嘘だろう?嘘だよな?
「………僕は、アイスさんを応援します」
そうか、それで?急にどうした?
「だから、だから。頑張って自力で抜け出して下さい!」
「―――おい言った側からへこたれてないか勇者」
おい勇者、お前もか。
そんなにアリシアが怖いか。
―――怖いかもしれないな。
俺もさっきから殺しに来るような視線が凄く気になる。
「…………はぁ~」
そんなアリシアは呆れた様子で、嘆息を漏らした。
「いくら勇者様がいるからって、レクスは一度負けたんだよ?」
「いや、まずこの鎖を外してくれないか?」
「勝つ手立てはあるの?」
――――――何としてでもこのまま行く気だなコイツ。
いつからこんな頑固になったんだろうか。
ならば、俺も全力を尽くそうじゃないか。
「……そうだな、俺は負けた」
全王に言われた通り、全王の実力を示すかませとなった。
氷属性は確かにかませかもしれない。
しかし、これが運命ならば。
―――――かませだというのが運命ならば。
「………ねじ曲げるさ、運命を」
ジャラジャラジャラジャラ!
重い音と共に、鎖が地面に落ちる。
『っ』
鎖を解くことが出来た俺を見て、目を丸くする勇者達。
―――実は先程の一撃で、実は指を数本動かせるようになったのだ。それならば魔術も使って問題なく解ける。
「―――必要なのは、少しの勇気だからな」
手先は器用でな?昔から繊細な作業をして来たお陰だ。
「…………鎖じゃダメか、なら体を覆える拘束衣の方がいいかな―――」
―――何か物騒な言葉が聞こえた気がしたが、知らんったら知らん。
あと早く治癒してくれないか、頼むから。
一刻も早く戻らなくてはいけないんだからな?
「あ、終わりましたよ?」
―――一刻も早く戻ると、そう言われた。
『いや、勝つんかいっ!!!!』
思わずその場にいた全員が叫んだ。
俺に関しては少し既視感を覚えてすらいた。
叫んだ事によって、フローズが俺の存在に気付き顔を赤らめる。
「アイス様!無事だったのですね?」
「フローズ………お前こそ無事なんだな」
………何故だ、嬉しいのに素直に喜びにくいな。
これは、あれだろ?
絶体絶命のピンチ状態のフローズを俺が助ける的な場面―――多分ピンチまで待てねぇな、危ないだろうが。
というか俺は負けたんだが?散々格好いい事言ってキメてきたのにお前らが勝ったら格好悪くなるだろうが。
―――言えるわけがない。
既にフローズ達は俺の時間稼ぎのために満身創痍の状態だ、それを否定するような状況を求めるのは間違っているだろう。
しかし、なんだこの虚無感。
「その、大丈夫なのか?不利になると俺とかに化かされたり……」
「してきましたよ?」
うん?そうなのか?
であればその傷は―――
「―――なので余計にやってしまいました。アイス様を模すなど許される所業じゃないので」
………………へぇ?よし、深く考えるのはよそう。
なんか戸惑った俺がバカみたく見える。
他の副官達も勇者の元へ駆けていき、勇者もまた明るい表情で彼女達を迎え入れた。
「皆!無事だったんだね!」
「勇者様」
「強いのは知っていたけど、心配したんだよ!?少し複雑だけど、まさか勝てるなんて……!」
「勇者様」
「……んん?」
「勇者様」
「は、はい………え、どうしたの皆?顔が怖いんだけど?」
「勇者様、覚えていますよね?」
「えっと…………ごめん、何の話かな?」
「とぼけなくてもいいんですよ?私達はそのお陰で勝てたと言っても過言じゃないのですからね」
「脳内で録音してあるよ~」
彼女達は口を揃えていった。
『生きて帰ったら何でもしてくれるのでしょう?』
「………あっ」
ようやく思いだしたように、勇者はか細く呟いた。
何か約束事をしていたようだ。
『言いましたよね?』
―――しかし、既に弁明も撤回も許されないだろう。
聞く話でも彼女達は生き残り、あまつさえ結果を残したのだから。
「………良心の範囲でお願いします」
勇者としては、手柄もなくかなり複雑な心境だろうが。
「しかし本当に、よく倒せたな?死骸はどこだ?」
「あちらに………正直見たくもないですがね」
そういわれて指をさした先には、全王が氷浸けにされている姿があった。
「―――っ」
それをみて、俺は息を呑んだ。
全王は倒されている、それは確かに確認した。
「フローズ」
「はい、何でしょうかアイス様」
「構えろ」
「はい?」
だが、それはおかしいのだ。
全王を倒したのならばそれが、
―――人の容姿である筈がないのだから。
『見事だ。魔王に引けを取らない、副官には惜しい実力だな』
―――すると、城中に全王の声が響く。
突如、氷の結晶に亀裂が入る。
『アイスも、勇者も誇れ。お前らの従者は素晴らしい』
「……!」
パリィィィン………!!
その亀裂は大きくなり、ガラスの割れるような音と共に結晶が砕け散った。
キラキラと氷が光に反射しながら、全王が姿を現した。
そこには、先程の人間だった全王の姿はない。
竜の様な鋭利な爪と牙、体はさらに一回り大きくなり、
人の面影など全くない、異形の姿。
『だが―――喜ぶには、まだ早い』
驚く彼等を見て楽しむかのように、全王は口角を上げた。
『まさか、今日だけで二回もこの姿を見せるとは思ってなかったぞ』
「第二形態……!?」
勇者が目を丸くする。他の奴等も同様だ。
しかし、あの姿と一度闘った俺は一歩前に出る。
「全王」
『もう、様は付けてくれないのだな?』
「当然だろう?お前はもう倒すべき敵なのだからな……」
普通なら会話もせず、襲うのがセオリーかもしれない。
「―――だが、一つだけ言わせてくれないか?」
『………?』
力をくれた事には感謝してる。
だが俺をかませにしたこと、城を壊したことは許さん。
―――何より、部下に手を出したことは絶対に許さん。
腸が煮えくり返りそうだ。だから油断も余念もなく倒す。
………だがその前に、この状況だろう?
恩も無くなったのだ。
正直前々から思っていた事を戦う前に吐露しても構わないと見た。
俺はかつての主へと言い放った。
「全王って―――かませ以下だよな?」
行くところまで行くかぁ(心の声)
アイス様復活しました。
そしてネカフェで書き上げた作者も復活。
やれば出来るもんですね。