このすば!ぐらんぱ!   作:星子

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会話などが急ぎ足になっている感じはしますが、恐らく不備はないはずです!


第十話 おじいちゃん、散歩に行く 2

ー北の廃城を望む岬ー

 

 

 

 

「その名も、爆裂魔法【インプロージョン】です」

 

 めぐみんは新たな爆裂魔法の名を聞いて、羨望の眼差しでウィズの下に駆け寄った。

 

「さ、流石レイの開発者です!また知らない爆裂魔法の名が出てきましたよ!」

「めぐみんさん、落ち着いて下さい。…まずはレイの原理から説明しましょう」

 

 ウィズが語るには、【エクスプロージョン・レイ】はいくつかの亜所を組み合わせて発動する爆裂魔法である事が分かった。そして今までめぐみんが使っていたのは、【エクスプロージョン・レイ】を構成する亜種の一つという事が分かり、めぐみんとヴァンは感心するように何度も頷く。

 

「成る程。では私は、表面上のレイしか見ておらんかった訳だな」

「ええ、そうなります。めぐみんさんが使っていたという魔法陣は、【インプロージョン】を撃ち出す為の魔法なんです」

 

 そう言って掌を胸まで掲げると、拳大の球体魔法陣を作り出す。めぐみんは、自分が苦労しているものを高精度に作り上げたウィズに、魔術師としての力の差を痛感する。

 

「…凄い。これ程の方が存在していたなんて」

「…こんなもの、恐ろしいだけで凄くなんかありません」

 

 ウィズは不名誉とばかりに首を振る。そして掌のそれを頭上まで浮遊させると小さな咳をした。

 

「…話を戻しますよ。この魔法陣の名前は【バレル】といいます。簡単に言うとエクスプロージョンで出来た砲身ですね。威力は大幅に下がりますがこれ自体にも攻撃能力はあります。操作出来るようになれば、エクスプロージョンより広範囲を攻撃する事が可能です」

 

 そう言うと、半分ほど埋もれた岩に向けてバレルを放つ。水平に放たれたそれは岩を壊すように削っていくと、元の大きさの半分ほどになった所で静かに消えていった。

 ウィズはバレルが消えたと同時に頭上の本体を消滅させ、深く息を吐く。

 

「そ、操作まで完璧。ウィズ!貴女は世紀の大魔術師ですよ!」

 

 興奮するめぐみんは、ウィズの腕を掴むと大きく揺さぶり始める。ウィズは興奮するめぐみんを鎮めるように、そっと彼女の手を離した。

 

「めぐみんさん落ち着いて。爆裂魔法に飲まれないで下さい」

「何を言っているのですか?私は大丈夫ですよ。新しい爆裂魔法を見て興奮しているだけです」

「…ならいいのですが。…では少し脱線してしまいましたが、【インプロージョン】を披露しましょう」

 

 ウィズは高らかに両手を突き出すと静かに詠唱を始める。そして頭上に魔法陣が展開され、そこから【バレル】と同じ大きさの光り輝く球体が出現した。

 しかしそれだけでは終わらない。彼女が出現したそれを胸元まで持ってくると、両手で挟み込むように維持する。そして両手で押し潰すように慎重に圧縮すると、一気に解き放った。

 

 解き放たれたそれは、米粒程度の大きさまで圧縮され彼女の胸元で無数に浮遊する。

 

「…これが【インプロージョン】です。自身の魔力で圧縮してバレルで撃ち出し、相手の体内に送り込んで、二段階目の圧縮を行い起爆させる。これが【エクスプロージョン・レイ】の原理になります。………そうですね、爆発はしませんがレイを撃ち込んでみましょう」

 

 インプロージョンを維持したまま、それの傍らにバレルを作り出す。そしてインプロージョンをバレルに吸収させると、頭上にまで浮遊させた。

 赤熱したように輝く魔法陣は、レイの発射を待ち望んでいるかのようにその輝きの増してゆく。

 

 ヴァンはウィズの目線の先にある建物を見て顔を歪めた。ヴァンの目に映った建物は、件の幹部が根城にしている廃城だったのだ。彼は慌ててウィズを止めようとする。

 

「ウィズ!あそこには!『エクスプロージョン・レイ!!!』………ああ!」

 

 廃城に向けて無音の閃光が放たれる。その光は廃城を真一文字に薙ぎ払うと、物足りなさを感じさせる程に呆気無く消滅した。

 

(………反応が無い?ふう、どうやら幹部には当たらなかったようだな。…ウィズめ、ひやひやさせおって)

 

 ヴァンは安心感から額の油汗を拭う。だがその時、廃城一帯の空気が大きく震動した。そして震源地であろう廃城の一角から、焼けるような爆風が方方へ拡散しヴァン達を襲う。

 

「ごほ!ごほ!な、何で!?何で爆発するの!?」

「な、なんと運が悪い!ウィズ!今あの廃城には魔王軍の幹部が居るのだ!」

 

 それを聞いたウィズは、絶望に顔を歪め頭を抱える。

 

「う、嘘!…私、幹部のどなたかに攻撃して…っ!ヴァンさん!急いで近くの木にしがみついて下さい!爆風が吹き戻ってきます!」

 

 ヴァンは唖然としたままのめぐみんを抱え、近くの木にしがみつく。

 そしてウィズの宣言通り、真空状態となった震源地に向けて焼けるような酸素が舞い戻ってきた。

 

(ぐ…体が持っていかれそうだ!)「め、めぐみん君…大丈夫か!」

「ぐぬぬー!絶対離さないで下さいよ!離したら恨みますからね!」

「ああ!分かっておるよ!…ウィズ!そっちは!」

「たたた助けて下さいーーー!うう腕が千切れてしまいそうですーーー!」

 

 めぐみんはヴァンの鎧に必至にしがみ付き、歯を食いしばって耐えている。一方ウィズは手と手を氷結魔法で繋いでいるお陰でこちらよりも楽に耐えているように見えるが、その代わり体が爆風に煽られて旗のように暴れていた。

 それから数秒間の間、短いようで長かった吹き戻しが終わり、三人の体が地面に吸い寄せられるように重みを取り戻した。

 

「…ぶはあ!…な、なんて威力だ…間近で体感するとここまで強烈だとは。…めぐみん君、怪我はなかったかい?」

「は、はい…力んだせいで少し目眩がするくらいです…」

 

 めぐみんは肩で息をしているが傷らしい傷は見当たらない。それに安心したヴァンは、爆風になすがままにされていたウィズを見遣る。

 手と手を繋いだ氷結魔法は未だ消滅しておらず、まるでその木を称えるかのように五体投地で伏していた。

 

「ウィ、ウィズ…大丈夫か?」

「…は、はい、なんとか。あ~、それよりどうしましょう。まさか彼処に幹部の方がいらっしゃっただなんて…。魔王さんに怒られちゃいますよ…」

 

 ヴァンは、ウィズの口から出てきた魔王という言葉に目を細める。

 

「…ウィズ、魔王さん…とは何の事だ?」

「え…あれ、言っていませんでしたか?私、リッチーになってから魔王城の結界維持の為に魔王さんに雇われているんですよ?」

「結界維持…?け、結界とはあの魔王城に張られた結界の事か?」

 

「はい。昨日お話したリッチーになった後の事なんですが、仕返ししてやろうと魔王城に乗り込んで、幹部の方を何人か懲らしめたんですよ。その時魔王さんに、むやみに人を襲うのは止めるから幹部になってくれないかと言われまして。…あ!私は人間の皆さんに危害は加えたりしませんよ!本当です!結界維持だけのなんちゃって幹部ですから!」

 

 ウィズは両腕を忙しく動かしながら侵略の意思が無い事を示す。ヴァンは再会した時の事もあり大人しく話を聞いていたが、あまりに突拍子のない事に思わず天を仰がざるを得なかった。

 

「…何故そんな軽はずみな事を?」

「…う~ん…思い返してみると、あの時は随分やさぐれていた様な気がします。多分その時はどうにでもなれと思っていたのかも知れませんね。お恥ずかしい限りです…」

 

 ウィズ自身は幹部になった事自体は後悔していないようで、頭を小さく掻くと恥ずかしそうに笑う。

 

「…その、魔王軍の幹部を辞める気は?」

「それは有りえません…今契約を破棄してしまうと、以前のような大規模な戦争になってしまいます。私はリッチーですが人間の心を失ったつもりはありません」

 

 彼女の真摯な訴えはヴァンの耳をしっかりと震わせる。そこまでの覚悟があるならと、彼は彼女に宣言した。

 

「君の覚悟は分かった。だがいずれ来る日に、もう一度だけ同じ質問をさせてもらう。もしその時、君の気持ちが今と変わっておらんようだったら……その時まで、我々人類を頼んだ…」

 

 彼女はその言葉を聞いて悲しげに笑う。

 

「…いずれそんな日も来るのかな…なんて、覚悟していたつもりだったんですけどね…。まさか友人からなんて…思いもよりませんでした」

 

 片や女神の使徒、片や魔王軍の幹部。この相反する二人の道が交わる事は無いのかもしれない。

 二人の間に漂う雰囲気が重苦しいものに変わる。そこに息を整えためぐみんが無遠慮に声を掛けてきた。

 

「まさかウィズが魔王軍の幹部だったとは。まあ、私はレイを完成させるまで討伐する気はありませんよ」

「…めぐみん君、少々物騒な物言いだね?それではレイを覚えた後に討伐するように聞こえるが?」

 

 めぐみんは何を馬鹿なと言いたげに首を傾げる。

 

「? ええ、そう言っているのですが…?いずれ私以外の爆裂魔法使いには全て消えてもらいます。ウィズも例外ではありません」

「君は!」

 

 ヴァンはめぐみんの言葉に困惑しながらも彼女の肩を掴む。彼女は肩を強く掴まれた痛みから眉をひそめた。

 

「い、痛いですよヴァン。…というか貴方も言っていたではありませんか。私は歴史に名を残して偉大なまま死ぬタイプだって。それに関しては間違いじゃありません。私はこの世界で唯一の爆裂魔法使いとして死ぬんです。その他の爆裂魔法使いは不要なんですよ。」

「…めぐみん君、どうしたというのだ…」

「…ヴァンさん、これが爆裂魔法が意思を持った状態です…めぐみんさんが習得したのが何時なのかは分かりませんが、侵食はかなり進んでいるようですね…」

 

 二人の下に歩み寄ってきたウィズは、純真無垢な瞳で静かに暴走するめぐみんを悲しげな表情で見る。そして彼女の手を掴むと静かに魔法を唱えた。

 

「【スリープ】…」

 

 その一言でめぐみんの体の力が一気に抜け、強制的に睡眠状態に入った。

 

「冗談…では無かったのか…」

「ええ、爆裂魔法の意思は周りの被害など一切考えないんです。これ以上使い続ければ、めぐみんさんの体で一般人を殺すかもしれません。そうなったら…私が出会ってきたリッチー達と同じ運命を辿るでしょうね…」

 

 ウィズは思い出す。爆裂魔法に魅入られた者達が人類に被害をもたらし、涙を流しながらダンジョンの奥深くに潜んでいった事を。

 

「………今日はもう帰りましょう。念の為めぐみんさんの魔力は吸収しておきますね」

「吸収?」

「はい。リッチーのスキルにドレインタッチというものがあります。相手の体力や魔力を吸収するスキルです」

 

 ウィズは手を握ったまま目を閉じると、彼女とめぐみんの間に紫色の淡い光が漏れ始める。そしてめぐみんから漏れ出していた光がウィズの方へと移動し始めた。

 

「……うっ!」

「だ、大丈夫なのか?」

「…心配しないで下さい。ゆっくり吸収しているので虚脱感を感じているのでしょう………ふう、これ位で大丈夫でしょう」

 

 そっと手を離しめぐみんを地面に横たわらせると、一先ず安心したのか先程まで暗かったウィズが笑顔を見せた。

 

「ありがとうウィズ。…しかし参ったな。めぐみん君の爆裂魔法を封印してしまうと魔法職が居なくなってしまう。カズマ君にどう説明したものか…」

「え?他の魔法を使えばいいのでは?紅魔族で爆裂魔法を覚えているんです。上級魔法も使えますよね?」

 

 ヴァンは彼女の問に思わず目を伏せる。

 

「え?…ええ!?使えないんですか!?爆裂魔法は使えるのに!?」

「うむ…彼女と出会った時は、それはもう痩せ細っておった。そうなっても初級魔法すら覚えなかったのだ。彼女の爆裂魔法への執着心は本物だよ…」

 

 信じられないといった表情のウィズに同意せざるを得ないヴァン。

 

「な、なんて破天荒な子なの。…はあ、明日から一日一回めぐみんさんを私の店に連れてきて下さい。ドレインタッチで魔力を抜き取ります。」

「そこまでする必要があるのか?あまりにも酷じゃ―――」

 

 めぐみんの寝顔を見ながらそう進言したウィズは、ヴァンの言葉に勢いよく顔を上げる。

 

「何を悠長な事を言っているんですか!昔の私を思い出してください!このままだとアクセルの近くで新たな水源が見つかっちゃいますよ!」

「………あ、ああ…そのような事もあったな。君が姿を消してから、あそこは避暑地になったのだったか…」

 

 数十年前、ウィズが王都近郊の森を悪魔の軍勢ともども何度も爆裂魔法で焼き払い、偶々水源を掘り当てた事件があった。その潤沢な水源は王都の水事情を一気に改善し、掘り当てたウィズにちなんで氷の魔女の湖と名付けられ今日まで親しまれている。

 

「ふむ…という事はあの時から既に?」

「ええ、あの時は魔王軍の侵攻も激しかったですからね。魔力の消費量よりも効率を重視していたら、いつの間にか飲まれていたんです…」

 

 ヴァンが昔の高圧的な彼女を思い出しながら納得していると、彼女が廃城を眺め始めた。

 

「どうしたのだウィズ?」

「いえ…廃城にあった幹部の方の魔力が移動し始めました。これは……ベルディアさん?」

 

 魔力の軌跡を辿っていたウィズはある方向で顔を止める。

 

「ヴァ、ヴァンさん、まずいです!ベルディアさんがアクセルに向かっています!急いで戻りましょう!」

「ベルディア?…!?デュラハンのベルディアか!っち!」

 

 ヴァンは急いでめぐみんを抱え走り出す。ウィズは追従しながら心底困ったように話し出した。

 

「まさかベルディアさんだったなんて。あ~、もし私だってばれたらそれを口実に色々な事されちゃいますよ~…」

 

 

 何やら聞き捨てならない事を話す友人を見て、ヴァンはベルディア討伐を強く誓うのであった。

 

 

 

 


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