このすば!ぐらんぱ!   作:星子

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第二話 おじいちゃん、少年と女神を助ける。

ー駆け出し冒険者の街 アクセルー

 

 

 暖かな風を頬に感じゆっくり目を開けるヴァン。周りにはレンガ造りの家が立ち並び、優しい川のせせらぎが耳に入ってくる。空を仰ぐと、青空を小鳥が優雅に舞っていた。

 

(本当に戻ってきたのだな…しかもおあつらえ向きにアクセルとは。)

 

 生前の風景と少しも変わらない、穏やかな町並みに思わず微笑むヴァン。そしてふと思い立ち自身の掌を見る。

 

(おお、若返っている!いくつの時分かは分からないが、相当若返ったに違いない!それと服まで。感謝致しますエリス様。)

 

 ついつい嬉しくなり、その場で自身の体を弄り始めるヴァン。そうして暫く体の調子を確認していると、ふと周りに視線を感じ顔を上げる。道行く住人が、身体を弄るヴァンを訝しげな目で見ていた。

 

「あ…あっはっは。皆気にしないでくれ。…おおっとそうだ!そこのお嬢さん、私は冒険者になりたいのだが、冒険者ギルドにはどう行けばいいのですかな?」

「あ、えっと…」

 

 誤魔化す様に捲し立ててきたヴァンに、詰め寄られた女性は一歩身を引いてしまう。慌てていたとはいえ、急に迫ってしまった事を後悔するヴァン。

 この後、落ち着いてギルドの場所を聞き直し、目的地へと向かう道すがら言い聞かせるように心の中で自分を戒める。

 

(いかんいかん。この街の大半の場所は知っておるのに、あの誤魔化し方はスマートではなかった。女神の使徒たる者、余裕を持って事に当たらねば。……ふむ。あの頃から増築したようだが門構えは昔のままだな。)

 

 気を引き締め直したヴァンの視界に入ってきた冒険者ギルドの組合旗。意を決して扉に手を掛けると、冒険者達が飲んでいるのだろうか、中の喧騒が耳に入り思わず笑みが溢れる。高ぶる高揚感を胸にヴァンはギルドの門を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドに入ったヴァンは、微かな酒気を感じ左を見る。ギルド内に併設された酒場で、冒険者達が自身の武勇を語り合い笑い合っている。その光景を見ながら微笑んでいると、偶々目の前を通り過ぎようとしたウェイトレスを呼び止めた。

 

「ああ、済まないそこのお嬢さん。私は冒険者登録をしにきた者なのだが、受付窓口は右のあれで良かったかな?」

「はい!冒険者登録はあちらになります!」

「ありがとう。忙しい所呼び止めてしまって済まなかったね。これは心付けだと思って受け取っておくれ。」

 

 ヴァンは懐に忍ばせてあった1000エリスを取り出しウェイトレスに手渡す。

 

「…!?い、いいんですか?」

「ああ。私も冒険者になるからね。この酒場にも世話になるだろう。それはさっきの礼とお近付きの印だよ。」

 

 

 そう言いながら軽くウィンクをするヴァン。ウェイトレスは笑みを浮かべ小さく手を振ると、酒場の方が忙しいようで足早にこの場を後にした。

 手を振り返したヴァンは、登録窓口へと足を運ぶ。窓口の中には豊満な胸を扇情的な制服で包んだ女性が座っており、営業スマイルを振りまいていた。

 ヴァンは受付嬢に悟られない程のスピードでその豊満な胸を目測する。

 

(ほほう、これは…若い頃のテラ位あるか。)「済まないお嬢さん。私は名はヴァン。冒険者登録を行いたいのだが、受付をお願いしてもいいかな?」

「ご来店ありがとうございます。冒険者登録で御座いますね。それでは登録手数料として1000エリス頂きます。」

「ではお願いするよ。」

 

 受付嬢に1000エリスを渡すと、彼女は笑顔を携えたまま受付の奥へと姿を消した。ヴァンは思わず一息つく。どうやら生前、貴族仲間と鍛え上げた女性を不快にさせない視線術は衰えてはいなかったようだ。

 暫くその場で待っていると、受付嬢が大きな魔道具を手に戻ってきた。当時の物と少々形は違うが、それに見覚えのあったヴァンだったが、そんな事を知るはずもない受付嬢は丁寧に説明を始める。

 

「これは冒険者カードを制作する魔導具になります。人体から発せられる微弱な信号を摘出して、お客様の身体情報を数値化する事が出来ます。」

 

 そう説明しながら、ヴァンに一枚の手のひらサイズのカードを差し出す。このカードに各種パラメーター、職業、スキル項目、果てはモンスター討伐情報等が表示されるようになる、可視化魔法で加工された特殊なカードだ。

 

「まずはそのカードを魔導具の台にセットしてもらいまして、セット出来ましたら、次に魔導具上部の水晶に手を翳して下さい。その後は自動で各種パラメーターをカードに出力致します。」

 

 受付嬢の言う通りに魔導具の水晶に手を翳すと、魔導具が起動し淡い光が輝き始める。そしてヴァンの情報を数値化する為、水晶の周りに設置された計測器具が忙しなく動き、摘出された情報が魔力の雫となって魔導具下部の出力器に蓄積され、熱線の様に放たれる。

 

「ふむ、お嬢さん。こんな感じで宜しかったかな?」

「はい、問題ありません。後は冒険者カードが出来上がるまで暫くお待ち下さいね。」

 

 受付嬢の言いつけ通り暫く待っていると、カードに情報を刻んでいた熱線が止んだ。受付嬢がカードを手に情報を確認する。

 

「…筋力、器用度、敏捷性が平均値を上回っています。生命力、知力、魔力、幸運は平均値くらいですね。このパラメーターでしたらルーンナイト、ランサー、盗賊等に向いていますよ。ギルドとしてのお勧めはルーンナイトです。この職業限定のクエストも沢山ありますし。」

 

 そう伝えながらカードをヴァンに手渡す受付嬢。ヴァンはパラメーターの数値を見ながら自身がどのくらい全盛期に戻ったのか思案する。

 

(筋力、器用度、敏捷性が上回っている…か。昔のパラメーターをはっきり覚えている訳ではないが、この数値を見ていると、何故だか我武者羅に身体を鍛えていた事を思い出してしまう。……ああそうか、懐かしいな。社交界でテラと知り合った時の、確か25~6の頃の私か。)

 

 目を閉じ当時の事を思い出すヴァン。上流階級の出来事など上辺だけの些末な事が多く忘れがちだったが、共に魔王軍と戦った戦友、そして何より愛する女性との出会いを忘れる事はなかった。

 懐かしさから自然と笑みを浮かべるヴァン。そんな彼の表情を見た受付嬢は、パラメーターが思ってたよりも良く、その事に喜んでいるのだと勘違いをしていた。

 

「…おっと、待たせてしまって済まないねお嬢さん。なりたい職業が決まったよ。」

「はい。パラメーターも高いですしやはり引く手数多の…」

 

 受付嬢が会話を続けようとするのを手で止め、昔を思い出しながらヴァンは口を開く。

 

 

 

「私はランサーになる事にするよ。」

 

 

 

 そう言いながらヴァンは優しげな笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、勿体無いとルーンナイトを進められたヴァンだったが、丁重に断りを入れ武器を調達する為に武具屋へと向かう。長閑な町並みを堪能しながら歩いていると横目に見えたのはエリス教教会。ヴァンはふと足を止める。

 

(ふむ。私にはエリス様から直々に頂いた加護があるが、やはりエリス教の証がないと何とも締まらんな…)

 

 無いものを掴むように胸元に手を当てたヴァンは、武器を調達した後にエリス教の洗礼を受けようと思うのであった。

 そう決意した後、暫く歩みを進めていると武具屋の看板が見えてきた。特に気負いせず扉を開けると、鍛冶仕事で鍛え上げられた肉体が眩しい、肌の焼けた店主が威勢のいい声で出迎えてくれた。

 

「へいらっしゃい!ウチは色々揃ってるからゆっくり見ていきな!」

「ありがとう。そうさせてもらうよ。」

 

 軽く手を上げそう告げると、槍が立て掛けてあるスペースに足を運ぶ。色々揃っていると豪語するだけあって槍の種類も豊富だ。

 ヴァンは一つ一つ手に取り穂先の作りや柄を吟味していく。暫くそうしていると、それを眺めていた店主が声を掛けてきた。

 

「兄ちゃんランサーかい?どうよウチの武器は。この辺りじゃ一番を自負してんだけどよ。気に入ったものはあったかい?」

「ん?ああ、長々と済まないね。どれも作りが良くて迷っていた所だよ。…そうだ店主殿、私に合いそうな武器を見繕ってはくれないか?」

「あ?まあ別にいいけどよ。自分で選んだ方が手に馴染むんじゃねえか?」

「ふふ。ここに置いてある武器達はアクセル一なのだろう?だったらどれを使っても最高の戦果を上げられる。違うかな?」

「…けっ!言ってくれるじゃねえの。任せな!俺が直々によりすぐりを持ってきてやるぜ!」

「ああ、宜しく頼むよ。」

 

 決め倦ねていた武器選びを店主に任せ、ヴァンは防具選びに専念する事にした。そしてフルプレートメイルを目の前に顎に手を当て思案する。王国軍の槍兵は最前列で大盾を構え壁を作り、突き出した槍で敵を迎え撃つ戦法だったが、冒険者はそうは行かない。基本的に少数精鋭で行動する事を考えると重い装備は以ての外だった。

 ヴァンはフルプレートメイルの横に置いてある軽鎧に目を向ける。チェーンメイルに軽鎧が組み込まれており、動作を阻害せずに戦う事が出来そうだった。

 

「店主殿。防具はこれを頂いてもいいかな?」

「ああ?…おお、それな。分かった、後で採寸すっから待っててくれ。」

 

 防具も選び終え暫くの間店の中を見回っていると、どこからか金属同士が擦れる音が聞こえてきた。音の方に目をやると、店主がいくつかの槍を抱えカウンターに並べている最中だった。

 

「店主殿。よりすぐりは選んでもらえたかね?」

「おうよ!俺が作った槍ん中じゃこいつらが飛び抜けて出来が良い。信じてくれていいぜ!」

 

 満面の笑みでそう言う店主に、ヴァンは期待を膨らませる。そして件の槍達の中から一本を手に取りじっくりと眺め始める。

 ベルゼルグ領アクセルは、魔王軍という事柄から最もかけ離れた街、所謂辺境の街だ。しかし最もかけ離れた土地故に、魔王軍の侵攻を恐れた民草達が多く移住し、辺境の街とは思えない発展をしている。そして冒険者ギルドに至っても、この街を冒険者始まりの街と制定し、積極的に駆け出し冒険者への支援を行ってる。

 そしてそれに伴い武具屋が乱立し、安く質の悪い武具が駆け出し冒険者の手に渡り、十分に力を発揮できないまま、命を落としてしまう事も少なからずあった。

 ヴァンは軽装用のロングスピアの価格を見ながら、その価格に見合わない質の高さに驚く。決して駆け出し冒険者の手に届かない価格ではなく、それでいて素材に拘った一品に、思わず感嘆の息を漏らしてしまった。

 

「へへ、どうよ。駆け出しが買える武器にしちゃあ、上物だろ?」

「ああ、これは本当に素晴らしいね。穂先から石突きに至るまで、店主殿の拘りが感じられる。実に見事だ。」

「そうだろうそうだろう!昔の伝手で良い材料が比較的安く手に入るんだ。後は俺の腕でご覧の通り一級品の出来上がりってもんよ!…っと、それはそうとよ。兄ちゃんさっき軽鎧注文しただろ?てことは待ち構えて戦う戦法じゃないよな?」

「うむ、冒険者は軍隊じゃないからね。自分から攻めるくらいじゃないと意味が無いと思っているよ。」

「やっぱりか。だったらよ…」

 

 店主はよりすぐりの中からある一本を手に取りヴァンに渡す。それは一般的に総称される槍ではなく特殊な形状の斧槍だった。

 

「ふむ、斧槍か。確かにこれなら突き以外の攻撃でも使えるね。」

「だろ?兄ちゃんが軽鎧注文した時にピンときたんだ。こいつなら兄ちゃんの動きに付いて来れると思うぜ。」

 

 自信満々に親指を立てる店主。ヴァンは斧槍の作りに納得すると、店主にハルバードを渡し笑みを浮かべる。

 

「店主殿は商売上手だな。それに人を見る目もあるようだ。そんな店主殿に選んでもらったこの斧槍を買わない訳にはいくまい。これを頂こう。」

「へへ、毎度あり!軽鎧と斧槍合わせて8万エリスだ。」

「うむ。ではこれを…足りているとは思うがしっかり検めておくれ。」

 

 8万エリスを渡し金額が間違いない事を確認すると、すぐに軽鎧の採寸に入る。少々小さく作られていた軽鎧を調整する為、受け渡しは明日になるとの事だった。

 ヴァンはもののついでにと斧槍の柄に石突きの取り付けを依頼する。攻撃手段は多いに越した事はないだろうと、ふと閃いた案だったのだが店主は快く引き受けてくれた。

 そして採寸を終わらせ店主に一言礼を言うと武具屋を後にする。既に西日が眩しく輝いており、足早にエリス教会へと向かうヴァンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、宿で身なりを整えるヴァン。その胸には真新しいエリス教徒の証が輝いており、引き締まった気持ちのまま宿をあとにする。そして約束通り武具屋の前で開店を待っていると、開店準備に外に出てきた店主に、楽しみにし過ぎだと苦笑いをされた。

 そしてヴァンの為に調整された武具を着込み一言礼を言うと、意気揚々と武具屋を後にしようとする。

 

「頑張れよ。未来の勇者。」

「ああ。この店の武具を世界に轟かせてみせよう。」

 

 お互いに笑顔を交わし店を後にしたヴァンは、その足で工事現場へとやってきた。そして現場監督らしき筋骨隆々の男にサトウ・カズマとアクアの事を尋ねると、既にこの現場にはおらず冒険者としての生活を始めたとの事で、急いでギルドへと向かった。

 

「ルナ君!サトウ・カズマという少年と女g…アクアという女性がクエストを受けなかったかね?」

「あら、いらっしゃいませ。そのお二人ですか?…お二人でしたら一時間ほど前にジャイアントトードの討伐を受けて、既に出立されましたよ?」

「そうか、ありがとう!」

「あ!ちょっ!依頼地はアクセルの外れですからねえー!」

 

 焦った様にギルドを飛び出していったヴァンに、受付嬢ルナは二人の行き先を大声で叫び、走り去る姿を見送りながら首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクセル正門を抜け目的地まで走るヴァン。生前、身体が上手く動かなくなり始めた時期の悔しさは記憶に残っており、今の自由に動く身体に少なからず感動を覚えていた。 

 少しの間感動していたヴァンだったが、本来の目的を思い出し頭を振るう。そうして暫く走っていると、何処からともなく強大な神気がヴァンの身体を通り過ぎた。

 

(これは!エリス様とは性質が違うが、正しく神の力!)

 

 アクアが近いと悟ったヴァンは、小高い丘を駆け抜け眼の前の光景に息を呑んだ。

 

 

「ゴーーーッド!ブローーー!!!」

 

 

 そう叫びながら、一匹のジャイアントトードに果敢に立ち向かう少女。アルカンレティアで見た女神アクアの像と姿形が大分違うが、この世界では珍しい水色の髪は、正しく女神アクア足らしめる要素であった。

 そしてその傍らで、神の力に圧倒され立ち尽くしている見慣れない服を着た少年。エリスからの情報を照らし合わせても、彼がサトウ・カズマで間違いないようだ。

 再びアクアを見ると敵との距離はあと僅か。その間にも何やら叫んでいるが、その拳に纏った凄まじい神の力に敵は一撃の下に沈むだろう。そう安心しきって事の成り行きを見守る。しかしヴァンはふと思った。ジャイアントトードは打撃攻撃には強いのではなかったかと。

 そして神の力を纏った拳が、あらん限りの勢いでジャイアントトードに打ち込まれる。が、何事も無かった様に波紋を立てるジャイアントトードの腹、霧散する神の力、そして盛大に捻ってしまった手首。アクアの瞳から大粒の涙が溢れる。

 

「いったあぁーーーい!!!なあぁーんで効かないのよー!私女神なのにぃ!怒りと悲しみもちゃんと乗せたのにぃー!相手は死ぬのにぃー!」

 

 ヴァンとカズマが唖然としながら、草原をのたうち回るアクアを見つめていると、二人はジャイアントトードが動きだした事に気付いた。しかし数瞬の間気が抜けていたせいで間に合わない。その間にゆっくりとした動作で頭からアクアを咥えるジャイアントトード。

 焦ったカズマはアクアの名を叫びながら走り出す。しかし身体能力が低めなのか、あの速度では討伐は間に合っても、アクア自身の大惨事は免れそうにない。

 斧槍を構えるヴァン。そして心の中で槍スキルを発動させる。

 

(突撃!)

 

 【突撃】スキル発動後の方向転換は不可能だが、大地を踏み抜き、一歩目から最高速度で走り出せるランサーのスキルで、敏捷性が高い程その速度も変わる。 

 

 槍を構えたまま風の如く駆けるヴァン。アクアまでの最短距離はカズマの走っているルートなのでカズマに構わず横を通り過ぎる。

 

「ぶわあ!…あぁもう!次から次へと何だってんだよー!」

 

 ヴァンが通り過ぎた風圧でその場に転げてしまうカズマ。初日から散々な目に合う不条理に叫ばずにはいられなかったようだ。

 そんな彼に心の中で謝りながら斧槍を突き出したヴァン。槍先はジャイアントトードの腹に抵抗無く突き刺さる。その余りの衝撃にジャイアントトードは吐き気を催し、捕食中のアクアが太もも辺りまで姿を表した。

 すかさず斧槍を引き抜いて距離を取り、立て続けにスキルを発動する。

 

(頭蓋砕き!)

 

 【頭蓋砕き】元は戦士職で大槌を扱う者達のスキルであったが、斧槍が武器として認められた際に、同じ攻撃が可能という事で斧槍使いのランサーに追加されたスキル。元来のスキルより威力は劣るものの、穂先に付けられたピックにより威力を増幅させている。

 

 柄を回しピック部分をジャイアントトードに向ける。そして勢いをつけて飛び上がり、身体を軸に斧槍を一回転させ、その勢いのままジャイアントトードの頭に叩きつけた。

 枯れ枝を割るような音が聞こえた。どうやら頭蓋骨を叩き割れたようだ。斧槍を引き抜きその場に着地して様子を伺う。アクアは更に姿を表しており、今は腰の部分まで見えている。

 その後、少しの間痙攣していたジャイアントトードは、力無くその場に倒れ込んだ。そしてその勢いで吐き出された粘液塗れのアクアを見て、ヴァンはアクセル近郊の農場視察で、牛の出産に立ち会った事を思い出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、あんたー!大丈夫かー!」

「…ん?ああ、私は問題無いよ。」

 

 覚束ない足取りでこちらに向かってくるカズマ。そんな彼に軽く手を上げると、二人で粘液塗れで蹲っているアクアを見下ろす。

 

「う、うっぐ…に゛、二度も穢ざれ゛だ…。女神な゛の゛に゛!わだじ女神な゛の゛に゛ーーー!!!」

「うお!こっち来んな!は、離れろ!くっつくんじゃねえ!おえ!くっさ!生臭っ!」

「なぁんで私がこんな目に合わなくっちゃいけないのよぉ!うわぁーん!」

 

 必死にしがみつき自身の不遇を訴えるアクアを、鼻を摘みながら引き剥がそうとするカズマ。その間ヴァンは二人との距離をそっと開け事の次第を見守る。

 

「ちょ!あんたも…って何で少し距離開けてんだよ!ああもう!見てないでこいつをどうにかしてくれ!くっそ!はな、離れろぉ!!!」

 

 全力でアクアを引き剥がそうとするカズマの服は色々な液体に塗れ、手を押し付けられたアクアの歪んだ顔も涙と鼻水と粘液に塗れ、流石に見ていられなかった。

 

「アクア様、これをお使い下さい。そしてどうか彼を離してやって下さい。」

 

 突然差し出されたハンカチに驚くアクア。そして粘液塗れの顔をハンカチで拭き取ると、未だ流れる涙を拭い口を開く。

 

「うっぐ…このひとはだれ?」

「はあ…この人は食べられそうになったアクアを助けてくれた人だよ。」

「ぐす…そうなの?」

 

 アクアが舌っ足らずな喋り方でそう聞いてくる。ヴァンはその事に頷くとアクアの前で跪いた。突然の行動に驚く二人を尻目に口を開く。

 

「私の名はヴァン。女神エリス様の神勅により、女神アクア様の天界帰還までの助力になるようにと、仰せつかりました。そちらのサトウ・カズマ少年共々、魔王討伐までの旅にお供致します。」

 

 

 

「「………へ?」」

 

 

 

 突然の宣言に、二人は呆けた顔をヴァンに向ける。そんな二人を見た本人は首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクセルへの帰路の途中、ヴァンとカズマはお互いの事を打ち明け合っていた。

 

「成る程。ヴァンはこの世界で寿命を迎えて、そのエリス様って女神に転生させてもらったのか。」

「そう、本来は妻の向かった天国に行きたいと願ったのだがね。エリス教徒の一人として、エリス様直々の頼みとあらば、拝命しない訳にはいかなかったのだよ。」

「ふ~ん…。」

 

 そう言いながら快活に笑うヴァンを見て、カズマは自分の置かれた境遇を恨み、前を歩くアクアを睨みながら唇を噛む。

 

(……くっそ羨ましい!方や転生特典有りで支度金付き?こちとら使えない女神と無一文だったんだぞ!あ~、あれもこれも全部アクアのせいだ…。あいつを女神と呼ぶのは金輪際止めよう。そうだ駄女神だ、駄女神で十分だ。)

 

 怨嗟の念をアクアに浴びせながらそう誓うカズマ。そんな事など知らないアクアは笑顔で振り向き、ヴァンに声を掛ける。

 

「ねえ、ヴァン。」

「はい、アクア様。どうかされましたかな?」

「えへへ、呼んでみただけ。」

 

 はにかみながら、再び前を向いて歩き始める上機嫌なアクアと、それを見て微笑むヴァン。その恋人のような応酬に、カズマはこめかみに青筋を立てる。

 

「こんの駄女神!様付けされて浮かれてんのなんてお見通しなんだよ!いい加減鬱陶しいわ!」

「な!?何よ突然!っていうか駄女神?!このアクア様に向かって駄女神ですって!訂正しなさいよカズマ!今すぐ訂正しなさいよぉ!」

「いーやーだーね!訂正してほしかったら、女神としてそれなりに振る舞いやがれってんだ!ヴァンからもこいつに言ってやってくれよ!」

「残念でしたー!ヴァンは私の味方ですぅ!という事でヴァン!一緒にカズマを懲らしめるわよ!」

「はっはっはっは!二人の相性は抜群みたいだ。」

 

 

 

「「んなわけあるかぁー!!!」」

 

 

 

 正門前で騒ぐ三人を夕日が照らす。ヴァンは傾いた夕日に目を細めながら思う。楽しい冒険になりそうだと。

 

 

 




天国にいるテラよ、穏やかに過ごしているだろうか?
再び現世に舞い戻った私は元気に過ごしているよ。
そうそう、サトウ・カズマ君とアクシズ教の女神アクア様にも無事会えたんだ。
しかし、エリス様の時も思ったがやはり女神というのは年相応の少j――――

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