このすば!ぐらんぱ! 作:星子
ーアクセルの宿屋ー
「くぁ…はあ。」
朝日が登る前に目を覚ましたヴァン。若い身体ではあるが元は老人だった為、自然とこのような時間に起きてしまうのだ。
(…自由を謳歌しようと決意したつもりだったが、完全な自由というのは、存外手に余るものだな。)
ヴァンは一先ず服を着替え、散歩にでも行こうかと考えていると、ふと、添え付けの机に置いてある物を見る。昨日、大衆浴場からギルドに向かう際、暇つぶしになるかと思い購入した、この世界で親しまれているボードゲームだった。
(…カズマ君達が来るまで何の道暇なのだ。ギルドでゲームに興じるのも一考か。)
そうと決まればと、ヴァンは武具を着込みボードゲームを手に宿を後にした。
ギルドに行く道すがら、顔見知りの住民に挨拶を交わしていく。そしてギルドももう間近という所で、一人の少女が目に入った。
その少女はギルドの扉をじっと眺めており、はたから見ると不審者のそれだ。ヴァンは少女に近付き声を掛けた。
「やあ、おはようお嬢さん。こんな朝早くギルドの前でどうしたのかな?」
「え?……!?、あ、あの!私冒険者で!って、違う!名前はゆんゆんです!冒険者で、ギルドが開くのを、その、待っているんです!!!」
早朝の街に響き渡るゆんゆんの声。矢継ぎ早に喋ったせいか、彼女の息は荒い。ヴァンはそんな彼女に驚くが、気を取り直して微笑み掛ける。
「おお、そうかそうか。ゆんゆん、という名前なんだね?こちらも紹介させてもらおう。私の名はヴァン。同じく冒険者を生業としている者だよ。宜しく、ゆんゆん君。」
ヴァンが握手を求めると、おずおずと握り返すゆんゆん。その瞳には困惑の色が見える。
「あ、あの。私の名前、変に思わないんですか…?」
「ん?愛嬌があって可愛らしい名前だと思うがね?」
ヴァンは、ゆんゆんに目線を合わせて微笑む。彼女はそんなヴァンの視線に恥ずかしくなったのか、顔を紅潮させ俯いてしまった。
恥ずかしさで俯いたままのゆんゆんの目に、ヴァンが持つ折り畳まれたボードゲームが映る。彼女は顔を上げると、遠慮気味に口を開いた。
「あ、あの…。ボードゲーム、お好きなんですか?」
「ああ。昔から暇が出来た時は打っていたね。ゆんゆん君も好きなのかい?」
そう問いかけると、興奮したように頷くゆんゆん。そして、今か今かと次の言葉を待つ彼女に、ヴァンは笑みを零しながら口を開いた。
「丁度良かった。私も相手を探していた所だったのでね。ゆんゆん君さえ良ければ、一局お手合わせ願えないかな?」
「は、はい!喜んで!!!」
嬉しそうに笑うゆんゆんを見ながら微笑んでいると、ギルドの扉が徐に開く。奥から顔を出したのは、開店準備中のルナであった。ルナはこちらに気づくと、微笑みながら話しかけくる。
「あら?お二人ともお早うございます。ゆんゆんさんは今日も早いですね。それにヴァンさんと一緒にいるなんて。一体どうされたんですか?」
「お、お早うございます!ヴァ!ヴァンさんとはさっきお、おお友達になって!これから一緒にボードゲームをやるんです!!!」
「お早うルナ君。ゆんゆん君の言う通りでね、お互いボードゲーム好きという事で意気投合したのだ。ルナ君、開店準備中申し訳無いのだが、ゲームを打つ席を一つ、貸してもらえないかな?」
ルナは興奮しているゆんゆんを見つめる。彼女は、ゆんゆんを取り巻く生活環境を生で見続けてきた。
ある時は、言葉巧みに騙されそうになるのを阻止し。
またある時は、臨時パーティーのお礼にと、報酬の大半を使った贈り物の相談され、それを阻止し。
…等々、日に日に我が子の一挙手一投足を案じる、母親の様な気持ちにさせられていた。
「あの、ヴァンさん。他意は…無いですよね?」
「?。ああ。ボードゲームを打つだけだよ?ルナ君が心配する事でもあるまい?」
ヴァンは、そんな彼女の心境や、ゆんゆんの生活環境など露程も知らない。従って、思った事を素直に口にする事しか出来なかった。
そしてルナは開店準備中にも関わらず、酒場の一席を貸してくれた。…のだが、何故か箒を持ったまま、こちらをじっと見てくる。気にしてはゲームが始められないと、ヴァンは気を取り直してゆんゆんとの対局に臨んだ。
「はい、王手だよ。」
「え!?えー!なんで!?今度はしっかり王様守ってたのに!…ああん!ヴァンさん!もう一戦!もう一戦だけ!」
「ははは!いいとも、何戦でも――」
それから約一時間後。ヴァンはこの一局で、早くも三連勝目を飾った。ゆんゆんの駒の進め方は独特で、守るべき王様も含め、ある程度纏めて動かす癖があったのだ。何故この様な動かし方をするのか。と聞くと、一人じゃ寂しいじゃないですか。と、初心者でも言わない台詞が飛び出し、ヴァンを大いに驚愕させた。
「ゆんゆんさーん?臨時パーティーの方がお見えになりましたよー。」
一度負けてあげようと思い始めた四戦目。唐突に、ゆんゆんを呼ぶ声が聞こえてきた。臨時パーティーの募集をしていたゆんゆんは、その事をすっかり忘れていたのか、はっとした顔で受付窓口に顔を向ける。そこには四人組のパーティーが待っており、ゆんゆんに向かって手を振っていた。
「ご、ごめんなさい…。クエストに行かなくちゃ…。」
「ん、そうなのかい?中々に面白いゲームだったのだが…、長く引き止めても相手に悪いね。今日の対局はこれで終わりにしよう。」
「ほ、本当にごめんなさい!この埋め合わせは、必ずするから!」
「埋め合わせ?……成る程。ゆんゆん君。そんな大仰に考えなくてもいいのだよ。次も気軽にボードゲームを楽しもうじゃないか。ゆんゆん君の挑戦、何時でも待っているよ。」
「!。ぜ、絶対だからね!次は負けないんだから!」
そう言いながら、パーティーメンバーが待つ方に駆けていくゆんゆん。そして一通りの予定を決め、彼女を除く正規パーティーの面々は扉を潜り出発する。最後まで残ったゆんゆんは、ヴァンに小さく手を振ると、急いでパーティーの後を追うのであった。
「…いやはや、何とも危なっかしい子だね。そう思わないかい?ルナ君。」
「あ、あはは。気付いてらしたんですね。その、監視するような真似をして、申し訳ありませんでした…。」
「なに、幼気な女性冒険者の味方をするのも、ギルド職員の役目。君は職務を全うしていると思うよ。」
ゆんゆんが去った後、ヴァンは閑散としたギルド内でルナと雑談に興じていた。そして暫く話し込んでいると、冒険者の笑い声でギルド内が賑わい始めてきた。
「…そろそろ忙しくなってきましたね。ヴァンさん、楽しいお話有難うございました。機会があればまた是非。」
「ああ、私も楽しかったよ。次の機会のために別のネタを仕入れておくよ。」
互いに微笑み合い、ルナは足早に受付へと入っていく。そこに、朝食の注文を終えたカズマとめぐみんが、挨拶と共に声を掛けてきた。
「何さっきの?ルナさんと仲良くなったのか?」
「いやいや、そうではないよ。少し相談を受けてね。私なりに助言していたのだ。」
「その相談とは何だったのですか?」
「彼女自身の問題だからね。誰しも、人に知られたくない事の一つや二つあるだろう?」
「確かに。……っは!。我の身体に刻印されし紋章の場所は、力無き者が知ると、その者に災いが起こりますから、ね!」
「……はいはい、めぐみんかっこいい。」
「んな!」
めぐみんは、即興で思いついた渾身の決め台詞を聞き流され、カズマの肩を揺らす。カズマはめぐみんの嫌がらせもどこ吹く風で、自身の冒険者カードを眺めはじめた。
「おいめぐみん揺らすな~…なあ、ヴァ…めぐみん止めろ~……しつこい止めろ!」
「ふん!私のかっこいい台詞を聞き流すからです!」
「こ、こんの…。面倒臭え。」
「ははは。二人共、今日も元気そうだね。それはそうとカズマ君、スキルポイントが溜まっているようだが、君はスキルを覚えようとは思わないのかな?」
「スキル?…ああ!そうそう!この謎の数字の所だろ?ルナさんも言ってたんだけどさ、どうにも使い方が分からないんだよ。」
カズマは、カードの裏表を交互に見ながら、首を傾げて難しい顔をする。そんなカズマに、配膳された朝食を食べていためぐみんが、口を開いた。
「…んく。冒険者は、誰かにスキルを教われば、スキル項目に表示されますよ。」
「うむ。専門職よりポイントの消費が高く、その効果も低いという欠点があるがね。」
「へえ~。ヴァンの【投擲】や、めぐみんの【爆裂魔法】なんかも覚えらるわけだ。」
「そういう事だn――」
「そうですカズマ!そうなんですよ!!!何ですか?何ですか?覚えたいんですか?ん~仕方ありませんねえ。カズマがそこまで言うのなら教えてあげましょう!そして共に、爆裂魔法の全てを解明しようではありませんか!!!」
机を跨ぎ、カズマの肩を力強く掴むめぐみん。はたから見れば、後少しで鼻先同士が触れる嬉しい状況なのだろうが、カズマの好みは色香漂うお姉さんなのだ。
カズマは、めぐみんの服の隙間から覗く、全く興奮しないチラリズムにがっかりしながら、溜息とともに彼女を押し退けた。
「はあ…。落ち着けロリっ子。ヴァンが凄い目で見てるぞ。」
「ロ、ロリっk!?……す、済みません。興奮していました。」
ヴァンに睨まれ、少しずつ食事を再開しためぐみん。カズマはそんな二人をよそに食事を取りつつ、スキル取得をどうするか考えていた。
そんなカズマに、おずおずとした少女の声が聞こえてきた。
「あ、あの~。あんた達、ちょっといい?」
「?。えっと、どちら様ですか?」
「わ、私はクリス。そんで後ろの子は……ダクネスね。スキルの話が聞こえてさ、盗賊系のスキルなんてどうかな~なんて…。」
「盗賊系のスキル?ヴァン、盗賊スキルってどんななんだ?」
「ふむ…。戦場では索敵や諜報、敵の捕縛などに特化したスキルだったね。ダンジョンでは、罠やアイテムの感知も出来るから、探索には重宝される職と聞くよ。」
「へえ、便利そうじゃん…。よし!クリスさん、でしたっけ?俺の名前はカズマ!俺にスキルを教えてもらえませんか?」
「う、うん!教える教える!何ならタダで教えるからさ、早く!早く外に出よう!!!」
クリスは何故か急かすように外に出ようとする。三人はそんな状況が理解出来ず首を傾げていると、クリスの後ろで黙っていたダクネスが、慌ててクリスを引き止めた。
「お、おいクリス!話が違うではないか!私がパーティー加入の話を切り出すまで、この人達との会話を繋いでくれる手筈だっただろう!?」
「うぇ?!…あ、あはは。私そんな事、言ったっけ?」
ダクネスは、惚けようとするクリスを睨みつける。苦笑いで何とか誤魔化そうとするが、怒った彼女には通用しないようだ。クリスは観念したように肩を落とす。
その際、ヴァンは肩を落としたクリスと目があった。その表情は後ろめたさで満たされており、状況を理解出来ない彼を、更に悩ます事となった。
「はあ、分かったよ。後で取り持ってあげるから…。今はカズマにスキルを教えるから、一旦外に出るよ。あ、カズマ。スキル一個に付きクリムゾンビア一杯ね。」
「はあ!?タダじゃなかったのかよ?!」
そんなやり取りをしながら外に出ていった三人。ヴァンとめぐみんが唖然としていると、今まで何処に行っていたのか、頭にコップを載せたアクアが器用に走り寄ってきた。
「何々?私の宴会芸スキルも見ないで騒いでたけど、一体どうしたの?」
「これはこれはアクア様。いや、妙な少女に話し掛けられましてな…。つい今しがた盗賊スキルを教えるために、カズマ君と一緒に外へ出ていったのです。…………アクア様?宴会芸スキルとは?」
アクアは宴会芸スキルと聞いて、二人から距離を取ると、二本の扇子を広げ高らかに叫んだ――
☆
「きゃーーー!!!パンツ返してーーー!!!」
ギルドから少し離れた路地裏で、聞き捨てならない叫びが響き渡った。
羞恥に顔を歪め、内股になり股間を押さえたカズマの悲痛な叫びだった。
「ぎゃーーー!!!ばっちいーーー!!!」
「ばば、ばっちいとはなんだあ!訂正しろ!って放り投げんなー!」
カズマのパンツが、宙を舞う事になってしまった経緯はこうだ。
スキル【敵感知】【潜伏】を習得したカズマは、クリスに最後のスキルを教わろうとしていた。
窃盗スキル【スティール】。使用者の幸運値次第で、奪い取れるものや確立などが変動する、盗賊の代名詞とも言えるスキルだ。
クリスは自信有りげにスキルを発動する。一瞬の閃光を経て成功した事を確信したクリスは、自身の手の中に有るであろう、妙な温もりを持ったカズマの財布を、ひけらかそうとする。
しかし、手に固く握られていたのは、嫌な温もりで湿った使い古しのパンツだったのだ。
「うえ~んダクネス~、手が気持ち悪いよう~。」
「お、おいクリス止めてくれ。…んん!そんな汚らわしい物を触った手で…っあ!私にさ、触りゅな!
」
クリスは彼女に縋り付き、重鎧にパンツを触った感触を擦り付け、この感触を忘れようとしている。
ダクネスも相当嫌がっているのだろう。クリスを引き離そうと抵抗するが、男のパンツという、汚物を触った手を擦り付けられる不快感に、力が入らないようだ。
「て、てめえら!人のパンツを何だと思ってやがる!こいつはな!ここに来る前からずっと過ごしてきた相棒なんだぞ!相棒に謝れ!」
カズマは、乱雑に積み上げられた木箱の影で急いでパンツを履くと、散々こき下ろされている相棒に代わり、謝罪を要求する。
「何が相棒だ馬鹿!私だってこんなはずじゃなかったんだよ!……もう!あったま来た!カズマ!スティール勝負だ!さっさと覚えて!」
「はあ!?何だよ突ぜn――」
「いいから!!早く!!覚えろ!!」
「は、はい…。」
カズマは、得も言われぬ威圧感に負け、大人しくスティールを習得する。それを確認したクリスは、勝負の内容を話し出した。
「内容はこうだ。今からお互いが同時にスキルを使う。手に入れた物はその人の物になる。どうだい?単純だろ?」
「た、確かに単純だな。………よし乗った!何取られても恨みっこ無しだからな!」
「ふん!次こそは絶対泣かしてあげるよ!」
「行くぜ!」
「「 スティール!!! 」」
一瞬の閃光の後、お互いのスキルが成功した。
カズマは手の中の物を確認するとニヒルに笑う。そして、それを宙に放ると素早く掴みポケットの中に仕舞った。
「ふっ…クリス。お前との勝負楽しかったぜ。もう会う事は無いと思うが、こいつは後生大事に使わせてもらう。あばよ。」
ポケットの中で大事に握られた物…そう、クリスのパンツである。
「うぎゃーーー!!!またパンツだーーー!!!って、待って待って!ちょっと待ってーーー!!!私のパンツ返してーーー!!!」
カズマのパンツを放り投げ、慌ててカズマにしがみ付くクリス。互いに激しいパンツ攻防戦を繰り広げている中、ダクネスは驚愕の顔でカズマを見つめる。
「そ、想像していた以上ではないか…。…んん!これは何としてでも!」
彼女は身震いを一つさせ、カズマを見つめながら下卑た表情を顕にしたのだった。
☆☆
その後、ギルドに帰ってきた三人に気付いたヴァン。
「おお、カズマ君。遅かったじゃないか?盗賊スキルは…ん?彼女は泣いている様だが、一体どうしたんだい?」
「い、いや、ちょっとn――」
「私が説明しよう。クリスはカズマとのパンツ争奪戦で敗れてな。縋り付くクリスを無理矢理引き離し、こう言ったのだ。『クリス。これはお前から仕掛けてきた勝負だ。これは既に、俺にとって超レアアイテムなんだよ。そんな大切な物をタダで!返せなんて、虫が良すぎると思わないか?ん?どうなんだ?返してほしかったら、分かるだろ?全部出せよ。』とな!」
悠々と語るダクネスの言葉に、ギルドに居た全ての女性が、蔑んだ目でカズマを凝視する。
「て、てめえ!パンツ争奪戦って何だ!唯のスティール勝負だったろうが!つうかなに一言一句間違わずに喋ってやがるんd…あ。」
カズマは焦りから、自ら白状してしまった。周りの女性からはカスだのクズだのキモいだの、自害したくなるような言葉が次々と向けられる。
カズマは涙目になり、縋るように愛するパーティーメンバーを見つめる。
「カ、カズマあんた…。女神である私でも擁護出来ない事はあるのよ…。」
「盗賊スキルを覚えて、冒険者から外道にクラスチェンジしたんですか…。」
「カズマ君…。私は命に関わる決断以外は笑って見守ると言ったが、婦女子を暴行するとは何事か…。」
だが、そんなカズマを擁護する様な、愛するメンバーは存在しなかった。とうとう泣き崩れてしまったカズマに、ニヤついたダクネスの追い打ちが浴びせられる。
「ああー!カズマのパーティーには、婦女子が二人も居るではないかー!この二人にもスティールを使う気だろー!はぁはぁ…そ、そうはさせるかー!この二人にはスティールを絶対使わせんぞー!私がパーティーに入って絶対に…んん!食い止めてやるー!…くぅ、ん!け、決して屈しはせんぞー!」
鬼気迫る棒読みで、カズマと二人の間に割って入るダクネス。カズマはゆらりと立ち上がり、スティールの構えを取った。
「てんめえ…さっきから有る事無い事言いやがって…。お望み通り全部ひん剥いてやる…。もうどうなっても知った事か!喰らいやがれ!――」
「ちょ!ちょっとストーっプ!!!お、落ち着けってカズマ!アクセルに居れなくなるよ!」
「……ぐ、わ、分かったよ。」
カズマを慌てて鎮め、ダクネスに向き直るクリス。そして興奮状態のダクネスを宥めるように語り掛けた。
「ね、ねえダクネス。もう諦めようよ?今まで通り私とタッグ組んで一緒に冒険しよう?」
「……クリス。私と初めてパーティーを組んでくれたのはお前だった。その時からこんな私とずっと組んでくれた事には、感謝してもしきれない。友達だと…私は思っている。だが知っているんだぞ!私との冒険じゃ稼ぎが少ないからと、一人で!臨時パーティーに募集している事は!!!」
「え、ええ!?どうしてそんなk…あ。」
泣く泣く吐露されるダクネスの心情に、周りの皆はクリスに非難の目を浴びせる。すっかり忘れられたカズマでさえクリスから身を引き、引き攣った顔をしている始末だ。
「み、皆!違うから!臨時パーティーに入ったのはお金目的じゃないから!ああん!信じてよ!―――」
【緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急、正門前に集まって下さい!繰り返します!――】
緊急クエストを知らせるルナの声に、クリスの言葉は掻き消された。カズマ以外の冒険者が、この時期の緊急クエストに当たりを付けると、一斉に準備に入る。
カズマは慌ただしくなったギルド内で狼狽えながら、近くに居たヴァンに目を向ける。
「何だ何だこんな時に!?き、緊急クエストって何だよ!?」
「…うむ。この時期だと恐らく【キャベツ狩り】の事だろう。今年の出来は如何なものかな。」
「狩り?!キャベツは収穫するもんだろ?」
カズマが頭に疑問符を浮かべていると、大きな籠と虫網を持ったアクアが、足踏みしながら話し掛けてきた。
「そういえばカズマには言ってなかったわね。この世界のキャベツはね、収穫期になると食われてたまるかと、空に飛び立つのよ。そんな折角育てた野菜を無駄にしない為に、この時期になると各地でキャベツ狩りクエストが発生するって訳。」
「アクア様の言う通りだよ。君の世界では、キャベツをどの様に収穫していたかは分からないが、これがこの世界のキャベツの収穫なのだ。慣れておくれ。」
「ええ~…。」
ヴァンはアクアに渡された籠を持ち、アクアの掛け声と共に外に飛び出す。未だ呆気にとられているカズマに、めぐみんが声を掛けてきた。
「カズマ。早くしないと皆に先を越されますよ?捕まえたキャベツは換金対象なので、捕まえた分お金が貰えます。良いんですか?」
「べらんめえ!それを早く言えってんだ!めぐみん!ちんたらしてねえで出発するぜい!」
「あ、待って下さいよカズマ!」
ジャージの片袖を上げ、掌で鼻を掻いたカズマは、めぐみんを連れて飛び出していった。
カズマ一行に取り残されたクリスとダクネスは、唖然とした顔を突き合わせるのであった。
☆☆☆
カズマが急いで正門前に向かうと、既にキャベツ狩りは始まっており、冒険者総出で、空を舞うキャベツを捕まえていた。
「何だこの状況…。」(マジで飛んでんじゃん。気持ち悪!)
「キャベツは傷つけると買取価格が下がりますから、気をつけて下さいね。では私も、程良く狩ったらぶっ放しますので、その時会いましょう!」
「いやぶっ放すなよ…。」
走り去るめぐみんを見送ると辺りを見渡す。剣で斬る者、弓で射る者、それぞれがスキルを使いキャベツを狩っている。盗賊スキルを操る者達も、スティールでキャベツ達を生け捕りにしていた。
(あ、キャベツって物扱いなのね。)「………スティール。」
目の前を通り過ぎようとしていたキャベツに、スティールを使う。すると今まで飛んでいたキャベツが力無く地面に落ち、とても虚しい気持ちに苛まれるカズマ。
溜息を吐きながらそれを籠に入れていると、斧槍の柄でキャベツを叩いていたヴァンから声が掛かる。
「おお!早速スキルが役に立っているようだね!今年のキャベツは出来が良くて、一玉1万エリスらしいから、お互い頑張ろうではないか!」
「あたぼうよ!俺っちに任せろってんだ!」
もう片方のジャージの袖を上げ、掌で鼻を掻いたカズマは、盗賊スキルを使って次々とキャベツ達を狩っていった。
そうしたキャベツ狩りがまだまだ続く中、カズマは休憩の為、地面に座り込んだ。そこに、先程カズマに無実の罪を着せようとしたダクネスが姿を現した。
「カズマ…そ、その、先程は済まなかった!」
「………ッチ!どっか行けよ。」
「…く、んん!はぁはぁ、謝罪を聞きもしないばかりか。し、舌打ちまでされるとは…。」
(えぇ…何この人?悶てるんだけど。こ、怖い!)
カズマは、予想した反応とは違う、不可解な行動を取ったダクネスに驚愕する。その後も恍惚とした表情を崩さない彼女から、カズマが少しずつ距離を取っていると、前方から三人が歩いてきた。
「カズマカズマ!聞きなさい!私はキャベツ80玉は取ったわよ!」
「私は50玉くらいですが、これくらいで十分ですね。後はぶっ放しますよ。」
「ははは、人が居ない所に撃つんだよ。私もめぐみん君と一緒で、50玉前後といった所だね。」
「何よ皆、結構な収穫量じゃない。これはあれね!報酬は別々でいいんじゃないかしら!」
三人でああしようこうしようと話している中、ヴァンは、先程から会話に入ってこないカズマに気付いて声を掛ける。
「カズマ君、どうしたのかね?余り顔色が良くないようだが?」
「………ん」
カズマは一言だけ唸ると、ダクネスの方向に親指を向ける。ヴァンがそちらに顔を向けると、未だ怪しげな表情をしている彼女が目に入った。
「あれは…何をやっているのかな?」
「俺が聞きたいよ。顔見てさっきの事思い出して酷い事言ったら、ああなったんだ…。」
「…ふむ。分かった、私が話をしてみよう。」
ヴァンは小刻みに震えるカズマの肩を叩くと、ダクネスの下に向かい一声掛ける。
「君は、ああ…ダクネス君だったかな?ウチのリーダーに何か用かね?」
「…っはうあ!…こほん、貴方はカズマのパーティーの人だな。改めて紹介させてくれ。私の名はダクネス。冒険者でクルセイダーを生業としている者だ。」
「ほう、クルセイダーとは。こちらも自己紹介させて頂こう。私の名はヴァン。冒険者でランサーを生業にしている者だ、宜しく頼むよ。」
ヴァンは差し出された手を握り返す。そして、数回手を振った所で、ダクネスがヴァンを見て頭を振った。
「?。ダクネス君、どうしたのかね?」
「あ…ああ、済まない。よく見ると親しい人と顔が似ていたものでな。一瞬その人と間違ってしまったのだ。気にしないでくれ。」
「ふむ、そうかい?そういう事なら気にしないでおこう。…して、本筋に戻るのだが、カズマ君に何か用なのかい?」
ヴァンが聞き直すと、ダクネスは申し訳なさそうにカズマに目をやった。どうやら先程の事を悔やんでいるようだ。
「ギルドでカズマに酷い事を言ったしまったので、それを謝罪したいのと。そ…その、わ、私をカズマのパ、パパ!パーティーに、い、入れても、もらいたくて!」
「……ああ、その…間違っていたら済まない。もしや、カズマ君にあんな事を言ったのは、彼の気を引いてパーティーに入るためだったのかい?」
「う…お、概ね正解だ。それ以外にも理由はあるのだが…はぁはぁ…」
「………。」
ヴァンは、転生して初めて頭を抱えた。たかが駆け出しパーティーに入る為だけに、大切な仲間を陥れようとしたのだ。
本当なら説教の一つでもしてやりたい所だが、あの時のダクネスは明らかに可怪しかった。ヴァンは一つの推察に行き当たり、ダクネスの耳元で囁くように呟いた。
「…ダクネス君。この質問には頷くだけでいい。…君はその、被虐嗜好…などを嗜んでいたりするかい?」
「んん!…あ、敢えて小声で囁くとは。『お前が直隠しにしているその汚らしい趣味。暴露されたくないだろ?…クエストが終わった後俺の部屋に来い』と、要求する気だな!」
(この程度の受け答えで、ここまで妄想するとは…。相当深いご趣味のようだ…。)
「ぐあぁーーー!!!」
ヴァンがダクネスの対応に難儀していると、何処からか叫び声が聞こえてきた。何事かと声の方へ振り向くと、男がキャベツに激突されその場に倒れ込んでいた。
その男は素早く立ち上がろうとするが、狙いを定めた大量のキャベツが押し寄せて来ており、回避は間に合わない。
ヴァンは咄嗟に走り出そうとする。が、ヴァンよりも早くダクネスが駆け出し、男を庇うようにキャベツの前に躍り出た。
「ダクネス君!?下がりなさい!いくらクルセイダーでも、その量のキャベツの体当たりは危険だ!」
「ヴァン!私はクルセイダーだ!傷ついた仲間や!力無き民の盾となるのが本懐!それすら出来ないようなら、私の存在理由など最早無い!」
「ダクネス君…。」
ヴァンは、先程までのダクネスとは打って変わった、騎士然とした彼女を目の当たりにする。
そんな彼女の真剣な横顔に、一瞬二人の幻が被った。
(イグニス!違うルーナ!?……い、いやいや有りえん。既に生まれて大きくはなっているだろうが。由緒あるダスティネス家の者が、冒険者に身を費やすなど。…だがあの横顔は確かに。)
ヴァンは頭を振る。そして、キャベツの大群が迫りくる中、彼女が放った言葉に、ヴァンの心の奥で渦巻いていた疑心が、確信へと変わった。
「うぇへへ…。こ、こんな大量のキャベツに、一斉に蹂躙され…じゅるり!ああ、私は無事に立っていられるだろうか…。さ、さあキャベツ共!私を狙え!この男には、指一本触れさせんぞ!」
(…テラよ。私の人生の中で、これほど安心した事はないよ。うむ。彼女は我が家系と顔が似ているだけの、特殊嗜好を嗜んでいる少女だ。)
心を覆っていた雲は次第に晴れていき、ダスティネス家と全く関係ない事を確信したヴァンは、数瞬の間放心してしまった。
そんな彼の耳に、ダクネスの苦痛の叫びが木霊した。
「ダ、ダクネス君!!!今助けるぞ!!!」
「ぐぁ!ぐぅ!…く、来るな!ヴァンではこの猛攻に耐えられない!大人しくみていろ!私の力!貴方に見せてやる!」
「!?」
ダクネスは、キャベツの猛攻が一瞬止んだ隙きに両手剣を構えた。そして第二波に向かって、その両手剣を横薙ぎに振り払った。
「……どうだ!!!」
「…ど、どうだと言われても。あの密集したキャベツ達に、掠りもしないとは…。」
両手剣を薙ぎ払ったままの姿勢で、顔を真赤にして問いかけてくるダクネスに、ヴァンは困惑の色を隠せない。
因みにこの時のダクネスは、絶え間無くキャベツ達の突進に晒されていた。
「…っは!き、君の力量より、早く守りに入るんだ!耐えられなくなるぞ!」
「ぬははぁん!あ、安心しろヴァン!これしきの突進!んん!!爪先立ちでも受け止められるわんん!!!」
(ぼ、防御もしないでキャベツ達の猛攻に耐えている?!なんて馬鹿げた防御力なのだ!)
ダクネスの防御力に驚愕するヴァン。しかし、痛みによる快感を一身に受け、次第に顔が蕩けだしてきたダクネスを見て、ヴァンは表情は引き攣ったものに変わった。
それを見た彼女は、その顔をどう勘違いしたのか、更に顔を紅潮させ、嬌声にも似た叫びを上げた。
「ああんヴァン!そんな下卑た表情で私を見るな!カズマだけではなく、貴方にまで責め立てられたら!ああ、もう駄目だ!もう足腰に力が入らない!…くっ!くやしい!私はこのまま”い”ってしまうのか!ヴァン!カズマ!私は!このまま!”い”ってしまうのかあぁーーー?!!!」
「き、君は何を叫んでおるんだーーー!!!」
「てめえ!しれっと俺を巻き込むなーーー!!!」
ヴァンとカズマは、ダクネスの誤解を招く叫びに我を忘れ走り出し、迫りくるキャベツ達を一心不乱に狩り尽くした。
そして、艶のある吐息を吐きながら、力無く座り込んでいたダクネスを引きずり、周りに話が聞かれない所で放り投げた。
「はぁはぁ…。ふ、二人共、助かった…。あのままではどうにかなりそうだったよ。」
「「………。」」
ダクネスの言葉を無視して、無言で睨む二人。彼女はキャベツ達の突進で満足していなかったのか、そんな二人の視線に身を悶える。
「…んん!こんなになった私を、まだ開放してくれないのか。…ふふふ、やはり私の見込んでいた通りだ!カズマ!ヴァン!剣も碌に扱えない、身体が頑丈なだけの私だが!ぜひとも貴方達のパーティーに入れてくれ!!!」
二人は深い溜息をつく。そして、声を合わせてこう叫んだ。
「「 断わーーーる!!! 」」
キャベツが舞う暖かな昼間時。収穫も終盤に差し掛かろうというアクセル正門前に、二人の男の断固とした決意が響き渡った。
天国のテラへ。
今日はとんでもない騎士の少女に出会ってしまったよ。
とても【 塗り潰されている 】うん…とても疲れた。
…今日はペンが進まないな。
また明日、楽しい事を書こう。…本当につかr―――