このすば!ぐらんぱ! 作:星子
後半短~~い。
一万文字になるのはもう諦めた。
ー冒険者ギルドー
「【クリエイト・ウォーター】!」
カズマが掌を前に突き出し高らかに叫ぶ。すると魔力を帯びた水が掌に集まり、机に置かれたコップめがけ勢いよく…とは行かず、蛇口を軽くひねった程度の勢いで水が注がれた。
「おお!カズマ君、初級属性魔法を覚えたのかね。」
「まあな。俺、一撃熊の時は何も出来なかっただろ?少しでも役に立つかと思って教えてもらったんだよ。ま、威力はお察しだけど、これはこれで色々使えそうだし後悔はしてない。」
対面に座っていたヴァンは、カズマのパーティーを第一に考える心掛けに関心し、何度も頷く。
「威力なんて関係ないさ、その心掛けが素晴らしい事なのだよ。いやはや、伸び代が有るというのは若者の特権だね。羨ましい限りだ。」
「ヴァン。何か言ってることが爺臭いぞ。」
「ん?…はっはっは!カズマ君!私はこんな成り様でも爺だよ。」
件の一撃熊討伐から数日が経っていた。ヴァンはあの時の思い出に耽る。
一撃熊を討伐し、正式にパーティー加入と相成ったダクネスは、気が抜けたのかその場に崩れ落ちた。凄まじい防御力のお陰で外傷などは殆ど見られなかったが、上手く立ち上がれないとの事で、ヴァンに背負われてアクセルまで戻る事に。その後、念の為ダクネスには安静にしてもらい、しっかり養生してから合流する事となったのだ。
「しかし、ダクネス君の防御力は圧巻だったね。あの防御力があれば、君の戦闘にも余裕が出来るだろう。…ああカズマ君。申し訳ないが、このジュースにフリーズを使ってくれないかね?」
「はいよ【フリーズ】。…いやいやヴァン。まだ油断出来ないぞ?あいつの性格とスキルを考えてみろよ?今後どうなるかなんて… 「かっ!…」 …ん?おお、めぐみんじゃないか。ってどうしたんだよ?」
「かかカズマが…ま、魔法を…!わわわ私を解雇する気ですか!?」
朝から響くめぐみんの悲痛な叫び。その叫びを聞いたギルド内の人々は、何事かとカズマとめぐみんを見遣る。
「お、おい!いきなり何言ってるん『そ、そんなのあんまりですよ!ダクネスが入ったからって、まともなウィザードを入れ直そうとするなんて!』って話を聞けえ!」
「………ふふ。」
「 『………ふふ。』 じゃねえよ!ヴァンもこいつの勘違いを 『何でもしますから!荷物持ちでも何でもしますから!あのヌルヌルも耐えますからー!』 あ、あのヌルヌルってなんだーーー!!!誤解を招く言い方はよせーーー!!!」
カズマは、尚も喚くめぐみんに駆け寄り急いで口を塞ぐ。だが、ここまで大声で叫んで気にしない人間など居ない。現にダクネスの時と同じ様に女性陣がカズマの事を白い目で見始め、小声で、しかしカズマに聞こえるように囁きだした。
「うっわ…。あいつまた女の子虐めようとしてるわよ。流石カスマね…。」
「え?ヌルヌル?ヌルヌルって言った?クズマの奴またHな事しようとしてるの?…ホンット最低ね。」
そんな囁きを直接聞かされた本人はたまったものではない。彼の心は彼女達の鋭い言葉で千切りにされ、立っているのがやっとだった。
(…どうもうちの子達は早計が過ぎるきらいがあるね。少々きつく言わないとカズマ君の心が保たないかもしれん。)「…めぐみん君。いつまでも喚いてないでこっちに座りなさい。」
「もごもご?…っぷはぁ。な、何ですかヴァン?そんな怖い顔して…?」
「いいから、す・わ・り・な・さい。」
「は、はひぃ!」
ヴァンはめぐみんに解雇の件は早計だと諭した。事情を知って反省しためぐみんは、恐る恐るカズマに謝罪しようとする。が、既にカズマは俯き静かに泣いていた。声を出さず泣いているのは、僅かに残った男のプライドだろう。本当に悲惨である。
「ど、どうしましょう…カズマが見たこともないくらい本気で泣いてます…。」
「これも君の早とちりと誤解を招く言い方が原因なんだよ。さあカズマ君に…いや、カズマ君は少しあのままにしてやろう…。まずはギルドの皆の誤解を解こうか。」
めぐみんは申し訳なさそうに頭を下げた。そしてヴァンも、蔑称での呼称は控えて欲しいと一緒に頭を下げる。その謝罪の意を汲み取った人々は、バツが悪くなったのか口々に言葉を発した。
「わ、私も言い過ぎたわ。今度から、もう少し様子を見てからにする…ごめんね。」
「私も軽いノリで言っちゃってごめんなさい!そうだよね。自分の名前を侮辱されるのなんて嫌だよね。」
「…皆ありがとう。今後、出来るだけ皆を惑わせないように注意するよ。これからも私達を宜しく頼む。」
ヴァンの真摯な態度に、ギルド内はカズマパーティーの評価を改める。そして件のカズマは、ヴァンとめぐみんの謝罪を聞いて少し立ち直ったのか、涙を流すのを止め元居た席に座った。
「ほら、めぐみん君。」
「か、カズマ…。先程は勝手に取り乱してしまってすみませんでした。私も、その…不安だったもので…。」
「…さっきの謝罪は聞いてたし、もういいよ…。」
「良かったねめぐみん君。今後は 『ヴァン…。』 ん?何だいカズマ君?」
「俺さ、『………ふふ。』って笑った時点で止めてくれれば、そもそもこんな事にはならなかったと思うんだ…。」
「…す、すまない。めぐみん君があんな事を言うなんて思いも寄らなかったのだ……カズマ君!本当に済まないと思っている!不甲斐無い私を許してくれ!」
ヴァンの謝罪に気が抜けたのか、カズマは浅い溜息を一つ吐いて口を開こうとする。しかし、言葉を発しようとした瞬間、ギルドの扉が勢いよく開かれた。現れたのは瞳に大粒の涙を溜めたアクアだった。
アクアはカズマの腰に縋り付き大声で叫んだ。
「酷いわカズマさーーーん!!!昨日の夜!一緒に“い”こうねって言ったじゃない!何で先に“い”っちゃったのよー!お互いこっちに来て、これだけ盛り上がった事無いねって喜んでたじゃない!私達の関係はその程度だったのー?!」
一難去ってまた一難。カズマは諦めたように脱力し、涙を流しながら揺すられている。ヴァンは事情を察して『また謝罪か…。』と深い溜め息を漏らし、その他の年頃の娘達は、顔を真赤にして軽蔑の目でカズマを睨みつけるのであった。
☆
アクアをどうにか諭したヴァンは、先程と同じ工程を繰り返し何とか場を収めた。しかし被害にあった当人は、生気のない目でアクアの見ながら『主語を言えよ。主語をよ…』と呟きながら食事を始めている。
「ね、ねえカズマさん?私謝ったじゃない。なのに何でそんな目で私を見るの?怖いんですけど、すごく怖いんですけど…。」
「アクア様…、これが理不尽に神経を擦り減らされた男の顔です。以後、軽率な言動は控えて下さいますようお願いします。」
ヴァンは例え女神であろうとも、毅然な態度で語る。その静かな圧力に気圧されたアクアは、思わず怖気づいて頷いた。
「わ、分かったわ。女神である私が取り乱してしまうなんて、どうかしていたわね。…カズマ、ごめんなさい。許してくれるかしら?」
「………。」
無言で目を逸らすカズマ。アクアはその事を勘違いして涙目になってしまう。ヴァンはそんなアクアの肩にそっと手を置き微笑んだ。
「アクア様、心配召されるな。カズマ君は私達のリーダー、いつまでも引きずるような事はしますまい。」
「…ヴァン、ずるいぞ。そういうのは本人の居ない所で話すもんだろ。…ったく、分かったよ。もう許すから泣きやめ。おちおち食事も出来ねえよ。」
カズマは、ヴァンを恨めしげに睨んだが笑みを返され、観念したかのように肩を竦める。
アクアが涙を拭い四人がいつもの調子に戻った頃、扉を潜ってダクネスが入ってきた。
「や、やあ。先日は色々と迷惑を掛けて済まなかった。待たせてしまったが、今日から合流させてもらう。皆、これから宜しく頼む。」
丁寧に頭を下げたダクネスの挨拶に、各々が彼女を歓迎する言葉を口にする。そして頭を上げたダクネスは、アクアの目が真っ赤になっている事に気付き口を開いた。
「む?アクア、目元が真っ赤になっているぞ?…っは!まさかカズ !『黙れ!…黙らないと解雇した上に、お前の性癖に尾ひれ付けて言いふらすぞ…。』 …んっ!くぅ!…はあはあ。病み上がりの私に早速容赦ないな…。流石カズマだ。ふへへ…」
『………。』
ダクネスも早速調子に戻ったようで、四人は目を逸らしてしまう。
ヴァンも既に気疲れを起こしており、三度目は勘弁と無理矢理話題を逸らす。
「よし!ダクネス君が来たことだし、キャベツと一撃熊の報酬を受け取りに行こうじゃないか!」
「すっかり忘れてたわ!今日の目的はダクネスの歓迎と、報酬の受け取りと、壊れた武具の新調だったわね!そうと決まれば行くわよ!キャベツの報酬おいくら万円かしら~、楽しみだわ~!」
アクアは、四人に先んじて浮かれたように駆けていく。四人もその後を追うように受付へと足を運んだ。
「やっほ~ルナ!キャベツと一撃熊の報酬受け取りに来たわよ~。」
「お早うございますアクアさん。それにみなさんも。報酬の方は既に用意できていますよ。少々お待ち下さいね。」
そう言って報酬を取りに行ったルナは、暫くすると大きなトレイを持って戻ってきた。五人はトレイに積まれた硬貨袋を目にして目を輝かせる。
「おお!でっかい袋が山積みだぜ!これは皆期待できるんじゃないか?!」
「ふむ。今まではジャイアント・トードの報酬だけだったからなあ。こうして袋で見ると冒険者をやっていると実感してしまうね。」
「この一番大きい袋は絶対私のね!あれだけキャベツを収穫したんだもの!間違いないわ!」
「わ、私のはどれでしょうか?は、早く報酬を貰ってマナ、マ、マナ…じゅるり、マナタイトロッドを……」
「お、おいめぐみん。興奮しすぎで涎が出てるぞ。」
五人共、自分の取り分に期待を膨らませながらルナの分配を待つ。しかし、当のルナは何故か若干の苦笑いを零し口を開いた。
「そ、それでは報酬を分配しますね…。まずはカズマさんから、カズマさんの収穫したキャベツは大変活きが良かったので、報酬額が180万エリスとなります。」
『 ひゃ!180万!?』
カズマ含むメンバーは、提示された金額に度肝を抜かれる。カズマはダクネス暴走事件の際、我武者羅にスティールを使ったのだが、そのほぼ全てが高品質なキャベツという、彼の幸運値に物を言わせた結果になったのだ。
そして、何故かそれに張り合うかのようにアクアが胸を張る。そんな中、ルナは次の分配者の名前を呼ぶ。
「え~、続いては…ダクネスさんですね。一撃熊の討伐本当にお疲れ様でした。我々、アクセル支部も鼻が高いです。それでは報酬金100万エリスとなります。お受け取り下さい。」
恥ずかしそうに報酬を受取るダクネス。四人はダクネスに拍手と賛辞を送る。
拍手を送った後、何故かアクアはダクネスをライバル認定し、腰に手を当て鼻を鳴らした。
そして続いてはヴァンが呼ばれた。キャベツの報酬は80万エリスで、彼は満足そうに受け取る。
『 ふ…ふ~ん、やるじゃないのヴァン!』と一筋の汗を流すアクア。
更に次の分配者を呼ぼうとするルナの声に、『 大きい方が私!大きい方が私!』と呪いを被せるアクア。
ルナは申し訳なさそうに続きを喋りだした。
「…本当に申し訳ありません。めぐみんさん報酬60万エリスです…。」
「なあーんでよーーー!!!あんなに収穫したのにーーー!!!たったのこれっぽっちなんてありえないでしょうがーーー!!!」
ルナの胸ベルトを思いきり掴み上げ、受付窓口から引っ張り出す勢いのアクア。カズマは押し上げられた豊満な胸を食い入るように見つめ、鼻の下を伸ばしている。
ヴァンは四人が慌ただしい中、トレイに残った小さな袋を見てルナに話し掛ける。
「ルナ君。アクア様の言う通り、いくらなんでもこの報酬額は少なすぎると思うのだが。一体どういう事なんだい?」
「じ、実は…アクアさんが収穫したキャベツは殆どがレタスだったんです。キャベツもそれなりにあったのですが、どれも低品質で…」
ルナは、絶望しているアクアにそっと8万エリスの入った小袋を渡す。それをじっと見つめたアクアは、小金持ちとなった四人に向き直り、力の無い声で呟いた。
「さ…酒場に借金が有るんです…。どうか皆様のお力添えを賜りたく…。」
ここで喚かなかったのは、ヴァンの賢明な説得による賜物か。頭を下げたアクアは小さく体を震わせて、拳を固く結んでいた。
アクアが四人から借金しツケを払い終えると、一行は次の目的である武具の新調に向かう事に。だが、武具屋に向かう道のりで、めぐみんのマナタイト愛が暴走してそれを皆で止めたり、ふらふらと別の店に行こうとするアクアを止めたりと、騒がしい雰囲気のまま武具屋に向かうことになってしまった。
店に到着したヴァンは、約一週間ぶりとなる店の扉を開ける。そこには相変わらず良い体をした店主がおり、ヴァンに気付くと豪快に笑いながら手を振ってきた。
「おお、兄ちゃんじゃねえか!あれから斧槍の調子はどうよ?ちゃんと兄ちゃんの役に立ってっか?」
「ああ。しっかりと役に立ってくれたよ。…その話は後で改めて話すとして、まずはこの子達の武具を新調したいんだ。要望に沿うような品を見繕ってくれないかい?」
カズマ、めぐみん、ダクネスの背中を押して店主の前に立たせる。三人はお辞儀を一つすると自分の希望を口々に話し出した。
「俺は、そうだな…服もこれ一着しか無いし、服みたいな防具が欲しいかな。」
「私が提示する額で最高のマナタイトを下さい!」
「私は、物凄く固くて、物凄く重いヘビーアーマーを頂きたい。あ、防御面積は少なくて構わないので…構わないので!」
めぐみんとダクネスの要望に苦笑いを零した店主は、三人の要望を精査する。そして心当たりがあるのか、店の奥に向かって大声を上げた。
「母ちゃーん!女物の採寸と男物の魔法服見せたいから、ちょっと来てくれー!」
店主がそう叫ぶと、店の奥から店主の妻が顔を出して、詳しい説明を受ける。そして人当たりの良い笑顔でカズマとダクネスを連れて行った。
「あっちは嫁に任せとけば大丈夫だ。次は魔法使いの嬢ちゃんだな。金はどんくらい出せるんだ?」
「60万です!!!」
「…め、めぐみん君。食事と寝床はどうする気なんだい。」
ヴァンは何の迷いもなく全財産を投入してきためぐみんに困惑する。少々暴走気味だっためぐみんも私生活の事を指摘され目を覚ましたようだ。
「じょ、嬢ちゃんは羽振りがいいな。だが残念、うちには最高でも50万エリスのマナタイトしか置いてねえよ。『じゃあそれで!!!』 お、おう…。あっちに値札掛けてあっから俺んとこ持ってきな。」
めぐみんはマナタイトが置いてある棚から50万のマナタイトを引っ掴むと、店主の前に杖とそれを置いて、50万エリスを何の躊躇いもなく差し出した。
店主は、再び興奮し出しためぐみんに苦笑いを零しつつ、めぐみんの杖に装着してあった安物のマナタイトに手を翳す。すると、それまで宙を浮いていたマナタイトが、浮力を失い店主の手に落ちた。その後、高価な方のマナタイトを杖に添え、定着した事を確認すると、待ちきれない様子のめぐみんに手渡した。
「おお~!これが安物じゃないマナタイトロッド!な、なんて魅惑的な魔力なのでしょう!それにこの色艶…はあ…はああ!」
「こ、こらめぐみん君!人前で端ない姿を見せちゃいけないよ。」
「ははは!兄ちゃん面白おかしくやってるようじゃねえか!」
「て、店主殿!からかわないでくれ!ア、アクア様!この子を見てやってはくれませんかな?」
「ん~?…あらあら、めぐみんたら。こんなにはしゃいじゃって。分かったわ。めぐみんは任せなさい。」
めぐみんはアクアに連れられ店の外に出ていった。店の外はもっとまずいんじゃなかろうかと心配になっていると、店主が話し掛けてきた。
「最後は兄ちゃんだな。この斧槍はしっかり作ったはずなんだが、一体何があったよ?」
「あ、ああ。実は―――」
ヴァンは一撃熊相手に大立ち回りをした事を話す。そして一撃熊との戦闘を戦い抜いたこの斧槍で、まだまだ戦いたい、との旨を店主に伝えた。
「いいねえ~。兄ちゃんのその考え嫌いじゃないぜ。分かった!ピッカピカに鍛え直して補強もしてやんよ!」
「そう言ってもらえると助かるよ。そうだ、私も報酬が入ったから更にいい素材で鍛え直してくれ。」
「へへ。毎度あり!」
初めて会った時のようにお互いに笑い合っていると、カズマとダクネスが戻ってきた。妻からダクネスとカズマの採寸を聞いた店主は、明日の昼には仕上げると意気込んでいる。ヴァンはまたよろしく頼むと告げると、店を後にした。が、
「わわ、私は止めたのよ!けどめぐみんが止まらなくて!」
「ああ!早く放ちたい!ぶっ放したい!私のこの猛り!早く開放したい!」
『 ………。』
めぐみんが杖を抱きしめ地面を転がっていた。勿論、遠巻きに見られていた。
☆☆
「服が変わっただけなのにカズマが冒険者らしく見えます。」
「うむ。カズマ君よく似合っているじゃないか。」
「まあ、ジャージのままじゃファンタジー感無いし、いい買い物だったんじゃない?」
「ファンタジー感?」
翌日、注文品を受け取り、一旦解散した後ギルドに集まった五人。そこでカズマはいつものジャージではなく、魔法服に着替えて登場した。魔力の糸で編まれた防御効果を持つ服だ。
「へへ。鎧もかっこいいって思ったけど、動き辛くなりそうだしな。魔法も覚えたし、テクニカルな戦い方をしようと思うぜ。」
カズマはそういいながら、魔法を放つポーズをとる。カズマ以外も武具を新調し、冒険への士気が高まっている。
「うむ。私の斧槍も更に硬く、鋭くなった。前回のような失態は晒さないよ。」
「私の鎧も同じだ。この鎧で皆を守りきってみせよう。」
「いいわねいいわね!最強のパーティーっぽくなってきたじゃない!そうと決まれば早速クエストよ!皆ばっかり良い物買って羨ましいのよ!」
「…理由が不純すぎるだろ。嘘でもいいからもっと立派なこと言えよ。」
掲示板の前にやってきた一行は、ぽつぽつと張り出してあるクエストを吟味していた。
「カ、カズマ!巨大熊の討ば!『 却下!』」
「これなんてどうでしょう?ホワイトファングの群れの討伐です。」
「どれどれ…うん。食い散らかされるのがオチだ。却下。」
「カズマカズマ!迷いの森に住み着いた死霊王の討伐ですって!私にうってつけだと思わない?!」
「…一人で一生迷ってろ。却下だ!」
皆、自分の欲求を満たす為だけに高難易度のクエストを選んでいく。カズマは、装備を一新しても纏まりの無いパーティーにげんなりしていると、隣で掲示板を見ていたヴァンが声を掛けてきた。
「カズマ君。ゾンビメーカーの討伐なんてどうかね?初心者向けのクエストらしいよ。」
「ゾンビメーカー?…へえ。低級悪霊の類なのか。あ、街にも迷惑掛けてるな。…レベル的にも丁度良いし、これにするか。」
女性陣はその決定に文句を言うが、カズマは一々聞いてられないと、その一切を無視した。
そして夕刻。件の敵が現れるまで、町外れの丘の上で夕食を取りながら待機する一行。丘の頂上には身寄りのない人達の共同墓地があり、そこが今回のクエストの目的地なのだ。
「あ、カズマ!それは私の口に入るために焼かれたお肉よ!あんたはさっきまで活きの良かった野菜でも食べてなさいよ!」
「うるさい駄女神!今日の食材費、誰が殆ど出したのか忘れたか!てめえは俺の許可無く肉を食うことを禁じる!」
「う…うわ~ん!そんな~酷いよ~!私だって少し出したじゃな~い!」
「二人共食べないのかい?せっかく焼けた肉がかわいそうだね。これは私が頂こう。」
『 ああ!』
ヴァンは、二人が争っている間に焼けた肉を頬張り幸せそうな表情になる。何とも騒がしい食事だが、ヴァンはこういう野外での食事も悪くないと思った。
ふと、共同墓地入り口に目が行く。目に入ったのはフードを被った女性で、墓地内に入ろうとしている最中だった。
(こんな時間に墓参り?…ふむ。)「カズマ君。私は少しこの辺りの見回りをしてくるよ。皆はそのままゆっくり食べているといい。」
「? お、おう。何かあったらすぐ呼べよ?」
ヴァンは食事中の四人に手を挙げると、一人先程の女性の後を追う。
そして墓地内に入り辺りを見回すと、先程の女性が墓地の一角で祈りを捧げていた。ヴァンは近くの茂みから様子を伺う。
(特定の誰かに祈りを捧げている様子もない。彼女は一体…しかし今日は一段と冷え込むな。まだまだ冬も来ていないというのに…!?)
ヴァンは目の前を通り過ぎた白い結晶に目を見開く。
(この季節に雪が降るだと!?あ、有りえん!一体どういう事だ!)
ヴァンが困惑する間にも気温は更に下がっていく。そしてこんこんと雪が降る中、フードの女性が腕を広げ語りかけるような声を出した。
「…不死の王が命ずる。行き場の無い彷徨える魂達よ。我の命に従い、この場に集え。」
すると、彼女が刻んだのであろうか、彼女を中心に大きな魔法陣が淡い光を帯びて現れた。
(不死の王!?彼女はリッチーだというのか!…ちっ!魂が集まりだした!このままではアクセルが危ない!)
リッチーに普通の攻撃が効かない事は分かっていたが、ヴァンはそうも言ってられないと、斧槍を構え勢いよく飛び出した。
(アクア様が魔法の気配を感じ取って来て下さるはず!)「そこまでだリッチー!何を企んでいるかは分からんが、思い通りに行くと思うな!」
「え?あ、あの何でここに人が?ってぶ、武器を下げて下さい!私は悪い事はしていません!」
「ふん!大魔導師の成れの果てが、随分と幼稚な言い訳だな。そんな言葉に騙されるか!目的を言え!」
「ほ、本当ですって!私は管理人さんに頼まれて定期的に浄化しに来てるだけで…あ、そうだ!私この街で魔道具店をやっているんです!ほらこれ証明書です!」
幼さの残る笑顔で徐に近付いてくるリッチー。ヴァンは斧槍を構え直しリッチーを牽制した。
「それ以上近付くな!…その証明書とやら、その場に置いて後ろに下がれ。」
「わ、分かりました。………ど、どうぞ。御覧下さい。」
リッチーが後ろに下がった事を確認すると、ヴァンは牽制しながら証明書拾う。
(…ふむ。確かに出店証明書のようだな。ウィズ魔道具店、提出人ウィズ………はて、ウィズ?)
ヴァンはウィズという言葉に何かが引っ掛かる。なんとか思い出そうと首を傾げていると、リッチーがおずおずと声を掛けてきた。
「あ、あのう…信用して頂けましたか?」
「………リッチーよ。今からいくつか質問をする、正直に答えよ。このウィズというのはお前の名前か?」
「は、はい。そうですけど…」
「年齢は20歳となっているが、これも本当か?」
「そ、そこはその…ちょっと誤魔化してます。」
「爆裂魔法はいくつ使える?」
「確か、5つくらい開発したよう………ん?」
「…現役時代と比べて、随分と丸くなったようだね。」
「え、ええ、色々ありまし…って!な、何でそんな事知ってるんですか!?」
ウィズはヴァンの質問に驚きを浮かべる。ヴァンは武器を下げ、最後の質問を投げかけた。
「ダスティネス・フォード・ヴァントゥスという名前に聞き覚えは?」
「は、はいあります。随分前にお世話にな………っえ?あれーーー!!!もももしかして!ヴァントゥスさん!?え、嘘!?最近亡くなったって聞いたのに!けど若い時のお顔にそっくりだし!え?え?」
「やはり、あのウィズだったか…。」
ヴァンはウィズに近付き証明書を手渡す。そして未だに驚いているウィズに苦笑いを零していると、遠くからアクアの叫び声が聞こえてきた。
「あーーー!なめくじリッチーがこんな所で何してんのよ!悪事なんて許さないんだからね!」
「え、ええ?な、何あの人?あ!ちょ!?私の魔法陣を壊さないで下さい!浄化してる魂達が散ってしまいます!」
アクアは魔法陣の一部をこれでもかと踏み荒らしていく。カズマは必死に止めようとするが力が強いアクアを止めきれないようだ。そこにヴァンも助太刀に入る。
「ア、アクア様!少し落ち着いて下され!この者は私の旧友でして、決して悪い事は致しません!」
「ヴァン!何言ってるの!相手はリッチーなのよ。騙されているだけかもしれないじゃない!」
「そ、その辺りも既に確認致しました!間違いなく私の友です!」
アクアは、そこまで聞いてやっと踏み荒らすのを止めた。しかし、その視線は冷ややかで、ウィズに至っては完全に縮こまっている。
「んで?その旧友とやらが何でこんな所にいるのよ?さっさと答えなさい。」
「っひ!」
「アクア様、ウィズが怯えております…。ここは私が説明致しましょう―――」
ヴァンはウィズの過去に触れないように、現状だけを切り取って話し始めた。
「―――と、いう訳で定期的に除霊を行っているのです。ウィズはリッチーですが、元冒険者で人間の街に長年店を構えている事から、害をなす存在ではないと進言致します。」
「………はあ。分かったわ。ヴァンがそこまで言うなら、今日!だけは見逃してあげる。けど少しでも害をなすような真似をして御覧なさい。容赦なく浄化するんだからね!」
「ひ、ひぃ!わわわ、分かりました~…」
旧友が浄化されるのを何とか防いだヴァンは、安堵感から息を漏らす。それを見計らってカズマが口を開いた。
「ああっと、ウィズさんだっけ?浄化してたって言ってたけど、俺達もゾンビメーカーを退治しに来たんだ。何処かで見なかったか?」
「え?ああ、あの子の事かな?あの子ならふらりと私の所に来たので、一緒に浄化してあげましたよ?ふふ、幸せそうにしていました。」
『 ………。』
微笑むウィズを見ながら、一行は真顔になる。今回のクエストはゾンビメーカーの討伐。パーティーの誰かが討伐しないと依頼達成とならない。よって今回のクエストは失敗となったのである。
「わ、私に害を成すなんて恐れ入ったわ…。こんのなめくじリッチー!いい度胸してんじゃない!宣言通り塵も残さず浄化してあげるわ!【ターンアンデッド】!!!」
「え?え?わ、私なにかいけない事しちゃいま……きゃーーー!あ、熱い熱い!身体が消えちゃう!私リッチーなのに浄化されちゃうーーー!!!」
ウィズは見る見る内に身体が薄くなっていく。アクアの神聖な浄化魔法は、不死の王をも容易く浄化してしまうのだ。
消えゆくウィズを見ながら狂気の笑みを振りまくアクアの頭に、カズマの拳骨が振り下ろされる。
「あいた!ちょっと何してくれてんのよカズマ!リッチーを浄化出来ないじゃないのさ!」
「いい加減にしろ!何も浄化しなくてもいいだろうが!」
「ウィ、ウィズ!大丈夫か!身体はまだ見える!まだ助かるぞ!」
「ヴァンも大分落ち着け!!!」
その後、浄化されてしまってはどうしようもないと、大人しくギルドに報告に向かう一行。最後尾のヴァンとウィズは、四人に聞こえないように話をしていた。
「ウィズ、済まなかったね。」
「いえ、私が悪いんですから気にしないで下さい。それよりも驚きましたよヴァントゥスさん。貴方もリッチーになったんですか?」
「いやいや、私に儀式を行うだけの知識なんて無いよ。…まあ、その事は追々話していこう。ああ、それからウィズ。私の今の名前はヴァントゥスでは無く、ヴァンと名乗っている。今後はそう呼んでもらってもいいかな?」
「え、ええ。それは構いませんけど。…そうだ!積もる話もありますし、何時でもいいのでうちの店に来て下さい!おもてなししますよ!」
ヴァンは笑顔を振りまくウィズを見て苦笑いを零す。思いついたように誘ってきたのは、商売半分、昔話半分なのだろう。
ヴァンはウィズに手を差し出す。彼女は微笑みながらその手を握り返した。
「まさか知己に出会えるとは思ってもみなかった。これからも宜しく頼むよ。ウィズ。」
「ええ、こちらこそ。沢山話したいことが有るんです。何時でもお待ちしていますね。ヴァンさん。」
手を握ったままお互いに微笑み合う。済んだ夜空に、一筋の流れ星が尾を引いた。一度途切れた繋がりを、再び繋ぐように―――
「けど、最初に武器を向けられた時は驚きましたよ。話くらい聞いてくれても良かったじゃないですか?」
「ぐ…済まない。相手が相手だったからね。気が動転していたのだよ…。」
これではめぐみんやアクアの事を言えないな。とヴァンは深く反省するのであった。
天国のテラへ
昨日ダクネス君が合流したのは書いたね。
何と今日は懐かしい友人に再会したのだ。
憶えているかい?以前屋敷に招待したウィズだよ。
昔と違って、とてもお淑やかになっていた。昔はあれだけ暴れ―――