このすば!ぐらんぱ!   作:星子

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チート主人公と戦う普通の敵の気持ちが分かりました。文章が全く思い浮かばず凄く簡素な戦いになってしまうんですね。



第八話 おじいちゃん、勘違い青年にお灸を据える。

ー冒険者ギルドー

 

 

 

「これで【狙撃】と【千里眼】は覚えられるようになったぜ。」

「キース、ありがとうな。」

 

 カズマは数日前にパーティーを組んだキースに、アーチャースキルを教えてもらっていた。

 

「にしても、何でも覚えようとするなお前。何に成りたいんだよ。ひゃっひゃっひゃ!」

「…正直俺にもよく分からん。冒険者って決まりがないからな。案外難しいんだよ。」

 

 困ったように肩を竦めるカズマ。その後も雑談に興じていると、ダストが割って入ってきた。

 

「何だ何だ?スキル教えてたのかよキース?」

「おう、どうしてもっつうからな。ゴブリンの時は稼がせてもらったし、礼だよ礼。」

「ゴ、ゴブリン…うう…ううう…カズマああ!お前苦労してるもんなあ~!その気持ち、よーーーっく分かるぞ!俺達はダチだからなあ!俺に出来ることがあったら何時でも頼ってくれよおお!」

 

 ゴブリン騒動の後、お互いに謝罪した二人。わだかまりが消えた二人に残ったのは、へっぽこ娘達への気苦労の共有だった。そんな事もあり、この二人は今では友人関係にまでなっていた。

 

「お、おう。そん時は頼む。んじゃ、そろそろ戻るわ。」

「ああ?まだいいじゃねえか。…ぐへへ。さっき耳寄り情報をゲットしたんだ。聞いて『 ………ッチ!』ひぃ!!!」

 

 何処からともなく聞こえてきた舌打ちに、ダストは身を縮みこませる。舌打ちをした方を向くと、件のへっぽこ娘代表のアクアが、ダストにガンを飛ばしていた。

 

「あ、あわわわわ…。は、早くあっち行け!俺に近付くな!!!」

「…お前、ぶれっぶれだな…。」

 

 友人関係とは何だったのか。頭を抱え身震いを起こし始めたダストは、カズマを追い返そうとする。そんなダストは放っておき、キースに礼を言ったカズマは四人が座る席に戻ってきた。

 

「…随分楽しそうだったじゃない、勇敢なヒキニート様。」

「ヒキ!?………はあ。もう散々謝ったし、拷問だって受けた。いい加減許してくれよ…。」

 

 カズマはあの時の事を思い出し、身震いを起こした。

 傷付けられては治療され、気が狂いそうになれば治療されの繰り返しで、肉体的にも精神的にも折れることが許されない、生き地獄を味わったのだ。

 

 カズマはそっと涙を流す。

 そこに、紅茶を飲んでいたヴァンが仲裁に入ってきた。

 

「アクア様。カズマ君には十分過ぎる程の折檻を行いました。そろそろ許してあげても宜しいのではありませんかな?…ほら、めぐみん君もダクネス君も…ダクネス君、何で笑っておるのかね。」

「ふ、ふひ?なに、これが噂の寝取られかと思ってな…カズマを私に置き換えて想像していたのだ。」

「わ、私は別に怒っていません。ただ、向こうでのカズマが楽しそうにしてたのが…少しムカついただけです。」

「ヴァン!カズマを甘やかし過ぎよ!こいつはね、悪知恵だけはいっちょ前に働く狡賢いやつなのよ?私達が手綱を握ってやらないと、また暴走しちゃうわ!」

 

「てっめえ!何が手綱を握るだ!お前らの暴走を今まで食い止めてきたのは誰だと思ってやがる!手綱を握ってるのはこっちだ駄女神!」

「何ですってー!カズマのくせに私を制御しようだなんて生意気よ!」

 

 カズマとアクアが取っ組み合いの喧嘩を始めた。その光景を見ていた酒場の冒険者達は、見世物のように盛り上がっている。その中にはダストもおり、カズマの事を応援していた。

 ヴァンは頭を抱える。カズマには紳士的であってほしいと思い、それとなくお手本のような事をしてきたつもりだったが、日に日に冒険者らしくなっていくカズマに、半ば諦めの様なものを感じ始めていたのだ。

 

 

 

 

 その後、カズマのえげつない口撃にアクアが泣き出してしまい、喧嘩の幕は閉じる。

 

「二人共、気は済んだかな…そろそろクエストを見に行こう。…アクア様、お立ち下さい。その悲しみ、クエストにぶつけてしまいましょう。」

 

 

 

 カズマ一行は掲示板の前に赴くと、張り出されているのが高難度クエストばかりで、低難度クエストが無い事に気付く。

 

「低難度クエストが一つもないぞ?どうなってんだ?」

「…珍しい。こんな事も起こるのだな。」

 

「あ、クエストをお探しなんですか?…大変申し訳ありません。現在、北の廃城に魔王軍の幹部らしきものが入り込んでいる、との情報が飛び交っていまして。そのせいか、討伐対象の野生生物が軒並み逃げ出しているみたいなんです。」

 

 ルナは申し訳なさそうに腰を折る。それを聞いたカズマ一行は、お互いの顔を見遣ってどうしたものかと思案する。

 

「冬になる前に出来るだけお金貯めたかったのに、何でこんな辺境に来るんだよ。迷惑な奴だな。」

「全くだ。今から殴り込んで串刺しにして、その首晒してやろうか。」

「ど、どうしたんだよヴァン。何時になく発想が怖えよ。」

 

 前世のヴァンは、青年期には武器を取り、壮年期には指揮を取って魔王軍相手に大立ち回りを繰り広げていた。その時に部下も多くやられており、ヴァンの魔王軍に対する怒りは、計り知れないものになっているのだ。

 

「あ!これなんてどう?私にピッタリのクエストじゃないかしら?」

 

 アクアが手に取ったのは、汚染された湖の浄化という危険度の高いクエストだった。カズマは訝しげな表情でクエストの内容を確認する。

 

「浄化すれば敵は居なくなる、ねえ。…おいアクア。浄化なんて出来るのかよ?あんまり自惚れてると痛い目見るぞ?」

「あんた、今日はやけに絡んでくるじゃない。ふん、まあいいわ。私が何を司る神様か言ってご覧なさい!ヒントはこの美しい髪と瞳よ!」

 

「………聖人君子も真っ青の疫病神?」

 

 ふざけたカズマに飛び掛かろうとするアクア。ヴァンは慌ててアクアを止めると、口早に話を進める。

 

「こら、カズマ君!…アクア様!水の女神たるアクア様にうってつけのクエストで御座いますな!我々は浄化している間、敵の露払いを行えば宜しいのですね?…して、浄化には如何程の時間を要されるのですかな?」

「う~ん…半日くらい?」

「掛かり過ぎだろ!露払いじゃなくて殲滅になっちまうわ!」

 

 カズマは広告を掲示板に叩きつけ、アクアを怒鳴り付ける。アクアは涙を溜め俯いてしまった。

 

「そ、そんなに強く言わなくてもいいじゃない…私だって…役に立ちたいのよ。」

「………あ、ああもう、わあったよ。そこまで言うならやってみろよ。けど、浄化なんてどうやってやるんだ?魔法か?」

「…私クラスの女神になると、身体が触れてるだけで浄化出来るわ。」

「………アクア。要のお前が逃げ回らずに、安全に浄化出来そうな策が有るんだが乗るか?」

 

 ヴァンは、何だかんだで仲間の安全を考慮する、カズマのその性根に苦笑いを零す。

 こうして、カズマ一行の高難度クエストが始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねえカズマ。私、売られる牛の気分なんですけど。本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

 カズマの考えた策。それは安全な檻の中からアクアに浄化してもらおうというものだった。荷馬車に牽かれた檻の中で、アクアが不安そうな表情を見せる。

 

「頑丈な檻借りてきたから大丈夫だ。浄化してる間は俺達でモンスターを引き付けておくから、安心して浄化してろ。」

「わ、分かったわ。けど余りにも原始的過ぎて不安だから、魔法も使ってさっさと終わらせるわね。」

「…はあ。お心遣い感謝しま~す。」

 

 カズマは、一言多いアクアに辟易しながらも目的地を目指した。そして到着後、檻を下ろす前に陽動組に今回の作戦を告げる。

 

「よし、陽動組の作戦はこうだ。俺とヴァンとダクネスで、アクアに襲いかかってくるワニを引きつける。めぐみんはやること無いから座っててよし。以上。」

「な!?何故私が待機なのですか!私だって爆裂魔法で敵を減らす事は出来ます!」

「爆裂魔法なんて撃ったら湖の浄化どころか、湖の蒸発になっちまうだろうが!それにヴァンから聞いてるんだぞ?レイの制御、まだうまく出来ないらしいじゃないか。うっかり俺達に当たったらそのままドカン!なんだよ。今日は大人しく見てろ。」

 

 額を指で弾かれためぐみんは、不満から不貞腐れてしまう。そんなめぐみんを放って作戦を纏めた所で、アクアの入った檻を湖に浸ける作業に入る。

 そして湖に浸けた檻を鎖で繋ぎ、近くの大岩に括り付けた。

 

「アクアー!何かあったら遠慮なく言えよー。」

「分かったわー。んじゃ始めるわねー、ちゃんと見といてよー。」

 

 アクアはそう言うと浄化魔法【ピュリフィケーション】を唱え始める。それを見ていた四人はアクアの浄化魔法の威力に目を丸くした。

 

「ほほう。唱えたそばから水が澄んでいくとは。流石はアクア様。素晴らしいお力だ。」

「確かに綺麗になっていくのを見ると感動するな。」

「うむ。アクアのアークプリーストの力は本物だな。まるで水の女神アクア様のようだ。」

 

 その言葉に顔を逸らす二人。ヴァンは不憫なアクアに同情し、カズマはアクアを馬鹿にする様に肩を震わせる。

 

「まあ、アクアはやる時はやりますからね。このまま浄化するのを見守りましょう。」

「ぷふ…。め、めぐみん。それフラグだから…」

 

 そんな暢気な四人の耳に、アクアの叫び声が入ってきた。

 

「ぎゃ、ぎゃーーー!!!来た!来た来た!何かいっぱい来たーーー!!!たた助けて皆あーーー!!!」

 

 汚染された湖に住み着いた巨大ワニ、【ブルータルアリゲーター】が、枚挙に暇がない程押し寄せてきた。

 

「ど、どんだけ住み着いてんだよ!?くそ!ヴァン、ダクネス!直ぐに向かうぞ!」

「うむ!」

「任せろ!」

 

 急いでアクアの下に向かう三人。そして檻をかじられ怯えている彼女に、大声を掛ける。

 

「アクア!ワニ共はこっちで引きつける!お前は浄化をさっさと終わらせろ!ダクネス!【デコイ】だ!」

「分かった!【デコイ】!!!」

 

 水際でダクネスが囮スキル【デコイ】を発動させる。スキルの気付いた数匹がダクネス目掛けて襲いかかろうとする。だが、湖を浄化しようとするアクアが最優先なのか、途中で引き返してしまった。

 

「くそ!デコイが効かないなんてどうなってんだ!」

「カズマ君!デコイが効いたとしても三人で複数の相手は無理だ!一匹ずつ誘き出す方が良いだろう!」

「ええっと…よし!ダクネス!もう一回デコイだ!」

「任せろ!」

 

 ダクネスはもう一度デコイを発動する。ワニ達は先程と同じ様に、一度こちらに襲い掛かろうとするが、またアクアの下に戻ろうとする。

 そこでカズマは、戻ろうとする最後尾のワニを指して、ダクネスに指示を出した。

 

「ダクネス!一番後ろのワニの尻尾掴んで、こっちに引っ張ってこい!」

「そういう事か!」

 

 ダクネスは尻尾を掴むと、岸へ岸へと引っ張り上げていく。それに怒ったワニは、身体を捻らせダクネスに噛み付いてきた。それを咄嗟に受け止めたダクネスは、その力に身体を押し潰されそうになる。

 

「ぐ、ぐぅ!なんて顎の力だ!初心者殺しなんて比じゃないぞ!…良いなこれ!凄く良いぞカズマ!」

「黙れ!そのまま抑えてろよ!【ティンダー】ーーー!!!」

 

 カズマはワニの喉に手を突っ込んで、着火魔法【ティンダー】を放つ。多めに魔力を注ぎ込んだティンダーは、小さな火炎放射となりワニの内蔵を焼いていく。そして内蔵を焼き切られたワニはその場で力尽きた。

 

「おお!初級魔法をそうやって使うとは!凄いじゃないかカズマ君!」

「へへ!意外と馬鹿に出来ねえだろ?よしダクネス!どんどんやるぞ!」

「ふぅ…落ち着くんだ私。まだあんなに居るんだし、じっくり味合わなくても良いんだ。一瞬一瞬を大事にしよう…。」

「このド変態が!早くしろ!!!」

 

 その後、四匹のワニを同じ方法で討伐したカズマであったが、遂に魔力が尽きかけてきた。肩で息をするカズマは、ヴァンの肩を叩く。

 

「ぜえ…ぜえ…。もう無理、交代して…。」

「ああ、ゆっくり休むと良い。後は任せ…」(そうか。先に身体の中に突っ込んでおけば、敵も倒せるな。)

 

 ヴァンはめぐみんに向き直ると、急いで来るように声を掛ける。

 

「めぐみん君。レイを撃ってくれるかな。」

「レイですか?けど、何処に飛ぶか分からないんですよ?」

「うむ。だから練習するのだ。さっきのカズマ君の戦法を見ておったかな?」

 

 頷くめぐみんの肩を叩くと、ダクネスに喋りかける。

 

「ダクネス君、今度はめぐみん君で行くよ。少し時間が掛かると思うが耐えられるかな?」

「愚問だなヴァン。じっくり味わえるなら私はずっと味わう女だ。永遠でも耐えてやろう!」

 

 最初の台詞以外を聞き流したヴァンは、作戦を再開する。レイの構築を始めためぐみんを合図に、ダクネスがワニを引っ張ってきた。

 

「よしいいぞめぐみん君。練習だからね、全力を出してはいけないよ?」

「はあ、はあ…。分かって…ますよ。」

 

 めぐみんは少ない魔力で魔法陣を維持しようと必死だ。そのせいか、魔法陣の枚数も少なく、維持出来ない何枚かが、今にも消え入りそうになっている。そこにワニの噛み付きに耐えるダクネスから声がかかった。

 

「めぐみん!こっちは何時でも良いぞ!…遅れてもいいぞ!!!」

「い、今行きます。」

 

 魔法陣を壊さないように、ゆっくりとワニの喉に杖を押し込むめぐみん。そして真っ直ぐ飛ぶように心の中で念じ始める。

 

(真っ直ぐ飛べ!真っ直ぐ飛べ!……あわよくばアクアの方に居るワニも…)「…っあ。」

 

 欲の混じったレイが放たれる。直接体内に射出されたワニは喉元から爆散したが、それは真っ直ぐ飛ばず、木陰でぐったりしていたカズマの眼の前を通り過ぎた。彼の脳はその恐怖の光に警鐘を鳴らし、そのまま意識を切ってしまった。

 

「すすす済みませんカズマあ!!!」

 

 めぐみんは顔面蒼白になり、覚束ない足取りでカズマの下へ駆け寄ると、気絶した彼を揺さぶる。

 

「…ヴァン。これは済みませんで済む威力じゃ無いと思うぞ…やはり人の居ない所で練習した方が良いのではないか…?」

「う、うむ…百の練習より一の実戦と思っておったのだが。こうも虐殺的だと人前で使うのは止めた方がいいな…。」

 

 ダクネスとヴァンは首が千切れたワニを見る。そしてこれがカズマに、と想像して戦慄するのであった。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 めぐみんの誤射から数時間が経った。湖の浄化がほぼ終わりに近付く中、ヴァンとダクネスも黙々とワニを討伐しており、気付けばその数も残り僅かとなっていた。

 

「よし、後少しだ!アクア様、もうすぐ片付きますぞ!」

ピュ、ピュリフィケーション…ピュリフィケーション…ピュリフィ…ピュリ…

「アクアのやつ相当参っているな…。檻を攻撃されても反応してないぞ。」

 

 アクアはこの数時間、恐怖心を刺激され続けたせいか、途中から浄化魔法を使うだけの木偶人形と化していた。

 そして何百回目の詠唱か、残ったワニ達は何かを感じ取り檻から離れ始める。

 

「ふう…どうやらクエスト完了のようだね。直ぐにアクア様を回収しよう。」

「…嗚呼、この楽しい時間も終わってしまうのか…。奴らはこれから何処に向かうのだろう…追いかけても 『 駄目に決まっておるだろう?』…くぅん!お、お預け!」

 

 ダクネスには木陰で休む二人を呼びに行ってもらい、ヴァンは一足先にアクアの下へ向かう。彼女は虚ろな目で淡々と浄化魔法を唱えており、澄み切った湖を更に綺麗にしようとしていた。

 

ピュリフィケーション…ピュリフィケーション…

「くっ…お労しやアクア様!」

「ヴァン、お疲れ~…って、アクアのやつ流石に駄目になっちまったか。」

 

 カズマは腰に手を当て肩を落とす。そして四人で暫く考えた結果、帰り道でアクアを説得しようという事になり、そのまま帰路に着くのであった。

 

 

 

 アクアを説得しながらアクセルに辿り着いた一行。しかし彼女は檻から出てこず、未だに浄化魔法を唱え空気を浄化していた。

 

「はあ。こりゃ一日二日はこのまんまだろうな。」

「うむ。あれ程の数のワニを目の前にしたのだ、その心労は計り知れないものだろう。早く強くならないといけないな、カズマ君。」

「………まあ、そうだな。」

 

 

「ア、アクア様あ!?」

 

 

 突如として轟いた叫び声に一行は振り返る。そこに居たのは、立派な鎧を身に纏った一人の青年だった。

 その青年は檻に駆け寄ると、腕力だけで格子を圧し曲げ一行を大いに驚かせた。

 

「こんな所で何をしているのですかアクア様!」

「おい無礼者が。いきなり現れて私の仲間に何の用だ。名を名乗れ。」

 

 ダクネスが睨みを効かせて青年を抑える。その間にカズマはアクアに近寄り小声で話し掛けた。

 

「お、おいアクア!何かお前の事知ってる奴が来たぞ?何とかしろよ!」

「…?ピュリフィケーション?」

「うお!眩し!!!って馬鹿やってないでいい加減戻ってこい!この駄女神!」

 

 アクアは駄女神という言葉に肩を跳ね上げる。そして見る見る内に瞳に生気が宿り、檻の中からカズマの服の襟を掴み上げた。

 

「あ、あんたね!檻の中でどれだけ怖い思いしたと思ってんのよ!謝って!謝ってよ!」

「ぐ、ぐええ!や、止めろ、首が絞まる…。」

「き、君…まさかアクア様を檻に入れたのは君なのか!?」

 

 駆け寄ってきた青年が二人の会話に割り込んできた。カズマを掴み上げたままのアクアは、突然話し掛けてきた青年を訝しげな表情で眺める。

 

「………あんた誰?邪魔しないでくれるかしら?」

「ぼ、僕です!ミツルギ・キョウヤですよ!貴女に魔剣グラムを頂いたミツルギ・キョウヤです!」

「…へ?ミツルギ?魔剣グラム?」

 

 アクアは心当たりの無い単語に疑問符を浮かべる。その間に拘束から抜け出したカズマは、ミツルギが持っている剣を眺めながらアクアに話し掛けた。

 

「…こいつ、お前がこの世界に送った奴じゃないのか?てかお前、自分が送った人間と特典も覚えて無いのかよ。ホント馬鹿だな。」

「な、何ですってえ!カズマこっちに来なさい!その首絞め落としてやるわ!」

 

 格子の間から腕を伸ばすアクア。しかしカズマは少し離れてそれを避ける。先程ミツルギが抉じ開けた所から出ればいいだけなのだが、そこは流石のアクア、期待を裏切らない。

 ミツルギはそんな二人に唖然としていたが、はたと意識を取り戻しカズマの肩に掴みかかった。

 

「き、君!何でアクア様がここに居るんだ!というか何で檻の中に居るんだ!説明しろ!」

「…え?転生特典で持ってきたんだよ。んで今まで湖に浸けてた。」

「は、はあーーー!?君は一体何をやっているんだ!」

 

 ミツルギは胸ぐらを掴みカズマを持ち上げようとする。剣呑とした雰囲気に変わった事を悟ったアクアは、ミツルギを落ち着かせようと身振り手振りを交えて説得を試み始めた。

 そんな雰囲気の中、怒り心頭のミツルギにヴァンが待ったを掛ける。

 

「おい君。カズマ君を放し給え。先程から何の用だと聞いておるのだがね?用が無いのなら立ち去ってはもらえないか?」

「貴方は誰ですか?これは僕とこの男の問題なんです。邪魔をしないで下さい。」

 

 ヴァンは一向に話を聞かないミツルギに困り果てるが、尚も話し掛ける。

 

「私はカズマ君のパーティーの一員で、ヴァンという者だ。彼の問題は私達パーティーの問題、無関係では無いよ。」

「………アクア様をこの様な境遇に追いやった彼を許せないのと、アクア様をこの状況から救って差し上げたいと思っているだけです。」

 

 それを聞いたヴァンは、檻の中のアクアに目配せする。アクアはそれに気付くとミツルギに向かって話し出した。

 

「私としては楽しい日々を送ってるし、まんざらでもないわよ?連れて来られた事だってもうどうでもよくなったし。心配し過ぎよ…グ、グラムの人。」

「という事らしい。直々のお言葉だが、納得してくれたかね?」

「…まだです。僕はまだ納得出来ない。女神であるアクア様が、こんな境遇に置かれる事などあってはならないんだ!アクア様、僕と一緒に来て下さい!最高の待遇でお迎えします!」

 

 アクアは、強引なミツルギに身を引く。他のメンバーも余りにも強引な勧誘に嫌悪感を顕にした。

 

「おい、ミツルギ…だったか?お前は人の話を聞いていたのか?アクア自身が問題無いと言っているのだ。いい加減立ち去れ。」

「まだ余力はあります。撃っていいですか?」

「止めろ、死ぬ。」

「この根拠のない自信は何処から来るのか。呆れてものも言えん…。」

 

「君達はさっきから…へえ。クルセイダー、アークウィザード、それにランサーですか。どうです?貴方達もソードマスターの僕の所に来ませんか?高級な装備を買い揃えてあげますよ?」

 

 その言葉に三人は頭を抱えた。状況を悟ったカズマはミツルギの下から立ち去ろうとする。

 

「あの、ウチのメンバーは満場一致で行きたくないそうなので、これで失礼しますね。それじゃ今後も頑張って下さい。」

「ま、待て!アクア様だけでもこちらに引き渡してもらう。勝負だ。僕が勝ったらアクア様を、君が勝ったら何でも一つ言う事を聞こうじゃないか。」

 

 カズマはミツルギの話に乗ろうとする。目的は戦力強化が期待出来る魔剣グラムだ。

 カズマは、油断しているミツルギの意表を突こうとするが、ヴァンとダクネスに止められてしまった。

 

「何だよ二人共、勝負出来ないじゃないか。」

「なに、彼の魔剣に頼り切った故の傲慢さ、見るに耐えんかったのでね。」

「うむ。私もこの男の鼻っ柱を叩き折ってやろうかと思ってな。心配するな、出番は残すさ。」

 

 不敵な笑みを携えた二人はミツルギを見遣る。ミツルギはそんな彼らを見て余裕の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「分かった、三本勝負という事だね。君たちの内一人でも攻撃を当てられたら、君たちの勝ちで―――」

「ミツルギ君、私達は三人共勝つ。無用な施しをする事はないよ。」

「…なに?」

 

 ミツルギはその言葉に青筋を立てる。そんな彼の前に最初に出たのはダクネスだった。

 

「私から行こう。さあ、何処からでも打ち込んでこい。」

「き、君達は僕の事を甘く見ているみたいだね。…ごほん、分かった。その挑発乗ってあげようじゃないか。行くぞ!」

 

 ミツルギがグラムを構えダクネスに向かって走り出した。

 繰り出された袈裟斬りは寸分違わずダクネスの首元を狙うが、ダクネスはその場から一歩も動かずに立ったままだ。

 そして剣先と首の距離が後僅かという所で、グラムの動きが突然止まった。ダクネスは驚くミツルギに失望する。

 

「…やはり性能頼りの剣なんてこんなものか。」

「う、受け止めた!?ぐっ!動かない!なんて力だ…」

 

 受け止める事に関しては、天才的な才能を発揮するダクネス。熟練の剣士が薄皮一枚だけを狙いすまして斬れるように、皮膚と刃先が触れる直前で受け止める事など、彼女には造作も無い事なのだ。

 剣を動かそうと藻掻くミツルギ。ダクネスは彼の抵抗など無意味とばかりに近付く。そして胸の装甲に掌を宛てがうと、地面に叩きつけるように彼を押し倒した。

 

「ぐあはっ!!!」

「…まずは一勝だ。出直してこい。」

 

 ダクネスは、何事も無かったかのようにその場から離れる。それを見ていたカズマは勝利のハードルが上がっている事に気付く。

 

(ダクネスの馬鹿!そんな格好良く勝っちゃったら俺の戦法が白い目で見られるだろうが!この流れだと次は絶対ヴァンが名乗り出る。俺が先に出ないと!)

 

 カズマは急いでミツルギの前に出ようとする。しかし定められた運命なのか、その行動はヴァンに止められてしまった。

 

「カズマ君、次は私に行かせてくれ。対人戦の妙技をご覧に入れようじゃないか。」

「………。」(ヴァーン!格好いい!格好いいんだけど今はその時じゃないんだーーー!)

 

 カズマは涙を溜めながら心の中で叫ぶ。ヴァンはそんな彼に気付かずミツルギの前に立つと、斧槍を抜いて指先で挑発した。

 

「さあミツルギ君。何処からでも掛かってき給え。」

「…ラ、ランサーの貴方が上位職の僕に勝てるとでも?少々傲慢が過ぎるのでは?」

「ふふ、私の傲慢さなど君の傲慢さに比べれば赤子同然だよ。」

「…そうですか。ではその些細な傲慢を斬り裂いてみせましょう!」

 

 ミツルギは、またしても上段からの袈裟斬りを仕掛けようとする。ヴァンは芸の無いその行動に溜息を漏らしつつ、剣筋を予測して一歩後ろに引いた。

 空振りに終わるミツルギの一撃。一瞬驚いた彼だったがそのまま斬り上げる為、踏み込みながら剣を持ち上げようとする。だが、空振りしている間に【突撃】スキルを発動させたヴァンの方が早かった。

 ヴァンはスキルを発動させた瞬間に、ミツルギの腹部の装甲に石突きを当てると、そのまま押し出すように【肋砕き】を発動する。ミツルギはスキルの勢いに負け、後方に転がるように倒れた。

 

「…う、ぐっ!僕の攻撃が当たらないなんて…」

「壊す勢いでスキルを放ったのだが…頑丈な鎧だね。まあこれで2勝目だ。カズマ君、最後は頼んだよ。」

 

 ヴァンはカズマの肩を叩きながら後ろに下る。当のカズマは涙を堪えきれず空を仰いだ。

 

(ヴァンの馬鹿!綺麗に勝っちゃ駄目なんだって!もうこれどうにもなんねえよ!こんな勝ち方でいいのか!とか、卑怯者!正々堂々と戦え!とか言われちゃうよ!)

 

 カズマは頭を抱えながら身悶える。ミツルギは覚束ない足で立ち上がり、そんな苦悩するカズマに皮肉を言い放った。

 

「…こ、こんなに強いメンバーに囲まれて、君もさぞかし強いんだろうね。」

「………」(【クリエイト・アース】)

 

 カズマは無意味に小馬鹿にされる事を嫌う男だ。そもそも真っ当な特典を貰って、苦労せず過ごしてきたミツルギを良く思っていない。彼の怒りの臨界点はかなり低くなっていた。

 カズマは掌に作り出した砂を握りしめる。そして未だスカした顔をするミツルギに近付くと、彼の目の前に掌を差し出した。

 

「ん、どうしたんだい?…砂?これを僕にぶつける気―――」

「【ウィンドブレス】!!!」

 

「ぎゃーーー!!!目がぁ!!!目がぁ!!!」

 

 カズマは風の魔法を使ってミツルギの目に砂を噴き付ける。そしてミツルギが思わず手放したグラムを持ち上げると、剣の側面で彼の頭を思いきり殴りつけた。

 グラムを叩きつけられたミツルギは、白目を剥いてその場に倒れる。カズマは彼を見下ろし指を指した。

 

「これで三勝目だ。恨むんなら、こいつをお前に寄越したアクアを恨むんだな。」

「何でよ!グラムを選んだのはそこの人よ!私は関係無いじゃない!」

 

 後ろで元凶が叫んでいるが、それを無視して歩き始めたカズマ。そこに二人の女性の声が響いた。

 

「この卑怯者!正々堂々と戦いなさいよ!」

「そうよそうよ!男のくせにこんな勝ち方で良いと思ってんの!」

 

 まだまだ腹の虫が治まっていないカズマは、引きずっていたグラムを突き立てると二人に向かって腕を伸ばす。

 

「な、何する気よ…」

「わ、私達だってキョウヤの仲間なんだから!強いんだからね!」

 

「…男のくせに、か。俺はよお…ここに来てから沢山のものを捨ててきたんだ。ホントもう沢山な…」

 

 カズマから醸し出される只ならぬ気配に怖じ気付いた二人は、身を寄せ合い震え出してしまう。

 

「だからよお、チート野郎の腰巾着風情が粋がってると、人前に出れないくらい痛い目に…合わせたくなるんだよなあ…。」

 

 カズマは下卑た笑みを浮かべると掌を光らせる。脅された二人は、何をされるか分からない心理的恐怖に心が折れ、その場から逃げ出してしまった。

 カズマは逃げ出した二人を見て光を収める。すると細かな砂が道に流れ落ちた。

 

「ふん!一から頑張ってきた俺をコケにするからだ!もう話しかけてくんな!」

「さ、流石はカズマ…カズマの脅しに屈しない女性なんて居るのでしょうか…」

「わ、私は絶対屈しないぞ!さあカズ『 お前には絶対やらない。』…うんん!きょ、今日は焦らしてくれるじゃないか二人共!!!」

「ダクネス君…頼むから叫ばないでおくれ…。」

 

 思わぬ珍事に見舞われた一行だったが、ギルドに向けて再び歩き出す。

 

「んでカズマ、あんたグラムをどうする気なのよ?これはグラムの人専用だから、あんたが使っても良く斬れる唯の重い剣よ?」

「え?まじかよ…ダクネスに持たせても意味無いし…売っちまう…いや、いい事思いついた。ダクネス、一先ずお前持ってろ。」

「? あ、ああ。」

「…カズマ君。また良からぬ事を考えているね…。」

「けけけ、今回は俺のせいじゃない。勝負してきたのはあっちなんだ、絞り尽くしてやるだけだよ。」

 

 

 

 

 夕空を飛んでいた一対のカラス達が鳴き始めた。彼らの物語に笑い転げるかのように―――

 




天国のテラへ

今日は湖の浄化に行ってきたよ。
アクア様の浄化魔法で、湖が綺麗になっていくのは圧巻だったよ。
クエストが完了した後、転生者の青年に絡まれたが皆でお灸を据えてやった。
強すぎる力は心を肥大化させる。私も含め、皆にも言い聞か―――
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