このすば!ぐらんぱ!   作:星子

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試験的に、一話二部構成でお送りします。



第九話 おじいちゃん、散歩に行く 1

ー冒険者ギルドー

 

 

 

 

「お姉さーん!とびきり高いお酒持ってきてちょうだい!後は新鮮なお肉と…ああもう面倒くさい!フルコースで持ってきなさーい!あーっはっはっはっは!」

「…ふっ、そこの君。注文をしたいのだが。この、ええと、散歩するジョニー?をシングルで…え?ラベル?飲み方?…い、一番いいやつに氷入れて下さい…」

 

『 ………。』 

 

 カズマとアクアが何時になく羽振りがいい。他の三人はそんな二人に冷ややかな目線を送っている。

 

「ヴァン。あの二人、流石に怒った方がいいのでは?あれじゃそこらに居る悪徳領主ですよ。カズマは自爆してますが…。」

「う、うむ。道徳的にはいくらでも言えるのだが、今回はミツルギ君の驕りが元凶とも言える。カズマ君はそこを上手く利用しただけだからね。一体どう言えばいいのやら…。」

 

 ヴァンは顔の前で手を組み、頭を預けながら先程の事を思い出してみる。

 

 

 

 十数分前。カズマ一行は、酒場の席で皆一様に暗い顔をしていた。ミツルギに圧し曲げられた檻の修理代で、今回の報酬がほぼ消えてしまったのだ。

 そこにグラムを取り返そうとミツルギが現れた。むしゃくしゃしていたアクアは彼の顔面にゴッドブローを叩き込む。そして、迷惑料その他を上乗せしたお金を彼からふんだくり、彼女の怒りは収まった。

 だが、彼の受難はまだ終わらない。気を取り直してカズマにグラム返却を懇願するが、カズマは彼が言い出した、何でも一つ言う事を聞くという口約束を利用してお金を要求しだした。

 それを見ていたアクアはカズマの真意に気付き、出し渋る彼を二人掛かりで誘導して、大金を手に入れたのだった。

 その後、グラムを取り返したが文無しとなったミツルギは、高難度クエストを受注すると、ギルドから立ち去っていった。

 

「…やり口は汚いが完璧な手腕だった。私では…無理かもしれん。」

「ちょ!?ヴァンが諦めたら誰があの二人を止めるんですか!ダクネス、貴女もヴァンの説得を手伝って下さい!」

 

「嗚呼…私はグラムを持っていただけなのに、いつの間にか犯罪ギリギリの片棒を担がされていたなんて…っは!この後カズマはこう言う気か!『 おいダクネス、今更逃げられると思うなよ?少しでもそんな気起こしてみろ、お前の心とそのスケベな身体から全てを絞り尽くしてやる。』とな!…んきゅ~ん!カ、カズマ!何をだ!私の何を絞り尽くそうというのだ!」

 

「ダ、ダクネス…。ぐす…私のパーティーはもう駄目かもしれない。」

 

 めぐみんは天を仰ぎ静かに涙する。そして居た堪れなくなり、そっとギルドを後にするのであった。

 

 

 

 

 ☆彡

 

 

 

 

 次の日、カズマとアクアは飲み過ぎで酒場の机に突っ伏していた。

 

「二人共、調子に乗るからです。これじゃ今日はクエストに行けないじゃないですか。私の爆裂欲はどうすれば良いんですか?」

「爆裂欲ってなんだよ…魔王軍のなんちゃらの事もあるし、今日は休みにしようぜ…」

 

 めぐみんは、だらしなく突っ伏すカズマに頬を膨らませる。

 そんな時、ルナが慌ただしく酒場に駆け寄り、ここに居る全員に聞こえるように大声を上げた。

 

「皆さん!王都より勅令が出ました!ここより北に位置する廃城に、魔王軍の幹部が牙城を築いたそうです!」

 

 王都からの勅令と魔王軍幹部の派遣という、アクセルには無縁に思える事態に酒場内がざわつく。

 

「これにより、クエストの受注と完了報告は一時的に停止される事になります!勅令の履行は一時間後!まだ完了報告を出していない方は、お早めに窓口までお越し下さい!」

 

 ルナの言葉に、何チームかの冒険者達が慌てて窓口に向かう。

 

「…だってよめぐみん。幹部が討伐されるまで大人しくしとこうぜ。」

「むう…嫌です。この程度では私の爆裂道は揺るがないのです。カズマ、行きますよ。」

「お、おい!まだ頭が痛いんだ、勘弁してくれよ!」

 

「ふふ、まるで兄妹のようだな。」

「ははは。面倒見が良いのがカズマ君の良い所だからね。」

 

 めぐみんはカズマを無理矢理連れてギルドを出ていってしまった。それを眺めていたヴァンとダクネスは、彼らを優しく見送った。

 その後、ダクネスは実家に顔を出す為にギルドを出ていき、アクアもやる事が無いので二度寝しに馬小屋に帰ってしまった。そうして一人残されたヴァンは、腕を組み今日の予定を考え始める。

 

(さて、私はどうしようか。…そうだ。折角お誘いを受けた事だし、ウィズの店にでも顔を出すかな。)

 

 ヴァンは以前ウィズに貰った名刺を取り出すと、僅かに口角を上げて旧友の下へと向かうのであった。

 

 

 

 ○

 山

 

 

 

 

 地図の通りに歩いていると、小さいながらも可愛く飾り付けされた一軒の店が見えてきた。

 

(これはまた随分と可愛らしい店だ。昔の彼女だったら………いや待て。屋敷に招いた時、小さかったイグニスの頬を弄っておったな。昔から可愛いものが好きだったのだろうか?)

 

 漫然とそんな事を考えていると、店の扉を開けてウィズが顔を出してきた。

 

「あらあら、ヴァンさん。来て下さったんですね。さあ遠慮せずにお入り下さい。」

「ああ…そうだね。お邪魔させてもらうよ。」

 

 ヴァンを店内に招き入れたウィズは、お茶の用意をする為に店の奥に入っていった。ヴァンが暫く店内を見渡していると、茶器を運んできたウィズが丁寧に紅茶を入れ始める。

 

「…うむ、とても良い香りだ。」

「ふふ、紅茶には自信があるんです。楽しみに待ってて下さいね。」

 

 紅茶を二人分入れ終わると、小さな机でお茶を楽しみながら、お互いが疎遠になった後の事を語り合った。

 

「…成る程、そんな事があったのか。しかしそのバニルという悪魔、不死の法に精通しておると言う事は高位の悪魔なのだろうな。」

「…ええ、とても凄い方ですよ。解呪の方法は意地悪で教えてくれませんでしたが、あの人が居なかったらと思うと…本当にあの人には感謝しかないです。」

 

 ウィズは、血が巡る事が無くなった手の甲を撫でると寂しげに笑う。エリス教徒としては許されない事だが、ヴァンは間接的にでもウィズの心を救ってくれた、大悪魔バニルに感謝の気持ちを抱くのであった。

 

 

 

 同時刻。薄暗いダンジョンの奥深くで、仮面を被った男の目が、苦虫を噛み潰したようにへの字に曲がった。何処かの二人の念は彼には届かなかったようだ。

 

 

 

 

○山

 

 

 

 

「そうですか…。お孫さんの顔を見れなかったのは無念だったでしょうね…。」

「…そうでもないさ。こうして再び舞い戻ってきたのだ。何処かで顔を拝むことも出来よう。」

「ふふ、確かにそうですね。…あ!そう言えば15年くらい前に一度、イグニス君を…じゃなかったイグニス公爵をお見かけした事があったんですよ!その時小さな女の子と一緒だったので、多分お孫さんは女の子ですよ!」

「ほう…女の子か。」

 

 ヴァンは跡継ぎが女の子と聞いて頬を緩めた。暫くの間、自分が孫娘に構ってあげるとしたら、と想像を膨らませる。

 そんなヴァンを優しげな目で眺めていたウィズは、ふと店の外が夕焼け色に染まっているのに気付く。

 

「あら、もうお外は夕暮れのようですね。楽し過ぎて話し込んじゃいました。」

「…む。おっと、遠慮なく昔の事を話せると口が滑らかになってしまうな。店の方は大丈夫だったのかい?」

「え、ええ!今日はお客さんが偶々!来なかったので大丈夫でしたよ!いつもは満員御礼なんですけどねえ。もう本当、いつも大忙しなんですよ!!!」

「そ、そうか…。繁盛しておるようで何よりだよ。…ではそろそろ御暇させて頂こうかな。今日は楽しかったよウィズ。」

「は、はい、私も楽しかったです。また暇!な時があったらお茶でもしましょうね。」

 

 店先まで見送ってくれたウィズに手を挙げると、ヴァンは笑顔で宿に向かう。実に有意義な時間を過ごせた一日だった。

 

 

 

 

 ☆彡

 

 

 

 

 魔王軍幹部が廃城に根を張って二日目。ヴァンは早朝からギルドに向かっていた。

 

(このまま魔王軍幹部の討伐が遅れれば、直に私の資金も尽きてしまう。そろそろ馬小屋生活も視野に入れなければならんな。)

 

 今後の資金繰りを考えながら歩いていると、前方に見知った姿が見えた。

 

「お早うウィズ。朝早くから何をしておるのかな?」

「あら、お早うございますヴァンさん。私は散歩の途中ですよ。」

 

 ヴァンはギルドまでだが、ウィズの散歩に付き合う事にした。暫く他愛のない会話をしながら歩いていると、またも前方に見知った後ろ姿が見える。

 

「おや、お早うめぐみん君。」

「? ヴァンではありませんか、お早うございます。そちらは、確かウィズさんでしたか?」

「ええ、会うのは二度目ですね。魔道具店を営んでいるウィズといいます。めぐみんさん、宜しく願いしますね。」

 

 二人は握手を交わし、三人で散歩を再開した。

 

「ところでめぐみん君。こんな朝早くからどうしたんだい?」

「今日の爆裂散歩に行く為に、カズマの所に行く途中なんですよ。」

「ば、爆裂散歩?ヴァンさん、一体何の事でしょうか?」

 

 ヴァンはウィズに、めぐみんの素性について話し始める。そして話している途中である事を思い出した。

 

「おおっと、そう言えばレイについてウィズに聞きたい事があったのだった。」

「! ヴァ、ヴァンさん!?何で今その魔法が出てくるんですか!?」

「ん?何故って、彼女に教えておる最中なのだよ。しかし、私は門外漢だからね。開発者の君に―――」

「ななな!なんてものを教えてるのよ!あんなもの人間が使っていい魔法じゃないわ!」

 

 気が動転しているのか、ウィズの口調が友人と話すそれになってしまった。ヴァンは懐かしさを抱きながらも、どういう事かウィズに聞き返した。

 

「ウィズ。君だって人間だった頃、雑魚を相手にしてられないとレイを頻繁に放っておったではないか。」

「あああ…思い出させないで。あの頃の私は爆裂魔法の魔力に取り憑かれていたのよ…。」

 

 ウィズは語る。爆裂魔法に使う魔力はそれ自体に意思が宿る事を。そしてその魔力は爆裂魔法を使い続ける事により、最終的には思考すらも支配してしまうという事を。

 それを聞いたヴァンは、既に取り返しの付かない所まで来ているのではないかと肝を冷やす。

 

「ああ…折角国王様に頼んで、使っても碌な事にならない魔法として広めたのに…一体誰がこの子に教えたの…。取り敢えずめぐみんさん。もう爆裂魔法を使うのは止めて下さい。人生が滅茶苦茶になってしまいますよ?」

 

 ウィズはまだ間に合うと信じて説得を試みる。めぐみんはそんなウィズの肩に手を乗せると、満面の笑みを向けた。

 

「ウィズ…安心して下さい。私は、魔力は飲んでも飲まれるなを信条に生きています。意思の宿った魔力などに屈したりはしません。………そんな事より、ヴァンの言っていたアークウィザードというのは、貴女の事だったのですね。」

「え?な、何の事ですか?」

 

 めぐみんは満面の笑みを崩さないまま、ウィズの肩に乗せた手の力を強める。

 

「散歩…一緒に行きましょう?貴女が知っている事、洗いざらい全て教えて下さい。」

 

 笑顔のままのめぐみんは、とても人懐こい表情をしていたが、薄っすらと開いたまぶたの奥は、とても人様に見せられるようなものではなかった。

 

 

 

 ○

 山

 

 

 

 

 めぐみんの爆裂散歩に付き合う為、三人は人里離れた道を進んでいた。先頭を歩くめぐみんを不安な目で見つめているウィズは、既に何回目か分からない忠告をする。

 

「めぐみんさん。絶対に爆裂魔法なんかに飲まれないで下さいよ?」

「…ウィズ、しつこいですよ。私は爆裂魔法と心中する気はあっても、永遠に生きるつもりはありません。」

「ウィズ。心配し過ぎではないか?私もめぐみん君の事は見てきたつもりだが、彼女はどちらかと言うと、歴史に名を残して偉大なまま死にたいと思うタイプだよ?」

 

 ヴァンの言葉を聞いためぐみんは、その言葉に力強く頷く。しかしウィズは、そんな二人の言葉を鵜呑みにせず、くどくどと語り出した。

 

「いいえ。最初は誰だってそう言うんです。爆裂魔法のせいでリッチーになった方を何人も知っていますが、その方達も同じような事を言っていました。」

 

 ウィズの説教にうんざりしていためぐみんは、目的地に到着すると二人に向き直り腰に手を当てる。

 

「ウィズ、分かりました。もし私が不死の法に手を出したら、その時は遠慮無く討伐してくれて構いません。けど今は、貴女の知っている爆裂魔法を教えてくれませんか?」

 

 ウィズは、めぐみんの命を賭けた宣言に溜息を吐くと、真剣な表情でめぐみんを見遣った。

 

「…分かりました。そこまで言うなら、私が開発した爆裂魔法をお教えしましょう。…その名も―――」

 

 

 

 

「爆裂魔法【インプロージョン】です。」

 

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