魔界都市の幻想郷   作:量産機

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思い付きで久々に始めました。


ごちそうさま

 かつて発生した魔震により一度は崩壊、その後恐るべき異界と化した混沌の地<新宿>。

 ここを人は魔界都市と呼ぶ。

 

 

 外界に暴れ出たら、一国の軍隊すらも相手取る程の異形が住む魔界都市〈新宿〉。そこにも子供はいる。彼らは外界よりも遥かに不思議な体験をし、遥かに危険な日々を送ってはいるが、暮らし自体は至ってのどか、に見える。

 

 

 甘泉園公園の平日午後ともなると、小学校の授業から解放された子供達が遊びに現れる。

 この街の子供達は遊び相手を差別する事はしないが、区別する事には長けている。何故なら、種族によって大きく価値観や食料の対象、力加減が違うなどという事が日常茶飯事だからだ。自然、人間あるいはそれに近い者同士、妖物に近い性質を持つ子は似た者同士でグループを作り、それぞれの縄張り、というか遊ぶに適した場所を見つけていた。人間にはやや危険な、薄暗い妖気の漂う木の陰が密集している辺りには、背丈こそ子供並だが一風変わった子達が遊んでいる。

 全身に拘束衣の様な鎧を着ている子は、自意識で変身を制御出来ない獣人の一族。無意識に化身すれば獣と変わらぬ攻撃性で、鋭い爪と牙を生やし周囲を襲う。鎧は変身の脳波を感知すると自動的に全関節が固定され、内部に仕込まれた鎮静剤を投与して活動を抑える。つまり本人ではなく周囲を守るための鎧であり、区が貸し出している福祉用具の一つであった。

 フードをかぶった垂れ目の子は、体内にヘドロの様な共生生物を住まわせている。何か悪さをする存在ではなく、それどころか宿主を物理的にも霊的にも守護する。トラックに轢かれて無残に引きちぎれた体が元通りに集合して再生し、無差別に呪殺で通り魔を行う祈とう師に呪いを跳ね返すという芸当までやってのける。しかし欠点も多く原因不明の悪臭を身体から放つ事と、強い紫外線に晒されると共生生物が休眠してしまい、宿主も危なくなる。悪臭は特別製の消臭剤を常に持ち歩く事で中和し、日光はフード付きの衣服でシャットアウトする。

 他にも頭部を二つ持つ子、鱗と尻尾が見える子、肌が真っ青な子、そして、金髪にお札紋様が記されたリボンを結う黒衣の女の子。

 

 初めは新型のゲームの自慢や協力プレイ、漫画を取り換えっこして読んでいたが、その内飽きて、身体を動かして遊び出した。鬼ごっこは、空を飛べる黒衣の女の子を鱗の子が大ジャンプの連続で捕まえ、かくれんぼは各人が擬態能力や簡単な術を使った大掛かりなものになり、頭が二つの子が、両方の頭脳を使って皆の位置を計算し、一人一人見つけていった。遊ぶ時にはあまり能力を使わないのは暗黙のルール、だったが時にはそれを破って色々したくなるのが子供心である。

 やがて彼らが中心に金髪の女の子を囲み、かごめかごめを歌っていると、足元に軽い破裂音がした。

 

 服を着崩した男達が三人、子供達を半包囲する形で立っている。手にはそれぞれ消音機付きのマシン・ピストル、ザックに弾倉を隠したハンド・ガトリング、火炎放射器付きのカービン銃などが握られていた。まだ年の若い連中だが、人相は極めて狂暴そうに荒んでいた。警察と日々やり合うやくざ共も手を焼く、若年者で構成されたギャング組織である。

 やくざが独特な組織内の掟を持つ事は知られているが、近年新宿に増加しているギャング団はその無法ぶりで彼らを上回ろうとしている。安全地帯であろうとも平気で武装したバイクや車両を乗り回し、気晴らしにマンションに砲撃を加え、通学バスをハチの巣にした外道であった。構成員で顔が判別している者は全て“生死を問わず”賞金が首にかけられ、警察から賞金稼ぎ、一般市民でも腕に覚えのある者には狙われている。にも関わらず彼らは、その機動力を武器に区外へ根拠地を構え、関東全域から国籍を問わず若者を集め、勢力を拡大している。

 そしてここ数日、彼らが重点を置いているのは“誘拐”だった。新宿の子供は区外の子に比べ、様々な価値を秘めている。それは妖物や特殊能力などの変異した子は、それだけで区外では高く売れる。しかし本当の狙いは親なのだ。高名な魔術師、隠れ住んでいた古の一族、成長した奇怪生物‥‥特殊な存在でなくても、区議、やくざの幹部、警官などの子供であれば、魔界都市がもたらす莫大な利益の一端だけでも手にする可能性が見えて来るのだ。

 男の一人が、無言でマシン・ピストルを撃った。フードの子に銃弾が吸い込まれ、悲鳴が上がる。彼女の体内には共生生物がいるが、銃弾に仕込まれたナノ紫外線照射機が作動し、無残に焼き始めたのだ。慌てて青い肌の子が駆け寄るもハンド・ガトリングの射撃が襲った。僅か口径5ミリだが四連の銃身から放たれる高速銃撃は、通常の生体相手なら圧倒の弾幕となる。

 全身を引き裂かれた子の前に、鎧が立ちふさがり必死にそれ以上の暴挙を防ごうとする。

 ギャングどもは何人かの子供を間引き、残った子だけを誘拐しようというのだった。しかし子供相手に顔色一つ変えず銃弾を叩き込むその冷徹さは、新宿でも際立って異常と言える。冷酷非情なやくざ者ですら躊躇する行為を、太陽の下堂々と行える精神は、街が発する瘴気のみの成果ではあるまい。

「よーし餓鬼ども、大人しくしろ。暴れたらこいつの様になるぞ」

 フードの子が乱暴に襟首を掴まれ、もがきながら高く持ち上げられる。頭からフードが引きはがされ、気弱そうな顔が外気に晒された。別のギャングが、手に小型ライトを持って近付く。喚く子供に点灯した光が突きつけられた。紫外線を放つライトだった。共生生物が紫外線に反応し、子は泣きながら苦しむ。体を普段は守っている生物が、弱点を浴びて暴れ、かき回しているのだ。子供の身体から逃げだそうとし、肉を侵食し、皮膚を内側から破ろうとする。

 ふと、周囲に闇が差し込んだ。ギャングはそれぞれ顔を見合わせる。闇は段々と濃くなり、三人のギャングと子供を包み込んでしまう。

 

「お前達は、食べてもいい人間?」

 

 そんな問いが聞こえた。ギャング達はマシン・ピストルやハンドガトリングを撃ったが、銃火すら闇の中で見えない。

 ただの闇ではない、と誰かが気付いた時。肉に噛みつく音が聞こえた。絶叫を上げるギャング。銃を撃ったせいで、硝煙が位置を教えていた。

 

 外の子供達からは、闇はほんの限定された空間を丸く覆っているだけだった。その中から、フードを被り直した子供が這い出てくる。共生生物が力を取り戻し、生命を繋いだのだ。無事だった鎧の子の後ろに隠れるのと同時に、闇が薄れた。

 中にいたのは、一人だけ。いや、外にも三つ。手首が落ちている。お札の紋様を記したリボン、金髪、黒いワンピース、そして真っ赤に血で染まった口元は、まだ咀嚼で動いている。ごくん、と飲み込み、息を吐く。

 

「ごちそうさまぁ」

 

 常闇の妖怪、ルーミアはにっこり笑った。駆け寄ってきたフードの子が、ハンカチを渡してくる。生命の恩人、に対しての素直な行動だった。幼い口元を布で拭い、妖怪はにっこり笑う。

 

「ありがと、後で洗って返すよー」

 

 フードの子もにんまり笑った。公園の外にサイレンが鳴り響く。パトカーと救急車が到着していた。救急隊員と警官が走ってくる。

 ルーミアと無事な子供達は、落ちていたギャング達の手首を拾った。

 

「こら、触れちゃいかん」

 

 拳銃に手を掛けながら注意する警官に、ルーミアがちっちっと指を振る。

 

「正当防衛だよー。後、賞金首だからこれは私達が持ってくの」

「何だと?」

「ほら、この指輪見て。この間区の賞金首リストに登録された筈だよ」

 

 残った手首、の指を、警官は多機能端末のカメラで写し画像検索する。重犯罪者リスト

上位、区内外問わずの人身販売、麻薬密売、破壊活動などで知られる<コールド・ペッパーズ>が該当した。ギャング団全員の賞金首としての扱いは“生死を問わず”、つまりいつ首を取られても問題はない連中であった。

 しかし、警官は眼前の“子供”を見て戸惑っていた。彼はまだ、妖物との接触経験が浅かった。

 

「うぅむ、確かに区民には正当防衛が認められ、賞金首を狩る権利もあるが‥‥」

 

 子供らから抗議の声が飛ぶ。

 

「何だよぉ、青子ちゃんは銃で撃たれて大変なんだぞ!」

「そうよ、保険が下りてもあたしたち妖物の治療費は高いのよ、三割負担でも大変なんだから」

 

 ルーミアもニコニコしながら畳みかける。

 

「あの子の治療費の足しだよぉ」

 

 警官が困っているところに、助け船が現れた。

 

「おーなんだぁ? ルーミア達じゃないか」

 

 無精ひげに厚ぼったい瞼、生気の無い目、よれよれのトレンチコート。無線を聞いて現場に駆け付けてきた、新宿署の朽葉刑事である。子供達と知己らしく、笑いながら挨拶を交わす。

 

「何があったんだ」

 

「はっ、この子らが、手配中の<コールド・ペッパーズ>の連中を‥‥どうも、返り討ちにしたそうなのですが」

「証拠は?」

 

 ルーミア達が、残された手首を差し出す。人間の血生臭い、既にハエがたかり出してる肉の一部だが、朽葉は微笑んだ。

 

「分かった分かった、鑑識にそいつを大人しく渡しな。賞金はお前らのもんだ、きちんと俺が保証してやるよ。銃や財布は盗んでないだろうな?」

 

 一斉に首を縦に振る子供らに頷き返し、朽葉は呆気に取られる警官を見た。

 

「という事で、<コールド・ペッパーズ>を仕留めた善良な市民、ルーミアは俺が署に連れて行くからな。お前は何か言う事あるか?」

「い、いえ」

「よろしい、後は頼むぞ」

 

 朽葉は黒いワンピースの少女の手を掴んだ。大人しく後を着いていく少女に、子供らが手を振る。フードの子が叫んだ。

 

「ありがとールーミアちゃん、明日も遊ぼうね」

 

 

 

 車の中、後部座席のルーミアが口を開く。

 

「おじちゃん、何か食べるものない?」

「あん? お前、人を三人食っちまったのにか?」

「デザート」

「これから署で、お前の口の中にあの手首と同じ遺伝子が残ってないかチェックしないといけないんだぞ、賞金が減るからやめとけ」

「‥‥そうする」

 

 微笑して、ルーミアは少しの間黙った。しばらくして、窓の外を眺めながらまた口を開く。

 

「おじちゃん、おじちゃんはさ。なんで私が人間を食べても平気なの?」

「この“魔界都市”で人食いのチビ助、なんて珍しくもなんともないぞ」

「もし私が正統防衛じゃなくて、あの三人を食べていたら?」

「やくざやギャングの生命なんぞここでは殆ど価値はない。だが、お前が道歩く人をいきなり貪り喰うんなら‥‥」

 

 そこで朽葉は少し言葉を切った。車が署に到着したのだ。ブレーキをかけ、後部座席に向かってにやりと笑う。

「でもよ、この街じゃお前の餌は尽きないと思うぜ?」

 

 ルーミアもにんまり笑った。

 

「おじちゃん、賞金が出たら“しんせい”奢るよ?」

 

 

 

 魔界都市新宿。この混沌の都市に、いつしかある閉鎖空間の妖怪達が何匹か住み着く様になっていた。

 

 その閉鎖空間は幻想郷、という。何故なのかは分からない。ただ、魔界と呼ばれる場所に移住した者の中には、ルーミアの様に肉を公然と食らってなお褒められるなどという事もあったという。




気が向いたらの感じで書いていきたいですが‥‥。
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