D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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〔10〕  -終-

~喫茶店~

 

 

 

白河はツナサンドにフルーツパフェを頼み、ドリンクは頼まなかった。

という事は水だけでいいという事か。

 

恐らく、出費的な事だろう。

さっきの駆け引きが悪い様に思えてきた。

 

 

 

『ご飯食べてきてないの?』

 

『昨日は夜更かししてて、寝過ごしちゃった』

 

『次の日が休みだと油断するよな』

 

『あ、分かってくれるんだ』

 

 

『俺も、ゆ……、知り合いもそうだからな』

 

『皆そうだと思うよ』

 

 

 

…………。

何だかなー。微妙な気持ちが全身に広がる。

そして、その顔が頭の中で浮かんでしまう。

 

いや、今は白河の話に集中しよう。

意味もなく、憂鬱な気持ちになっても仕方がない。

 

 

 

『それで、畑って何?』

 

『ここから北に行った所に、田園地帯が広がる場所があるんだよ。そこで農家の手伝いをしてた』

 

『知らない。そんな所あるんだ』

 

『ここから結構距離があるからね。車かバスが無かったら無理だよ』

 

 

『学校を休んだ日からずっと?』

 

『ああ、毎日ね。今日は雨が降ったから畑が使えないという事で休みだよ』

 

『……学校、休んじゃっていいの?』

 

『……精神が壊れるより学校を休んだ方がいいだろう。さくらさんも理解してくれた』

 

 

『そうだったんだ……』

 

『そうだったんだ、よ』

 

 

 

お互いに話に一呼吸を置いた。

俺はコーヒーを口に濡らして、苦みを口の中に広がらせる。

 

白河は、ゲップが出そうになったのを堪えて、フルーツパフェを食べ始めた。

俺は笑うのを堪えて、顔を窓に向けた。ここはエチケットというものだろう。

 

 

 

『いつまで農家の手伝いをするの?』

 

『あと4日ほど……。もうじき学校に戻るよ』

 

『そっか。良かった。登校拒否の噂もあったからびっくりしたよ。学園長は何も言ってくれなかったし』

 

『さくらさんは俺の気持ちを汲んでくれたんだよ。俺も農家の手伝いを大っぴらにしたくなかったし』

 

 

『でも農作業って大変そう。虫もいるんじゃないの?』

 

『そりゃそうだ。畑のウネはクモが這っているし、土の中はミミズが居るし、野菜の葉には幼虫や毛虫の様な……』

 

『もういい、ストップ。私、食事中なんだけど』

 

『だって聞かれたから』

 

 

『そこまで具体的に説明せんでよろしい』

 

『はいさ』

 

 

 

微妙な空気の中、一呼吸を置いた。

何だか会話が弾むな。白河とここまで話すのは初めてだが、何だか楽しい。

 

相性が合うというか、いい人だから話しやすいというか。

 

……けど、先に自分から話しておきたい核心の部分を話す事にした。

 

 

 

『話が少しシリアスになるかも知れないけど』

 

『なに?』

 

『白河が学校の校門で待っていた時、俺が危険を予測した時の事だけど……』

 

『ずっと気になってた。話してくれるの?』

 

 

『信じないと思うが、話すだけ話すよ』

 

『言わないと分からないってば!』

 

 

 

……

 

 

 

最初に幽霊らしき者が現れた事。次に不可解なサインを残した事。

心に聞こえるノイズがあった事。

 

自分はノイズから拾った2つの言葉を、直感で当てて急行した事。

その後は、ご褒美どころか散々な目にしか合っていない事。

 

 

 

『大体こんな感じかな。説明がざっくりしてしまったけどね』

 

『……そのモヤというのは、今も朝倉さんの家にいるの?』

 

『もういないみたい。用もなく現れる事もないだろう』

 

『そう……』

 

 

『で、この話信用できるか?』

 

『……この場所は危険だから移動して、と言われなかったら信用しなかったかも知れない』

 

『そうだろうな』

 

『私もそのモヤを見たかったな……』

 

 

 

非現実な存在は、非現実へと帰らざるを得ないのだろう。

ノイズを出すわ、カレンダーを破るわ、向こうもエネルギーを使い果たした気がしてならない。

 

 

 

『今の話で思い出したんだけど、あの帽子ってまだ持ってる?』

 

『……あげる事はできないよ。大体、親戚ならことりさんの家に行って、何か譲ってもらったらいいだろ』

 

『だって、本人の刺繍入りなんだもん』

 

『そういう事か。でもダメ』

 

 

『何でもするって言っても?』

 

『女はそういう言葉を使わない方がいい。今の男はすぐやらせろとか言いだすし』

 

『義之君は言わないの?』

 

『さくらさんや……、あの二人が失望する様な男になれないので』

 

 

『あの二人って誰?』

 

『気にするな。友達だよ』

 

 

 

俺はアイスコーヒーを手にして、時間をかけて飲んだ。

追及されるのが嫌だったので、厳しい表情を作って牽制しておいた。

 

農業をやっていたせいか、あの二人とは随分会っていない気がしてくる。

もう、話す事もないのかも知れない。

 

…、恐らくお互いに意地っぱりで。

 

 

 

……

 

 

 

『そろそろ出ようか。長居し過ぎるのも悪いし』

 

『そうだね。えーと、コーヒーはいくらだっけ?』

 

『やっぱり、俺のおごりにするよ』

 

『えっ、いいの?』

 

 

『農家の手伝いで給料を出してくれるから、暫くは懐が暖かいと思うし』

 

『えー、いいなぁ』

 

 

 

喫茶店で過ごした時間が、本当に楽しかった。

今気づいたが、デートしていたのと大差がない気がした。

 

長い時間、有意義な過ごせる事が出来たし、食事のおごり位は持ってあげよう。

雨の中を帰るけど、暫くは白河との楽しかった時間の余韻が残るので、苦には感じなかった。

 

 

 

『じゃあ、気を付けて』

 

『義之君もね。じゃあまた学校でね』

 

 

 

曲がり角まで何度か振り返る白河を見送った後、俺も帰路へと着いた。

ふと、天気予報を調べたが、明日も明後日も雨マークになっていた。

 

畑の水が引かないとなると、仕事が出来なさそうな気がしてきた。

本当なら、もっと農家の手伝いをしたいのだが、留年の危険になるのだけは避けたい。

 

 

 

~家~

 

 

 

家に帰って、すぐに農家の人に電話した。

自分の予想通り、畑は水が引かないと使えない。

 

雨の中の畑作業も、農作物にあまりいい影響を与えないそうだ。

 

学校に行くのは、4日後辺りだと思っていたけど、明日登校しても大して変わりはないだろう。

自然の恵みと栄養たっぷりの野菜を食べていたので、元気も付いた事だし。

 

 

 

~学校~

~昼休み:食堂~

 

 

 

人の視線は変わらないが、何だか柔らかくなっている。

今までは目を細めて、俺に近づきたくないという怪訝な雰囲気がありありと出ていたが、視線のみになった感じがしてならない。

 

食堂のおばちゃんにわかめうどんを頼むと、賑やかに話している生徒に目を向けた。

何か忘れている様な……

 

 

 

『あっ、しまった……』

 

 

 

俺、避けられているんだった……

俺の座ったテーブルには、誰も寄り付かなくなる。

 

……だがもう遅かった。オーダーを通した後なので、すぐにうどんを持ってくるだろう。

なるべく早く食って、食堂から去ろう。

 

猫舌の俺にはちょっと辛いが……

テーブルにうどんを置くと、早速パクついた。

 

 

 

『………』

 

 

 

記憶違いでないなら、俺は全校生徒に避けられていたはずだが……

なぜか、俺を避けるどころか、他の生徒は同じテーブルの席に着く。

 

幽霊の話を信じるどころか、生徒にはその話すらしていないはずだ。

……では、どうなっているんだろう。

 

早食いで去るつもりだったが、普通に食べる事にした。

せっかくだから、唐辛子も入れて美味しく食べよう。

 

さくらさんなら、何か知っているかも知れない……

 

 

 

~学園長室~

 

 

 

ドアをノックすると、すぐにさくらさんが出てくれた。

なんだか、ご機嫌のようだ。

 

 

 

『もう食事済んだの?』

 

『はい。もしかして食堂に居てましたか』

 

『ついさっきまで。安心したよ。もう心配無さそうだね』

 

『生徒が変わり過ぎですよ。一体どうなっているんですか』

 

 

 

あくまでさくらさんの推測だが、白河が全校集会の時に、生徒の前で「あれは暴力行為ではない」と言ったので、殆どの生徒は何か話が違うと思ったのかも。

 

戯れていた弾みでの怪我か何かか……

どちらにせよ、本人が暴力行為ではないと言ったので、それを認めざるを得ず、生徒らは憶測のしようがなくなったようだ。

 

 

 

『今日からまた夕ご飯お願いするね』

 

『勿論です』

 

『じゃ、じゃあまたね』

 

『…、はい』

 

 

 

妙な挨拶で終えると、学園長室へと戻った。

さっきまで多弁に話していたのに、いきなりフォークの様に落ちた感じがした。

 

まぁいいや、少し喉が詰まったのだとすれば、試行錯誤が全くの無駄になる。

神経質すぎる自分が嫌になってくる。

 

そろそろ、自分のクラスに戻るか。

 

 

 

『………』

 

 

 

 

なるほど、あれか……

音……、クラスに戻ろうとした俺の視界に、見慣れた人が目に映った。

 

こちらの様子を確認している……、ように見える。

この廊下を渡らないと、自分のクラスに戻れないので、ゆっくり歩を進めた。

 

……通り過ぎると、後ろからの視線を感じざるを得ない。

已む無く、早歩きして角を曲がって視界を遮った。

 

 

 

~学校~

~放課後~

 

 

 

『………』

 

 

 

靴箱で靴を履き替え、帰宅の徒に着くとすぐに足音に気が付いた。

振り向くと、……付いて来ている。

 

ストーカー行為をされ続けるのは嫌なので、とりあえず無言で振り向く事にした。

久しぶりに見る最も親しかった姉……

 

 

 

『……久しぶりだね』

 

『………』

 

『弟君、元気してた?』

 

『俺の名前は桜内です。名前でお願いします』

 

 

『………』

 

『………』

 

 

 

あの時と逆のシーンが展開されていた。

生徒会長は、何とか場の空気を和らげようと必死のようだ。

 

だが、俺が厳しい表情を崩さないので、全く功を奏さない。

今になって、一体何の用があるのか分からない。

 

すれ違う生徒が一体何事かと、俺と生徒会長をチラ見していた。

 

 

 

『………』

 

『………』

 

 

 

お互いに無言のまま、何も言わず立ち止まってしまう。

時間が過ぎていくが、時間が止まった感覚でもある。

 

生徒会長は俺が喋るのを待つか、表情が柔らかくなるのを待っているかのようだ。

一人、生徒がチラ見どころか、立ち止まってこちらを見ていた。

 

 

あまりに近づくので、そちらを目をやると、……生徒会長の妹だった。

他人事ではないと思ったのだろう。

 

俺と生徒会長とは別に、妹は物凄く不安そうな顔をしていた。

 

 

 

……

 

 

 

 

時間だけがどんどん過ぎていく。陽もだいぶと落ちているようだ。

夕ご飯の事もあるので、これ以上は時間をかける事ができない。

 

無言で立ち去るか、話だけは聞いてみるか……

向こうに話を促せるか……

 

 

 

……

 

 

 

辺りは暗くなり始め、外灯も付き始めた。

数分も経てば、辺りはもっと暗くなるだろう。

 

俺と姉妹はお互いに無言の状態のまま、ずっと立ち止まっている。

 

 

俺はと言えば感情的な自分とは裏腹に、子供の頃から親しかった2人に厳しく当たる事が出来ずにいる。

空気が張り詰めた空間であっても、俺は姉妹と会うのは嫌気がしない。むしろ、その逆だ。

 

生徒会長は、何かを話せば俺が喧嘩腰になって返す事を予期したのか、何も話せないでいる。

面倒臭がりだったのに、妹も時間を苦にせず、心配そうに見ていた。

 

 

無視された事に、感情でまくし立てる気持ちが前に出ようとしている。

怒る、怒鳴る、壁を叩く、煮えたぎった気持ちが収まらない。

 

しかし、内心で俺は彼女らを完全に憎む事ができない。

本当は優しい姉妹なんだ。今はまだいい弟、いい兄のままでいたい。

 

 

仲直りの機会はそう何度でもある訳ではない。

もしかしたら、これが最後の機会になる事だってある。

 

 

 

『………』

 

 

 

俺は暫く考えた後、素直な気持ちを彼女らに伝えた。

 

 

 

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