D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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〔9〕から◎〔11〕へ。
構想にあった様な、無かった様な構想。
〔10〕では、音姉と由夢が仲直りになっているので、そこを無くします。


◎〔11〕

ー家ー

ー台所:夜ー

 

 

 

土日は、今も農家の手伝いをしていて、あっという間に4ヵ月の月日が経過しようとしていた。

農業に精を出し、一つ一つの農作物の育て方を覚えている。

 

そして、空いているスペースを使わせてもらい、自分で野菜を植えていた。

 

その時間があまりにも充実していたのだろう。

時間の流れ方は、いつの間に日曜といった感じだった。

 

家に帰ると、一つ一つの植え方をメモしている。

 

 

隣の朝倉家と話すのは、純一さんだけとなり、姉妹とは冷めた関係にある。

どちらからも謝ろうとしなければ、譲ろうともしない。

 

どちらにも正しい言い分があるので、譲る事ができない。

そんな風に受けている。

 

 

……先に、夕飯の準備にするか。

ビニール袋からキャベツを取り出すと、さくらさんが近づいてきた。

 

 

 

『今日はお好み焼き?』

 

『そうですよ』

 

『ちょっとだけ手を拝見』

 

『はは……。残念ながら』

 

 

 

野菜を作るのに使わせてもらっているスペースは、田んぼだった。

田んぼの泥は、石鹸で洗っても落ちにくい。

 

また、爪の間が泥で黒くなり、今までと比べると不潔な手になっていた。

これでもしっかり手を洗っているが、爪の中の極微な石は取れずに、そのまま残っている。

 

しかし、これが農業では当たり前なんだ。

……むしろ、皆がどうでもいい事を気にし過ぎている。

 

 

 

『なんか手伝える事ないの?』

 

『じゃあ、長芋を刷ってもらえますか。後、小麦粉をもう少し入れて下さい』

 

『ほー、さてはそのキャベツ。義之君が作ったの?』

 

『分かりますかやっぱり』

 

 

『だってサイズが小さいし、外周りは虫食いで穴だらけだもん。おまけに少し赤いよ』

 

『農薬をあまり使いたくなかったんです。他の野菜と比べて白菜、キャベツとかは結構使うんですよ。それと虫食いが多いというのは、農薬をあまり使っていないからなんですよ』

 

『キャベツがなんでこんな色してるの?』

 

『寒さから守る為、アントシアンを生成されるんですよ。毒ではないですから』

 

 

『野菜に詳しくなってきたね。もしかして農家を目指すの?』

 

『そこまで考えてはいないです。だってお金にならないから。家庭菜園くらいならしたいです』

 

『ありゃ、知り合いだから話しといてやろうと思ったのに』

 

『では、半分真剣に考えていると伝えてもらえますか』

 

 

 

そう言うと、さくらさんの顔つきが嬉しそうに変わった。

そこまで、農業好きになるとは思わなかったのだろう。

 

しかし、農家人口は全滅寸前であるから、もし自分が農作物の知識を持ち続けたら、いずれ若い人が「農業をやりたい」と言われた時、脳夫婦に教えられた様に、俺も同じやり方を教えてあげられるという思いからもあった。

 

また農家人口を維持する助けにもなるだろう。

 

 

 

……

 

 

 

スーパーで売っているキャベツは水っぽさが前に出るが、収穫したばかりのキャベツは味が強い。

 

重量を感じさせ、実も引き締まっている。

キャベツ用スライサーで刷っていると、刷り応えもどこか違っていた。

 

 

 

『スーパーで売っているのと違うね』

 

『そうですよ。こっちが本当のキャベツです』

 

『やっぱり美味しいの?』

 

『そりゃ、やっぱり。新鮮さにおいては負けません。昨日まで根っこと繋がっていたんだし』

 

 

『丸かじりしてみていい?』

 

『ワイルドすぎます。それは止めて下さい』

 

 

 

取れたての野菜は、水洗いさえすればそのまま食べてみると美味しいとは思う。

けど、さくらさんのそんな食べ方は見たくはない。

 

ちゃんと料理で味わってほしい。

 

 

 

ー食卓:夜ー

 

 

 

『いけますね』

 

『……美味しいね』

 

 

 

収穫したばかりの野菜をなめていた。

まさか、これほどのパワーを感じさせるとは思わなかった。

 

味も濃く、歯ごたえもあり、栄養もしっかりと感じ取る事ができる。

これに慣れてしまったら、もうスーパーの野菜では満足できなくなるな。

 

 

 

『こういう美味しいのを、誰かと一緒に食べたいと思わないの?』

 

『……恋人とかですか』

 

『そうじゃなくて、もっと身近な……』

 

『純一さん?』

 

 

『もしかして、わざとはぐらかしている?』

 

『別にそういう訳では』

 

 

 

あいつらの方は……、全く分からなかった。

一体、何をしているのか。どういう生活を送っているのかさえも……

 

思った以上に、農作業に没頭していたようだ。

 

 

今の俺の学校生活は、以前とはまるで違っていた。

警戒する生徒、蔑む視線、ひそひそと陰口を叩く奴ら。

 

白河を転倒させた事は、根強く残っていた。

それでも、その数は減ってはいるが……

 

 

あいつらの世界から、俺がいなくなった生活。

俺の世界から、あいつらがいなくなった生活。

 

俺にとっては、新しい世界が始まったが……

 

 

 

『今更話す事なんてありませんよ。俺は俺、あっちはあっちです』

 

『簡単に割り切れるものなの。義之君にとって?』

 

『多忙な毎日で振り返る時間が無かったのは事実です。けど、もう……』

 

『それでも仲直りできない?』

 

 

 

さくらさんの言葉にイラっとしたものを感じた。

なぜ、俺から仲直りしないといけないのか。

 

向こうから絶交を押し付けてきたのだから。

 

 

 

『………』

 

『ご、ごめん。この話は止めにするから』

 

『いえ、別に……』

 

 

 

気分が悪くなったが、お好み焼きの美味しさはそのままだった。

普通は、味気なくなるまでになるが、取れたての野菜はストレス緩和すらも併せ持っているのだろうか。

 

……話次いでに、向こうの様子を聞くことにした。

学校に行く時、不意に会う事もあるが他人になった以外、何も変わりがなさそうだった。

 

 

 

『あいつらは元気にしているんですか』

 

『ちゃんと名前で呼んであげてよ』

 

『朝倉さんは元気しているんですか』

 

『そっちの名前じゃないよ』

 

 

『……朝倉で呼ぶ様に言ったのは、彼女です』

 

『彼女って、どっちの?』

 

『えっと……、姉の方です』

 

『音姫ちゃんが、そんな事を……』

 

 

『それで、元気にしてますか』

 

『色々と考え込んでいるのは確かかな』

 

『例えば?』

 

『義之君の行動とか』

 

 

『俺の?もしかして農業の事ですか』

 

『農業の事や、今まで見てきた義之君の事とか』

 

 

 

さくらさんの話では、あいつらは俺をどう見ていいのか分からないようだ。

 

俺が白河を転倒させて、怪我をさせた事実。

もう一つは、農業に勤しみ、汗水流しながらしっかり頑張っている事実。

 

必死に頑張っている姿は、誰であっても評価がしたくなる。

しかし、怪我をさせた事実を、どう向き合い、どう解釈すればいいのか分からない。

 

そんな風に話してくれた。

 

 

 

ー家ー

ー自室;夜ー

 

 

 

音楽を聴く前に、音楽を聴く前に。

あれ、どこいった。

 

そういえば、机の中にしまったんだ。

さくらさんに貰ったあの帽子を返しておかないと。

 

 

いつか、汚してしまうとやっぱり怖い。

既に、帽子の上が少しホコリっぽくなったし。

 

 

 

ーリビングルームー

 

 

 

『さくらさん。いいですか』

 

『ん、どうしたの』

 

『これ、やっぱり返しておきます』

 

『え、どうして?』

 

 

『汚しそうで怖いと言うか』

 

『別に汚してもいいよ。義之君の性格は分かっているんだし』

 

 

 

何気なく言った言葉だと思うが、やっぱりガサツに思われているんだな。

何も気づかないフリして、話を続ける事にした。

 

 

 

〔義之君も気にし過ぎるんだよね~。ちょっと汚れたくらいなら洗えば取れるのに〕

 

 

 

『まぁ、そうかも知れないですけど』

 

『そうかもって?』

 

『いや、あれ……』

 

『そうかもって何?』

 

 

 

何だ今のは……

確かに、さくらさんの声だったが、さっきのは口を開いてなかった。

 

今のはしっかり口を開いて喋っていたな。

……気のせいか。

 

 

 

〔一体どうしたんだろ〕

 

 

 

『………』

 

 

 

口を開いていない……

けど、さくらさんの声が届く。

 

届く……??

耳に届いているというより、心に届いている。

 

まさか、これは……

 

 

 

『義之君?』

 

『………』

 

 

 

少し前、純一さんからことりさんの事について聞いた事がある。特殊な能力があったとか。

もしかして、これがその能力なのか。

 

相手の思っている事、考えている事が言葉となって、はっきりと伝わっている。

なぜ、いきなりこんな事が……

 

 

 

〔様子がおかしい〕

 

 

 

『ちょっと。しんどいの?』

 

『いえ……、別に……』

 

『それならいいんだけど。大丈夫?』

 

『はい』

 

 

 

ー家ー

ー自室:夜ー

 

 

 

自室に戻ると、自分を鏡で見た。

 

……俺だ。

間違いなく俺だ。他人になったわけではない。

 

 

しかし、動揺が隠せない。

いきなり、こんな特殊能力が付くなんて。

 

混乱のしすぎて、嫌な汗が止まらない。この特殊能力はどうやって消すんだ。

まだ何かが来るのではないのか。

 

も、もう寝よう。明日になれば治っているかも知れない。

 

 

 

……

 

 

 

ー家ー

ー自室:朝ー

 

 

 

朝食を終えて、一先ずベッドに腰をかけた。

 

現実は甘くなかった……

いや、非現実か。非現実は甘くなかった。

 

心の中を読むのは、目をつむる様にある程度のコントロールは出来るが、不意に来られるとどうしても頭に入ってしまう。

 

 

 

『………』

 

 

 

まず、落ち着け俺。

状況を冷静に整理してみよう。

 

 

……

 

 

 

……無理だった。

こんなの落ち着いて考えられるか。

 

時間がかかるのかも知れない。

一先ず、このままでいよう。

 

 

 

ー商店街ー

ー喫茶店:朝ー

 

 

 

〔いつもの常連さん。コーヒーだけで1時間粘るのさえなければいいお客さんんだが……〕

 

 

 

『いらっしゃいませ、一名様でしょうか?』

 

『…、はい』

 

『お煙草はお吸いになられますか?』

 

『い、いえ』

 

 

 

読書用の喫茶店として選んでいたが、スマイルとは裏腹に、こんな風に思われていたのか……

店内は、クラシックの音楽が流れていて、比較的どの喫茶店よりも静かだったのがお気に入りだった。

 

お客が込み始めたら、なるべく早く帰ろう。

 

注文したホットコーヒーを唇に付けて、口の中いっぱいに苦みを広がらせる。

早速、読書をする事にした。

 

 

 

〔あれ、もしかして義之君……〕

 

 

 

言葉が心に届き、周りを見渡すと、店の外から白河が覗いていた。

そして、意外そうに俺を見ている。

 

 

 

〔お、可愛いお客さん。あれなら何時間居ても許せるのになー〕

 

 

 

『いらっしゃいませー。何名様ですか?』

 

『そこの人と待ち合いだから』

 

『あ、わかりました』

 

 

 

〔あいつ、待ち合わせで来ているなら、一名とか言わないでくれよ〕

 

 

 

笑顔の裏は恐ろしいな……

何を思われているか分かったものではない。

 

本気で言っているのもあれば、ちょっとした感情を出しただけのものもあると祈りたい。

 

 

 

『おはよー。読書してるの?』

 

『ああ。まぁね』

 

『素っ気ない返事。挨拶くらい返さないと』

 

『おはよ』

 

 

『義之君だよね』

 

『そりゃそうだ』

 

『本当に?』

 

『偽物がいると思っているのか?』

 

 

『……懐かしい感じがする。どこか、違う』

 

『なんだそりゃ』

 

『……座っていい?』

 

『ああ』

 

 

 

特殊能力が付いただけだと思っていた。

まさかとは思うが、「あの人」が俺に憑依しているのか。

 

だが、白河から見て、そう思われているのならもしかしたら……

一応、気に留めておこう。

 

 

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