D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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◎〔15〕

ー学校ー

ー校門前:昼ー

 

 

 

先日、さくらさんの前で荒れていたが、想像以上に早く悩みの種の解決できそうだ。

なぜか50過ぎのおっさんが心の中で、「ことり」の言葉を連呼していた。

 

間違いなくこの人だろう。

しかし、一体何の為に……

 

 

確か学校内で、ちょっとだけ警戒されていた人だ。

最近、学校の前で、ウロウロする頻度が多いのだ。

 

ストーカーではないらしいが。

 

目的が分からないだけあって、不気味に感じていた。

とりあえず、話しかける事にしてみた。

 

 

 

『この学校に何か用ですか』

 

『君は?』

 

『生徒です。よく見かけるので何かなと』

 

『……察するに、怪しい人間に見られた様だな。すまんかった。もう来ないから』

 

 

『いや、そうじゃなく、その……』

 

 

 

あわてて止めた。

これと思える人物が近くにいるのに、遠くに行かれては困る。

 

 

 

『まだ何か?』

 

『えーと、悩んでいた様なので、僕に話してくれたら楽になるかも、です』

 

『君にか?それはさすがになー』

 

『いきなりではありますが』

 

 

『しかし、変わっているな君』

 

『そうだと思います』

 

 

 

否定しているが、まんざらでもないようだ。

不愛想な人間でなくて良かった。

 

 

 

『まぁいいか。久しぶりに若い人と話してみたかったし』

 

『いえいえ、何か悩んでいたようですが』

 

『うん、そうなんだ。実はこの学校には、色んな思い出があったんだよ。君と同じ様な年の頃、本当に色んな……』

 

『でも、切ない感じですね』

 

 

 

遠い目をしていたので、ちょっと察しておいた。

……しかし、俺もいずれは、こういう風に学校の思い出を懐かしむのかも知れない。

 

若い時は良かった、学生の頃は良かったと……

 

 

 

『私が学校に居た時は、本当に何の度胸もない意気地なしだったんだ。どうしようもない程にね』

 

『………』

 

『当時は、ある人を遠い目で見ていて……、何も言えず……』

 

『それは片思い的なですか?』

 

 

『そうなる。こんな年齢になってまでと思われるのは仕方ない。我ながら未練たらしいにもほどがあると思っている』

 

『でも、年齢的に他の人を好きになったりは……』

 

『……結婚もしているし、離婚もしている』

 

『す、すいません』

 

 

『いや、いい。私も病気だと思っている。こんな年になってまで引きずるなんて……。いや、正確な気持ちすら分からないんだ。何度も踏ん切りをつけたはずなのに』

 

『………』

 

 

 

ことりさんは、この人を助けたかったようだ。

さすがに、いつまでもこれじゃツラいだろうな。

 

さて、どういう伝え方がいいか……

 

 

 

『あの、いいですか』

 

『解ってる。言いたい事は……』

 

『え?』

 

『その年でいつまで引きずっているのか?と言いたいのだろう。そんな事は解ってるよ。皆、そう言うんだ』

 

 

『いや、そうじゃなくてですね』

 

『あの笑顔……、あれだけ魅力のある人間は居ないんだよ。友達としてでも関係を繋げておきたかった』

 

『あの、そうじゃなくてですね』

 

『若い時に会った友達や恋人の出会いは、特別なものがあるんだ。特別なね』

 

 

『あの!話を聞いて下さい』

 

『何だい?』

 

『信じないと思いますが、……僕はその人の代わりにここに来たと思ってもらえますか』

 

『……それは、一体。何を話してもらえるの』

 

 

 

年配のおっさんは、苦笑しながら俺を見ている。

こんな事を言い出したら、さすがに変人だと思われても仕方がないだろう。

 

しかし、きっと大丈夫なはずだ。

 

 

 

『………』

 

 

 

 

……憑依していることりさん、何か力を貸してくれ。

もし憑依しているなら、この人が理由なのだろう。

 

胸に両手を置いて、目を閉じた。

 

 

 

『俺は……、いや私は……』

 

『主語まで変えんでも……』

 

『私はあなたの心に住んでいます。あなたが不幸を作ったり、いい加減な生き方をしない限り、ずっとあなたの心に住んでいます。私に好かれるのではなく、私から見て微笑ましい生き方をしていて下さい』

 

『……一体、どこからそんな声を出してるんだ?』

 

 

『………』

 

『女の声だったぞ』

 

 

 

ことりさん、今のはあなたですか……

 

その瞬間、俺の中で何かが消えていた。

同時に、相手の心も読めない様になっていた。

 

 

しかし、一つだけことりさんが俺に残していったのだろう。

白河に言わないといけない事が、一つだけ俺の頭に残されていた。

 

 

 

『恐らく、今のは彼女だと思います』

 

『そうか、色々面白いんだな君は』

 

『いや、彼女ではなく……、ことりさんです』

 

『……どうして君がその名前を?』

 

 

『………』

 

『さっきのは本当にあの人のか?』

 

『……終わりです』

 

『終わり?何が?どういう意味だ?』

 

 

『ことりさん、どこかへ行ってしまいましたから』

 

『すぐ呼び戻してくれ!今すぐに!』

 

 

 

肩を揺さぶって懇願してくる。

男の力だと、首がガクガクして、プロレスの技の様に思えてしまう。

 

 

 

『お、落ち着いて、ください』

 

『私は今まで会いたかったんだ。それに私はまだ何も話していない。もう一度だけ頼む』

 

 

 

よほど、彼女の事が好きだったようだ。

しかし、もう彼女は俺の中に居ない。

 

 

 

『もう無理なんですよ!』

 

『…、……』

 

 

 

可哀相だが、俺もこれ以上付き合うわけにはいかない。

あとの事は、自分なりに解釈してほしい。

 

後、俺の出来る事と言えば……

俺はさくらさんから貰った、ことりさんの帽子を取り出した。

 

 

 

『これをあげるので、これを機にケジメをつけて下さい。しっかりとです。もう二度と迷ってはいけないです』

 

『あの子が被っていた……。なぜ、君が……』

 

『僕にとっても宝ですが、それでもあなたがケジメをつけてくれるならあげます』

 

『………』

 

 

『後は、ことりさんの言葉通りに生きるかどうかです。期待に応えてあげてください』

 

『…、……』

 

 

 

黙って受け取りはしたが、放心状態だった。

ツラかったのだろうが、俺もそろそろこの場から離れたい。

 

男の涙も、俺にとってはあまりいいものではない。

 

 

 

『では、これで……』

 

『………』

 

 

 

……

 

 

 

ー学校ー

ー桜公園:放課後ー

 

 

 

『義之君から誘ってくれるなんて……。晴れだけど雨でも降りそう』

 

『そうか』

 

『そうだよ。それで何か用なの?』

 

『………』

 

 

 

一気に残っている問題を片付けようとしているだけだ。

 

今思えば、ことりさんは妙な行動をしているな……

サインを作ったり、憑依してきたり。

 

さっきのおっさんの時もそうだが、本人の前では姿を出そうとしない。

 

 

……無理もないか。

もう見る事がない大切な人が目の前に現れたら、いつまでも一緒にいたいという感情が際限なくなるだろう。

 

泣き叫ぶかも知れない。

俺だって、由姫さんが生き返って目の前に現れたら……

 

 

 

『それか、何か奢ってくれるの』

 

『とりあえず、そこのベンチにでも座ろう』

 

『…、分かった』

 

 

 

込み入った話を悟ったのか、真剣な表情になっていた。

しかし、これを言えば、ことりさん本人のメッセージである事だけは分かるから、平静を保ってくれればいいが……

 

 

 

『それで』

 

『………』

 

『…、深刻なの?』

 

『切り出しにくい事ではあるな』

 

 

『気になる。早く言ってよ』

 

『……言っても、信じない、だろう』

 

『…、まさか、それって』

 

『ことりさんから伝言を預かった。それだけだ』

 

 

 

言っても信じないだろう、俺が辛辣だったあの時の言葉だ。

会話なんて結構忘れるものだが、感情尽きの会話は、記憶しやすいようだ。

 

 

 

『伝言なんていらない。ことりさんは今どこにいるの!?』

 

『いない。分かるだろ。伝言しか預かっていない』

 

『…、どういう事……。伝言って何?』

 

『……お見舞いに来れなかった事は気にしないで。それだけだ』

 

 

『それを、知っている人なんていない。じゃあ、本当に……』

 

『先に言うが、もう会えないんだ。それだけは分かってくれ』

 

『どうして、どうして!会って話したいのに……』

 

『ま、まぁ、キリのいい所で泣き止んでくれ』

 

 

 

俺と白河がベンチに座り、白河が泣いている状況……

俺が泣かしたかの様に見られている様で、居づらい。

 

ドラマのワンシーンのように感じていた。

あるとしたら、別れのシーンだろうな。

 

 

 

……

 

 

 

『もう帰った方がいいよ。真っ直ぐな』

 

『……うん』

 

『物事はいい様に捉えた方がいい。いつまでも後悔していたから、断ち切ってくれたんだよ』

 

『それは解ってる。でも……』

 

 

『………』

 

『会いたかった。少しでいいから……』

 

『最後には嫌でも会えるよ。今は、頑張って生きないと』

 

『嫌なんて事ないもん。奇跡みたいな体験できただけ、私は得したんだ』

 

 

『………』

 

『うん、頑張れる』

 

 

 

今のはそういう言い方をするからなんだが。

しかし、ホッとできない自分がいる。

 

もうこれ以上、神秘体験とか来ないでほしい。

 

 

 

『今日はありがとう』

 

『一人で帰れそうか?』

 

『うん。おかげで後悔していた事が無くなったもん』

 

『そうか。良かったよ』

 

 

『またね。義之君』

 

『また』

 

 

 

白河を見送った後、ことりさんに念じておいた。

これ以上の厄介は困ると。

 

この世界では、飛び抜けた才能が存在する様に、向こうの世界でも飛び抜けた何かがあって、この世を行き来する様な事があるのだろうか。

 

 

 

ー家ー

ー玄関:夕方ー

 

 

 

『ただいま。玄関で何してるんですか』

 

『おかえり。お茶を入れてあるし、早速話を聞かせてよ』

 

『………』

 

『最近の義之君。隠し事をするから、ちょっと話す時間を作っておきたいの』

 

 

『……はい』

 

『じゃあ、着替えが終わったら降りてきてね』

 

 

 

そんな風に思われてしまうとは……。まぁ、それは事実だが。

カバンを適当に投げ捨て、制服をハンガーにかけて、私服に着替えるとそのままリビングに直行した。

 

 

 

ー家ー

ーリビングルーム:夕方ー

 

 

 

『はい、お茶』

 

『ありがとうございます』

 

『まぁ、昨日の今日だから、そこまで話す事はないと思うけど。一応ね』

 

『そうですね。話す事と言ったら、おっさんと白河。それと、ことりさんに憑依されていたがどこかに行って、心が読めなくなった事くらいかな』

 

 

『……たったの一日で有りすぎ。とにかく、そのまま動かないで』

 

『はい』

 

 

 

昨日と同じ様に、体を念入りに憑依されているか調べている。

ついでに、肩をもんでと言いたかったけど止めた。

 

 

 

『ついでに、肩をもんでもらってもいいですか』

 

『………』

 

『ごめんなさい……』

 

 

 

言うべきではなかったな……

今のさくらさんはマジだった。

 

話が長引くことを仮定して、夕ご飯を考えておく事にした。

野菜は冷蔵庫にいっぱいあるから、そこから考えるか。

 

 

今までは、野菜の値段に敏感だったが、最近は全く買う事がなくなった。

仕事先と、プランターでの家庭菜園で、野菜に金をかけるなど勿体ないとすら感じている程のゆとりだ。

 

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