ー学校ー
ー校門前:昼ー
先日、さくらさんの前で荒れていたが、想像以上に早く悩みの種の解決できそうだ。
なぜか50過ぎのおっさんが心の中で、「ことり」の言葉を連呼していた。
間違いなくこの人だろう。
しかし、一体何の為に……
確か学校内で、ちょっとだけ警戒されていた人だ。
最近、学校の前で、ウロウロする頻度が多いのだ。
ストーカーではないらしいが。
目的が分からないだけあって、不気味に感じていた。
とりあえず、話しかける事にしてみた。
『この学校に何か用ですか』
『君は?』
『生徒です。よく見かけるので何かなと』
『……察するに、怪しい人間に見られた様だな。すまんかった。もう来ないから』
『いや、そうじゃなく、その……』
あわてて止めた。
これと思える人物が近くにいるのに、遠くに行かれては困る。
『まだ何か?』
『えーと、悩んでいた様なので、僕に話してくれたら楽になるかも、です』
『君にか?それはさすがになー』
『いきなりではありますが』
『しかし、変わっているな君』
『そうだと思います』
否定しているが、まんざらでもないようだ。
不愛想な人間でなくて良かった。
『まぁいいか。久しぶりに若い人と話してみたかったし』
『いえいえ、何か悩んでいたようですが』
『うん、そうなんだ。実はこの学校には、色んな思い出があったんだよ。君と同じ様な年の頃、本当に色んな……』
『でも、切ない感じですね』
遠い目をしていたので、ちょっと察しておいた。
……しかし、俺もいずれは、こういう風に学校の思い出を懐かしむのかも知れない。
若い時は良かった、学生の頃は良かったと……
『私が学校に居た時は、本当に何の度胸もない意気地なしだったんだ。どうしようもない程にね』
『………』
『当時は、ある人を遠い目で見ていて……、何も言えず……』
『それは片思い的なですか?』
『そうなる。こんな年齢になってまでと思われるのは仕方ない。我ながら未練たらしいにもほどがあると思っている』
『でも、年齢的に他の人を好きになったりは……』
『……結婚もしているし、離婚もしている』
『す、すいません』
『いや、いい。私も病気だと思っている。こんな年になってまで引きずるなんて……。いや、正確な気持ちすら分からないんだ。何度も踏ん切りをつけたはずなのに』
『………』
ことりさんは、この人を助けたかったようだ。
さすがに、いつまでもこれじゃツラいだろうな。
さて、どういう伝え方がいいか……
『あの、いいですか』
『解ってる。言いたい事は……』
『え?』
『その年でいつまで引きずっているのか?と言いたいのだろう。そんな事は解ってるよ。皆、そう言うんだ』
『いや、そうじゃなくてですね』
『あの笑顔……、あれだけ魅力のある人間は居ないんだよ。友達としてでも関係を繋げておきたかった』
『あの、そうじゃなくてですね』
『若い時に会った友達や恋人の出会いは、特別なものがあるんだ。特別なね』
『あの!話を聞いて下さい』
『何だい?』
『信じないと思いますが、……僕はその人の代わりにここに来たと思ってもらえますか』
『……それは、一体。何を話してもらえるの』
年配のおっさんは、苦笑しながら俺を見ている。
こんな事を言い出したら、さすがに変人だと思われても仕方がないだろう。
しかし、きっと大丈夫なはずだ。
『………』
……憑依していることりさん、何か力を貸してくれ。
もし憑依しているなら、この人が理由なのだろう。
胸に両手を置いて、目を閉じた。
『俺は……、いや私は……』
『主語まで変えんでも……』
『私はあなたの心に住んでいます。あなたが不幸を作ったり、いい加減な生き方をしない限り、ずっとあなたの心に住んでいます。私に好かれるのではなく、私から見て微笑ましい生き方をしていて下さい』
『……一体、どこからそんな声を出してるんだ?』
『………』
『女の声だったぞ』
ことりさん、今のはあなたですか……
その瞬間、俺の中で何かが消えていた。
同時に、相手の心も読めない様になっていた。
しかし、一つだけことりさんが俺に残していったのだろう。
白河に言わないといけない事が、一つだけ俺の頭に残されていた。
『恐らく、今のは彼女だと思います』
『そうか、色々面白いんだな君は』
『いや、彼女ではなく……、ことりさんです』
『……どうして君がその名前を?』
『………』
『さっきのは本当にあの人のか?』
『……終わりです』
『終わり?何が?どういう意味だ?』
『ことりさん、どこかへ行ってしまいましたから』
『すぐ呼び戻してくれ!今すぐに!』
肩を揺さぶって懇願してくる。
男の力だと、首がガクガクして、プロレスの技の様に思えてしまう。
『お、落ち着いて、ください』
『私は今まで会いたかったんだ。それに私はまだ何も話していない。もう一度だけ頼む』
よほど、彼女の事が好きだったようだ。
しかし、もう彼女は俺の中に居ない。
『もう無理なんですよ!』
『…、……』
可哀相だが、俺もこれ以上付き合うわけにはいかない。
あとの事は、自分なりに解釈してほしい。
後、俺の出来る事と言えば……
俺はさくらさんから貰った、ことりさんの帽子を取り出した。
『これをあげるので、これを機にケジメをつけて下さい。しっかりとです。もう二度と迷ってはいけないです』
『あの子が被っていた……。なぜ、君が……』
『僕にとっても宝ですが、それでもあなたがケジメをつけてくれるならあげます』
『………』
『後は、ことりさんの言葉通りに生きるかどうかです。期待に応えてあげてください』
『…、……』
黙って受け取りはしたが、放心状態だった。
ツラかったのだろうが、俺もそろそろこの場から離れたい。
男の涙も、俺にとってはあまりいいものではない。
『では、これで……』
『………』
……
…
ー学校ー
ー桜公園:放課後ー
『義之君から誘ってくれるなんて……。晴れだけど雨でも降りそう』
『そうか』
『そうだよ。それで何か用なの?』
『………』
一気に残っている問題を片付けようとしているだけだ。
今思えば、ことりさんは妙な行動をしているな……
サインを作ったり、憑依してきたり。
さっきのおっさんの時もそうだが、本人の前では姿を出そうとしない。
……無理もないか。
もう見る事がない大切な人が目の前に現れたら、いつまでも一緒にいたいという感情が際限なくなるだろう。
泣き叫ぶかも知れない。
俺だって、由姫さんが生き返って目の前に現れたら……
『それか、何か奢ってくれるの』
『とりあえず、そこのベンチにでも座ろう』
『…、分かった』
込み入った話を悟ったのか、真剣な表情になっていた。
しかし、これを言えば、ことりさん本人のメッセージである事だけは分かるから、平静を保ってくれればいいが……
『それで』
『………』
『…、深刻なの?』
『切り出しにくい事ではあるな』
『気になる。早く言ってよ』
『……言っても、信じない、だろう』
『…、まさか、それって』
『ことりさんから伝言を預かった。それだけだ』
言っても信じないだろう、俺が辛辣だったあの時の言葉だ。
会話なんて結構忘れるものだが、感情尽きの会話は、記憶しやすいようだ。
『伝言なんていらない。ことりさんは今どこにいるの!?』
『いない。分かるだろ。伝言しか預かっていない』
『…、どういう事……。伝言って何?』
『……お見舞いに来れなかった事は気にしないで。それだけだ』
『それを、知っている人なんていない。じゃあ、本当に……』
『先に言うが、もう会えないんだ。それだけは分かってくれ』
『どうして、どうして!会って話したいのに……』
『ま、まぁ、キリのいい所で泣き止んでくれ』
俺と白河がベンチに座り、白河が泣いている状況……
俺が泣かしたかの様に見られている様で、居づらい。
ドラマのワンシーンのように感じていた。
あるとしたら、別れのシーンだろうな。
……
…
『もう帰った方がいいよ。真っ直ぐな』
『……うん』
『物事はいい様に捉えた方がいい。いつまでも後悔していたから、断ち切ってくれたんだよ』
『それは解ってる。でも……』
『………』
『会いたかった。少しでいいから……』
『最後には嫌でも会えるよ。今は、頑張って生きないと』
『嫌なんて事ないもん。奇跡みたいな体験できただけ、私は得したんだ』
『………』
『うん、頑張れる』
今のはそういう言い方をするからなんだが。
しかし、ホッとできない自分がいる。
もうこれ以上、神秘体験とか来ないでほしい。
『今日はありがとう』
『一人で帰れそうか?』
『うん。おかげで後悔していた事が無くなったもん』
『そうか。良かったよ』
『またね。義之君』
『また』
白河を見送った後、ことりさんに念じておいた。
これ以上の厄介は困ると。
この世界では、飛び抜けた才能が存在する様に、向こうの世界でも飛び抜けた何かがあって、この世を行き来する様な事があるのだろうか。
ー家ー
ー玄関:夕方ー
『ただいま。玄関で何してるんですか』
『おかえり。お茶を入れてあるし、早速話を聞かせてよ』
『………』
『最近の義之君。隠し事をするから、ちょっと話す時間を作っておきたいの』
『……はい』
『じゃあ、着替えが終わったら降りてきてね』
そんな風に思われてしまうとは……。まぁ、それは事実だが。
カバンを適当に投げ捨て、制服をハンガーにかけて、私服に着替えるとそのままリビングに直行した。
ー家ー
ーリビングルーム:夕方ー
『はい、お茶』
『ありがとうございます』
『まぁ、昨日の今日だから、そこまで話す事はないと思うけど。一応ね』
『そうですね。話す事と言ったら、おっさんと白河。それと、ことりさんに憑依されていたがどこかに行って、心が読めなくなった事くらいかな』
『……たったの一日で有りすぎ。とにかく、そのまま動かないで』
『はい』
昨日と同じ様に、体を念入りに憑依されているか調べている。
ついでに、肩をもんでと言いたかったけど止めた。
『ついでに、肩をもんでもらってもいいですか』
『………』
『ごめんなさい……』
言うべきではなかったな……
今のさくらさんはマジだった。
話が長引くことを仮定して、夕ご飯を考えておく事にした。
野菜は冷蔵庫にいっぱいあるから、そこから考えるか。
今までは、野菜の値段に敏感だったが、最近は全く買う事がなくなった。
仕事先と、プランターでの家庭菜園で、野菜に金をかけるなど勿体ないとすら感じている程のゆとりだ。