D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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◎〔16〕 fin

ー家ー

ーリビングルーム:夕方ー

 

 

 

案の定、時間が長引いて、夜ご飯は時間のかからない献立へと変わっていく。

欲を言うなら、調理をしながら会話したいところだった。

 

一通り話した後、細かい事も出来る限り説明をした。

 

 

 

『今日も一日ご苦労様だったね……』

 

『出来るなら、護符でも作って下さい。憑依されないなら何でもいいです』

 

『そんな物作れない。でも……』

 

『とにかく関係のない事に関わりたくないんですよ』

 

 

『でも……』

 

『でも?』

 

『解決が出来る人を選んだと思うの。お兄ちゃんは何も気づかなかった訳だし』

 

『………』

 

 

『ことりは本当にいい人だった。だから、やっている事は意味があると思っている。今は隠れて見えないだけかも知れない』

 

『………』

 

 

 

意味もなくやる必要はないのはわかる。

だが、せめて憑依している時に、その隠れて見えない事情を残してほしかった。

 

非現実の多さに、少し頭がパニックになっている……

 

 

朝倉姉妹と純一さんが居てた時を思い出した。

あの幽霊を二度、会わすことができないという事……

 

同じ非現実を1度体験するというのと、2度体験するというのは意味がまるで違った。

2度体験してしまうと、その次も、またその次も起きると連鎖性を警戒して抜け出せなくなる。

 

今の俺はまさにそれだった。

 

 

 

 

『一旦、落ち着こうよ』

 

『…、はい』

 

 

 

……

 

 

 

『もう一度、話を確認するけど、会話中にその男の人には肩を揺さぶられただけだよね?』

 

『はい。ことりと話をさせてほしいって錯乱してしまって』

 

『………』

 

『ちょっと驚いたけど、何ともないですよ』

 

 

『それならいいんだ。先生と生徒会内では、生徒の首を絞められていた話もあって』

 

『そんなバカな。肩ですよ』

 

『うん。だからホッとした』

 

『………』

 

 

 

はっきりしない状況では、自然なあり方の捉え方をして、誤解を招くものなんだな……

白河の時もそうだった。

 

 

 

『ことりの件で疑心暗鬼になっているのが見て取れるけど、もう何も起きないと思うよ』

 

『なぜ、そう思えるんです?』

 

『これ以上、義之君に負担をかけるとパンクしちゃうし』

 

『………』

 

 

『これ以上、義之君に負担をかけるなら、その時は私も怒る』

 

『悪霊退散みたいな?』

 

『…、そういうのじゃない。とにかく、義之君は気楽に構えていて』

 

『………』

 

 

『大丈夫だから』

 

『……はい』

 

『今は音姫ちゃんと由夢ちゃんの事を考えてあげて』

 

『…、はい』

 

 

 

……

 

 

 

ー朝倉家ー

ー音姫の部屋:夜ー

 

 

 

『大丈夫か?』

 

『うん。全然平気だよ』

 

『でも、風邪ひいたんだろ』

 

『風邪っぽいから、早めに寝てただけだよ』

 

 

 

さくらさんと話し終わった後、由夢からメールが一件入っていた。

お姉ちゃんが寝込んだと書かれていたので、慌てて朝倉家へと走った。

 

玄関では、純一さんが応対してくれて、容体はどうなのか聞くと、ただの風邪との事。

寝込んだには違いないかも知れないが、書き方がどうにも間違っているだろう。

 

 

一目見ないと落ち着かないので、そのまま容体を見る事にした。

…、しかし、いくら音姉と喧嘩しても病気になれば、心配ばかりが大きくなって、すぐ仲直りしてしまうだろう。

 

不自然な在り方は長続きしないものだ。

 

 

 

『由夢ちゃんは?』

 

『自分の部屋じゃないのか』

 

『そっか。心配かけてごめんね』

 

『………』

 

 

『それから、ありがと』

 

『…、いいんだ』

 

 

 

いつまでもこんなギクシャクした関係とも断ち切らないといけない。

それに、音姉を避けていても、病気で倒れてしまったら、心配してすぐに駆けつけるのだから喧嘩をしきれない。

 

 

 

『お……、音姉』

 

『…、何かな』

 

『しばらく、夕飯は俺の家で食べた方がいいよ。色んな野菜があるしさ』

 

『…、いいの?』

 

 

『ああ。栄養のある物を作って治してやる』

 

『…、そっか。ありがと弟君』

 

 

 

泣くのを堪える音姉に、気持ちが吹っ切れた俺。

意地を張るのを止めて、こちらから譲る事にした。

 

自分から相手に譲るというのが、耐え難いものを感じる時がある。

けど、そういった行為が計り知れない程の恩恵を受けるものだと思う。

 

 

 

『けど、音姉って呼んでいいのか』

 

『どういう意味?』

 

『前に、名前は朝倉でお願いしますって』

 

『それはもう忘れて。音姉の方が弟君らしいから』

 

 

『らしいのか?その意味が分からん』

 

『自然だから』

 

 

 

……

 

 

 

ー家ー

ー台所:朝ー

 

 

 

朝、早くに起きて、音姉の容体を見ようとしていたが、向こうの方が早く起きてこっちに来ていた。

台所の冷蔵庫をしきりに見ている。

 

滅多に見る事がない野菜に、好奇心旺盛のようだ。

風邪らしい症状は無かったようで何よりではあるが……

 

 

 

『これは何』

 

『ナスだけど』

 

『なんで真っ白いの?』

 

『そういう品種だから?俺もよく分からない』

 

 

『これは白菜?』

 

『ああ。肥料のやりすぎで失敗して形が歪になった。でも、美味しかったよ』

 

『……食べられるんだね』

 

『すまんな。まだ俺は素人だから失敗してる』

 

 

『けどすごい。これ全部作ってるの』

 

『貰った物もある。あと、外に干し大根もあるし、段ボール箱には里芋とジャガイモを保存している』

 

『別の家に居るみたい。食費の節約もすごそう』

 

『そりゃそうだ。特に玉ねぎやネギが一番使うから、畑に300個は作ってある』

 

 

 

食費の事を考えるなら、何を一番食事で使っているかを考えるのが手っ取り早い。

逆に、そう考えないと、野菜が余って蓄積していき、最後には畑の肥にするという現実……

 

さて、そろそろ気分を変えて何か作るか。

朝食は、由夢も純一さんもこっちで食べるみたいだし。

 

 

 

『よし、玉ねぎの卵とじでも作るか。取れたての玉ねぎは、血液がさらさらになるよ。音姉もぜひ体験してくれ』

 

『…、じゃあ作っていこっか。野菜が高級に見えて使いづらいな』

 

『そんなん最初だけだ。すぐ慣れるよ』

 

『そう、かな……』

 

 

 

……

 

 

 

さくらさんは、あいにく早出だった。

すぐに、さくらさんの弁当を取り出したが、慌ただしく学校に行ったので弁当を出す時間すらなかった。

 

さくらさんの分を四等分しようか考えていると、純一さんと由夢が家に来た。

一人は半分寝ていた。また、夜更かしやってたな……

 

こうやって、純一さんと会うのは久しぶりで少し緊張を覚える。

 

 

 

『おはよう義之君。もういいのかい?』

 

『え。風邪を引いてたのは、俺じゃないですよ』

 

『そうじゃなくて、まぁいいか』

 

 

 

今度は、音姉に向き直った。

俺は、さくらさんのおかずの分配を考えながら、二人を見ている。

 

 

 

『言ったじゃないか。さっさと私の言った通りにすれば良かったのに』

 

『何の事?』

 

『ほら、病気のフリをすればすぐに義之君が……』

 

『わー!!待って。そんなつもりじゃないんですよ』

 

 

『………』

 

 

 

俺の前で言うとは。音姉も大変だな。

気づかなかった事にしておこう。

 

 

 

『おはよ。もういいんですか』

 

『まぁな』

 

『心の傷がどうたらこうたら言っても、仲直りが早すぎです』

 

『………』

 

 

『あっ、悪く受け取らないで下さいね。と、とにかく良かったです』

 

『遅かれ早かれこうなるってやつだ。それが早いだけだ』

 

『ま、いっか。……いい匂い。一緒に朝食を作ってたんですか』

 

『ああ。音姉が冷蔵庫を物色していてな』

 

 

『何ですかそれは』

 

『ほら、普段見慣れない野菜を収穫するからさ』

 

『…、私も見る』

 

『ダメだ。先に皆で食べるぞ』

 

 

 

皆、自分の席について「いただきます」を待っている。

だが、純一さんが中々言おうとしない。

 

 

 

『純一さん?』

 

『ああ、そうだね。じゃあ食べようか』

 

『大丈夫です?』

 

『何でもないんだ。子供だったのに大きくなったなって思っててね』

 

 

『………』

 

『食事に夢中だったのを、ふと懐かしく思ったんだ』

 

『大丈夫です。純一さんも含めて今日は食事に夢中になると思いますよ』

 

『…、そうだね。でも義之君が帰ってきてくれたことの方が嬉しいんだ』

 

 

『…、弟君に抜かされちゃった』

 

『野菜を作っていただけだ。抜かすも抜かされるもないだろ』

 

『何となくね』

 

 

 

しびれを切らした由夢が、いただきますも言わず食べている。

 

妙な空気の中、由夢だけが朝ごはんを夢中で食べていた。

うまい具合に、この空気が調和されていた。

 

 

 

『本当に美味しいよ。野菜が全然違う』

 

『さんきゅ』

 

 

 

しかし、没頭して食べているな。

野菜が美味しかったのだろう。

 

今では、こっちの野菜に慣れてしまい、俺はすっかり新鮮さを欠いてしまっている。

 

 

 

『………』

 

 

 

……無邪気にご飯を食べている由夢を見ていた。

ご飯の時、純一さんが子供だった俺たちを見ていたとすれば、こういったものだったかも知れない。

 

 

 

『何を笑っているですか』

 

『別に。美味しく食べてくれているのが嬉しくてな』

 

『…、兄さんも食べてよ』

 

『分かってる』

 

 

 

……、戻ってきたんだな。

あの時の時間。

 

さくらさんも居れば良かったんだけど。

まぁ、また近いうちに皆で。

 

 

 

『そうだ。兄さんに言わないといけない事があった』

 

『どうした』

 

『ほら、前に幽霊で騒いでたじゃないですか』

 

『その話か。もう終わった話だし蒸し返してもな……』

 

 

 

二人とも思い出したら怖がると思い、その話題に興味はないとぶっきらぼうに返しておいた。

 

 

 

『でも……』

 

『…、何かあったのか』

 

『…、夢の中でだけど』

 

『………』

 

 

 

何かあったんだな。

あの幽霊……、これ以上誰かに負担をかけるのを止めろと言うのに。

 

 

 

『……ことりも随分、薄情になったものだ。なんで私には来ないのか』

 

 

 

鈍感だったから気づかなかったとか……

まぁ、黙っておこう。

 

純一さんにとっては逆鱗に触れそうな話題だし、下手な事が言えない。

 

 

 

『どんな夢だったの?』

 

 

 

俺より先に、音姉が尋ねた。

しかし、由夢は言い淀んでいる。

 

深刻な内容だったのだろうか。

 

 

 

『由夢?』

 

『少し長かったから、思い出しているの。ちょっと待って』

 

『………』

 

『…、ななかちゃんを守ってくれてありがとう。それから、迷惑をかけてごめんなさいって』

 

 

『……そうか』

 

『それから、直感で当てて危険を回避した所がカッコよかったよって言ってた』

 

『そ、そうか』

 

『朝倉君には音夢さんが居たし、同級生だったら好きになってたかも知れないって』

 

 

 

ことりさん、私的な本音がちょっと多いな。

ま、悪い気はしない。

 

最近、そういった女系の話が無かっただけに、そういう話に絡まれたい。

 

 

 

『にやにやし過ぎです。気持ち悪い。ね、お姉ちゃん』

 

『…、私は何も言えない。農業も頑張っていたし、カッコ良かったもん』

 

 

『純一さん?』

 

『……青春していた日々に戻りたい。今はそれだけ。本当にそれだけ』

 

 

 

今回の幽霊の件、本当に怖いくらい必死だったんだよな、純一さん。

何か伝えたかった事でもあったのだろうか。

 

まさか音夢さんより、ことりさんとか考えていたのだろうか。

……怖い。深く考えるのはよそう。

 

 

しかし、鈍感というのは損をするものかもしれない。

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