D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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〔3〕

~家~

~自室~

 

 

 

夕食後、さくらさんは朝倉家に行くと言って出かけた。

俺はただ事ではないと思って、音楽を聴きながらリラックスを心掛けた。

 

オルゴールのリラックス効果は本当に偉大である。

 

しかし時計は23時が過ぎて、眠たくもなってきている。

音楽を変えて、ロックミュージックにした。

 

いつもだと既に眠っているので、体も脳も睡眠を欲している。

 

 

……

 

 

 

ついに、日付が変わってしまった。

0時が過ぎてしまい、俺は今にも寝てしまいそうだった。

 

勝手に眠る事も出来ず、ひたすら睡魔に抗い続けた。

玄関のドアが開く様子もなく、ただ待ち続けるしかなかった。

 

 

 

≪コンコン≫

 

 

『!!!』

 

 

 

すぐに近くに置いてあった目覚まし時計を手に取って、ドアを睨みつけた。

玄関のドアは開いた音はしていない。なぜ、俺のドアにノックがかかった!?

 

目覚まし時計をすぐに投げつけれる様に、正体不明の相手の反応を待った。

 

 

 

『ごめんなさい。起きてる?』

 

『さくらさん?』

 

 

 

体内にあった全ての緊張感が一気に溶けだし、俺は額の汗を指で拭った。

しかし、一体どこから家の中に入ったんだ。

 

今のは全くの予想外だったので、驚きの衝動が抑えきれず肩で息をしていた。

 

 

 

『起きてますよ。どうぞ』

 

『ごめんね。ごめんね』

 

 

『……すまんね』

 

 

 

さくらさんだけかと思ったら、純一さんも一緒だった。

旅行疲れもあるせいか、純一さんの表情は疲労感が出ていた。

 

その様子は、いつもの様な愛想を振りまく余裕も無くなってしまっている。

 

 

 

『遅くなって本当にごめんね』

 

『なぜ、こんな夜更けに話を?』

 

『だって、音姫ちゃんも由夢ちゃんも知られたくないし。ようやく寝てくれたみたいだから』

 

『……抜け出したと?そんなに大事なんですか?』

 

 

『もし、どちらかが2回も幽霊を見てしまったら、否定できない事実になるんだし』

 

『……では、家に幽霊がいると?』

 

 

『私から説明させてほしい』

 

 

 

そう言うと純一さんは、俺には見せた事のない真剣な表情をしていた。

そんなものが本当にあるのか、俺は今でも半信半疑もいかない。

 

しかし眠い。眠たい……

 

カラシかワサビか、唐辛子でも持っておくんだった。

今だったら、インスタントコーヒーの粉を口に含むだろう。

 

 

 

『実は義之君が来る前、私もそれを見たんだ』

 

『幽霊をですか?信じられない。どんな実態でした?』

 

『モヤっとしていた。大気が揺らめいていたというか、どう表現していいのか解らない。あれを幽霊というのかも分からない』

 

『………』

 

 

『お兄ちゃん、時間があまり無いんだし急用としている事を伝えて』

 

 

 

音姉に由夢、そして純一さんまでそれを見たとなると、やはり何かが居るようだ。

危害を加えようとしない事だけが、唯一の救いの様に思える。

 

しかし、いきなりヌッと現れたらさすがに怖いな。

毎回、悲鳴を上げる事になりそうだ。夜にトイレなど行けたものではない。

 

 

 

『酷く錯乱したよ。旅行疲れかと思ったら、あの子たちも同じものを見たようだね』

 

『多分そうです』

 

『だが当面の問題は実際に何かが居て、何かが現れる事だ。今のままだと彼女たちがノイローゼにでもかかってしまう』

 

『……確かに』

 

 

 

純一さんが必死になって訴える。

さすがに音姉も由夢も、幽霊に2回も遭遇してしまったら、何かが居る事だけは解ってしまう。

 

あの二人に、二度見せる事はできないという事か……

 

 

 

『………』

 

 

 

……手っ取り早い方法は、音姉と由夢、純一さんを暫くこっちで生活させればいい。

俺は布団さえあれば、台所だろうが、玄関だろうがどこででも寝れる。

 

つい俺はさくらさんを見てしまった。

 

 

 

『僕なら全然オッケーだよ。後は義之君の判断だけ』

 

『判断を仰ぐまでもないです。暫くこっちで生活をしましょう。後の事は追々考えていけばいいかと』

 

 

『すまないねえ、本当に助かるよ』

 

『らしくないです。もっと気を強く持ちましょう』

 

 

……

 

 

 

次の日から、音姉も由夢もさくらさんの家で生活する様になった。

二人には、家にガスが漏れていないか点検する様に伝えている。

 

幾らかは時間稼ぎになるだろう。

 

しかし、幽霊に感謝すべきか。朝と夕ご飯は人数が多くなり、賑やかな食事となった。

お泊り会をしている様で、何だか愉快な気分になる。

 

 

 

……

 

 

 

~食卓~

 

 

 

『………』

 

 

 

二日が経った今もたかが夕ご飯に、一つ一つ思い出を拾ってしまう。

俺が居て、音姉が居て、由夢が居て、純一さんが居て、ほんのわずかだったけど由姫さんが居て……

 

昔は、俺も朝倉家の一員で、さくらさんを除いてこの暮らしが当たり前だった。

年月を経て今、思い出となった暮らしがまた戻ってくるとは思いもしなかった。

 

俺はその空間に、幸せいっぱいに感じていた。

すぐに幸せいっぱいな気持ちになれる人を見る事ができる。

 

その幸せ……、その人……、その過ごした時間……

 

 

 

『大丈夫?』

 

『………』

 

『き、季節外れの花粉症かな』

 

『………』

 

 

 

さくらさんが心配そうに声をかけている。

あの時を思い返すと、涙まで出ないが目が潤んできてしまう。

 

純一さんも、音姉も、由夢も何があったのかと目を丸くして俺をみている。

その空気に耐えきれなくなったのか、純一さんが話しかけてきた。

 

 

 

『朝倉家に居た時の思い出かい?』

 

『……はい』

 

『そうか……、朝倉家からさくらの家に行く様に言ったのは酷だったようだね』

 

『いえ、そんな事ないです』

 

 

『義之君のケチ。今は私が居るんだから』

 

 

 

さくらさんが少し悔しそうにしている。

別に今の暮らしが悪いという訳ではない。それも長い月日が経過して、もし戻る様な事があれば同じ事だ。

 

何だかいいなぁ、この感覚……

 

 

 

『兄さんが泣くのは初めて見たかも』

 

『泣いた訳じゃない。その中間だ』

 

『ふぅん、私たちと離れ離れになるのが悲しかったんだ』

 

『むむ……』

 

 

『弟君、家は隣だし私たちはいつでも会えるんだから』

 

『それは、そうだけどな』

 

『……でも私も、弟君がさくらさんの家に行った当時は悲しかったな。由夢ちゃんも暫く元気が無かったし』

 

『ははっ、今のはご馳走様』

 

 

『お姉ちゃんの記憶違いです。私は普通でした!』

 

 

 

結局、音姉も由夢もあの時は寂しかったんだな。

小さい頃からずっと暮らしていたんだし、当然と言えば当然か。

 

生きていく上で、出会いと別れの繰り返しは必定という事だけは解ってしまう。

ただ、別れる時であっても、相手が自分を惜しんでくれる人間でありたい。

 

 

 

『でも、ガスじゃないよあれ』

 

 

 

唐突に、由夢が純一さんに話し出した。

あの時、見た例のヤツだろう。

 

 

 

『その場に居て、どこかへ行ったし』

 

『じゃあ私と一緒だね。場所も時間も別々だけど』

 

 

 

今度は、音姉が話す。やはり今も気になるのだろう。

しかし、それを証明できないので、先の説明が出来ないでいる。

 

二人の話に、純一さんが訝しそうにしていた。

しきりに口を押さえて考え込んでいる。

 

 

 

『そうなのか。それは自分に向かって来なかったのかい?』

 

『それは怖すぎるって』

 

 

『………』

 

 

 

由夢は普通に返していたが、音姉は何か感づいたようだ。

純一さんも、失言をしたと今気づいたようだ。

 

しかし、発言してしまった以上どうしようもない。

では、純一さんのケースは何かが向こうから来たのか……

 

一体どういう事だろう。

 

 

 

『しかーーーし』

 

『さ、さくらさん?』

 

 

 

いきなり大きな声を出して、皆の思考を遮った。

緊迫感どころか、楽しんでいるかの様に疑問を呈す。

 

 

 

『一番おかしいのは義之君だよ。一日居てたのに、なんでモヤモヤを見なかったの?』

 

『漫画を見てたから?』

 

『それは鈍感を超えているよ。何も変わった事はなかったの?』

 

『う~ん』

 

 

 

幽霊ではないが、風見学園の綺麗な女を見たっけか。

何だか、話題から外れてしまいそうだけど。

 

しかし、変わった事といえばこれ位しか思いつかない。

俺も幽霊という言葉を使うのは2人が怖がると思ったので、モヤモヤを使う事にした。

 

 

 

『モヤモヤは見なかったけど、寝ている時に夢は見ましたよ』

 

『迫ってきた?それとも向こう行った?』

 

『普通の夢ですよ。モヤモヤも出ません』

 

『なーんだ。で、どんな夢だったの?』

 

 

 

……おかしい。

夢というのは、すぐに忘れていくものではないのか。

なぜか、まだその女の人を鮮明に記憶に残っている。一体どういう事だろう。

 

まさか……、………

 

 

 

『いきなり黙り込まないでよ。イジワル』

 

『す、すいません』

 

『で?』

 

『風見学園の生徒でした。女の方です』

 

 

『そうなんだ、誰?』

 

『見た事のない生徒でした。すごい綺麗な人でした』

 

 

『誰!?』

 

『誰よ!?』

 

 

『なぜ二人共怒る?だから見た事がない人だって』

 

 

 

 

不意に後ろを向いて考える事にした。

夢なのに、かなり記憶に残っている。こういう事自体も初めての事だ。

 

奇妙な出来事で連ねれば、これは幽霊の仕業だったのかも知れない。

俺が幽霊と会っていた計算も高くなる。

 

だが、何しに来ているのか?誰に会いに来ているのか?無意味な行動をしているとは言えない。

……一つ気になるのは、純一さんの時だけ幽霊は近づいたようだ。

 

 

 

『その夢、すごく気になる』

 

『なんでですか?』

 

『義之君のタイプが分かるから』

 

『………』

 

 

『でも、誰かも知らないのに、どうして風見学園の生徒だって言うの?』

 

『風見学園の制服だったんですよ』

 

 

 

制服……

元々あった夢の記憶が、更に鮮明に服装を思い出した。

 

そうなると、風見学園の生徒でも何でもない。

俺は慌てて前言撤回をした。

 

 

 

『さくらさん、訂正します。その女の人は風見学園の生徒ではありません』

 

『いきなりだね。なんで?』

 

『よく思い返せば、風見学園の制服ではなかったから』

 

『風見学園の制服と言ったのに、風見学園の制服じゃなかったの?』

 

 

『制服はそうだったけど、帽子を被っていたから私服だったのかも』

 

『………』

 

 

 

突然、さくらさんが怒ったかの様に、眉間にシワを寄せた。

子供の頃から付き合いのある俺からすれば、こんな表情を見せたのは初めてだ。

 

俺が失言したのだと慌てて口を押さえると、さくらさんがすぐにいつもの笑顔に戻った。

しかし、戸惑いを隠せないようだ。

 

 

 

『私からも質問させてほしい』

 

『………』

 

 

 

今度は純一さんが話しかけてきた。

その様子は、鬼気迫る勢いであり、いつもの純一さんではない。

 

音姉も由夢も何事かと片津を飲んで見守っている。

だが、俺は幽霊の話題に直結してしまわないかと、内心焦っていた。

 

 

 

『その帽子の形は?』

 

『丸かった気がします』

 

『それで?』

 

『それで?』

 

 

『もっと続けてくれ。帽子の特徴を!』

 

『は、はい。帽子の下にラインがあった気がします。被るというより、乗せている感じもしました』

 

『……背は?、それと髪の長さは?』

 

『背は少し高い方でした。髪は腰の辺りまででした』

 

 

『………』

 

『………』

 

 

 

もはや家族団らんの空気はなく、鋭さを感じるほどピリピリしていた。

純一さんはマジになっている。さくらさんも心当たりある様だ。

 

音姉も由夢も異変を感じ取っていた。

俺としては、「誰か知っているんですか?」と返したかったが、それだと二人に幽霊だと繋げてしまいそうだったので、返せずにいた。

 

暫く、皆が無言の状態でいると、さくらさんも純一さんも我に返り、いきなり柔和な表情へと変わった。

その後、他愛のない話になったが、俺も音姉も由夢も釈然としないまま、別の話題で時間が流れて行った。

 

 

 

 

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