~家~
~居間~
『朝か……』
次の日。何だかぐっすり寝てしまった。
時計は6時半を指している。
現在は、居間に布団を運んできて俺と純一さんが使っている。
音姉と由夢は、俺の部屋を使っている。
辺りを見渡すと、今日は純一さんが居ない。布団も片づけられている。
いつもは俺の方が朝が早かったのに。
考えていても仕方がないし、朝ごはんの用意でもするか……
~台所~
スーパーで買ってきたロールパンの真ん中に、包丁で切れ込みを入れて、カレー風味の野菜炒め、ウインナーを入れる。
冷蔵庫に入っていたプチトマトは期限切れが間近だったので、熱を通すものを適当に作る事にした。
朝食にあまりこだわりはないので、トマトスープにした。
朝食の準備は着々と進むのに、思考においては進んでは戻っての繰り返しだ。
思考というものは、しっかり手綱を握っておかないと、理屈や根拠のない推測を四方八方に広げてしまう。
『………』
純一さんもさくらさんも、何か思い当たりがあったのだろう……
俺は全く分からないし、音姉も由夢も何だかわからない様子だった。
対照的に、何か捉えていたのが純一さんとさくらさんだ。
共通点で言うと、昔はあの二人は同級生であり、風見学園の生徒だ。
昨夜、自分の言った女性が「誰か」に酷似していたのではないだろうか。
しかし、もし幽霊で現れたとすると、もうその人は既に……
≪コンコン≫
後ろで軽くノックをする音が聞こえたのでふり返ると、由夢が立っていた。
何だか複雑な表情をしている。
ま、色々あったから無理はない。
当面は、純一さんとさくらさんの事で頭がいっぱいになりそうだ。
『兄さん、疲れてるでしょ?』
『いつも通りだ。由夢は?』
『いつも通りですよ』
『………』
何だか、3日前ほどにあった俺と音姉とのやり取りのデジャブを感じる。
もしかして、由夢はさっきから食卓に居たのか。
『さっきから居てたか?』
『なんだ。気づいてたんだったら振り向いてよ』
『すまん。朝食に集中していてな』
『……私に気づいてたのか。気づいてなかったのかどっちですか』
『気付いてたよ。朝食にしようぜ』
『そうだね。もしかして、お姉ちゃんの分まであるのこれ?』
『ああ。もしかして生徒会で早出したか?』
『うん、でも私が学校の昼食にするから。これ2、3個をラップで包んで持っていくよ』
『ダメだ。朝も昼も同じ食事は体に良くない。ラップで包んだ物は音姉に持っていく』
『変わんないって。何だかお姉ちゃんに似てきてるよ。兄さんなのに』
『料理を作っていると栄養バランスを考えてしまうんだよ。由夢も音姉にまで追いつかなくても、俺に追いついてくれ』
『ふん。うるさいです』
俺は朝食を口に入れながら、食パンを出してサンドイッチを作る事にした。
トマトを斜め切りにし、キュウリやハムを食パンに挟んでラップに包む。
一番ヘルシーで手軽に出来るサンドイッチだ。
それを朝食を取っている由夢の前に置いた。
『トレードだ。俺が音姉に届けにいくよ。由夢はこっちを食え』
『……もしお姉ちゃんが、昼食の準備があったらどうするの?』
『そん時は、俺がロールパンをやっつける』
『支離滅裂すぎるんですけど。それじゃあ兄さんが朝昼連続になるじゃない』
『俺は何でもいいんだよ。男なんだから』
『もっと支離滅裂です』
兄さんもお姉ちゃんには程遠いから安心した、という捨てセリフを後にして学校の準備をしに行った。
俺もそろそろ歯を磨いて、学校へ行く準備をしないと。
そういえば、純一さん朝食を食べに戻らなかったな。
さくらさんも早出だったのかな。
二つの皿を用意して、その上にロールパンを乗せておいた。
これで朝食には気づいてくれるだろう。
~家~
~夕方~
『おかえりなさい』
『ただいま』
音姉が笑顔で迎えてくれる。
やっぱ人が多いというのは、いいものだな。
家に帰るだけなのに、これだけ気分が晴れている。
家庭、家族というのが生活において、どれほど大切が身に染みる。
『家族っていいな』
『突然どうしたの。弟君らしくない』
『……何でもないんだ。由夢は?』
『弟君の部屋で漫画を読んでるよ』
俺は食卓に入ってテーブルを見た。
ロールパンは無くなってたので、食べてくれたのかな。
お出かけした様子もない。
では、朝倉家に居るのだろうか。
『純一さんは?』
『あっちの家だよ』
『そうか。ちょっと様子を見て来るよ』
『ダメ。弟君は夕ご飯手伝ってもらうんだから』
『すぐ戻るよ。様子を見るだけだし』
『じゃあ、なるべく早くね』
~朝倉家~
誰かが歩いている音がする。これは多分、純一さんだろう。
モヤモヤを探しているのかな。
いきなりドアを開けたら、間違いなく驚かせるのでいつもより丁寧にドアをノックする
『桜内です。失礼します』
ドアを開けると、二階から純一さんが降りてきた。
もしかして、ずっと探していたのかな。
『いらっしゃい。そろそろさくらの家に行こうとしていた所だよ』
『そうですか。ところで……』
『どうしたの?』
『えっと……』
『ああ、あれかい。出会えなかったよ』
『自分も付き合いますよ。一つ気になる事があるし』
『気になる事って何だい?』
『あの時の女性は焦っていた様な、緊迫した感じがしました。何かあるな、と』
『こ……、あの子が?義之君はそれをどう考えたの?』
『何か危険を知らせに来ているのかな、と』
『その危険とは何だい?』
『そこまでは分かりません。憶測です。実際に何しに来ているのかも分からないです』
『………』
『………』
……何だか重苦しい空気が漂ってしまった。
こんな憶測を言うべきではなかったと、後悔の念に駆られる。
忘れて下さいと慌てて付け加えたが、俺の説も可能性として考えている様だ。
しかし、いつまでもこうしている訳にもいかず、夕ご飯の準備の為、一旦帰る事にした。
~家~
~居間~
夕ご飯を終え、入浴も済ませた後は、ソファーで横になったり、皆で談笑したりしている。
その居心地の良さはキリがなく、時間をシビアにしないと一日中になりそうだ。
音姉や由夢が就寝の為に、部屋に戻った。さくらさんは、戸締りの確認をしている。
そのタイミングを見計らってか、純一さんが話しかけてきた。
『本当に申し訳ないと思っている』
『ど、どうしました?』
『1時間ほど付き合ってほしい』
『……もしかして、朝倉家に?』
『やっぱり、気になるんだ。睡眠を妨げる様で無理にとは言わない』
『大丈夫です。自分も気になっていたので。さくらさんにも上手い事言っておきます』
『私、ずっと居るんだけど。最近、義之君の中で私の存在が薄れてない?』
『そんな事ないです。今のは気づいていなかっただけです』
何だか、さくらさんとの会話がたどたどしくなっている。
俺はいつも通りだが、どこかリズムが整っていない様な気もする。
……朝倉家の思い出が強く懐かしみ始めてからかな。
~朝倉家~
『暗いですね』
『暗いね。足元気を付けて』
『電気付けなくていいんですか?』
『その方がこちらからも解るかなと思ってね。それにあの子たちに気づかれると説明が難しいし』
さくらさんには制限時間、1時間までと言われてしまった。
あまり時間が取れないが、逆に考えると何をしていいのか分からない。
会話も隣に聞こえない様に静かにしないと、音姉や由夢に気づかれてしまう。
『昼間、全ての部屋を調べたんだけどね。現れなかったよ』
『下手に動くより、同じ場所で待っていた方が向こうも気づくかも知れないですよ』
『なるほどね。そういう発想の転換が利かない事を思うと、もう歳だな』
『大丈夫ですって。さくらさんもあんなに明るいんですから』
『どこで待とうか?』
『2階の階段の上った所で待ちましょうか。一度、その場所で出たみたいだから』
……
…
やる事もなく、真っ暗の中で俺と純一さんが座っている。
暗闇の中では相手の表情が見えず、純一さん本人かどうか不安感が増す。
しかし、俺の中では幽霊より睡魔の方が先に来た。
生活習慣を付けていると、この時間は寝る時間だと体が睡眠を欲し始める。
幽霊が出るなら出るで、速く来てくれる様に祈った。
『!!!』
……何だかノイズの混じったものが聞こえた。
これは、音ではない。どういう感覚で捉えたかよく解らないが、確かにノイズの様なものが聞こえた。
すぐに純一さんの手を触る様に叩いた。
『どうしたの?』
『何か感じます。純一さんは?』
『か、感じるって何を?』
『解らない。付いて来てもらえますか?』
とりあえず、ノイズが大きく聞こえる所へ向かう事にした。
ノイズは殆ど断片的にしか聞こえない。しかも、ノイズがずっと聞こえている訳でもない。
場所を移動しようと思ったが、立ち止まってしまった。
もしかしたら、ここが一番ノイズが拾えているのかも知れない。
『行くんじゃないのかい?』
『ノイズが聞こえなくなって、発信源がどこなのか。あるいはここなのか』
『ノイズだって?そんなもの全く聞こえてこないよ』
『何ていうか、聴覚ではないです。どの感覚で聞こえたか解らないです』
『……そうだった。彼女はある種の能力があった事を忘れていた』
『能力?能力って?』
『いや、気にせんでくれ。意識をしたら下手な事を考えれなくなってしまう。とりあえず、心の中で話しかけてくれ』
『……はい』
……さっきよりノイズが大きくなったというか、酷くなったというか。
あるいは気の迷いか、何だか分からなくなってくる。
強いて言うなら、ノイズの様なものがほんのわずかに大きくなった感覚しかない。
それも気の迷いかも知れない。
『私には何も感じない。義之君はどうだ?』
『ノイズがわずかに大きくなった様な、単に意識し過ぎて気の迷いなのか』
『ここに現れる様に訴えかけてほしい』
『既に心の中でやっています。けど、何も出てきません』
そうこうしている内に、1時間が経過してしまった。
残念だが、自分はここで打ち切りする事を持ちかけた。
けど、純一さんはここで一晩寝る事を決めてしまった。
幽霊に害意は無いにしろ、何かいる事は確かだから桜内家に戻る様に説得したが、純一さんは頑なに拒んだ。
仕方なく自分だけ桜内家に戻った。