D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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〔5〕

~朝倉家~

 

 

 

次の日の深夜も同じ様に、幽霊の存在を確かめる事にした。

取り越し苦労の様な感じもするが、何とか正体と理由を探りたい。

 

どうしても幸運を呼ぶ様なものとは思えないからだ。

人であるなら、よほど強い思いに駆られて朝倉家に来たのではないだろうか。

 

 

 

……

 

 

 

『今日も1時間までだって言われました』

 

『さくらは義之君への健康管理は人一倍うるさいからね』

 

『ところで、昨日は一晩この家で寝たんですよね?』

 

『そうだよ』

 

 

『俺の様に夢の中で女性が出ませんでした?』

 

『残念だけど見なかったね』

 

 

 

後はノイズから得られる物を何とか拾うしかない。

そんな事できっこない訳だが……

 

あまり時間をかける事なく、何らかのヒントが欲しい。

もう少し、純一さんに質問してみる事にした。

 

 

 

『女性でなくても、何か夢を見ませんでしたか?何でもいいんです』

 

『いつもの夕ご飯の風景なら見たよ。私にとっても義之君が居るのは嬉しいからかな』

 

『あ、ありがとうございます』

 

『……でもニュースがあれだったな』

 

 

『夢の中での?どんなのでした?』

 

『風見学園の生徒が交通事故で意識不明の重体だった、かな』

 

『重体……、もっと詳しく教えてもらえますか』

 

『漠然として内容までは分からない。今でも自転車をこぎながらスマートフォンを使っているから。あれは危ないね』

 

 

 

家族団らんの食事風景より、その交通事故の方が気になる。

しかし、桜内家も朝倉家でも、自転車を持っていなければ購入予定もない。

 

乗り物に縁がない両家には関係なさそうだ。

気には留めるが、今はノイズが聞こえるならそれに集中しよう。

 

 

 

……

 

 

 

昨日よりノイズを拾う事ができる。

時折、怒鳴るかの様なノイズになったりしている。

 

だが声ではない。もっと言うなら音ですらない。

心の中に感じる小さな騒めきの様なものだ。到底、捉える事ができるものではない。

 

 

 

『今日はどうだい?』

 

『俺の方はノイズが断片的に聞こえます。昨日よりわずかに大きいです』

 

『本当に!私には何も聞こえない。本当にノイズが聞こえるのかい?』

 

『はい。けど本当にノイズの様なものですよ』

 

 

 

純一さんは落ち着かない様子だ。

それほど仲が良かった人物だったのだろうか。

 

それにしては、一言もその人物について聞いた事がない訳だが……

 

 

 

『ことり、居るのか?』

 

『〔小鳥?〕』

 

 

 

真っ暗闇の中で純一さんの声が響く。

しかし、返事がある訳もなくすぐに静寂が俺たちを支配する。

 

しかし、俺は隣の家に聞こえていないかと不安になる。

何だか、純一さんが少し感情的になっている。

 

 

 

『義之君だけでなく、私にも話しかけてほしいんだ……』

 

『純一さん、相手は鳥ですか?』

 

『何を言っているんだ!ことりっていう名前の女の子だよ』

 

『ご、ごめんなさい』

 

 

 

純一さんが怖い。

それと、今の声は大きかった。二人が起きていると仮定したら、声が聞こえてもおかしくはない程の大きさだった。

 

俺は純一さんを刺激しない様に、話題の配慮を心掛けた。

到底、幽霊の話ができそうにない。

 

 

しかし今日は殆ど幽霊に集中できなさそうだ。

 

制限時間が来て、自分は切り上げとなった。

純一さんとは話しにくくて、そのまま家に帰った。

 

 

 

……

 

 

 

 

~家~

~台所~

 

 

 

いつもの様に朝食を作っていると、携帯にメールの着信音が入った。

こんな朝にメールが来るのも珍しい。

 

確認をすると、純一さんからだった。

すぐに来てくれとの内容だ。

 

家は隣なのに……

何だか不穏な様にも思えたので、すぐに朝倉家へと入った。

 

 

 

……

 

 

 

~朝倉家~

 

 

 

『おはようございます。桜内です』

 

 

 

ノックをしてドアを開けると、誰かが台所から慌ただしく走ってきた。

……純一さんだ。

 

何か異変に直面した様子だった。

 

狼狽していて、いつもの様な余裕はない。

あのモヤモヤが現れたのだろうか。

 

 

 

『すぐに確認してほしいんだが!』

 

『モヤモヤが出ましたか?』

 

『いや、とにかく上がって確認してほしい』

 

『………』

 

 

 

ただ事ではない様だ。しかも、こんな朝からとは……

一体、何があったのだろう。

 

……今はノイズの様なものは聞こえない。

とりあえず、正体不明の異変に冷静に対応できる様に努めた。

 

 

 

『これを見てほしい』

 

『カレンダーですよね?』

 

『私は日付は忘れがちでね。だから毎日カレンダーを見るんだよ』

 

『なるほどです』

 

 

『念の為に確認するが、義之君はこのカレンダーを触ってないよね?』

 

『はい全く。日付は携帯でチェックするので』

 

『そうか。今は本当に便利な時代だね』

 

『純一さん。一体何に慌てていたんですか?』

 

 

 

モヤモヤもなければ、カレンダーも変哲のないどこにでもある物だった。

俺の記憶の中では、カレンダーも触るとすれば、ピンから外れて落ちた時くらいしかない。

 

しかも、朝倉家のカレンダーをわざわざ触る事はない。

 

 

 

『今日は〇月△日だよね』

 

『はい』

 

『その二日後を見てほしい』

 

『………』

 

 

 

……斜めに破れている。刃物を使ったかのように鋭く切り込まれている。

一見だと分からないが、よく見るとこの日付が斜めに切られている。

 

誰もこんな事をするはずがない。

 

 

 

『昨夜も同じ様にカレンダーを確認した時は、こんなものは無かった。確かだよ』

 

『……誰かがやったと?』

 

『そうだと思う。あの子たちもこんな事をするはずがない』

 

『………』

 

 

 

すぐに他の箇所が破られていないか確認をしたが、二日後の日付のみに切れ目が入っていた。

何か意味があるとするなら……

 

 

『……え』

 

 

……まさか、二日後に「何か」が起きてしまうのか。

冗談ではない。ノイズがわずかに聞き取れるだけで、何も進展はない。

 

 

 

『まさか、二日後に?』

 

『考えたくはないが、そう示唆していると思う』

 

『バカな。まだノイズ以外何にも分からないんですよ。そのノイズすらわずかな音なのに』

 

『解っている。解っているよ。どうしたものか……』

 

 

『さくらさんを呼びましょう』

 

『さくらを?どうする気だい?』

 

『僕ら二人では到底無理です。さくらさんに全て事情を話して、一緒に考えてもらいましょう。それしか手はありません』

 

『……わかった』

 

 

 

俺もかなり気がかりになってしまい、何かが起きるかも知れない二日後まで学校を休む事にした。

あの二人には、今の内に言い訳を考えておかないと。

 

純一さんが電話して、意外にもすぐに家に帰って来れそうなのでさくらさんを待つ事にした。

しかし、いきなり慌ただしくなったな。俺はまだ朝食を作っていた最中だったのに……

 

そうだった。今のうちに、朝食をほおばっておこう。

 

……

 

 

 

~朝倉家~

 

 

 

『お兄ちゃん。居る?』

 

『おかえりなさい。純一さんは仮眠を取ってますよ。さくらさんが帰るまでだったのに、ぐっすり寝てる』

 

『そう。カレンダーはどこ?』

 

『台所ですよ。こっちです』

 

 

 

すぐに台所にあったカレンダーを見せた。

さくらさんは、カレンダーの表裏を調べたり、カレンダーの掛けられていた壁の後ろも調べている。

 

また、台所にある他の物も異常がないか入念に調べている。

 

 

 

『義之君もこういう事は早めに言ってよね』

 

『す、すいません』

 

『……随分、ぐっすり寝てるね』

 

『モヤモヤを調べていて、あまり寝てなかったのかも』

 

 

 

純一さんは、食卓のテーブルでぐっすり寝込んでいた。

さくらが帰ってくるまでの間、少し仮眠を取っておくと言って、熟睡してしまっている。

 

この場合、起こした方がいいのか分からないので、さくらさんに任せる事にした。

けど、さくらさんは「特定の夢」を見てくれる事もあるので、敢えて起こそうとしなかった。

 

俺とさくらさんは、場所を変えて話をする事にした。

 

 

 

~朝倉家~

~由夢の部屋~

 

 

 

何だか、気が引けたが由夢の部屋を借りる事にした。

考える時間もないので、こちらもなりふり構っていられない。

 

 

 

『今はノイズが聞こえる?』

 

『………』

 

 

 

……聞こえる。

さっきまで全く聞こえなかったはずなのに。

 

けど、そのノイズは夜に発生しているものと同じで、これだけだと何も分からないのは変わらない。

 

 

 

『………』

 

『今は聞こえます』

 

『それはどんな風に聞こえるの?』

 

『聴覚によるものではないです。ザワザワとした様な心に来る感じのものです』

 

 

『そのノイズは、喋っている様な一定間隔が開いている?』

 

『……自分は断片的にだと思ってました。話す様な一定間隔なのかも知れません』

 

『時折、ノイズが強くなったりする?』

 

『はい』

 

 

『疲れると思うけど、1時間ほど聞いてみて。僕も試してみる』

 

『さくらさんも聞こえますか?』

 

『うん。同じ様に聞こえていると思うよ』

 

『………』

 

 

 

朝は夜と違い、色んな音が耳に入る。

誰かが近くを歩いている足音、車のエンジン音、洗濯機が回っている音。

 

ノイズは高音や低温がわずかに区別が出来るようになった。

日本語の五母音の「あ」と「い」と「お」は何とか解るので、それを2人でそれぞれノートに書きこむ。

 

「あ」は点を一つ、「い」は点を二つ、「お」は横線で区別して、書いてみる事にした。

それを後で、あ行、か行、さ行などに当てはめてみて、言葉になるか試してみる。

 

 

 

『ダメだ。全然言葉にならないです』

 

『もう少し頑張って』

 

『はい』

 

『………』

 

 

 

さくらさんは一心不乱にノートに書き続けている。

俺はこういう作業が苦手で、疲労感もあってか、どんどん集中力が失っていく。

 

喋るというのは高速で、書く側の方が全く追いつかない。

ノイズが止まった時、次に発するノイズが聞こえた時にだけ集中力を尖らせる事にした。

 

 

 

……

 

 

 

集中力が持たず、俺もさくらさんも休憩を取る事にした。

自分の書いたノートを、言葉になるか試したが殆ど解らずじまいだ。

 

さくらさんの方は「外」という言葉は聞き取れたようだ。

俺が悪戦苦闘して出来た言葉は、学校という言葉だけだ。

 

 

 

『ノイズから「んっんー」というのが何度か聞き取れますが、これって学校かも知れないです』

 

『そうだね。でも解明には時間が足りなすぎる。臨時休校にしたくてもそれも時間が足りない』

 

『俺と杉並で学校の窓ガラスを割りまくって警察沙汰にすればいける、かも?』

 

『……そんな事をやったら怒るよ』

 

 

 

休憩も終わりノイズを解読しようにも、さっきまで聞こえていたノイズが何も聞こえなくなってしまった。

結局、気になるまま終わってしまった。

 

モヤモヤ、ノイズ、カレンダーの切れた跡。

 

向こうもエネルギーを使い果たしてしまったのだろうか……

その日は、夜になってもノイズを拾う事ができなかった。

 

 

 

 

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