D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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〔6〕

~朝倉家~

~夕方~

 

 

 

『やっぱり聞こえないか』

 

 

 

学校から帰宅して一人佇んでいる。

昨日のノイズの解明中、何度試しても何も聞こえなくなってしまった。

 

それだけでなく、昨日の夜でさえもノイズが聞こえなくなった。

 

俺とさくらさんで解明したのは「学校」と「外」という2つの言葉だけ。

その選び抜いた言葉でさえも、確証はない。

 

学校内で何かが起きるのだろうか。

もし外だとすると、範囲が広すぎて特定する事はできない。

 

 

 

『………』

 

 

 

次の日、カレンダーが鋭利な刃物で破られた日になる。

誰かが何かに……

 

 

 

……

 

 

 

~桜公園~

 

 

 

時計は20時を指している。

俺は気分を変える為に、公園のベンチで座っていた。

 

空気が冷たくて美味しい。

考えすぎた脳にはちょうどいい寒さだ。

 

難解過ぎて、希望的楽観に逃げようとしている。

実は自分の見当違いで、明日はそこまで大きな事は起きないのかも知れない。

 

それどころか、実際に何も起きないのかも知れない。

そうだとすると、とんでもない取り越し苦労だ。笑い話だ。

 

では、あの釈然としないサインは……

いやいや、誰かのイタズラかドッキリかも知れない。

 

 

 

『風邪引くよ』

 

『あ……、さくらさん』

 

『隣座っていい?』

 

『勿論、どうぞ』

 

 

 

自分の疲れきった精神を見越してか、背中を何度も撫でてくれる。時折、ポンポンと軽く叩いてくれる。

俺は止めもせず、背中を撫でてくれる事にひたすら甘えていた。

 

 

 

『もう考えても仕方のない事だよ。これ以上は体に毒だよ』

 

『そうですね』

 

『経験から言うと、宿命や悲劇はどんなに気を付けていても来る時は来る。それが早いか遅いかの違いでしかないと思うんだ』

 

『……ことりさんには悪いが』

 

 

『……学校内に医療道具だけは揃えておいた。保険医にも時間の余裕を作らせた。僕にはこれぐらいしか出来ない』

 

『………』

 

『義之君も無関係の話ではないんだから、明日は十分気を付けてね』

 

『はい』

 

 

 

話を終えると、そのまま家に帰った。

冷え切った体を風呂で温めると、そのまま寝入ってしまった。

 

避ける事の出来ない宿命、悲劇……

そこにはどんなに助けたくても、助ける事のできない非情な試練が存在する。

 

どんなに健康や平穏を望んでいても、いつか病や事故、事件に直面するのと同じ事だ。

そう考えると、宿命や悲劇は予め、誰にでも用意されている……

 

誰にでも……

 

 

 

~家~

 

 

 

『ふぅ』

 

 

 

朝が来てしまったか……

緊張とは裏腹に、疲れはかなり取れた感じがする。

 

……だが、何だか違和感を感じる。

晴れているわりに、朝日が全く差し込んで来ない。

 

俺がベッドから起きた拍子に、小さな紙が落ちた。

薄いピンク色のメモ用紙だ。すぐに拾い上げて読む。

 

 

 

ー何度起こしても起きなかったから先に学校へ行くよー

ー由夢ー

 

 

 

時間を確認して悲鳴の様な声が出てしまった。

 

 

 

『12時15分だと!?』

 

 

 

遅刻とか、寝過ごしたというレベルではない。一体、何時間寝てたんだ。

俺は慌てて制服を着替え、歯を磨いて、学校へ行く準備を整える。

 

カギをしっかり閉めると、学校へと駆けだした。

 

 

 

『!!!』

 

 

 

駆けだした足が無意識に止まった。そして、体に緊張が走った。

あのノイズだ……

 

あのノイズが、また聞こえている。

一旦、自分の家へ戻り、朝倉家のスペアキーを持って、朝倉家へと入った。

 

 

 

~朝倉家~

 

 

 

『ここか?』

 

 

 

玄関で注意深く耳を傾けると、台所から温もりを感じた。

ドアをソッと開けると、皆の言っていたモヤがあった。

 

怖いというより、振り回されっぱなしでイラつきさえ感じていた。

 

 

 

『ノイズじゃ分かんないんだ。悪いが』

 

『………』

 

 

 

あれ……、モヤがすぐに消えてしまった。

モヤのあった場所に行くと、やはり暖かさを感じる。

 

その後ろには、純一さんが毎朝チェックするカレンダーがある。

何気なく、今日の日付を見てみた。

 

 

 

『これは……』

 

 

 

今日の日付には鋭い刃物で切りつけた跡があった。

それが、×印に変わっている……

 

いや、違う。×印に成りきっていない。斜め上の部分だけが切られている。

一体どういう意味だ。

 

 

 

ダメみたい。やっぱり運命は避けられない……

 

だ、誰だ。

 

 

 

何だ今のは。今のはノイズではなく、はっきり聞く事ができた。

だが次の言葉が来ない。さっきまでのノイズも完全に消えている。

 

 

 

『もう一度頼む。今は聞こえるから』

 

 

 

暫く待とうとしたが、すぐに考えを変更した。

恐らく、避けられない運命が起きる様だ。しかももうじき。

 

もはや理論を踏まえる時間はない。頼れるのは直感のみだ。

柄にもなく手を合わせて祈り、もう一度ノイズで拾った2つの言葉を考える事にした。

 

しかし、考えても分からない。他、他……

今度は朗読してみようか。

 

 

 

『学校外。学校外。学校、外。学校、外』

 

 

 

『学校の外、学校に外。学校と外。学校も外』

 

 

 

……もしかして、学校の外と言っていたのだろうか。

学校の外と言っても、喫茶店からスーパーから、ほぼ無限にある。

 

いや、この場合は生徒に絞ればいいのかも知れない。

どこかでサボっている生徒……、何か違うな。

 

 

 

『学校の外、学校の外、学校の外で待ち合わせしようぜ』

 

 

 

……もしかしてこれか?

誰かが学校の校門で待ち合わせしていて、その人に何かが起きるのか。

 

元々、直感だ。他にアテはない。

もう間に合わないのかも知れないが、ドアを乱暴に閉めてカギを掛けると一気に学校へダッシュした。

 

 

 

……

 

 

 

朝食も昼食も逃してのランニングはキツすぎる。

肺が痛くなってきた。

 

だが時間が無い事を思うと、走るのを止める事も出来ず、懸命に駆けた。

 

 

 

~学校~

~昼休み~

 

 

 

ようやく学校が見えて、荒い呼吸を整えると安堵してしまった。

学校の校門には誰もいない。

 

その場で立ち止まって体力の回復を待った。

空きっ腹の長距離ダッシュだから、体力が中々回復しようとしない。

 

 

 

『え……』

 

 

 

顔を上げると、誰かが校門の前に立っている。

座り込んで顔を下に向けていた、ほんの少しの時間に。

 

俺の知らない女性だ。

とにかく、こうしている訳にはいかないので疲労しきった自分にムチを打った。

 

 

 

『ちょっと』

 

『えっ、あ、もしかして義之君?』

 

『えっと、その……』

 

『小恋から聞いてるよ。私は白河ななかっていうの』

 

 

 

小恋の知り合いなのか。

しかし、悠長に話している場合ではない。

 

俺の読み通りが当たっていると、もうすぐ何かの脅威に直面する。

ここに居てはこの子は勿論、俺も危ない。

 

俺はいきなり、その子の左腕を引っ張った。

 

 

 

『ちょっと、いきなり何するの?』

 

『場所移動してくれ。ここは危ない』

 

『危ないってなんでよ?』

 

『話している時間はない』

 

 

『ちょっと離してよ!!』

 

『頼むから!!』

 

 

 

つい力んでしまって、力任せに引っ張るとバランスを崩して肘から前のめりに倒れてしまった。

うつ伏せになりながら、白河という女性から嗚咽が聞こえる。

 

……何て事をしてしまったんだ俺は。

殆ど錯乱状態になっていた。

 

 

 

『どうして、こんな酷い事するの』

 

『ごめん。本当に……』

 

 

 

次の言葉が出る前に、信じられない物が目に入って絶句した。一瞬、立ちすくむ。

直後、我に返り、その子の両脇に抱きかかえる様に掴み、後ろへ力の限り飛んだ。

 

自分の居た場所に、レンガで出来た校門を簡単にぶち抜いて、靴箱へと力無く進んでいる。

……トラックの暴走だ。

 

音を立てずに突っ込んできたので、今も心臓のドキドキした音が止まない。俺の視界にトラックを捉えただけだ。

映画でよく見るシーンとはまるで違うものだった。

 

音の無い接近、破壊音の迫力の無さ。自分の日常で全く想定していない出来事。

交通事故が起きたという実感すら来ない。

 

 

 

『危なかったな……』

 

『………』

 

 

 

白河という子は、放心状態になっている。何だか顔色も悪い。

 

しかし、もう少しで二人共ペシャンコにされる所だった。

学校の様子を見ると、女の悲鳴があちこちで起きている。

 

先生と生徒がトラックに、そして俺たちに駆け寄っている。

俺はそれを仰向けになりながら、呆然と見ていた……

 

 

 

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