D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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~学校~

~放課後~

 

 

 

随分、怒られちゃったな……

先生と生徒会には、俺が女子生徒を転倒させた事実のみが残ってしまった。

 

白河を助けたのも事実だが、トラックが暴走していたのを、たまたま俺が居合わせた事になってしまっている。

幽霊の事を説明しようにも、理解させる事は不可能であり、余計に頭がおかしいと思われるだけになる。

結局、何も言う事ができなかった。弁明しようがない。

 

所詮、人は説明がつかないと何も始まらない。

理解させる事は出来ないんだ。

 

その後、生徒から蔑む視線とヒソヒソ話。やけに俺から距離を取ろうとする女子生徒。

 

 

 

『………』

 

 

 

しかし、俺はやったんだ。現実に起きる、最悪の事態を回避したんだ。

恐らく、幽霊が危険を示唆していたのは、今回の事だろう。

 

悲劇や宿命のレベルではなく、死ぬ所だった訳だが。

そりゃ、ことりさんも何とか回避しようとする訳だ。

 

 

 

~家~

 

 

 

帰宅すると早速、純一さんが出迎えてくれた。

喜んでいる様に見えるが、表情が微妙な感じでもある。

 

 

 

『女の子を救ったんだってね。お手柄じゃないか』

 

『いえ、そんな。音姉か由夢に聞いたんですか』

 

『あ、ああ……』

 

『??』

 

 

 

なぜか分からないが、純一さんの気分が一気に沈んだ。

何か失言してしまったか記憶を辿ったが、まだ一言、二言を話しただけだ。

 

失言らしい失言はない。

 

 

 

『何かあったんですか?』

 

『いや、また後で話すよ』

 

『今お願いします。どうしたんですか?』

 

『………』

 

 

 

~家~

~自室~

 

 

 

幽霊騒ぎから時間を置いて、久しぶりに自分の部屋でくつろいでいる。

音姉も由夢も、自分の家に戻ったようだ。

 

……正確には、避けられてしまった。

無理もない話ではあるが。

 

 

元々、幽霊の事を話していない事もあり、俺が女子生徒を転倒させた事実だけが残ってしまった。

親しい間柄であっただけに、音姉も由夢も相当なショックを受けてしまったみたいだ。

 

試しに挨拶程度に朝倉家に行ったが、あの二人には完全にスルーされてしまった。

いっその事、ありのままを話してみるか。信用してくれるかは別として……

 

 

 

『………』

 

 

 

命を救ったという喜びの余韻に浸りながら、現実では嫌われ者扱い。

その感覚は、形容しがたい複雑な感覚を持つ。

 

幸福と不幸が、一緒に得たというのだろうか……

 

そういえば、さくらさんは帰ってきてたかな。

ちょっと話を聞いてもらいたい。

 

 

 

~居間~

 

 

 

俺が音楽を大きめにかけていたから、さくらさんが帰ってきていたのに全然気づかなかった。

ニュース速報を見ている。

 

何だか、事件が起きない日が珍しいとすら思えてしまう。

俺に気づくと純一さんと同様、微妙な表情を浮かべている。

 

 

 

『義之君、体、大丈夫?』

 

『全く問題ないですよ』

 

『そっか、あの事故はシャレにならないよね……』

 

『今は人間関係にシャレにならないです……』

 

 

『転倒させたこと?』

 

『はい……』

 

『あまり気にしないで。義之君がそんな人間じゃないって分かっているから』

 

『慰めでも嬉しいです。喜んでいるのは幽霊だけかもです』

 

 

『……幽霊だけ?どういう事?』

 

『ノイズから拾った「学校」と「外」の言葉を直感で当てて、あの場に行ったんですよ』

 

 

 

いきなり、さくらさんが立ち上がってこっちを見た。

物凄く驚いた表情をしている。

 

失言、失言、何か変な事を言ったか今……

俺は何も言えず、さくらさんの言葉を待った。

 

 

 

『それは聞いていないよ!なぜ、あの時に言わなかったの?』

 

『先生や生徒会の前で、幽霊が危険を知らせたと言っても誰も信じないですよ』

 

『……それもそうか。今ならいいでしょ』

 

『勿論です』

 

 

 

……

 

 

 

一通り説明を終えた後、さくらさんはカレンダーの状態まで確認しに行った。

×印は斜め下には切られる事なく、習字の習い事で使う文鎮の形をキープしている。

 

しかし、俺も一つ気になっているがあった。

いい機会だから、今の内に聞いておこう。特に、純一さんがいない今。

 

 

 

『だけど、殆ど当てずっぽうで当てたんだね。ちょっとびっくりしたよ』

 

『でも、この直感で当てた話を信じるんですか?俺が勝手に作った作り話かもですよ』

 

『義之君はそんな性格してないもん。それに、幽霊が危険を知らせていた事に思い当たりがあるし』

 

『え、それは?』

 

 

『……ことりの話、お兄ちゃんから聞いた事はある?』

 

『……実は自分から質問しようとしてました。ことりという名前以外何も知らないです』

 

『苗字は?』

 

『知りません』

 

 

『今日助けた子は?』

 

『え、えっと、白河ななか?』

 

『その苗字だよ』

 

『ええ!?』

 

 

 

では、白河ななかとことりさんは血縁の間柄なのか……

そうなると今回の騒動の話が見えてきた。

 

大きな事故を予期したのか、それを防ぐ為に仲の良かった純一さんの家に来て、何とかサインを送っていたわけだ。

当の本人は、ノイズすら聞こえなかった訳だが。

 

無論、俺も最後は直感しか頼る事が出来なかった訳だが……

 

 

 

『ことりさん、喜んでくれると嬉しいな』

 

『そりゃ大喜びだよ。ことりも運命は避けられないと諦めたんだし』

 

『今の俺の人間関係を見ても?』

 

『……なるほどね。素直に喜べないかもね』

 

 

 

トラックの事故と、今、自分に起きている人間関係。

天秤で測るまでもなく、トラックの事故の方がシャレにならない。

 

俺の問題は追々何とかなるだろう。

この場合は、問題を小さくする事に成功したと受け止めておこう。

 

 

 

『ちょっと待っててね』

 

『はい』

 

 

 

そう言うと、さくらさんは自分の部屋へと戻った。

気さくに言われたので、今回の話では無さそうだ。

 

言われた通りに待っていると、カギを開ける音も聞こえる。

何をしているのか気になるが、言われた通りに待つ事にした。

 

 

 

『僕の宝物だよ。義之君にあげる』

 

『……この白い布が、宝物、ですか』

 

『あの子が被ってた帽子だよ』

 

『………』

 

 

 

……大きめのサイズに、ラインの入った帽子。

俺が夢で見た、あの時の帽子そのものだ。

 

寒気を覚える。

手に取ってみると特徴はなく、何の変哲もない帽子だった。

 

強いて言うと、洗濯をした後の様に真っ白であり、ホコリもなく清潔感を感じた。

 

 

 

『いいんですか?俺だと汚してしまいそうですよ』

 

『大丈夫。自分も直感で義之君にあげるんだから。あの子が義之君を守ってくれるよ』

 

『それはないかと』

 

『絶対そうだよ』

 

 

 

強引に渡された気がするが、とりあえず有難く受け取っておこう。

実際に、使い道があるのかは別だが……

 

夜も遅いので、そのままお開きとなった。

自分の中では、一つ大きな問題が片付いたのでホッとしている。

 

 

 

~家~

~台所:朝~

 

 

 

分かっていた事だが、二人とも朝食には現れなかった。

…、一人の食事が続きそうな予感がする。

 

……昨日までの朝倉家と過ごした濃密な時間が、今は恋しい。

いきなり一人になると、ギャップを感じざるを得ない。

 

 

 

 

~学校~

~焼却場:昼休み~

 

 

 

『ふぅ……』

 

 

 

自然と大きなため息がでる……

焼却場で昼食を食べる事になるとは夢にも思わなかったな。

 

 

最初は食堂で食べていたが、学校内で転倒事件が広まりきったせいで、完全に生徒から避けられている。

俺の座っていたイスの隣に座るどころか、そのテーブルに近づこうともしない。

 

居づらくなって、焼却場で飯を食べる事にした。

ここなら誰も来なさそうだから、気兼ねなく昼食を楽しめる。

 

昼食も一人で食べる日が続きそうな予感がする。

 

 

 

『……さくらさん』

 

『………』

 

 

 

夜とは違う静寂な空間に、いきなりさくらさんが見ていたので驚いた。

一声くらいかけてくれればいいのに……

 

 

 

『こんな事になるなんて……』

 

『仕方ないです。女を転倒させたという事実しか残ってないんですから』

 

『………』

 

『……行いは巡り巡って返ってくる。それを信じるしかないですよ。今は』

 

 

『これからの昼食は僕の学園長室に来てよ。そこで一緒に昼食しようよ』

 

『それは悪いですよ。気にしないで……』

 

『ダメ!これは学園長としての命令。昼休みは学園長室で。わかった?』

 

『は、い』

 

 

 

有無を言わさず、というやつか。

俺としても、焼却場で食べるより、学園長室で食べたい訳だが。

 

前言撤回、昼食の予感は外れた。

じゃあ、明日からは暫くは学園長室になるのかな。

 

 

 

~学校~

~放課後~

 

 

 

生徒の慣れない嫌悪と怪訝な視線から逃れ、靴箱で靴を履き替え、家路へと着いた。

スーパーで安売りしている醤油や野菜を、再確認しながら向かう。

 

 

 

『あ……』

 

 

 

自分の10メートル前を白河と小恋が歩いていた。

……そういえば、小恋とも全然話していないな。

 

少し躊躇ったが、やはり話す事にした。

 

 

 

『小、恋』

 

 

『よ、義之』

 

『………』

 

 

 

あちこちに泳ぐ視線、後ずさる片足、戸惑いを隠せないようだ。

そう思う俺も、何だか上手く声をかけれなかった。

 

よく解らない緊張が体中を走っている。

 

 

 

『行こ、小恋』

 

『え、でも……』

 

 

『ちょ、ちょっと待って』

 

 

 

スムーズに話す事が出来ないが、少しでも話したい。

話す事が出来なくても、せめてもう一度謝っておきたい。

 

白河に至っては、完全に嫌われたようだ。

俺に向ける視線が全てを物語っていた。

 

 

 

『昨日は本当にごめん』

 

『……もういい?』

 

『え、もういい?』

 

『もう行ってもいいでしょ』

 

 

『まだ全てを話していない。せめて……』

 

『近づかないで』

 

『………』

 

『行こ、小恋』

 

 

 

相当嫌われたようだ。

だが、そうなると自分の行った行為がバカな事をしたとしか思えない。

 

助けない方が良かったんじゃないのか?と憎悪の考えすら芽生えてくる。

しかし、もう後の祭りだ。

 

 

 

『くそーーー、助けるんじゃなかったぜ!!』

 

 

 

彼女らが歩く後ろで、思いっきり毒づいた。

 

スーパーへは遠回りになるが、彼女らの後を歩くのが嫌になり、来た道を引き返した。

再度、自分の買い物を確認する。

 

 

レジに並んでいる時、あれを買うのを忘れたというのは結構あったりする。

しかもそんな時、レジに長蛇の列が出来ていて、また並ぶのが面倒臭くて諦めざるを得ないという。

 

ぶつぶつぶつぶつ……

 

 

 

~家~

~自室:夜~

 

 

 

夕飯も風呂も済ませ、自室で本を読んでいた。

畑が無くても、プランターで野菜を植える事ができる本だ。

 

最近、自前で野菜を調達できるのが魅力を感じ始め、少しかじる程度に読んでいる。

ネギなどは特に食材として使うので、家庭菜園で栽培できるなら、かなり大きな収穫になる。

 

 

 

≪コンコン≫

 

 

 

ドアがノックされたので、ラジカセのボリュームを下げてドアを開けた。

そんなに音が大きかったかなと思いながら、対応する。

 

 

 

『すいません、うるさかったですか』

 

『いや、電話だよ』

 

『なんだ、誰からですか?』

 

『………』

 

 

 

いつもはスマートフォンなので、家の電話で自分宛てにかかるなんて珍しい。

近所の人だろうか……

 

なぜか、さくらさんのレスポンスがいやに遅い。

 

 

 

『誰から?』

 

『………』

 

『さくらさん?』

 

『……白河さんから』

 

 

 

体の芯から熱が入った。

なぜ、俺に電話しにきたかは知らないが、とりあえず応対する事にした。

 

こっちも言いたい事を言わせてもらう。

出来るだけ、悪態ついて横柄に対応してやる。

 

 

 

『貸して下さい』

 

『う、うん。でもあまり厳しすぎないでね』

 

 

 

……見透かされちゃった。

こうしている訳にもいかないので、受話器を受け取った。

 

 

 

『誰だ。こんな時間に』

 

『えっと、ななかです。夜分遅くにごめんね』

 

『恩知らずが。俺に何の用だ』

 

『なんでいきなりそんな剣幕なの』

 

 

『その言葉、今日俺が夕方に会った人物に返したいな。髪の長い奴に』

 

『……怒ってる?』

 

『誰からこの家の番号を聞いた?』

 

『えっと、小恋から』

 

 

『今更ながら助けるべきではなかったと後悔している。今からでもいいから潰されてくれ。トラックにな』

 

『……怖すぎる。小恋の言ってた話と全然違うよ』

 

『夕方に比べて嫌われ方が違うな。別人と話しているようだ。本当に本人か』

 

『………』

 

 

 

ボロクソにけなしまくってやった。

しかし、ここまで言いたい事を言うのって気持ちいいな。

 

これ以上は病みつきになりそうなので、この辺で止める事にした。

 

 

 

『その……、引っ張られた事と救ってくれた事が混同してて、ごめんなさい』

 

『今度から助ける人間を選ぶから気にするな。お前は二度と助けない』

 

『……今日は助けてくれて本当に有難う。もう一ついいかな』

 

『……何だよ』

 

 

『私が校門で待っていた時、義之君、予め危険を知っていて場所移動の為に手を引っ張ったみたいだけど……』

 

『………』

 

『その……、なぜあの場所が危険だとわかったの?』

 

 

 

今になって、その考えにたどり着いたか。

俺の中で感情が激化しているので、いちいち説明するのも面倒くさい。

 

悪態つくのは止めて、適当にあしらう事にした。

 

 

 

『さぁーーーな。記憶違いだろう』

 

『記憶違いじゃないよ。確かにそう言ってた』

 

『悪いがもう寝るんだ。嫌いな人間と話す趣味はない』

 

『……うぅ、謝ってるのにー』

 

 

 

 

こちらから一方的に切ってやった。

どうせ、あの幽霊の話をした所で信用しないだろう。

 

その前に、説明するとなると確実に長話になるので、うんざりして切らざるを得なかった。

まだ寝る時間ではないが、何だか眠くなってきたので睡魔に身を委ねた。

 

 

 

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