D.C.Ⅱ 〔2〕   作:消雪

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〔9〕

~畑~

~夕方~

 

 

 

『ナスは四方4カ所に肥料をあげてね。それから、水が足りてないので水やりもやっておいて』

 

『分かりました』

 

『あと、倉庫から支柱を持ってきて』

 

『はい』

 

 

 

返事を終えると、額の汗をタオルで拭う。

正直、農業がこれほどの重労働とは思わなかった。

 

腰にくる、足にくる、体力は体の芯から奪われる。

いつも仕事の終わりは、汗だくになってクタクタになっている。足腰が立たない位に疲れる時もある。

 

 

この重労働を老夫婦がやっているとは、驚きだ……

 

話しによると、最近では異常気象で、農作物が思った様に収穫ができないらしい。

台風が来た訳でもないのに、いきなり強風が吹くと、大抵は対応が遅れて作物が落ちてしまうようだ。

 

 

 

『いてて……』

 

 

 

腰だけはいつまで経っても慣れないな……

絶対に、自分で臨時休憩を取らないと痛めそうだ。

 

最初に比べると、筋肉痛はだいぶと収まった。

当初は、腰から足の下まで、悲鳴をあげるような筋肉痛で地獄だった。

 

トイレで大を足すにも、足が痛くて中々座れないくらいの激痛だった。

 

虫が苦手な俺も、これだけ疲労がたまればクモだろうが、ミミズだろうが、何ともなくなってくる。

 

 

しかし、こうやって何かに勤しんでいると大概は思考が鈍くなるものだ。

殆ど学校の事を考える時間などない。

 

 

 

『………』

 

 

 

……最後にあの姉妹を見た後、音楽を聴いている途中に純一さんがやってきた。

すぐに話し合いになり、俺の一人住まいを止めようとした。

 

感情と勢いで行動しているだけで、実際には何の解決にもならないと言われた。

空き巣や防犯の事もあるし、何よりさくらさんが寂しがるから、絶対に家に居る様に説得を受けた。

 

 

純一さんには逆らえず、アパートの話は無くなり、2週間ほど学業から農業に時間を費やす事となった。

 

帰宅時はいつも夜の8時と遅くなるが、農家の方はアルバイトという事で、交通費も給料も出すと言ってくれた。

予想もしなかった好条件が付いたから喜んで承諾した。

 

 

早朝から夕方まで、家や学校の離れで生活している。

さくらさんと純一さん以外、俺がこんな離れで生活している事は知らない。

 

生徒もよほどの理由がない限り、田園地帯が広がるこの場所まで来ない。

と言うより、遊ぶ所が全く無いので、進んで来る事はないだろう。

 

 

 

『………』

 

 

 

もう一度、畑の農作物を見渡してみる。

自然と触れ合う大事さ……、何だかわかる気がする。

 

 

 

……

 

 

 

~家~

~玄関:夜~

 

 

 

『ただいまー』

 

『おかえり、その野菜また貰ったの?』

 

『ええ。農家の人に』

 

『義之君にとっても、いい方向に向かっている様で何よりだよ』

 

 

 

おっちゃんに貰った野菜は、スーパーで売っている様なきれいな野菜でもないし、形も整っていない。

しかし、新鮮な野菜を食べる事ができるので、形や少しくらいの虫食いがあっても、全く問題にならない。

 

料理の時、包丁で虫食いの部分を切り取ればいいだけだ。

更には、食費代の節約が効くので、さくらさんにとっても家計が大助かりのようだ。

 

 

 

~食卓~

 

 

 

既に夕ご飯を置かれてあったが、先に冷蔵庫からポカリを出して水分補給にした。

肉体労働は腹も減るが、喉はひどく乾く。

 

 

 

『お疲れ様。いつも美味しい野菜ばかりで嬉しいね』

 

『ですね。高級食材の山芋まで貰えるとは思いませんでした』

 

『明日も行くの?』

 

『天気予報では雨が強くなると言ってたので、畑が使えなさそうだけどどうでしょうね』

 

 

 

他愛の無い話をしながら、夕ご飯を取る。

昨日、収穫したばかりのトマトを口にすると、違った美味しさを実感する。

 

取ったばかりなので、新鮮さの先入観ばかりが頭にきてしまう。

野菜の味の濃さ、新鮮さ、美味しさがスーパーで売っている物と違う。

 

 

料理した野菜が、味を自己主張している。そんな感じだ。

 

1,2,3,4……、10日目か。

あんまり考えたくはないけど、また学校に行かないとな……

 

 

 

『多忙で考えた事がなかったですが、学校はどうなってます?』

 

『ん、普通だよ』

 

『その、俺の事です。いきなり10日も連続で休んでいるから、何か言われてるかなって』

 

『……登校拒否とか噂されてるかな』

 

 

『登校拒否。いい響きですね』

 

『どこが?月島さんと白河さんが心配してたよ。学校に行ったら、ちゃんと声をかけてあげてね』

 

『は、はい』

 

『そうだ、白河さんと言えば……』

 

 

『なんです?』

 

『体育館で全校集会の時に……、あ、でも言っていいのかな』

 

『気になるじゃないですか。その時に何かあったんですか?』

 

『先生がマイクで話している時に、いきなり壇上に上がって、先生のマイクをひったくって……』

 

 

『し、白河が?』

 

『うん』

 

『ははは、すげえ。俺も見たかったな』

 

『あんまり笑わないでよ。これは義之君の事だよ』

 

 

『……俺?』

 

『そうだよー』

 

 

 

話しによると、全校生徒の前で、実際に起きた転倒事件の真相を言い出したようだ。

暴力行為で引っ張ったのではなく、危険だから場所を変えようとしていただけだと。

 

けど、どうやってその場所が危険だと分かったのか?という話になる。

その核心の部分で説明ができない。

 

 

実際には、幽霊の知らせを直感で当てたが……

 

しかし、そんな話を誰が信用するだろう。

オカルト〔非論理〕の話になってしまい、余計に誰も聞いてくれなくなる。

 

気持ちは有難いが、こうなってしまった以上、今後は誠意の行動を尽くすしかないと思っている。

 

 

 

 

『やっぱり、良い行動は報われるんだよ。今がそうじゃない』

 

『うーん、どうでしょうね』

 

『見えない作用はやっぱりあるんだよ。絶対だから』

 

『そう、ですね』

 

 

『義之君は「徳のある人」って聞いた事がある?』

 

『いえ、全然分からないです』

 

『儲けなど目に見えることだけでなく、思わぬ恵みや恩恵を受ける事だよ。正しい行いや、努力によって得られるんだよ。今の義之君はそれだと思う』

 

『この世は自分だけの計算や理屈だけが全てではないんですね』

 

 

 

……何だか、一種の真実の様に思えた。

自分も農業に携わる時、単に農作業があるだけとしか思わなかった。

 

野菜は貰える、野菜の作り方を教えてくれる、給料も交通費も出すというメリットの大きな場に巡り合えた。

学校から離れたという事で、心の状態も安定してきている。

 

 

農作業は確かにキツかったが、その時間は煩わしさからずっと逃れていた。

そう、本当にプラスの大きな事ばかりだった。

 

 

 

『あっちの方は聞かないの?』

 

『あっちって?』

 

『ほら、お隣の……』

 

『おと……、あの姉妹から絶交されたんです。どうせ俺が白河を怪我させたとしか見ていないでしょう』

 

 

『義之君が農業している間、何度もどこで何をしているのか聞かれたよ』

 

『………』

 

『嫌いだと言われても、そう簡単に嫌いになれないもんだよ』

 

『俺は嫌いになったんです』

 

 

『でもいい子たちだって分かるでしょ』

 

『……その話は止めにして下さい』

 

『義之君……』

 

『俺が辛辣なのは分かります。けど今は……』

 

 

 

せっかく農業に勤しんで、何も考えずエネルギーを抜いてきたのに……

これだと、また負のエネルギーが蓄積されてしまう。

 

 

 

~家~

~次の日:朝~

 

 

 

『休みになったか……』

 

 

 

天気予報が当たり、雨になった……

このシトシト雨とドンヨリ雲だと、今日は一日中雨かも知れない。

 

それだけ雨が降ると、一日や二日で畑から水が引くか分からない。

しかも、週間天気予報では、はっきりしない天気が続くようだ。

 

……土曜日だし、久しぶりに羽を伸ばすか。

 

 

 

~商店街~

~ホームセンター~

 

 

 

『こんな所で会うとは、散歩してんのー』

 

『そうです。商店街でブラブラしてました』

 

 

 

農家のおっちゃんとおばちゃん。

俺がプランターで使う培養土の値段を見てたら、偶然出会ってしまった。

 

まさか、商店街で出会うとは思いもしなかった。

 

老夫婦にとって、俺はタイミング良く現れたようだ。

購入した気石灰と堆肥の袋を車に詰め込んでほしい、と頼まれた。

 

1袋が約20キロあるので、年を取った人が持って運ぶには厳しい。

だが今まで、野菜を貰ってきたので、これ位の手伝いでは足りないとすら思った。

 

 

 

『また、学校へ行くんだよ』

 

『…、はい』

 

『助かったわ。またなー』

 

『いえいえいえ、こちらこそ野菜を貰ってるので全然』

 

 

 

慌てて言葉を返した。

 

老夫婦が車に乗って遠ざかるのを待つと、当初の目的だった散歩をする事にした。

傘をさす前に、ある人物が目に入った。

 

……白河だ。

会う理由も無いので体を反転させて、散歩の続きをする事にした。

 

 

 

『あー、酷いなもう。心配してたのに』

 

『すまん、色々考え事してた』

 

『……だいぶと日焼けしてない?どこかへ行ってたの?』

 

『……畑へ』

 

 

『畑?』

 

『このホームセンターで話すのも迷惑になるし、また学校で……』

 

『そこ、そこ。喫茶店入ろ。すぐに戻るから先に入ってて』

 

『………』

 

 

 

見送ると、近くのアパレルショップに入っていった。

雨の中だというのに、その店だけ女性の出入りが多い様に見える。

 

バーゲンセールでもあったのかな。

……貧乏学生にとっては、逃せない機会ではある。

 

言われた通り、喫茶店へと足を運んだ。

久しぶりに喫茶店のコーヒーを堪能する事にした。

 

 

 

~喫茶店~

 

 

 

『22分……』

 

 

 

女の買い物は長いというが……

ここまで待った俺も俺というか……

 

今まで白河に冷たく当たっていたので、少しくらい気を長くして待ってあげようと思っていた。

しかし、ここまで待たされるとげんなりする。

 

バーゲンセールだったので、まだまだ服を見足りないのか、レジが混雑しているのか。

 

……もう少し気を長くして待ってあげよう。30分をタイムリミットにして読書でもしていよう。

 

 

 

……

 

 

 

『33分……』

 

 

 

喫茶店の雑誌を元に戻して、会計を済ませる事にした。

さすがに、限度がある。テーブルの上にある呼び鈴に手を伸ばした。

 

突然、喫茶店のドアが乱暴に開かれる。

その正体が嫌でも分かるので、呼び鈴から手を離した。

 

ウエイターもお客も、何事だと視線を離さない。

 

 

 

『……あはは』

 

『あはは、じゃない!!何分待たせる気だよ』

 

『いつもの調子で服を見てたら、時間を忘れちゃって……』

 

『………』

 

 

『怒ってるよね。ごめんなさい』

 

『……アイスコーヒー』

 

『えっ?』

 

『奢ってくれるなら水に流すよ』

 

 

 

喫茶店の伝票をヒラヒラさせて、白河に見せる。

不服そうだったが、すぐにいつもの調子に戻る。

 

服に付いた雨を軽く払った後、イスに座った。

隣のイスに置いたビニール袋は、購入した思われる服がある。

 

 

 

 

『ちゃっかりしてるなー。まぁいいや、てっきり怒らせてしまったと思ってたし』

 

『もう帰ろかなと思っただけだよ』

 

『30分?』

 

『33分』

 

 

『もう忘れよっか。さーて、何を頼むかな』

 

『………』

 

 

 

この話題に触れるのは良くないと思ったのか、慌ててメニューに目を通す。

さっきからランチばかり見ていて、ドリンクを選ぼうとしない。

 

飯抜きで来てたのかな。

 

窓に目をやると、雨は小降りにはなっているが止む気配はない。

何とか、天候が安定してほしいが……

 

 

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