転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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10話 女子校の魔王

「恐ろしいくらい似合うわね、本当にお人形さんみたいよ」

 

金髪碧眼に黒いセーラー服。私としてはミスマッチ極まりないし、コスプレ感が強いと思うのだが、響子さんはそうは思わないらしい。さっきから私の周りをぐるぐるしながら写真を撮っている。背面とか何のために撮ってるんだろう……。いや、そもそも写真を撮ること自体に意味を感じないのだが。

 

「これから毎日着るのに、そんなに写真撮る意味あります?」

 

「だからこそ、この初々しさは今だけなんだから、写真に収めておかなきゃ。それに光宣君にも送ってあげないと」

 

いや、私の写真なんて送られても光宣が困惑するだけだと思うので止めて欲しい。ライバル宣言した後にこんなコスプレみたいな写真送ったらすごい馬鹿みたいじゃないですか。

 

「ねぇ、なんかポーズしてみて」

 

無茶振りが酷い。とりあえずピースしてみたら鼻で笑われた。鬼畜の所行である。

 

「私、もう学校行きますよ。初日から遅刻なんてしたくないですから」

 

「もうちょっと、もうちょっとだけ!ほら、笑って笑って」

 

異様にテンションの高い響子さんに、私は引き攣った笑みを向けるしかなかった。貴女ね、数日前ここでギャン泣きしてたわけじゃないですか。それがどうしてこんなハイテンションになっているのだ。

私の方が優位だったはずなのに、気がついたらこんな感じになっていた。なんでだ。

 

結局、響子さんは、私が家から出て、学校へ歩き出すまで撮影を続けていた。これじゃあ監視者というよりストーカーだよ!

 

 

 

私の女子中学校デビューは失敗に終わった。

放課後の教室、ぽつりと一人残った私。おかしい。絶対おかしい。

 

普通、転校生というのはチヤホヤされるものなんじゃないだろうか。次から次へと人がやってきて、疲弊し机に突っ伏して、あー転校生って大変、となるのではないか。

それがどうだろう。私の悪夢の一日を振り返るとしよう。

 

 

 

夏休み明け、生徒達は憂鬱な気持ちと、久し振りの友達との再会が楽しみな気持ちと、そんな表裏一体な複雑な心持ちで門を潜ることだろう。

私が通うことになる女子中学校は、正確には小中一貫であるため、女子小中学校である。

現代の私立校では珍しい形態ではないだろう。日本では人材不足によって専門家の早期育成が必要になり、文科高校、理科高校、教養科高校、芸術科高校、体育科高校など専門性の高い高校が一般的になっている。そのため、義務教育である小中を一貫とする流れが数十年前に流行し、現代でもそれが続いているのだ。

 

学校が視界に入り、一本道になったところで、生徒達が大勢歩いていた。

コミューターと呼ばれる無人運転の共用車両が全国で普及していたり、キャビネットと言われる2人乗りから4人乗りの公共交通機関が発展している現代ではあるが、学校も近づくと、こうした登校風景は無くならない。

 

実は私は、四葉逢魔時代、登校というものをしたことがない。だからこうして、日本の登校風景の中に自身が溶け込んでいることに少しワクワクしていた。まあ、風で靡く髪を耳にかけ、スカートを押さえながら、ではあるのだが。

 

それにしても、とてつもなく視線を感じる。

やはり、金髪碧眼は国際化の進む現代でも目立つのだろう。私が通るとその場に立ち止まってしまう人までいた。小学生くらいの年齢だと、まだそれほど外国人を見慣れていないのだろうか。

そんな針のむしろ状態で登校をした私は、一度応接室に案内された。

今日は始業式があるのだが、その時間、私はここで学校の説明を受けることになっている。面倒な仕事を押し付けられたのか、新人らしい若い先生は資料を慌ただしく取り出したりと慣れていない様子だった。私は先生が緊張しないように気遣いと思い、微笑んだりしたのだが、何故かその度に硬直したり、資料をばらまいたりしていた。威圧と思われたのだろうか、私はタレ目だし、睨んでいるように思われることはないはずだけど、今度鏡を見ながら微笑む練習をしておこう。

 

そうして、他の生徒達が始業式を終えるまでの間に、ある程度の説明を受けた私は、所属することとなったホームルームへと向かった。

古い伝統を守り続けている一部の学校を除いて、担任教師という制度は無く、この学校も例外ではない。便宜上、ホームルームと言われる教室と、クラスは存在するので、教育形態は変わっても、学校としての風景はそう昔と変わるものでないだろう。

 

そんなホームルームは中学校らしく、騒がしい空気に包まれていた。夏休みにどんなことがあったのか、女子がこれだけ集まればいくらでも話題はあるだろう。私だって話題は沢山ある。バス事故に遭ったり、前世の記憶が戻ったり、妹が独身だったり。うん、全部話せない奴だ。

 

そんなバカなことを考えつつ、私は紹介されるのを廊下で待っていた。壁越しに聞こえる声に耳を傾ければ、転校生、というビッグイベントに、教室のテンションも鰻登りの様だ。ここはウィットに富んだジョークでも飛ばして、人気者になっちゃおうかな。そう意気込んで教室に入った――その瞬間。

 

シーン。

そんな効果音が聞こえてくるくらい、一瞬にして教室が静寂に包まれた。

ごくりっ、そんな誰かが喉を鳴らす音さえ聞こえてくる程だ。えっ、何か私やっちゃいました?

 

困惑する私に、先生が小声で自己紹介をお願いします、と言ってきた。うん、何故に敬語で、それも小声?私は頭に沢山のハテナを浮かべながらも、自己紹介をすることにした。

 

「深瀬真桜です。こんな見た目ですが日本語は話せますので、気軽に話しかけてください。よろしくお願いします」

 

自己紹介を終え、お辞儀をしたのに、拍手もなければ、反応もない。

まだ何か話さなければならないのか、と私がこの学校独自のルールを疑ったところで、パチパチと局所的に拍手が始まるとそれは広がっていき、教室中から拍手が聞こえてきた。

 

ふぅ、不安にさせやがって。サイレントトリートメント的な奴なんだろうな、たぶん。

サイレントトリートメントっていうのはUSNAがアメリカだったころからある野球文化で、主に新人が、ホームランを放つなど華々しい活躍をすると、ベンチに迎え入れる際、始めは素知らぬ態度を取ったり、無視したりして、その直後に激しい祝福を行う、というものだ。

 

ところが、この拍手を最後に、何の反応もなくなってしまった。先生の何か質問ある方、という問にも何の反応もない。えっ、無視期間長くない?泣くよ?

 

無情にも、質問タイムは終了となり、その後、各学科の説明や、委員会、部活動の募集などの話もつつがなく終わり、放課後となった。私は思ったね、ここか!と。

 

先生から、生徒会長が迎えに来るから教室で待っていて、と言われているため私は自分の席に大人しく座っている。皆、話しかけるチャンスだよ!

 

一人、また一人と教室を出ていく生徒達。

微笑んだ表情のまま固まってしまった私がぐるりと教室を見渡すと、そこには誰もいない。

 

 

そして、冒頭に戻る、というわけだ。

教室で一人、私は自分の行動を振り返ってみたが、何が悪かったのかさっぱり分からない。

魔境だ。女子校は魔境だ。机に突っ伏して震えていると、上から声が降ってきた。

 

「貴女、大丈夫?」

 

顔を上げると、そこにいたのは心配そうな顔をした美少女だった。

身長は私より10センチは大きいくらい。

白い肌とそれを飾る宝石の様な、赤い瞳は兎のようで、小動物のように癒される愛くるしい雰囲気だ。

私のものとは違う日本人らしい黒い髪は、ふわりとウェーブを描きながら美しく流れ、シンプルなデザインのリボンで後ろを飾っており、その魅力を押し上げる。

 

「私は中等部の生徒会長を務めています、三年の七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくお願いしますね」

 

優しげな笑みを向けられて、私は泣きそうだった。もうこの際同級生じゃなくても良いよ。私のこの荒んだ心を癒してくれてありがとう。

流石は、十師族の中でもトップクラスに社交的な七草家だ、その笑顔でもう私の折れかけた心は復活した。

 

事前情報によると、生徒会長・七草真由美さんは七草家の長女。

射撃系の魔法競技で数々のトロフィーを取っており、その精密な射撃と、コケティッシュな整った容姿から『エルフィン・スナイパー』『妖精姫』と呼ばれている才女だ。

 

「深瀬さんは魔法教育希望ですから、基本的に放課後は課外授業ということになりますが、部活動、と思ってもらっても良いと思います」

 

日本では、中学校まで公立学校では魔法を教えていないが、こうした私立学校では課外授業に魔法教育を取り入れているところもある。この学校は特にそこへ力を入れている名門であった。こうして彼女が生徒会長を務めていることからも、少なからず七草の力が及んでいるのは間違いない。

 

 

「今日は施設案内ということで、私と一緒に施設を回ってみましょうか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

今日、何度も失敗しているが、今私はこの日一番の笑顔である自信がある。そんな満面の笑顔で、会長の方を見ると、彼女は耳まで赤くしてそっぽを向いた。

 

 

うん、私今日部屋帰ったら絶対笑顔の練習する!

帰宅後、その練習風景を見られ、響子さんに爆笑されることになるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

響子さん、その私の観察日記みたいなのに、鏡の前で笑顔の練習って書くの後生ですから止めてくれませんかっ!?

 




無自覚の笑顔暴力、そして勝手に落ち込む主人公。

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