転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

13 / 37
予約の設定をミスして0時に投稿できず……。


11話 見せつける魔王

真由美は、生徒会長として転校生である深瀬真桜を案内することになっていた。彼女は魔法教育希望であり、それはつまり、真由美と放課後以降の活動も一緒に過ごすということだ。これから一年もないとはいえ、長い時間を共に過ごすことになる。ならば、初日から接点を持っておこうと、急遽先生から依頼された校内案内を引き受けたのであるが。

 

「貴女、大丈夫?」

 

深瀬真桜が所属することになったホームルームへ行くと、既にそこはがらんとしていて、静かだった。まだ放課後になってそう時間は経っていない。況して、今日は夏休み明けの初日、いつまでも教室内でおしゃべりに興じていそうなものだが、このクラスの生徒は異様に帰宅が早かった。

真由美は不思議に思いながらも、教室でただ一人残っていた生徒に近づく。

真桜について、真由美が知らされているのは、真桜がクォーターであり、金髪である、という程度であったが、机に突っ伏しているものの、その一目で分かる金髪は特徴的で勘違いすることはない。

 

何故か、重くどんよりとした空気を纏っているが彼女が深瀬真桜で間違いない。

真由美は確信するが、これだけ重い空気を纏い、机に突っ伏しているのは体調不良なのではないか、と心配になってしまった。

転校初日で緊張し過ぎてしまったのかもしれない。

 

真由美は出来るだけ優しく、声をかけた。

すると、その、どんよりとした気配を隠そうともせず、机に突っ伏していた金色の塊がゆっくりと顔を上げた。

 

――瞬間、真由美の時が止まった。

 

異国のお姫様。

 

そう表現するのが最も適切かどうかは判断できないが、少なくとも真桜は真由美が今まで出会った中で最も美しかった。容姿を褒められることの多い真由美であっても、自身と比べることなど出来ないほどに、彼女の容姿は整っていた。

 

陽光に煌めく黄金の髪は、どんな金銀財宝よりも高貴な光を放ち、やや潤んだサファイヤより青く輝く瞳は、どこまでも広がる蒼穹。

それが、白磁のような透明な白い肌に飾られ、リップをしたように艶のある唇や、僅かに色づく頬が、彼女の人形のように整った容姿に人間の温かさを与えている。

 

芸術品のような美貌。

誰もが見惚れ、感涙するであろうその美しさを前にして、真由美は逃げ出したくなる気持ちをぐっと堪えた。何せ、真由美は今からこの美少女と共に校内を回らなくてはならない。それは悪い言い方をすれば、公開処刑のようなものであった。

客観的に、真由美の美貌もそう劣るものではないのだが、真由美はすっかり気圧され、飲まれていた。深瀬真桜が放つオーラにはそういう独特のカリスマがあった。

 

せめて、お化粧だけでもさせて欲しい。そんなことを内心考えながらも、そこは流石に社交に長けた七草家の長女、表情に出ることはなく、相変わらずにこやかな笑顔のままだ。

 

 

「私は中等部の生徒会長を務めています、三年の七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくお願いしますね」

 

 

刺激される女としての劣等感に蓋をした真由美は、もはや常套句となりつつある自己紹介をした。

七草家は魔法業界でこそ有名であるが、一般人には中々初見で読めるものではない。真桜は魔法教育希望ではあるが、魔法教育を受けている生徒の中には十師族という存在すら知らない生徒も多くいる。真桜について殆ど知らない真由美は、十師族などの言葉は用いずに、ただの中等部生徒会長として、名乗ったのである。

 

「深瀬真桜です。こちらこそお願いします」

 

真由美は知らぬことであるが、ここで真桜の自己紹介が至ってシンプルかつ簡単なものであったのは、今日の自己紹介での身も凍るような静寂がトラウマとなりつつあったからだ。ウィットに富んだジョークを飛ばして人気者になろう、なんて彼女はもういないのだ。

 

「今日は施設案内ということで、私と一緒に施設を回ってみましょうか」

 

魔法教育について、軽く話した後、真由美はそう切り出した。小中一貫校だけあって、校内の広さは中々のもの、新入生の中には迷ってしまう人もいるくらいだ。真由美は出来るだけ覚えやすいルートで案内しよう、と考えながら話していたのだが、次の瞬間、その思考は綺麗さっぱり吹き飛ばされた。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

満面の笑顔だった。

芸術品のような美貌、真桜をそう称した真由美であるが、それはどこか表情のない真桜から受けた印象だった。ただ心が折れかかっていたが故の無表情であったのだが、それが大きなギャップへと繋がってしまった。

 

不意打ちに、そんなギャップのある笑みを見せられた真由美は頬を朱に染め、それが顔全体へと広がっていき、ぷいっと、顔を背けた。

これ以上そんな笑顔を直視できる程、真由美の人生経験は多くはない。

 

しかし、そうして一瞬顔を背けた後、真桜の表情が元に戻っていて、それを惜しいと思ってしまったことに、真由美はまた頬を染めることになる。

当の真桜は、真由美が惜しいと思った程の笑顔を鏡の前で惜しげもなく披露しては爆笑されることになるのだが。

 

「じゃあ、早速行きましょう」

 

射撃で鍛えた感情コントロールで、どうにか鼓動が早く、ドクドクと鳴っている心臓を落ち着け、気を取り直し、何事も無かったかのようにして、真由美は歩きだした。

一時間程かけて、主要な施設を見て回り、最後に魔法教育の実習を行う施設へとやってきた。

ここを最後にしたのには、勿論、意図がある。

 

「今日は夏休み明け初日だからお休みなんだけど、明日から早速始まります。明日はまず、班分けになるでしょう」

 

魔法教育の課外授業は班に分かれて行われる。それは実習に使用する何種類かの機械を交代で使うため、班毎に入れ替わるシフト制であるからだった。

班は学期毎に初等部も中等部も関係なく組み直し、実力が偏らないよう調整されていた。同じくらいの力量の者を一班に集めるのではなく、バラバラにすることで、教え合う環境を作ろう、というのが狙いであった。魔法はまだまだ指導者不足であり、こうした活動がこの学校では取り入れられているのだ。

 

「少しだけだけど、体験してみましょうか」

 

真由美が真桜を案内した先にあったのは、実習用の大型CAD。サイドワゴン程の大きさで、上面全体に白い半透明のパネルがあり使用者はここに掌を当ててサイオンを送り込むことで魔法を発動する。

 

「この実習用CADを使って基礎単一系魔法の魔法式をコンパイルして発動するまでの時間を測れるの」

 

実習用のCADは個人別の調整が不要であるが故に、魔法発動の高速化を支援する機能は全く組み込まれていない。純粋な本人の魔法力を測定できる、というわけだ。

真桜は操作方法の説明を受け、パネルに手を翳した。

 

真桜もUSNAで似たような機械を使ったことはあったが結果は奮わなかった。それは真桜が魔法演算領域の一部を制限されていたからであり、それ故に、真桜自身、今の自分の力量というものを正確には把握していなかった。

 

真桜がパネルにサイオンを流す。

余剰サイオンが閃き、大型CADの上部に取り付けられた画面上には経過時間と加重系基礎単一魔法により加わっている圧力の数値が表示されていた。

タイムとして記録されるのは、この圧力が基準値以上に達した時点、ということになる。

 

結果はすぐに出た。

 

「242ms!?」

 

思わず真由美が驚愕の声を上げる。それも無理のないことだった。

今日、真桜が使った様な単一工程の魔法であれば、500ms以内で魔法師として一人前と呼べる目安とされている。真桜は、その半分程の時間で魔法を発動させたということになる。

このタイムは真由美よりも早いものであり、人間の反応速度の限界に迫る数字だ。

 

真由美が驚愕するのと同時に、真桜も冷や汗をかいていた。まさか、自身の能力がここまでとは考えておらず、全力でやってしまったことを後悔しているのだ。体感として感じているのと、こうして明確に数字として現れるのとでは全く違う。自分自身、早い方であるとは考えていたが、神速と呼べる程早いとは考えもしていなかった。

 

前世でも、今世でも、こうした測定ではあまり良い結果を残せていなかったため、自分の力量が正確に測れていなかったのだ。

 

「……こんなに早い人、初めて見たわ」

 

「この測定だけは今まで負けなしなんですよ。以前、魔法を教えて頂いていた先生にも、ここが君の一番の強みだと言われていました」

 

そんな真桜の苦しい言い訳が通じる程、真由美は世間知らずではない。

真由美が思うに、魔法の発動速度は努力でそれほど変わるものではない。多少は縮むだろうが、それでも限界はある。魔法の処理能力は才能に依るところが大きいからだ。

 

 

――この娘、何者なの……?

 

――これは、また疑われたのでは?

 

 

真由美の疑念と、自分がやらかしたことを十分理解している真桜。

真桜としては、特に九島家の人間であることがバレたとて、デメリットはないのだが、十師族の人間に九島として名が知られてしまうことは避けたかった。

こうなってしまった以上、実力を隠すにしても、ある程度は見せる必要が出てきてしまった。

真桜は未だ、自分の実力を測り切れていない。比較できる同年代が飛び抜け過ぎていて、正確に測れなかったからだ。

 

「これなら、明日からも安心ですね」

 

そう微笑む真由美の目に、疑惑の念があることを感じつつ、真桜は初日からホームルームも含め、前途多難な環境をガチガチに作り上げてしまったことに、思わず吐きそうになったため息をなんとか飲み込んだ。




自ら追い込んでいくスタイルの主人公。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。