転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった 作:カボチャ自動販売機
私は今、響子さんに正座させられていた。
学校で散々なデビューをし、会長には疑われ、響子さんに爆笑された、その後のことである。
昼食を食べた後、私は今時の女子中学生に話を合わせるため、ネットサーフィンに勤しんでいたのであるが、響子さんに呼び出され、突然、笑顔で正座と言われたのだ。最初は意味が分からなかったのだが、無言の笑顔による圧力に私はその場で即座に正座した。女の人の笑顔はやはり怖い。私もこんな風になっていたのかもしれない、と思うとやはり練習は必要だ。
「ねえ、なんでこうなってるか分かる?」
「いえ、心当たりが全く」
小首を傾げる私に、響子さんはため息を吐いた。目の前で、そんな駄目な子みたいな反応されると居たたまれない。
「貴女の情報を調べ回ってる連中がいるわよ、それも相当ハイレベル。国の諜報機関に相当するようなハッキング能力だった」
心当たりしかなかった。
恐らくは四葉の諜報部隊の仕業だ。30年前とは組織図が変わっているだろうが、そういう組織は持っているはず。あれだけ不審な電話をすればそりゃ調べるだろう。私としては、そうして調査し、向こうから近づいてきてくれるのであれば有難い限りだ。情報などいくらでも提供しよう。
「もう私が気がついた時には貴女の端末を元にして情報を抜かれた後。あれだけの能力なら国外の情報でも入手できるでしょうし、経歴からパーソナルデータまで、ぜーんぶ持ってかれてるわ」
響子さんの言葉が呆れのトーンから、怒りのトーンに変わっていくのを感じ、私は逃げ出そうと考えたが、その瞬間、響子さんがにこりっと笑った。はい、正座してますね!
「今はセキュリティを強化したから向こうも手出し出来ないでしょうけど、情報は抜かれてるし、相手は分からないし、もうお手上げ。これから詳しく調べるけどハッキング相手も正確には分からないでしょうし、流出した情報の方はどうにもならないわよ」
響子さんは気がついていないかもしれないけど、国の諜報機関に相当するようなハッキング能力を持つ人が手出し出来ない様なセキュリティを組むって異常だと思う。
『
どうやら彼女は学生時代に大活躍していた様で、同世代の魔法師の間では忘れられないヒロイン。
魔法師社交界では日本魔法界の長老・九島烈の孫であり、古式魔法の名門・藤林家の長女として名花扱い、と魔法界では有名人だったからだ。
『
電子・電波魔法による高度なハッキングスキルとそれに対応したスキルを身に付けたハッカー。その側面もあるはずだ。
監視役として彼女が選ばれたのは、そうしたスキルで私を監視することが可能だから。やろうと思えば、街中や、学校内のカメラをハッキングし、私を監視することが出来るだろう。
その彼女を以ってしても正体を掴めない諜報能力。どうやら私が死んだ後も、四葉はしっかり組織として成長している様で何よりである。真夜も当主として頑張っている様だ。
「私が言いたいこと、分かるわよね?」
妹の頑張りに感動している間に、どうやら響子さんのお怒りモードは頂点に達してしまったらしい。
響子さんがしゃがみ、私の目線に合わせる。あの、正座解除してくれれば、私立ちますけど……駄目ですか。
「どこの誰に電話したのか教えて。でないと何も対策できないわ。場合によっては護衛も頼まないと」
響子さんからすれば、正体不明の敵が私を調べ回っている、という状況だ。それも、情報の流出源からして私の謎の電話が原因。
「これは、貴女を守るためなのよ」
真剣な顔の響子さんであるが、こればかりは答えられない。
「何と言われても、私から教えることはありません。響子さん自身の手で暴いてみては?」
露骨な挑発だったが、響子さんの怒りゲージは振り切った。漫画の怒りマークが見える気さえする。
「ええ分かったわ、その挑発乗ってあげます。何が何でも暴いてあげるから覚悟しなさい」
「ええどうぞ」
どうぞ、とは言ったものの、別段私が何かをするわけではない。響子さんと、四葉の諜報部隊の戦いであって、私はその対象というだけだ。その事に響子さんは思い至らないのか、すっかり私との対決、というような雰囲気になっている。と、他人事の様に思っていたのだが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
「そうと決まったらこっちも大人げなくいくわよ。真桜ちゃんが非協力的だから勝手にやらせてもらうわ」
響子さんは、どこからか大きな紙を取り出した。この時代に紙媒体を家庭に常に置いてあるだけでも珍しいのだが、その大きさが縦横60センチ程もあり、本当に何故あるのか謎だ。
その紙の上部にマジックペンで、我が家のルールと書き、響子さんは満足気に頷く。
「ルールその1、この家の周辺は護衛に守らせるし、真桜ちゃんが外出する時も護衛を付ける」
かなり行動を制限されることとなるが、四葉との接触は私が行動を起こさなくても、勝手に向こうからやって来てくれそうな現状、それほど枷というわけでもない。
「ルールその2、月のお小遣いは500円」
「いきなり家庭っぽいの来ましたね!?そして少ない!」
「真桜ちゃんが正直に話してくれれば好きなだけあげるわよ」
「は、話しませんよ!?でもお小遣いはもう少しだけアップしてください!」
下らないといえば下らないのだが、普通にツラいルールだ。というか横暴だ。九島家に完全依存して生活しているので、そういうことをされるとダイレクトに効く。500円って、中学生にしても少ないでしょ!
「交際費とかそういうのは別途で支給するから、友達と遊ぶときとかは言ってね」
「ありがとうございます!」
お金の前では従順な犬となるしかないのだ。今のところ、遊ぶ友達もいないけどね!泣こうかな!
「ルールその3、私服は可愛いものを着る」
「これは絶対響子さんの私的なルールですよね!?」
「私、ずっと監視しなくちゃいけないのよ?モチベーション維持のためよ。毎朝、チェックするからね」
服代はいくらでも支給するから、と響子さん。
お小遣い500円の割に服は無限という謎ルール。このルールが私を恐怖のどん底に突き落とすことになるのだが、この時の私はまだ知らなかった。
「まあ、一先ずはこんなところかしら」
ここぞとばかりに、響子さんが私的なルールを詰め込み、計10個程のルールが完成した。響子さんの愚痴は必ず聞くこととか、絶対いらないでしょ!というルールもある。
ただ、響子さんが照れながら、褒めるときは頭を撫でる、というルールを追加したのは可愛かったので許すとしよう。早速、頭を撫でてみたが、無言で頭を突き出してきた。可愛過ぎか!
「んん、とにかく!真桜ちゃんはこのルールを遵守して生活すること!何か危険を感じたらすぐ知らせること!分かったわね!」
頭を撫でられていたことを無かったことにするように、咳払いをして、そう一気に捲し立てた響子さんであるが、顔は赤いままなので、迫力は全くない。むしろ、その誤魔化そうとするところまでがセットで響子さんの可愛いところなので、グッジョブである。
「では、早速――真桜ちゃん、お着替えよ」
「えっ」
鏡を指差しながら言う響子さん。鏡に映っているのは、勿論私。制服からUSNAから持ってきたジャージへと換装した家モード真桜ちゃんだ。小首を傾げる仕草が馬鹿っぽい。
「ジャージ可愛くない、ダサい。女の子はお家の中でもオシャレする!」
そんなんだから中学校で浮くのよ、というクリティカルに刺さる言葉に、私は大分落ち込まされたが、響子さんに押し込まれるようにして、部屋へと戻った。
えっ、このジャージダサいの?
部屋の扉を閉める瞬間、響子さんがノートに真桜ちゃんはファッションセンスが皆無、と記入しているのが見えた。
あのノート、絶対いつか燃やす。
次話から、また物語が動き出しますので、今回は日常的なエピソードです。
早速、響子さんがぶっ壊れはじめましたが、安心してください。まだ彼女は変身を残しています。