転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった 作:カボチャ自動販売機
なのでサブタイトルもそれっぽくしてみました。
真桜が盛大に中学生デビューに失敗し、無自覚にもその美貌による暴行を繰り返していたその日の夜。司波深夜は桜井穂波と共に、謎の電話の主を追っていた。
「調査の結果、携帯端末の契約者は九島の家に連なる者だった様です」
「九島家?これはまた複雑なことになってきたわね」
まさか、あの謎の電話が十師族に繋がっていくとは思ってもいなかった深夜は目を丸くした。穂波から渡されたタブレット端末に表示された調査結果を見るに、海外へと渡航した九島烈の弟、その娘の旦那が契約者だ。勿論、深夜は会ったこともなければ、その名前すら知らなかった。
「この契約者には二人の娘がいます。年齢は12歳、つまり」
「私の聞いた声の主である可能性が高い……」
突然、30年以上前から変えていないプライベートナンバーにかかってくるはずの無かった電話。
たった一言だけの電話であったが、声の主は10代前半の女の子という深夜の予想にも合致している。
「声から推測すると、この二人のどちらか、ということになりますが、調査班の調べでは姉の、マオ=クドウ=シールズの可能性が高いとのことです」
携帯端末の通話情報から、契約者は割り出せたが、位置情報までは解析出来なかった。
しかし、二人の内から片方に絞るのは簡単なことであった。
電話が国内の回線によってされていたからである。
「彼女達姉妹は海外在住ですが、姉のマオは現在留学中で、丁度日本に着いた日が――」
「――電話のあった日、ということね」
電話の主はまず間違いなく彼女だろう。しかし、目的も、何故、深夜のプライベートナンバーを知っていたのかも分からない。
そこで繋がりがパタリと無くなるのだ。彼女の存在が何にも繋がらない。
「彼女は九島の庇護下にあり、これ以上の調査は一度、止めていますが……」
深夜に止まる気がないのは明らかだった。
「調査は続けます。もし仮に彼女とお兄様に何らかの接点があるというのなら、それを私が知らないのはおかしなことだもの」
深夜には、自分が最も逢魔を理解しているという自負があった。それは真夜であっても負ける気はない。その自分が知らない逢魔の繋がりがあるというのはおかしなことだ。世界の摂理に反している。
まだ、深夜のプライベートナンバーの流出元が逢魔であると決まったわけではないのだが、もし逢魔とも真夜とも関係のない情報源があるのだとしたら、それはそれで潰す。
未だに旧式の携帯端末を肌身離さず持ち歩いていることからも分かる通り、深夜にとって、このプライベートナンバーは特別なものだ。兄との繋がりを感じられる、思い出に浸れる数字。
それを関係のない部外者が汚すというのなら、断じて許すことはできない。相手が子供でも容赦する気は無かった。
穂波は深夜のブラコンが暴走状態にあることに気がついていたが、既にイタズラ電話という線がほぼ消えている現状、ここで止まるのは得策ではないと考えていた。
マオの目的も、ナンバーの入手経路も分からないままにしておくのはあまりに危険過ぎる。ガーディアンとしても、そうした不確定要素は排除しておきたいのが本心だ。しかし同時に、九島と争いになるわけにはいかないという考えもあった。
十師族同士が争うとなれば、それは魔法界全体の大事件。場合によっては国さえ介入する事態になるだろう。
ここは慎重に動くべき。
そう結論付けた穂波はそう進言しようとしたが、その前に深夜が口を開いた。
「達也に行かせます。それが一番手っ取り早いでしょう」
「なっ」
穂波が声を詰まらせる。
それは、調査の段階を逸した暴挙だった。
司波達也。
彼は深夜の実の息子であり、弱冠12歳ながら、穂波の知る限り四葉の最大火力にして、最強の魔法師。
つい数週間前の沖縄では、敵兵を殺戮し、マテリアル・バーストと呼ばれる魔法で敵艦6隻を撃沈させたのだ。深夜は戦争でも始めるつもりなのかと穂波が考えるのも無理はないだろう。
「別に戦わせる訳ではないわよ。達也には『眼』を使ってもらうわ」
達也の異能『
その能力は多岐にわたるが、その一つに相手を視認し、認識することで、その焦点を当てた存在の背後に因果関係を持つ存在や事象が透けて見える、というものがある。まだ達也は十全にこの力を使いこなせてはいないが、これでマオを見ることが出来れば、彼女がどういう繋がりを持っているのかまでは分からなくても、分析は可能だ。得られる情報は大きい。
「それでも早計過ぎます!もし、達也君が敵と認識されれば、九島家との抗争になりますよ!?」
「達也は四葉家とは関係ないわ」
それはあまりに非情だった。
確かに達也は四葉とは無関係ということになっており、いくら調べようとも四葉との関係性は掴めないであろう程のセキュリティとなっている。
しかし、それを強調するということは、万が一抗争となっても、それは達也個人に押し付け、四葉は介入しない、ということだ。
「穂波、貴女は達也の力を間近で見たばかりだから、そう思考が野蛮になっているだけよ」
「や、野蛮!?私は可能性の話を――」
穂波が言葉を言い終わる前に、深夜は椅子ごと体を回転させ、反対を向いてしまった。それはもう話は聞かない、というポーズに他ならない。
穂波は思った。椅子ごとひっくり返してやろうか、と。
「まずは調査隊を行かせるわよ。その上で達也を使う。それで良いでしょ」
反対を向いたまま話す深夜に、これは意見を求めるものではなく、決定事項だと、確信する。
何かと可愛い姿が最近は多く見れていたため、忘れていたが、そもそも深夜という人物は傍若無人な気質の人間だ。穂波はため息によってその案を容認する代わりとし、それをせめてもの抵抗とした。
しばらく、無言の時間が続き、深夜が口を開いた。
「……予感がするのよ。良いか、悪いかは分からないけど――何かが起きようとしている」
穂波からは見えなかったが、深夜は30年以上前のプライベートナンバーで登録されている旧式の携帯端末を握りしめたまま、夜空に輝く星を眺めていた。
◆
四葉家には本宅の横にひっそりと建てられた別館が存在する。この別館には真夜によって許可された極少ない人間しか立ち入ることが出来ず、近づくことさえない。そこは、30年以上前、四葉逢魔が住んでいた建物。今もその時の状態が保たれていた。
その別館の逢魔の部屋。四葉真夜はそこにいた。本棚が並び、妹達が持ち込んだぬいぐるみが点在したその部屋の天井、大きな窓になっているため、真っ暗な部屋に星の光だけが注いでいた。淡く煌めき続ける星々を眺め、考える。
それは後悔だった。
夜になって、星を眺めていると、強く激しい復讐心がすっと小さくなり、あの日の光景がフラッシュバックする。
目の前で死んだ兄。大好きな兄。何よりも大切で、真夜の全てだった。
それを失ったのは真夜のせい。
逢魔は強かった。当時、世界最強の魔法師の一人と目されていた『最高にして最巧』『トリック・スター』の九島烈に一対一の決闘で勝利したこともある、真夜の知る限り最強の魔法師。
大漢の襲撃犯などに殺されるわけも無かったのだ。真夜を庇ったりなどしなければ。
逢魔は魔法演算領域を正体不明の魔法が殆ど占有していた。
魔法演算領域は魔法式を構築する際に使われる領域であり、魔法の才能に直結する部分。そこの大部分を占有されているということは、言うなれば、容量がいっぱいで通信速度の遅いPCのようなものである。彼に自分以外を守る余裕はなかった。それなのに、真夜が守らせた。弱い自分が、あの日、逢魔を殺したのだ。
星を見ながら眠っていた。
三人で並んで、星を見て、逢魔がもう眠いと言うのを無理矢理起こして、そんな幸せがあったのに、弱いから失った。
強さを求めた。
当代における世界最強の魔法師の一人と目されるようになり『極東の魔王』と謳われようとも、あの日にかえれはしないというのに。
だから真夜は壊す。何もかも焼き尽くす。兄のいなくなった世界に見せつける。兄のいない世界など価値はないのだと。
真夜のその破壊衝動は遂に破壊の化身を生み出した。正確には生み出させた、と言うべきだろう。
深夜の息子、司波達也。彼の能力は真夜の祈りによってもたらされたもの。
地球を死の星に変えられる、世界を滅ぼすことができる、この世界に復讐できる力。
真夜の祈りが、魔法の理すらも覆し、姉の精神構造干渉魔法を乗っ取り達也に破壊の力を与えた。
真実は分からない。しかし、真夜はそう思っていた。自身の復讐心が達也という世界の破壊者を生み出したのである、と。
達也が暴走し、世界を滅ぼした後の世界で、真夜は笑う。ほら見たことか、兄がいないからこうなった。こんな世界に価値などないのだと。
真夜はいつものごとく、後悔が復讐心へと戻っていくのを感じると、立ち上がった。
この部屋に来るのは思い出に浸るためではなく、ただ自分の中の復讐心を確認するための儀式だった。
「……おやすみなさい、お兄様」
誰もいない部屋に、真夜はそう告げてから部屋を出た。
誰もいなくなった部屋は、真っ暗な闇をただ星の光が照らすばかりであった。
姉妹それぞれの兄への想い。ただのブラコンですね。