転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった 作:カボチャ自動販売機
響子さんに正座させられ、理不尽なルールを課せられてしまった翌日。
笑顔の練習もしっかりして、学校に挑んだのに、結果、私は今、放課後の教室に一人だった。
何故だ。練習の成果を見せようと笑顔だって振り撒いたというのに。女子の世界は難しいよ。
さて、しっかり落ち込み、テンションが爆下がりしたものの、これから私は魔法教育の課外授業がある。
設備を見たところ、USNAの教育とは方針が異なる様で、中等部では本格的な魔法教育ではなく、適性を測る目的が大きい。ここで学び、自身の得意系統や得意な魔法の使い方など、今後の指針を作ることに重点を置いている。
本格的に魔法師としての魔法を学ぶのは高等部から、ということだ。
30年前よりも教育は向上しているが、まだまだ高水準を保てている学校は少ない。魔法師を牽引する立場である十師族が教育にはあまり熱心でない、というのも遅れている理由なのだろう。まあ、閉鎖的で秘密主義の四葉がその筆頭なわけなのだが。
私自身は魔法はまだまだ発展途上の技術であると考えているから、今は教育よりも研究に力を注いで欲しいところではあるのだが、それも世界情勢を考えると難しいのだろう。それに、教育は発展のために必要であることも分かる。一人の天才が生まれれば、10年でも100年でも研究は進むのだから。
結局のところ、まだまだ一握りの天才によって発展している分野に過ぎない、ということだ。
「深瀬先輩!」
考え事をしていたから、というよりも、校内で名前を呼ばれるということが殆ど無いため、反応が遅れた。そもそも、この深瀬という名字もまだ馴染んでいなければ、先輩、と呼ぶ相手に心当たりが無かったというのもある。が、流石に目の前で呼ばれれば、私のことだと分かる。名前を呼んでも立ち止まらなかった私が気がついていないのだと思ったのか、態々目の前に来て呼び止めたのだ。
「突然申し訳ございません、私、七草泉美と申します!」
幼い顔立ちに、眉の高さと肩に触れる長さで切り揃えているストレートの黒髪。ストライプのリボンが頭の天辺に飾られている。
先輩、と呼ぶからには初等部なのだろう。良く見れば制服のリボンの色も私のものとは異なる。
「七草……会長の妹さんですか?」
「はい、私が三女になります」
確か弘一君には二人の息子と三人の娘がいたはずだ。そういえば、伯父さんが、一つ下の学年(つまり初等部の六年生)に七草の双子がいる、と言っていた。彼女がそうなのだろう。
「それで、私に何かご用ですか?」
「魔法教育の課外授業を受けられるのですね?よろしければご一緒に、と思いまして」
弘一君、君の娘さん達は皆立派に育っているよ。私の、あまりのぼっちさを見兼ねて、声をかけてくれたのだろう。頬も赤らめているし、きっと緊張したに違いない。転校してきたばかりの先輩に声をかけるなんて、結構勇気がいるはずだ。
「ありがとうございます、是非。私の事は遠慮せず、真桜で構いませんので」
「は、はい!では真桜先輩、と。私のことも泉美とお呼びください」
二人で並んで実習施設へ歩き出せば、五分も掛からずに施設へ到着した。
歩いている間、泉美ちゃんとは一言も話さなかったが、それは泉美ちゃんの顔が終始赤らんでいたからだ。緊張している女の子に話をさせたりしたら申し訳ないので落ち着くのを待っていた。
「あ、あの!真桜先輩!」
施設へ入った所で、泉美ちゃんが意を決した様に口を開いた。私はなるべく緊張させないように、微笑みながら言葉を待った。
「――私のお姉さまになっていただけませんか!」
えっ?
微笑んだまま、顔が固まる。私の理解が追い付いていない。只でさえ、複雑な妹事情を抱えているのだけど、これ以上があるとしたら私のお姉ちゃん力で受け止めきれるのだろうか。
「泉美ちゃん!?貴女のお姉ちゃんは私よね!?」
「あっ、真由美さん」
私が混乱していると、もっと混乱していそうな真由美さんが慌てて駆け寄ってきた。
先輩と呼ばれるとなんだか気恥ずかしい、ということだったのでこう呼ぶことになった。
この学校で今のところ、唯一まともに話せる生徒が真由美さんだ。
今日も泉美ちゃんが話しかけてくれるまで、誰とも話せなかったし、こうして真由美さんに会えると、自然と笑顔になるね。こう、顔が緩むというか。
泉美ちゃんは、そんな私を見て、真由美さんに驚愕の顔を向けた。
「お、お姉さま、まさかもう手を!?」
「出してないわよっ!?どこでそんな言葉覚えてきたの!?泉美ちゃん今日おかしいわよ!?」
二人は何か言い合っており、姉妹仲が良さそうで何よりだ。
「ごめんなさいね、真桜さん。妹が変なこと言って」
「いいえ、先程も廊下で話しかけて下さって、嬉しかったですし、これからも仲良くして頂きたいです」
「本当ですか!?お姉さま!」
「だから、貴女のお姉ちゃんは私でしょ!」
真由美さんは何やら涙目になっているが、楽しそうなので微笑んでおいた。会話についていけてない時は取り敢えず微笑んでおけば万事解決である。
「あーあ、泉美が暴走してる」
背後から、そんな声が聞こえてきて振り向いてみると、そこに泉美ちゃんがいた。
私は一瞬、目がおかしくなったのかと思ったが、泉美ちゃんが双子であったことを思い出した。彼女は泉美ちゃんではなく、その双子の姉妹だろう。顔は瓜二つだけど、良く見れば髪型も雰囲気も違う。
癖のない髪をショートカットにした彼女は、泉美ちゃんのお淑やかでおっとりした雰囲気とは正反対の、活発的で体育会系的なそんな雰囲気がある。
「深瀬先輩、私はあそこでお姉ちゃんと喧嘩してる泉美の姉で、七草香澄です。よろしくお願いします」
「深瀬真桜です、こちらこそよろしくお願いします」
私は泉美ちゃんと真由美さんが口論している間、香澄ちゃんと話して待っていたのだが、どうやらこうしてあの二人が口論をするのは珍しいことらしい。実際、次々とやってくる生徒達も二人の様子を珍しそうに見ていた。そうして、他の生徒に注目されているとも知らずに、今尚口論を続けている二人に、香澄ちゃんは恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながら突撃していった。
「もう、お姉ちゃんも泉美も熱くなり過ぎだよ!」
「ごめんなさい、香澄ちゃん」
ぷりぷり怒る香澄ちゃんに謝る泉美ちゃん。真由美さんはどこにいったのかと思えば、両手で顔を覆って、しゃがみ込んでいた。隠れていない耳は真っ赤に染まっており、どうやら相当恥ずかしかったらしい。
このままでは復活できそうにないので、良く分かっていないが原因となったのだろう私が励ますことにした。私が真由美さんの肩をつんつんとつつくと、顔を覆っていた指が開いて、綺麗な赤い瞳が現れた。
「可愛らしい真由美さんが見れて、私は嬉しかったですよ?」
耳元で囁くと、真由美さんは素早く後退して、壁に手を付いた。
「真桜さん、わざとやってるわよね!?」
真っ赤な顔のまま、涙目でそう訴えてくる真由美さん。
「どうでしょう?」
私が微笑みながら小首を傾げてはぐらかすと、うぅ、と呻きながら、何やら呟いていたが、また周囲から奇異の目で見られてしまうと分かったのか、咳払いを一つして、表面上は平静な真由美さんに戻った。まだ目の下に赤みが残っているため、羞恥心を完全に払拭できたわけでは無さそうだけど、抑えている様だ。もう一度いたずらしてやろうかとも思ったけど、これ以上やると本気で怒られそうだったので止めておく。
「やはりお姉さま、私より先に……っ」
「泉美、たぶんあれはお姉ちゃんが遊ばれてるだけなんじゃ」
泉美ちゃんが悔しそうに、香澄ちゃんが憐れそうに、双子姉妹がそれぞれ真由美さんを見ながら話しているのは、私には聞こえていなかった。
いきなりフルスロットルの泉美。香澄がお姉ちゃんしてますね。