転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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サブタイトル辛いから法則性崩そうかな……。


16話 後輩とデートする魔王

泉美ちゃんとは、まず映画を観にいった。特に観たい映画も無かったので、泉美ちゃんに任せたのであるが、今流行りの恋愛映画を観ることになった。映画鑑賞中は、当然、カメラもなく響子さんの監視もないが、七草の護衛が同じシアター内にいた。三つ後ろの席から私達を守っている。それに、九島の護衛も紛れていた。響子さんは外すと言っていたが、カメラのない場所で私を一人にするわけにはいかない、という判断か。

 

私もここで行動を起こす気はない。あまりに露骨過ぎるし、結局のところ、私の連絡手段は携帯端末のみ。響子さんはこの時間、私の携帯端末の反応を常時チェックしているはず。

 

「真桜先輩、次はどこへ行きましょうか?」

 

普通に映画を観終え、カフェで感想なんかを語りながら軽く昼食をとってから、街を歩いていた。泉美ちゃんは随分と手を繋ぎたがる性格らしく、映画を観ている時も、こうして街を歩いているときも手を繋ぎたがった。

 

小学生の時、真夜も良くそうしていたし、深夜も口には出さないがそうして欲しそうにしていた。こういう風に甘えたいお年頃なのだろう。昼食の時もあーんをしたがっていたしね。流石に恥ずかしかったので一回ずつで勘弁してもらったけど。

 

 

「そこのショッピングモールに入ってみようか」

 

 

大型のショッピングモールは休日とあって混み合っていた。やはり、日本ではどこに行っても私は注目を集めてしまうようで、視線を感じる。その中には護衛のものも交ざっている。九島の護衛はまだショッピングモールには入ってきていないが、七草の護衛が二人、がっつりと後ろから付いてきている。両方手練れ、ライセンスで言うならB級程度はあるだろうか。流石は十師族、娘の護衛に使うには世間的には随分と贅沢な人選である。

 

 

「真桜先輩、私服も素敵なので、私にお洋服を選んで頂けませんか」

 

ショッピングモールに入った所で、私に最大のピンチが訪れていた。

今日の午前中、響子さんに打ちのめされた私はファッションセンスについて、すっかり自信を失っていた。四葉逢魔の時はどうだったかと考えたのだが、ダサいと言われた記憶はない。ただ、フォーマルな服装が多く、基本的に決められたルールに従って服を選んでいたかもしれない。本当に私服と呼べるようなものは少なく、私自身がファッションにあまり興味がなかったこともあって、妹達が大きくなってからは、二人が楽しそうに私の服を選んでいた。だから当時のわたしのファッションは妹達によって決められていた、と言っても良い。

とはいえ、妹達がまだ幼かった時は自分で選んでいたのだ。それでも問題がなかったということは、男性のファッションセンスは世間一般的なものからそう離れていないということ。

つまり、響子さんがボロクソ言うくらいダサいファッションというのは今世によって身に付いてしまったもの、ということになる。

 

考えてみれば、記憶が戻る前から服装には無頓着だった。母に言われるがままに服を着て、ある程度大きくなって自分で選ぶようになってからも、リーナの着せ替え人形となっていた。自分で服を選ぶという機会が少なく、また興味もなかったことで、私のファッションセンスは磨かれることもなく、そこで記憶が戻ってしまったことで30年前のファッションセンスが変に融合し、独特のものが完成されてしまったのではないだろうか。

 

私の今の性別・容姿と記憶が戻ったことによるギャップが、ファッションセンスという形で不和を起こしている。そう考えれば、納得がいく。

主観的に考えず、客観的に、今の私という容姿を別人として仮定し、服を選べば、今のこのファッションセンスを改善できるかもしれない。私とリーナは瓜二つ、リーナの服を選んでいる、と考えれば良いのだ。

 

この理論が正しければ、私が泉美ちゃんの服を、自分のセンスで選んでも、それはそう一般的なファッションセンスから外れていないはず。今の響子さんからダサいと称されるファッションセンスは自身にのみ当てはまるもののはずなのだから。

 

「ええ、私のセンスでよければ」

 

後輩にダサいとは思われたくない。私は真剣に考えた。泉美ちゃんは、今の私の服装を素敵だ、と称した。つまり、響子さんのファッションセンスに、少なからず共感しているということ。方向性として、今の私の服装は一つの正解だと言うことだ。

そして、今の泉美ちゃんの服装もヒントだ。彼女のお淑やかなイメージ通りの、マキシ丈の青いワンピース。ウエストが同色のリボンで結んであり、腕の露出は少なく七分丈。

 

彼女はその話し方からも伺える通り、そうしたお嬢様・淑女とも言えるイメージを大切にしていることが分かる。服装もそうしたものを好んでおり、私の持つお嬢様・淑女のイメージからも外れていない。

 

これらのヒントを総合すると、響子さんのセンスを参考に、お嬢様・淑女のイメージ、で服を選ぶのがベスト!

 

そう結論付けた私は、目に入ったブティックへと足を踏み入れた。

ブティックには3D映像で服が展示されており、携帯端末のARアプリで値段を見る。30年前にはまだまだ普及していなかった技術であるが、今ではこちらの方が主流だと言うのだから驚きである。記憶が無かったとはいえ、12年も暮らしていれば、別に使えないわけではない。携帯端末のARアプリを通して、服を確認しながら吟味する。少し時間を掛けて店を周り、私が決めたのは、チェックのジャンパースカートと、真っ白なキャミソールワンピースだった。

 

早速合成映像で試着してもらったが、どちらも似合っていた。チェックのジャンパースカートは落ち着いた彼女のイメージにぴったりであったし、真っ白なキャミソールワンピースは首もとから肩がむき出しのデザインであるため、実際に着てみれば、より初々しい愛らしさを感じられるだろう。

 

「どちらも凄く似合ってるね、可愛いよ」

 

「まあ!ありがとうございます!早速購入しますねっ」

 

私が制止する間もなく、泉美ちゃんは服を買った。アプリを通して確認していたが、中学生が買うには些か高い値段だ。勿論、十師族のお嬢様が買うには安い買い物かも知れないが、彼女がどれ程のお金を自由に使えるのか分からない。そう心配していたが、それなりの金額を今日のために与えられている様だ。泉美ちゃんなら無駄遣いをしない、と信頼されているのだろう。今の購入の仕方は若干グレーな気もしないが、たまには羽目を外して買い物するのも良いことだ。

 

「今度は私に服を選ばせて下さいませ」

 

「是非、お願い」

 

テンション高めの泉美ちゃんに引きずられるようにして、別の店に移動する。

 

この店は3D映像ではなく、実物を展示してあった。それだけで、このお店が高級店であることが分かる。サンプル品を試着できるよう試着室まであり、一般的には小学生・中学生の友達同士で立ち寄るようなお店ではないだろう。

 

実際、ARアプリを通して、マネキンに飾られた服の値段を見てみたが、先程のお店より明らかにランクが高い。

 

響子さんから交際費としてカードに送金があったため、私の財布(比喩であって正確にはカード入れ)は潤っている。多少高い買い物も大丈夫なのだが、一般的に小中学生が独断で買えるような値段でないことは確かだ。しかし、泉美ちゃんや私の通う学校は一般的な小中学校ではない。高額な学費を払う必要のあるお嬢様向けの学校。そこに通う生徒達は基本的に生活レベルの高い、所謂お金持ち。その基準で考えると、目玉が飛び出る程高い金額、というわけでもない。

 

「これなど如何でしょうか?真桜先輩に良くお似合いだと思うのですが」

 

泉美ちゃんが持ってきたのは薄水色のフレアワンピースだった。彼女が今着ているワンピースとは趣の違う、レースが多く使われており、シンプルながら華やかなデザインだ。

 

「可愛いね、私に似合うかな」

 

「真桜先輩以上に似合う方などこの世にございません!」

 

 

泉美ちゃんの私上げが凄すぎる。私と同じ顔が少なくとももう一人いるので、その理論は否が応でも破綻しているのだが、そうまで褒めて貰えるのは自身の容姿に無頓着な私でも嬉しいものだ。

 

「では、試着をお願いしてみるね」

 

女性の店員さんに試着をお願いすると、すぐに同じ服が出てきた。試着用のサンプルである。

こうしたサンプル品はストックルームに収納される度に、洗浄・滅菌される仕組みだ。これがあるから、現代のコンプライアンスでも試着というシステムが残っているのだ。

私は店員さんと共に試着室へと向かった。店員さんは、私が試着をしている間、近くで待機している様だ。

 

「さて、響子さん、勝負です」

 

ここで、私は動き出すことにした。試着室は絶対的な死角。カメラも当然なければ、護衛の目も届かない。絶好の場所。

 

「店員さん、すいません。背中のファスナーを下げて頂けませんか」

 

「はい、失礼致します」

 

試着室へと入ってきた店員さん。申し訳ないが、彼女に協力してもらうことにする。

 

「ごめんなさい」

 

「えっ」

 

精神干渉系魔法、ワン・コマンド。私用に術式を弄っているため、正確には別の魔法であるが、効果としてはそう変わるものではない。

振動系の基礎単一系魔法によって作り出される想子の波、想子波によって概念として命令を送り、操る。自分を上回る干渉力の持ち主には通用しないが、一般人相手なら訳はない。

 

罪もなく戦う意思もない店員さんを魔法で操るというのは不本意ではあるが、仕方がない。今回は助けてもらおう。

 

私がこの魔法によって命令するのはたった一つ。

 

「しばらく中にいてくださいね」

 

私の命令によって、直立したまま試着室の中で静止した店員さん。その姿を360°観察し、私は仮装行列を使って、その店員さんへと姿を変える。

そしてそのままなに食わぬ顔で試着室を出てカウンターへ。適当に作業をするフリをした後、カウンター備え付けのシステムで電話をかけた。

 

『……今度はきちんと話を聞かせてくれるのかしら。真桜=クドウ=シールズさん』

 

「残念ながら、あまり長くお話をしている余裕はないですがね」

 

私の記憶よりもずっと大人びている深夜の声が、1コールもしない内に聞こえてきた。さあ、深夜を口説き落とすゲームのスタートだ。




――今話の舞台裏――

手を繋いでデート状態の二人をひたすら監視中。

響子「……私は何を見させられてるの」




逢魔と深夜でこのゲームをした場合、深夜が二秒でツンデレます。

意図的に説明や解説をしていない部分がありますが、次話で明かされたり、明かされなかったりします。

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