転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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17話 担い手の魔王

かけたのは勿論、深夜のプライベートナンバー。どうやら響子さんの言っていた通り、私の情報はしっかり手に入れている様だ。話がスムーズでむしろ助かる。

 

『……声の感じが随分と違う様だけど』

 

「私は今、監視されていまして、誤魔化すための小細工ですのでお気になさらず」

 

声まで変える意味はないのだが、この声は私が仮装行列で自分以外に変装するときにデフォルトで設定している女性の声だ。調整するのも面倒であったため、そのままなのである。

 

『はぁ、三分よ』

 

「えっ?」

 

深夜のため息交じりの突拍子もない言葉に、素っ頓狂な返事をしてしまった。

 

『貴女、藤林響子を舐めすぎよ。どうやらデパートの通信システムを使ってるみたいだけど、そんなもの彼女にとってはがら空きも同然』

 

「ですからこうして変装までして欺こうと……」

 

『詰めが甘いわね、今盗聴していなくても、後からいくらでもデータを引き出せるし、この会話も聞かれてしまうわ』

 

この電話は当然、極一般的なもの。盗聴をしようと思えば簡単に盗聴できる。しかし、それは、しようと思えば(・・・・・・・)、の話なのだ。響子さんが盗聴しようと思わなければ、この電話も秘密回線と何ら変わらない。私はそれに賭けた。

今、この状況で、ただの店員の電話を疑い、盗聴したのならば響子さんの勝ち。しなければ私の勝ち。そう考えていたが、今は聞かれていなくても後からいくらでも引き出せるのなら意味はない。やはり私はそうした電子的技術には弱い。そこまで頭が回っていなかった。30年前にはそうした情報管理や諜報は自分ではやっていなかったから当然なのだが、こうして一人で行動していると、そういうところが大きな落とし穴になってしまう。

 

『だから三分なの。三分間だけなら、藤林響子も盗聴できないように細工をして、情報も修復不可能にしといてあげるわ』

 

完全に助けられた。それがなければ、私は四葉と関係を持っていることを知られてしまっていたかもしれない。日本に来て、慎重さが欠けていたか。肉体に精神が引っ張られていることは、私の一人称や日々の言動で分かっていたことであったが、転生をしてからあまりにも平和に生き過ぎた。無意識の油断があったことは認めざるを得ない。今も、焦りからか、気がつけば逢魔だった時からの癖で耳を触ってしまっている。真桜になってからもやってしまう癖だ、これでは変装している意味がない。

 

「助かりました……私はそこまで考えていなかった」

 

『そういう話はいいわ、時間もないの。今はただ聞かせて貰うことにする――貴女の正体を』

 

「ご自身でおっしゃっていたではないですか。私は真桜=クドウ=シールズ。私のことは隅々まで調べ終わった後なのでは?」

 

『だからこそ疑問なのよ。貴女の目的は何?何故私の昔のプライベートナンバーを知っているの?』

 

当然の疑問だろう。深夜からしてみれば、私は全く未知の存在。隅々まで調べたのなら、余計だろう。私という存在は確かに1ヶ月程前までは普通の、12歳の女の子だった。人並みに妹に劣等感を抱いていて、それでも妹は大切で、嫌いにはなれない、不器用な女の子。いくら調べたって塵の一つも出てきやしない。

深夜はきっと、完璧な工作、と考える。そして私の後ろに何者かの存在を感じとり、それを探ろうとしているのではないだろうか。

過剰に疑われたままでは、いつまで経っても深夜に接触できない。ここは情報開示と行こうか。

 

「それは私が、貴女の治療をするために四葉逢魔が遺した魔法の担い手だからですよ」

 

『なっ!?それはどういうことなの!?』

 

嘘は言っていない。四葉にはユニークな魔法の使い手が多い。嘘発見機のように、仮装行列を使っていようとも声から嘘を見抜かれる可能性だってあるし、何より、ぼく(・・)は、妹には嘘を吐かないと決めている。深夜には一度だけ、大きな嘘(・・・・)を吐いてしまっている。真桜としてでも、嘘は吐きたくなかった。

 

確かに私は四葉逢魔が深夜のために開発した魔法の担い手なのだから、嘘は吐いていない。私自身が四葉逢魔なので、グレーかもしれないが、これは私の気持ちの問題、自己満足だ。嘘の許容範囲はガバガバである。

 

「おや、そろそろ三分ですね。では私はこれで」

 

深夜がヒステリックになりかけているので、言い逃げすることにする。

三分という時間制限は丁度良かった。この適当な設定も、長く話せばボロが出る。

私は深夜に正体を明かす気はない。四葉逢魔というのはもう終わった人間。彼女達の人生に、もう深く関わるべきではない、と私は考えている。こうして彼女達を少しの手助けはしても、兄として彼女達に接することはないだろう。彼女達には彼女達の人生があって、そこに真桜としてではなく、兄として死人が余計な手を加えてしまうのは、傲慢だと思うから。

 

『待ちなさい!まだ話は終わって――』

 

「続きが聞きたいのであれば、直接会いましょう。私は監視されていますので、手段はそちらにお任せしますよ」

 

私は自分の知識では響子さんを出し抜くのは難しいと確信した。だから深夜に丸投げしたのであって、別に手段を考えるのが面倒だったわけではない。こういうことはプロに任せた方が良いに決まっている。まあ、四葉の諜報スタッフが頑張って考えてくれるでしょ。

 

しかし、いつまでもこの監視では自由に動けない。深夜の治療は長期になる予定だ。何度も深夜の元へ行かねばならないというのに、その度に響子さんを欺くのは無理だろう。

 

まずは、この監視体制を何とかしなければ。逆に言えば、現状これさえ解決すれば問題はほぼ解決しそうなのだ。こっちはこっちで頭を捻るとしよう。

 

さて、用は済んだし、泉美ちゃんと続きを楽しまなくては。

 

 

 

 

 

ショッピングモールで服を買ったりした後は、ゆったりとカフェでお話をして、帰宅した。

今度は我が家にご招待いたします、と言われたけど、その日が父親の命日になる可能性は当然、彼女は考慮していない。真夜とどのようにして別れるに至ったのか、理由によってはその場で処刑である。

 

家に帰ると響子さんはいなかった。まあ、四葉も三分間しか誤魔化せない程だ、私を監視するのに、この部屋の設備程度では不十分なのかもしれない。何せ、一般家庭にあるようなPCが置いてあるだけなのだから。どこか別の場所で監視をしていたのだろう。

今頃は、監視を終えてデータの解析でもしている頃だろうか。

深夜の言うとおりであるなら、あの会話を悟られることはないのだが、楽観視はしない方が良い。

そう考えていたのだが、どうやら深夜の使っている諜報員は相当優秀であるらしい。

 

 

「そういうことも出来るわけですか……」

 

 

宅配ボックスに入っていた荷物を開けて、私は思わず感心して声が漏れてしまった。入っていたのは服だ。

店員さんを変装に利用してしまったことだし、泉美ちゃんに勧められた服を購入したのだけど……なんと、家に届けられた服と一緒に携帯端末が入っていたのである。どうやら、私の部屋へ運ばれる荷物にこの携帯端末を紛れ込ませたらしい。どうやってやったのかは分からないが、対応が早すぎる。

 

恐らく、深夜は四葉としてではなく、個人で動いているのではないだろうか。四葉家の今の組織図やパワーバランスは分からないが、黒羽を動かしているにしてはあまりに迅速過ぎる。これは、当主である真夜を介さずに深夜が指示を出していると考えるのが自然。

深夜が直接、黒羽を指揮出来る立場とは考えにくいため、深夜が個人的に諜報・工作を得意とする人員を抱えている、と予想できる。

 

「色も形も、私の携帯端末と全く一緒……あらかじめ用意していたのでしょうか」

 

まだ、私が服を購入してから数時間しか経っていない。服へ携帯端末を紛れ込ませる手間を考えると、この携帯端末自体は最初から用意していた、ということなのだろう。あちらも、私がまともな連絡手段を持っていない、ということを可能性の一つとして考えていたということだ。

響子さんのことを知っていたのだ、私が監視されていることは分かるだろうから、そういう推測も当然だろう。

 

私の持っている携帯端末と同じものであるため、操作も分かりやすい。早速、電源を入れてみると、メッセージが届いていた。

 

話を要約すると、明日学校へ使者を送り込むから付いてってね、というものだった。

何度かやり取りをして、詳しい段取りを決める。昨日の今日でもう深夜に会えるとは、一気に進展した。やはり、考えるよりも行動だ。まあ、考える前に行動した結果、監視状態に追い込まれたわけであるが。

 

「今日はもう疲れました……」

 

泉美ちゃんと二人で遊ぶのは楽しかったのだが、やはり女子の小中学生に合わせるというのは難しい。下調べをしていたというのに、時折会話の中で、私と世間の女子小中学生の間にズレを感じた。話題に付いていけないのは仕方がないとして、女子は一緒にご飯を食べているとき、食べさせ合いをしたり、外を出歩く時は手を繋いだり、お揃いのアクセサリーを買ったり、するのだ。泉美ちゃんの言われるがままに行動することで不審に思われることはなかったはずだが、今日を参考に、気をつけて女子校生活を送らないと。やっとクラスメイト達が私に挨拶してくれるようになったのだ。このまま友達増やしてやる。

 

光宣にあれだけ言っておいて何なのだが、実は四葉逢魔は友達がいなかった。良く連む奴ならいたが、友達となると違う。学校へ行かず、閉鎖的な環境で育った私に友達など出来ようはずもない。だから、正直言って、女子中学校とはいえ学校生活が楽しい。この仲良くなっていく過程すらも楽しんでいる自分がいる。

USNAではきちんと学校に通っていたし、日本式の学校だったのだが、逢魔としての記憶が目覚めてからだと、全然違うのだ。

 

深夜のことが終わったら、リーナも連れて再び日本へ戻ってくるのもアリだろう。高校入学と同時に、正式に日本人になってしまうのだ。別にUSNAに拘りがあるわけでもないし、深夜も治ったとしても、いつ再発してしまうか分からない。何より、格好付けて傲慢だなんだと言ってきたが、結局私は真夜と深夜が好きだ。二人のことは心配だし、側にいたい。

 

今度、本気でリーナに相談してみようか。

 

そんなことを考えながら寝落ちした私は、このときUSNAでどんな出来事が進行しているのかも、真夜と深夜の現状も、何も知らない哀れなピエロだったのだ、と知るよしもなかった。




次話、ついに再会(予定)!
小さな伏線マシマシな今話を経てやっとそうなる予定です。

更新の間隔があいてしまいましたが、基本的にはその週の土日にどれだけ書き溜められたかで変化していくことになりそうなので、大きく更新があいたら、書き溜め出来なかったのだと生暖かく見守って下さると幸いです。

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