転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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長めにお待たせすることになってしまいましたが、新章スタートの前に間話です。



間話1
間話 アンジェリーナ就職する


姉が日本へ留学して3日で既にアンジェリーナ=クドウ=シールズは限界となっていた。毎日電話はしているものの、時差もあって不便であるし、何より頭を撫でてもらうことも、抱きつくこともできないのだ。テレビ通話であるため、目の前の画面には真桜が映っているが、だからこそ触れ合えないことが辛い。これが一年も続くとなるともう耐えられそうになかった。

 

とはいえ、姉にやりたいことをさせてあげたい、という気持ちもある。ずっと一緒で、いつもリーナを優先させてくれた姉。その姉が初めて自分でやりたいと、自分を優先させたのだ。最後まで好きにやらせてあげたかった。

 

そんなリーナも姉のいない生活になんとか馴染んできて、寂しさを堪えることが出来るようになってきた頃。リーナの元へ届いたのは軍の強制召集であった。USNA中から、才能ある魔法師を集っているらしい。リーナは軍人になる気はなかったが、今回のこれは殆んど強制的なものであり、特別な理由がない限り断ることは出来ない。

現在の魔法教育が上手くいっているのか、また、多くのデータを集めることで優れた魔法師に共通項を見つけ出そう、という定期的に行われている軍の試験であった。例年、無作為に選ばれた魔法師によって行われるのであるが、今年は魔法教育の実情調査も兼ねているということで学生魔法師を集っている。ただ、それらの集められた学生は一ヶ所で試験に挑むのではなく、それぞれが指定された研究施設へと派遣される。リーナが派遣されたのはボストンの魔法研究所であった。

最も近い研究所ではなく、ボストンの指定、ということから、ある程度のデータを軍は持っていて、魔法の得意系統などから派遣先を決めているのか、とも考えたが得意かそうでないかを候補者一人一人調べるのは相当な手間であり、その可能性は低い。特に意図もなく、無作為に分散させている、と考えるのが自然であった。

 

乗り気では無かったが、試験はどうあっても受けなくてはならないのだ。いっそのこと抜群の成績を出して姉に褒めてもらおう、と無理矢理このイベント(・・・・)を良いものであるかのように思い込ませることで、リーナの陰鬱な気分も少しは晴れた。

 

試験会場であるボストンの研究所に到着すると、リーナと同年代程の少年少女が10名程集められていた。

試験は筆記と実技があり、筆記後、いくつかの実技試験をローテーションで受けることとなった。真桜の絶賛するリーナの卓越した魔法力は決して身内贔屓ではなく、国内でもトップクラスのものだ。次々と試験の最高記録を叩き出し、リーナはこれ以上ないくらいに調子に乗った。リーナと共に試験を受けた者達がリーナの足元にも及ばなかったことで、自分が一番なんだと嬉しくなり、これで姉に褒めてもらえると思ったからだ。

 

実際、真桜はリーナをそれはそれは褒めるだろう。基本的にリーナ全肯定の真桜はどんな成績であれ褒める。甘やかす時はとことん甘やかすのが真桜流である。

 

そんな調子に乗っていたリーナの元へ一人の研究者がやって来た。歳はリーナよりもいくつか上だろうか。明らかにティーンエイジャーであり、他の職員よりも格段に若い。

 

 

「私はアビゲイル・ステューアット。アビーでいいよ。この研究所でCPBM研究室のリーダーをさせてもらってる」

 

赤毛のショートヘアーであるためか、ユニセックスな印象を受けるが美形で、その肩書きに反して偉ぶった感じはなく、きっちり着こなした白衣がファッションブランドの服なのではないかと錯覚するくらいに様になっている。

 

「今回の試験で一番の成績だった君に協力してもらいたいことがあるんだよね」

 

アビーは手に持ったタブレットを操作して、画面を切り替えると、リーナへと手渡した。そこには既にリーナが順位のみ知らされていた試験の結果がより事細かに表示されており、アビーがそれを見てリーナに声をかけたことは明らかだった。

 

「それだけの成績を叩き出した上に、君は放出系が得意そうだ。私の研究にぴったりだよ」

 

この協力要請は、民間人であるリーナを研究に携わらせるということで、リーナは強制参加な上に、書類を何枚も書かされた。研究の内容を外部に漏らさない守秘義務が主な内容であり、後日、両親の承諾をもって正式に受理されることになる。

が、アビーは既に待ちきれないらしく、リーナを研究室へ引っ張っていく。

 

「あの、まだ正式に受理されていないし、まずいんじゃ」

 

「大丈夫、大丈夫、さっき上の人に連絡して、許可もらったからさ」

 

アビーはリーナの手を掴んだまま器用に首から下げられていたカードキーをドアにかざして、そのままドアを開ける。部屋の中にはリーナが見たことのないような電子機器がいくつもあり、中で作業をしていた数人は拡大鏡のようなものを覗きながら細々と何かを作っていた。

 

 

「これ、持っていくよ」

 

「え、誰も動かせなかったから調整するって話じゃなかったですか?」

 

「私の理論ではこれで既に動くはずだ。そのために新しい魔法師も連れてきたんだ」

 

 

アビーに声をかけられた男性職員はリーナを見て、声にこそ出さなかったが、明らかに子供じゃん、と言いたげな表情であった。それに気がついたリーナはむっと表情を強ばらせた。頬がやや膨らんでおり、それがまた子供っぽく可愛らしい。

 

「まあ良いですけど、申請はお願いしますよ。怒られるの僕なんですから」

 

「分かってる、分かってる。じゃあ行こうか、リーナ」

 

いつの間にか親しげに愛称でリーナを呼ぶアビーは、男性職員に生返事をして、再びリーナを引っ張っていく。男性職員は諦めたようにため息を吐くと、何やらパソコンで操作を始めた。申請、という文字が見えることから、アビーの代わりに申請をしておくらしい。

 

「なんですか、それ?」

 

「私が開発している魔法兵器『ブリオネイク』の試作器だよ。円筒の奥に、ナノレベルでサイズを揃えた銅の粉末が押し固められていて、その銅粉末を放出系魔法でイオン化し、荷電粒子として放出する。大雑把に言えば、そういう仕組みの兵器さ」

 

見た目は金属製の筒で、短めのロケットランチャーの様だった。まだまだ試作段階なのか、筒の底面部分には何かを取り付けるのであろうアタッチメントのみがある。

 

 

「このブリオネイク自体は機械的な機構も存在しないから単純な作りなんだ。これでも魔法が正常に発動すれば、そんじゃそこらの大砲やミサイルなんて目じゃない兵器になる」

 

 

歩きながら機構の説明をするアビーにブリオネイクを手渡され持ってみたが、それは金属製というだけあってそこそこ重かったが、片手で十分持っていられる重さであり、アビーの言うとおり単純な構造で、とても強力な兵器とは思えない。

 

「まあ、君達魔法師なら、口で説明するより起動式を読み込んでもらった方が早いね、ほら、ここで実験が出来る」

 

いくつかのドアをカードキーで解除しながら、数分歩いて辿り着いた実験室。

強固な対爆・耐熱壁に囲まれた実験室であり、ここでなら魔法が正常に発動し、荷電粒子線が発射されても問題はないだろう。

 

出入り口は一つで、その反対側の壁の前に的が設置されている。こうした構造の部屋は、魔法の訓練施設ではポピュラーなもので、実際リーナもムスペルヘイムなどの強力な魔法の練習で何度か使用したことがあった。

 

一通り、ブリオネイクの使い方や注意事項を説明され、リーナを実験室に残し、アビーは隣の部屋に移動する。

リーナのいる実験室と、隣の部屋は透明な大窓でお互いの様子が見えるタイプの造りだ。音は完全に遮断されていて、隣の部屋にいるアビーとの意思の疎通は、耳につけたワイヤレスマイクと骨伝導スピーカーで行わなければならない。

 

ワイヤレスマイクと骨伝導スピーカーが正常に働いているか、しばらくアビーとリーナでやり取りをして、いよいよ実験開始だ。

 

 

『リーナ、その部屋ならば試作器の性能を百パーセント発揮しても問題無く耐えられる。早速起動式を読み込んでみてくれ』

 

「はい、始めます」

 

リーナが返事をすると、隣の部屋と視界を繋いでいた大窓の前にシャッターが降りる。リーナは深呼吸を一つして、サイオンを注入し始めた。

 

ブリオネイクの発動は至って簡単だ。

グリップにトリガーの類はついておらず、ただサイオンを流し込めば、自動的に起動式が出力される。

 

リーナがサイオンを流し込み、僅かなタイムラグをおいて、ブリオネイクから起動式が出力される。

 

「うっ」

 

リーナが今までに使ったことのあるどの魔法よりも魔法式が重い。リーナは類い稀な魔法力を持っているが故に、ムスペルヘイムなどの高難易度魔法であっても重いと感じることはなかった。であるにも関わらず、リーナが重い、と感じるということは、この魔法がそれらとは一戦を画す程大きく、複雑だということ。

 

一般的に魔法師は、一瞬に等しい短時間で読み込まれる起動式を意識で理解するのではなく、無意識で処理する。

魔法師は起動式を読み込むというより読み込まされて(・・・・・・・)、それを無意識領域に存在する魔法演算領域へ送り込むのだ。

魔法演算領域で何がどのように行われているのかは、魔法師自身にとってもブラックボックスになっている未だ解明されていない未知の領域。

 

科学的な根拠で魔法は生み出されるが、その根拠の根本となる計算方法については曖昧であり、魔法師が起動式を読み込んで知り得るのは、どんな効果をもたらす魔法式が構築されるかという事と、魔法式の構築で自分の魔法演算領域にどのくらいの負荷が掛かっているのかということだけだ。

魔法師はただその結果を利用し魔法としている。

 

リーナが魔法式を重い、と称したのはその負荷が大きいということ。

負荷の原因は、リーナが知り得た情報から推測する限り、事象改変の空間的、時間的な広がりはそれ程大した規模ではないことから、事象改変の深さがもたらすものと考えられる。

より基本的な、世界の基礎となる物理法則をねじ曲げる為に相乗的な効果を持つ魔法を幾重にも重複発動しようとしているのだ。

 

それを理解したことで、リーナはこの手に持つ筒が本当に兵器なのだと理解した。とりあえず、魔法式の内容は理解し、問題なく発動できることが分かったのだからアビーに一度確認してから再度発動しよう、そう考えたところで――

 

『リーナ、そのまま撃ってくれ!』

 

――アビーの必死な懇願にも似た指示が通信機を通じてリーナの耳に届いた。

その指示があまりに突然だったことで、リーナはそのまま魔法発動プロセスを進めてしまい、起動式に基づく魔法式の構築が完了する。

この起動式には魔法の対象座標と範囲、事象改変の強度、継続時間と実行のタイミングまで記述されていた。

つまり魔法式を最後まで構築すれば、魔法は自動的に発動する。

 

リーナの身体を薄く覆うように魔法の力場が発生した。

ムスペルスヘイムに代表される高威力放出系魔法を使用する場合に術者を保護するシールドとして組み込まれるもので、一定レベルを超えた電磁波を遮断するフィルターの性質を持つ。

その防御シールド発生の直後、激しい閃光が試作器の先端で生じた。

重金属プラズマの塊が円筒形の砲口から射出された途端、爆発的に拡散したのだ。

 

それはまさしく、プラズマの爆発。

 

試作器の砲身は、そのエネルギーに耐えきれず裂けて飛び散り、爆風が吹き飛ばす。

防御シールド越しとはいえ、プラズマの爆風を浴び、そのあまりの轟音に、リーナは試作機を放り投げて床に伏せた。

しばらく伏せた体勢のままでいると、イヤーフック型のスピーカーから耳障りな雑音が聞こえてきた。過剰な電磁波を遮断する防御シールドこそまだ生きているものの、近距離通信に使われる程度の電波は透過するようだ。それがプラズマ放電のノイズまで通しているのだろう。

緊張状態にあったリーナは、しばらくは気が付かなかったが、そのノイズに混じって、アビーの声が聞こえてきた。

 

『リーナ!大丈夫か!?聞こえているか!?』

 

放電が収まるまで、通信がダウンしており、回復した途端に聞こえてきたアビーの声は切羽詰まっていた。どうやらこの大規模なプラズマの爆発はアビーの想定以上であったらしく、大慌てしているのだ。

 

「うぅ、死ぬかと思った……」

 

涙目になりつつも立ち上がったリーナの防御シールドは維持されており、プラズマの影響は一切受けていない。客観的に結果だけ見れば無傷であり、死ぬようなことではなかったのだが、予想外の爆発とそれに伴う爆風・轟音は、リーナの心臓を縮こまらせるには十分で、思わずお姉ちゃん!と叫びそうになった。

 

リーナが立ち上がって試作ブリオネイクの破片が散乱した実験室の惨状を眺めていると、窓を塞いでいたシャッターが上げられ、隣の部屋が見えた。

無傷で立っているリーナにアビーは分かり易く安堵した様子だった。

 

『リーナ、シールドを解除しても大丈夫だ』

 

アビーのその声があるまで、リーナは自身がまだシールドを発動していたことに気がついてすらいなかった。それほどまでに今の一瞬の出来事は衝撃だったのである。

 

「アビー、試作器がバラバラに……」

 

『それはいいさ、何の問題もないよ!そんなことより魔法が発動したことの方が大切だよ!これは貴重なデータが取れた!』

 

興奮しているアビーとは裏腹に、リーナはとんでもないことに巻き込まれてしまったと、自分の運命を嘆いた。魔法がこのような結果になったのは威力の調整が中途半端だったからだ。これまでの会話からして、魔法を発動させた者が今までいなかったのだろう。つまり、理論のみによって構成された魔法式であり、それもここまで強力なものをいきなりぶっ放したのだ。シールドで守られている以上、リーナ自身には危険はないが、実験自体は危ういものである。サポートメンバーも無しに二人だけで行うような実験ではなかった。

 

「お姉ちゃん、私、とんでもないことになっちゃったかも……」

 

数日後、正式にテスト魔法師として、CPBM研究室に入ることになったリーナであったが、守秘義務があるため姉にすらそのことを伝えることが出来ず、そのフラストレーションを少しでも晴らすため、姉が日本から帰ってきたらやってもらうことリストを作り始めていた。

 

まずはお姉ちゃんをツインテールにすることから始めよう。そしたら飛びきり可愛い服を着せる。化粧もさせて、写真撮って……。

 

膨らむリーナの妄想と、増えていくリストのお願いを、日本の真桜はまだ知らない。




真桜とリーナ、それぞれ物語が動き出しましたので、次章からどう絡んでいくのかお楽しみに!と言いつつしばらくまたお話は日本へと戻る予定です。

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