転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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ただのほのぼの回なのにめっちゃ長くなった……。



21話 じゃれあう兄妹

「で、お兄様。30年もどこで何をしていたのですか?」

 

おかしい。先程まで感動の再会的な、そういうイベントであったはずなのに、ぼくは何故か床に正座させられていた。深夜の護衛である穂波さんと、少年は自己紹介をする間もなく部屋を出ていってしまった。深夜の様子に、穂波さんが空気を読んだのだろう。少年を引っ張るようにして出ていった。それとほぼ同時に、深夜がぼくに抱きついてきて、ぼくはあやすように深夜が落ち着くまで撫でていたわけだが、十数分程して、深夜が落ち着いてきたので、そろそろ事情の説明でもしなくてはと深夜の頭から手を離したところで、深夜に正座させられたのである。

お兄ちゃんもう何が起きているのか分からないよ。

 

「何をしていた、と言われましても……」

 

笑顔のままなのに、威圧感が凄い。つい敬語になってしまった。さっきまでの甘えモードはどうしたというのか。

 

「とりあえず、その可愛らしい仮装行列を解いて頂けますか。もう変装の必要もないでしょう」

 

「ん?」

 

ぼくは今、仮装行列を使っていない。正真正銘ぼくの姿のまま正座しているわけだが、それは深夜には判断できない。仮装行列は魔法を使っているのかを悟らせない魔法。故に深夜はぼくが仮装行列を使っていると勘違いしている。いや、この姿が仮装行列によって生み出された仮想の姿であると考えているのだ。

 

「これは変装ではなく本来の姿だよ?仮装行列はもう行使していないよ」

 

「はあ、お兄様、お兄様はいつから12歳の女の子になったのですか?お兄様は女顔で童顔で低身長ではありましたが、女の子ではなかったですし、成人した男性ですよ?もう今年で50を超えているのです。馬鹿なことを言ってないで早く解除してください」

 

ため息交じりに怒濤の勢いでぼくの言葉を消し去る深夜。心底呆れた様な顔で話す深夜はぼくが四葉逢魔であると、30年の時を経た四葉逢魔であるということを信じて疑っていないらしい。それは仕方ないとして、ただただ悪口が酷いよ!女顔で童顔で低身長って、そんな風に思ってたんだね!お兄ちゃん30年越しのショックだよ!

 

しかし、落ち込んでいるわけにもいかない。深夜の勘違いを正すためにも、まずは転生の話をしなくてはなるまい。

 

「深夜、30年もどこで何をしていたのですか?と聞いたね」

 

「え?」

 

首を傾げる深夜は、何故、今その話に戻るのか、という反応だ。

 

「長くなるけど、まずはぼく(・・)()になった経緯から話そうか」

 

正体を明かした、ということは全てを話す覚悟を決めた、ということ。

ぼくは深夜に全てを話すつもりだ。あの日、ぼくが死んで、どうやって私になったのか。

 

ぼくは、転生の経緯を深夜に話した。深夜は黙ってぼくの話を聞き続け、一通り話終わったところで、口を開いた。

 

「つまり、お兄様の魔法演算領域を占拠していた魔法が転生であり、そのお姿、真桜=クドウ=シールズこそが、正真正銘お兄様だと?」

 

「そういうことになるね」

 

深夜は疑わし気にぼくの頬をつつく。ぼくは正座したままであり、実はもう足の感覚が無かった。真桜になってから正座なんて殆んどしたことがない。この体にとって正座の副作用はすぐに表れる。正座を崩そうにも深夜が許してくれないのだ。虐待である。

深夜もぼくが限界であることに気がついたのか、にやっと悪い笑みを浮かべると、頬をつついていた手で、そのまま足をつつくという暴挙に出た。

 

「み、深夜っ、本当に止めてっ!」

 

「うっ、涙目でそんなこと言われると……止められませんね」

 

「うなっ、ちょ、深夜ぁああ……っ」

 

久しぶりの兄妹のじゃれあいで嬉しい限りなのだが、ぼくの望んでいるのはそういうのじゃないよ!嬉々として人の足をつついてくる妹じゃないんだよ!深夜は恍惚の表情を浮かべてますけどね!

 

「まあ、お兄様いじめはこの辺にして、そのお話は今の状況ですと信じざるを得ませんね。お兄様のご遺体は確かに確認しましたし、こうしてお兄様が存在しているのであれば、肉体的には別物、と考えた方がむしろ自然ですから」

 

そういえば四葉逢魔の体がどうなったのか特に気にしていなかったが、深夜が確認しているということは、きちんと日本へ運ばれた様だ。

自分の遺体というのも不思議な気持ちであるが、正確にはあれは遺体ではなく脱け殻、というべきなのだろう。ぼくは正確には死を体験してはいないのだ。肉体に致命的な損傷が生じた時点でぼくの意識は魔法へと変換され、肉体からは切り離されている。まだまだ魔法的に未知な領域に踏み込んでいる転生魔法であるが故に、ぼく自身その仕組みを完全に理解できているわけではないのだが、完全にぼくが死んでからでは魔法は発動できない。死の直前で魔法が発動し、意識は変換されたと考えるのが妥当だろう。

 

唐突に自分の世界に入って魔法考察をしてしまうのは悪い癖だ。勿論、それを知っている深夜は懐かしむような顔をしつつ、ため息を吐いた。ぼくがこのモードに入ると、構ってもらえずに真夜が不機嫌になるから何とか控えようとしてたんだけど、終ぞ直らず今世にも受け継いでしまった。こうして深夜に呆れた様な目で見られたことも一度や二度ではない。

 

「それにしても随分と可愛らしくなってしまったものですね」

 

深夜はこのまま話を続けているとぼくが没頭モードに再突入してしまうと思ったのか、ぼくの頬をむにむにと触りながら言う。

 

「つい最近まで記憶を失っていたから、普通に女の子として生きてきたんだけど、どうもスカートに抵抗あったりして、一時期悩んだりしたんだよ」

 

リーナが可愛いと言う服も、可愛いとは思っても着たいとは思わなかった。同年代の女の子と全く違う価値観。些細なことが積み重なって、当時の()は実は割と本気で悩んでいた。そんな時、普段はのほほんとしていて呑気なのに、私の異変に気がついたのか、リーナが唐突に私に言ったのだ。

 

『お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。私の大好きなお姉ちゃんは世界に一人だけ。他の誰でもないんだから!』

 

不覚にも泣きそうになってしまった。こういうことをされるから、普段どんなにワガママを言われても許してしまう。欲しいときに欲しい言葉をくれる、私を駄目にする妹なのである。

 

真夜も深夜もそうだ。

ぼくはいつも助けられてばかりだった。二人がいてくれなかったら、ぼくはきっとあんなに努力しなかったし、出来なかった。才能のない自分に酔って、嘆いて、諦めて、何も残せず、ただ死ぬだけだったろう。生きる意味を、幸せを二人はぼくに教えてくれた。

 

「もっと前にお兄様の記憶が戻っていれば良かったのに。12年も損をしました」

 

「損って、この歳じゃなきゃ日本まで来れないよ。今だってここにいるの、結構奇跡だから」

 

深夜が残念そうに言うが、それは無茶ってものである。ぼくが0歳の時に記憶があったとしても、何も出来ない。結局、中学生である今くらいまで殆んど真夜や深夜に会ったりする可能性は無かったと思う。そもそもぼくは、深夜の病を知って日本へ来たのであって、そうでなければ、見守るくらいで会おうとはしなかっただろう。これを言ったらたぶん、頗る怒るだろうから黙っておくけども。

 

「それに損っていうならぼくの方だよ。30年分の二人の成長、見逃しちゃったんだよ?写真とかぼくいっぱい撮ってたのに」

 

本来であれば死んでいたので、見れなくて当然、むしろこうして再会できたことに感謝するべきなのは分かるが、人間、欲が出てくる生き物だ。30年分の二人の成長を見守ることが出来なかったのは本当に悔やまれる。二人の誕生日には必ず三人で写真を撮ったものだ。動画撮ったりもしたくて、当時最新の機器を買い揃えていた。ぼくの部屋が一時期撮影スタジオみたいになってしまって片付けが大変だったのを覚えている。

 

「今でも毎年、必ず誕生日には二人で写真を撮ってますよ……二人とも毎回泣きそうになっていましたけど

 

後半は聞き取れなかったが、なんと、誕生日シリーズは続けてくれていたらしい。これは嬉しい誤算である。深夜は写真を恥ずかしがって嫌がるから、ぼくが死んでからの写真はあまり残ってないと思っていたのだ。あの家じゃ写真撮ろうって言い出す人もいないしね。

 

「お兄様にお見せするつもりで、何かある度に真夜が写真を撮っていましたから、他にも沢山ありますよ。墓前で見せていたのですが、まさか本人にお見せすることが出来るとは思いもしませんでしたが」

 

「うわ、それは嬉しいな……。うん、なんか想像しただけで泣けてくるから、覚悟を決めてから見るよ」

 

一人でこっそり見たいけど、きっとそれは許してくれないだろうな。30年という時の中で成長していく二人を写真を通してでも見たりしたら、絶対泣く。深夜はどの写真でもムスッとしてそうだけど、そこがまた可愛い、とか。真夜は写真に写るとき何故かどや顔になるし、ピース一辺倒だったから、成長してどんなポーズになってるのかな、とか本当に、想像だけで泣けるよ。

二人の中学校の入学式で泣いたからね、ぼく。周囲のお父さんお母さん方に、凄い不審がられた。

ぼくがそんな思い出に浸っていると、ふと深夜が思い出したかのように、口を開いた。

 

「そういえば、私も写真と同じだけ、30年分の誕生日プレゼント貰ってませんね。損です」

 

「もしかして12歳の女の子に誕生日プレゼントを要求してますか!?」

 

「はい」

 

至って真面目な顔で深夜が頷く。月500円のお小遣いをやりくりしなくてはならない女子中学生に、良い大人がとんでもないことをおっしゃっている。

 

「何の悪びれもないね!そのちょうだいの手も止めようか!」

 

右手の掌を上に向けて差し出してくるが、何も渡せるわけがない。深夜だって、この場で30年分のプレゼントをほいっと渡されるとは思っていないだろう。仕方ないな、とでも言いたげな顔で再び口を開く。

 

「物で渡せないなら体で払ってもらうしかないですね」

 

「借金取りの言い方!極悪非道だよ!」

 

借りたら返すのは当たり前だけど、ぼくの場合、何も借りていないのに、勝手に借金を押し付けられているみたいなものだ。誕生日プレゼントのねだり方じゃないよね、これ!

 

「冗談です。ただ私のお願いを聞いてもらえればそれでいいですよ」

 

「なんだそんなこと。それならいつでも――」

 

「誕生日30年分なので30回――」

 

「貪欲!大概どんなサブカルチャーや童話でも願いを叶えてくれるのは3つまでなんだよ!?」

 

確かに30年間あげてないけど、その期間、ぼく死んでたり、記憶失ったりしてたんですが!いや、正確には魔法となってさ迷っていたわけだけど、その期間全部取り立てようというのは流石に鬼畜過ぎませんか?

 

「いえ、30年分の誕生日プレゼントとクリスマスとお年玉で90回ですよ」

 

「えげつない計算方式!ぼくもうそれ奴隷だよ!」

 

「お兄様が奴隷……ときめきますね」

 

「どこに!?」

 

誕生日プレゼントはともかく、クリスマスとお年玉、何歳まで貰う気なんだろうか。でも、ぼくが生きていたとしたら、たぶんあげてたんだろうなとも思う。妹達のために何かをするっていうのが生き甲斐というか、最大の幸福というか、まあ頗るシスコンだったし。

ただ、奴隷にときめくって、深夜さんがどんな成長をしたのかお兄ちゃん、ちょっと心配かなっ!

 

「いつまでも話していたいけど、ぼくは今保健室で寝ていることになってるから、そんなに長くはいられないんだよね。誰か心配して見舞いに……は来ないかもしれないけど、あんまり長く保健室にいるのも不審がられちゃうから」

 

「隠す必要があるのですか?ある程度の理由付けは必要ですが、私の病を治すためにUSNAから日本へやって来た、ということにすれば問題ないかと思いますが?」

 

「これから治療をする上でも、今のままの状況はまずいし、やっぱりそういうことになるか……面倒をかけることになると思うけど、理由付けの工作はお願いして良いかな」

 

「はい。では、どういう設定にするか一緒に考えを纏めましょう。それに合わせてこちらで工作はしておきますので」

 

深夜の治療は長期間を想定している。魔法自体もやりながら調整が必要であるし、深夜の体調によってはその期間もさらに長くなる。その間、ずっと九島の監視を掻い潜り続けるのは至難の業だ。というより、響子さんか。並の監視なら撒くことは容易いけど、余裕で街中のカメラをハッキングしてくるレベルとなると、もうどうにもならない。このままの状況では次に会うのも難しい。

もはや、響子さんには理由を説明し、見逃してもらうか、納得してもらうしかないのだが、馬鹿正直にぼくの正体を話すわけにはいかない。

偽のストーリーを作り、あたかも真桜=クドウ=シールズと四葉の間に関係があったかのように見せかけるしかないだろう。

根拠となる理由や証拠は四葉に用意してもらうとして、どういう設定にするかが問題だ。

 

「折角人数もいるし、出ていった二人も呼ぼうか。ぼくら二人だけでは気がつかないこともあるだろうし」

 

「そうですね。二人もお兄様のことは知ってしまいましたし、協力してもらいましょうか」

 

どうやら二人は長くなることを見越してホテルのカフェでお茶をしていたようだ。護衛としてはどうかとも思うが、あの少年、ぼくと同系統の異能を持っている様だし、多少離れていても直ぐに危険は察知できる。まあ、ぼくがいる時点でどんな危険があっても深夜が傷つくことはないのだけど。

そのぼくを初対面で信用し過ぎってとこが減点かな。

 

「深夜、護衛はあの二人だけなの?」

 

「正確には穂波一人ですね、後でお話ししますが達也には通常の魔法師にはない知覚能力がありますので連れてきていました」

 

達也という少年の立ち振舞いは護衛としてのものだったから、てっきりそうだと思っていたのだけど、違ったらしい。確かに要人を守るにしては若すぎるか。要人の護衛に求められるのは魔法力以上に判断力、咄嗟の危機的状況にどう対処するか、だ。それは経験によって培われるもので、その能力こそが護衛としての最大の評価点。ぼくの個人的考えではあるが、これに当て嵌めるなら、やはりぼくと同い年か少し上くらいでは若すぎるのだ。

 

「護衛一人だけとは随分とその穂波さんという方を信頼してるんだね」

 

「ええ、私の守護者(護衛)は穂波にしか出来ない。穂波がいればそれで良いんです」

 

深夜は恥ずかしがりというか、素直になれないというか、そういうところがあるから本人にはあまり、そういう態度は見せず、言葉にもしていないだろうけど、深夜の顔を見れば、その言葉にどれだけの信頼があるのかは分かる。本当に心から信頼しているのだ。

 

「そっか、そんなに大切で信頼できるなら、良いパートナーだね」

 

「……そうですね。お兄様が死んでから、家族以外で、これ程大切に思えたのは彼女だけ。最高のパートナーです」

 

深夜が少し恥ずかし気に、微笑む。30年前には見られなかった表情だ。このぼくの知らない表情を深夜にさせたのは穂波さんで、彼女が深夜にどれだけ尽くし、積み重ねてきたのかは、この表情を見れば分かる。少し妬けてしまうな。

 

 だから、少しだけ意地悪をしてしまったんだ。

 

 

「――だってさ、良かったね、穂波さん」

 

 

「……えっ!?」

 

実は少し前に、穂波さんと達也くんはドアの前に到着していた。それを眼の力で感知したぼくは、深夜に気が付かれないように、二人を部屋に招き入れていた。仮装行列による幻影と入れ替わってドアを開け、二人の姿を深夜からは見えなくしたのだ。勿論、一連の動作は魔法により、全て無音で行われている。

幻影、透明化、遮音、これらは仮装行列の機能を一部ずつ使用しているのだ。便利すぎて仮装行列一つで大抵のことは出来てしまう。とはいえ、自慢ではないが、ぼくでなければ、ここまで多様性のある使い方は出来ないんじゃないかな。元々の魔法の完成度が高過ぎて、その魔法の一部の機能のみを使うというのが、逆に難しいのだ。ぼくがイタズラに、ここまで本気を出したのは深夜の性格上、普段、感謝の気持ちや信頼を言葉に出来ていないだろうから、この場を使って伝えてあげようという、兄のオチャメな優しさである。

別に、足をつつかれたり、90回ものお願いを課せられたりしたから、仕返ししようとか、そんな風には思ってないよ?本当だよ?

 

「貴女っ、聞いてたの!?」

 

「えっ、深夜様に呼ばれたので少し前から部屋に……、あの、ありがとうございます!」

 

「お礼は良いから忘れなさい!私は何も言ってないわよっ!」

 

頬を赤く染めてモジモジしながら礼を言う穂波さんに、その比じゃないくらい顔を赤くした深夜が、目をぐるぐるさせながら、言い放った。この恥ずかしがっちゃうところ、兄的に凄く可愛いと思います。なので、追撃する。

 

「あっ、穂波さん、今のきちんと録音してあるので後でデータを差し上げますね」

 

「お兄様、もう一回死にたいんですか?」

 

「わっ、深夜、魔法使っちゃ駄目だよっ!?穂波さん、くねくねしてないで取り押さえてっ!」

 

羞恥の臨界点を突破したのか、CADまで持ち出してきた深夜。穂波さんは何やら一人で喜びに浸っていて、こんな状況なのに動きを見せない。

達也くんはぼくたちが大騒ぎしているのを、無表情に、しかしどこか不思議そうに眺めている。

 

あの、誰か深夜を止めるの手伝ってもらえませんかっ!




ツンデレ(42)……。
次話から、やっと達也くんが絡んでくるはず!

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