転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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22話 覚悟と息子と魔王

「じゃあ一先ず自己紹介しようか……ほら深夜、いつまでもいじけてないで、こっちおいで」

 

「誰のせいですかっ、誰の!もう勝手にやってください」

 

弄りすぎた結果、深夜が完全に拗ねてしまい、会議は全く進まずにいた。出来れば今日中にぼくの設定を考えてしまいたいのだが、こうなってしまった深夜の機嫌を直すのは中々難しい。

部屋の隅っこで膝を抱えて座って、こちらをじっと涙目で睨んでいる。

 

「深夜様がここまで露骨に態度に出すなんて……」

 

「あー、ぼくがいるからちょっと退行しているのかもしれないです。昔はいつもこんな調子でしたよ?真夜と喧嘩したりすると、隅でずっといじけてました」

 

困惑顔で呟く穂波さんにぼくは得意気に話した。穂波さんが何時から深夜の護衛をしているのかは知らないが、どうやらこういう深夜は知らない様で、ちょっと優越感だ。

深夜は意外にも思ったり感じたことが、行動や表情に出やすいタイプなのだ。なのに、天の邪鬼なところがあるから、それを無理に抑えようとして、ああして隅で固まる、というスタイルが確立されたのだろう。

年を経て、このスタイルは封印されていた様だけど、ぼくと話したことで、無意識の内に退行しているのではないだろうか。

 

「お兄様、余計なこと話さないでくださいっ!」

 

「ぼくおしゃべりだからさ、早くこっちこないとどんどんしゃべっちゃうよ」

 

これ以上昔のことを話されては堪らないと思ったのか、深夜はうぅ、と呻き声の様なものを上げた後、のそのそとこちらへ来てイスに座った。

 

「達也、深雪さんには何も言わないように」

 

「……はい」

 

私、怒ってますとでも言うように、腕を組んでむすっとした態度をしているが、顔が赤いままなので、迫力はない。何やら達也君に指示を出したりしているが、そのちょっと偉そうにしているのも、顔が赤いと可愛くなる。不思議だ、これがギャップという奴なのか、ぼくがシスコンなだけなのか。

 

「深夜も戻ってきたし、改めて自己紹介ということで」

 

穂波さん、達也君、と名前は判明しているのだけど、本人から聞いたわけではないし、向こうもぼくのことで疑問に思っていることがいっぱいあるだろう。ぼくの設定を考えてもらうことになるのだから、まずは自己紹介をしないことには、会議がスムーズに進まない。

 

「ぼくから……と言いたいところなんだけど、ややこしくなるだろうから、ぼくは一番最後の方が良いね。これから話し合うことの主題にもなるし」

 

真桜としてだけでなく、逢魔としても自己紹介をするとなると、また深夜に説明したような転生の話をしなくてはならないわけで、混乱させてしまうのは必至。そうなる前に、まずは自己紹介をしてもらった方が良いだろう。深夜は自己紹介をする必要がないため、穂波さんから自己紹介をしてもらうことになった。

 

「桜井穂波です。深夜様の守護者(ガーディアン)をしております」

 

守護者(ガーディアン)?」

 

「専属のボディーガードの事ですよ。お兄様が死んでからそういう制度が四葉家には出来上がったのです」

 

詳しく聞いてみると、守護者というのはボディーガードなどという生易しいものではなかった。一旦選ばれたならばその任期に終わりはなく、マスターから解任されない限り、辞めることはできない。その上、金銭的な報酬もなく、文字通り、一生をマスターを守るために過ごすというのだ。

穂波さんは、遺伝子操作によって、魔法資質を強化された調整体魔法師「桜」シリーズの第一世代であり、研究所で生まれ、生まれる前から四葉に買われた魔法師。生まれた瞬間から四葉家によって人生を支配されてしまったのだ。

彼女もまた、ぼくの死によって人生に大きな呪いを残してしまった一人だったのである。守護者という制度が出来なければ、彼女が買われることはなかったのだから。

 

人は、生まれによって人生の選択肢をある程度決められてしまうものだ。努力すれば何にでもなれる、というのは綺麗事に過ぎない。日本というある程度治安の安定した国に生まれれば、それは大概のものには努力すればなれるかもしれないが、例えば魔法師は完全に才能によってのみその優劣が決する。これは努力でどうこうできるものではなく、使えない人間には絶対に使えないのだ。日本という国から出て考えると、毎日死と隣り合わせの環境で生きていくしかない子供達が大勢いる。そんな場所で生まれて、努力すれば何にでもなれる、なんてそんな綺麗事通用するのだろうか。

もっと極端な話をするならば、生まれたときから、五体満足でない者、障害のある者、病に侵されていた者、など自分の努力では物理的に覆せないものを背負っている人間だっている。

 

別にぼくは、全ての人間が平等であるべきだとは思っていない。そんなことは無茶だし、生まれや環境、時代や人種、それらによる不平等、差別は人間が集団で生活する限り、切って離すことの出来ないものだ。

 

だからこそ、ぼくは、誰かが誰かの人生を決めるなんて、するべきじゃないと思っている。人は不平等に配られたカードで、人生を戦わなければならない。なら、どのカードを選ぶのかくらい、自分で選ぶべきだ。穂波さんには、最初から一枚のカードしか配られなかった。四葉の元で深夜の守護者となる、そういう人生しか選べなかったのだ。

 

ぼくには責任がある。彼女に背負わせてしまった一人として、カードを提示する責任が。

 

「穂波さん、貴女が守護者を辞めたいというのなら、ぼくが必ず辞めさせます。今まで働いた分の報酬も、相応の額を払わせます」

 

「お兄様っ!?」

 

ぼくの言葉に、深夜が飛び上がるように椅子から腰を浮かせて、ぼくを見た。

 

「深夜、ちょっと黙っててくれ」

 

「っ……!」

 

深夜が、表情を固めて石像のように、そのまま椅子に戻る。ぼくが本気だと悟ったのだろう。本気でなければ、ぼくが深夜に黙れだなんていうはずがない。深夜は不安そうに、穂波さんを見つめるだけで、もう口を出すことは無かった。

 

妹にまで強く当たってしまって、自分が情けない。

ぼくがここまで拘るのは、結局、ぼくのワガママで、自分と重ねているだけなのだ。

 

ぼくは、生まれた瞬間、まともに魔法が使えないと分かり、冷遇され続けてきた。それは四葉という家に生まれた以上、仕方のないことであったが、辛くて悲しいことだ。魔法師以外に価値はないのだと、そうして刷り込まれた価値観がぼくを追い込み、他の選択肢を無くし、配られた他のカードを全て捨てた。結局、ぼくは出来損ないの魔法師にしかなれなくて、それを変えてくれたのは、妹、という天から配られたカードがあったから。ただの奇跡があったから。

 

穂波さんに、今まで決められた一つの道しか無かったというのなら、せめてここでぼくが、自由という選択肢を提示してあげたかった。深夜を本気で守っていてくれたからこそ、彼女にはここできちんと、そのあり方が自らの意思によるものなのか、見つめ直して欲しい。

 

穂波さんは、数秒だけ沈黙して、静かに口を開いた。

 

「……昔の私なら何と答えたか分かりません。でも、今は考えるまでもなく、言えます。私は守護者(ガーディアン)を辞めません」

 

穂波さんの目が真っ直ぐにぼくを貫く。この時点でぼくは、次の質問に意味がないことを分かってはいたが、やはり口に出さなくてはならないだろう。いや、ぼくが、彼女から、直接聞きたくなったのだ。

 

「本当にそれで良いんですか?貴女の人生を深夜に賭けられますか?」

 

「――賭けられます。私の全てを、賭けています」

 

一瞬の間もなく、彼女は力強く言った。

確信した。深夜は最高のパートナーを見つけたのだ。守護者なんて制度ではなく、心で繋がるパートナー。深夜の兄として、どれだけの感謝を以てしても、彼女にその覚悟の代償を返せはしないだろう。

 

だから、ぼくもぼくの全てを賭ける。

 

「ありがとう。それならぼくが、貴女を守ります。深夜の大切な人は、ぼくの大切な人だから」

 

彼女はもう、深夜にとって家族だ。それならぼくにとっても家族で、ならば、この命に代えても守る。ぼくは、ぼくの家族を守るために、全てを賭けている。二人の妹が生まれた、あの奇跡の日からずっと。

 

「穂波っ!」

 

「わ、ちょっ深夜様!?」

 

ぼくの言葉に、空気が弛緩したのを感じたのか、深夜が穂波さんに飛び付いた。まさか飛び付かれるとは思っていなかったのか、慌てながら受け止めた穂波さんが目を丸くしている。

 

「や、辞めるなんて言ってたらひっぱたいてたわよっ!ずっと側にいるって言ったんだから!」

 

「言いましたっけ?」

 

「言ったわよ!沖縄で!覚えてないの……っ!?」

 

「あー嘘です嘘です!覚えてますから泣かないで下さい、達也君も見てますよ!」

 

またも涙目になってしまった深夜に、穂波さんはとんとんと背を叩きながら宥める。やり過ぎちゃった、という顔をしていることから、泣かないくらいのところで深夜を弄るつもりだったのだろう。この状況でも深夜を弄るチャンスを逃さないその精神、ぼくは大好きだよ。

 

「ごめんね達也君、変な雰囲気にしちゃって」

 

「いえ、別に」

 

穂波さんが深夜を宥め、椅子に座らせている間、置いてけぼりを食らっている達也君と交友を深めようと思ったのだけど、どうやら彼はこの状況に付いていけていないらしく、表情こそ変わらないが困惑しているのが雰囲気で分かった。元々口数が多い方でもなさそうであるし、話しかけてもまともに会話ができなそうだ。落ち着くのを待ってあげた方が良いだろう。これから転生やら何やらとさらに混乱する話を投下することになるのだ、一つ一つ処理していってもらわないと。

 

「深夜、そろそろ達也君にも自己紹介をしてもらいたいんだけど、良いかな」

 

「勝手に二人でやってれば良いじゃないですか。私と穂波は聞く必要ないですし」

 

再び隅に戻らなかったところを見るに、深夜は退行モードから戻った様だけど、その反動もあって完全に機嫌を損ねていた。宥めていた穂波さんも苦笑いである。こうなってしまうと、深夜の機嫌を直すのは難しく、ぼくはもうこのまま会議を進めてしまうことにした。穂波さんの横にわざわざ椅子を移動させて座り直したことからも、表面的に不機嫌を装っているだけで、怒ってはいないだろうから、タイミングを見て、不機嫌アピールを止めてくれるだろう。深夜のこうした態度は一つの甘え方なので、こういう不器用で面倒くさいところも、また可愛くて仕方ないと思ってしまう。

 

「じゃあ、達也君。簡単に自己紹介をお願い」

 

穂波さんも深夜がただ甘えているだけだと分かっているのか、隣に座った深夜にデレデレしていて使い物にならない。必然的に進行はぼくがやるしかなく、奇しくも、深夜の言うとおりの状況、実質的には、ぼくと達也君の二人で会話しているような状況になってしまった。達也君は特に気にした様子もなく、口を開く。

 

「司波達也です。普段は妹の守護者をしていますが、本日は母の命によりこちらに」

 

「…………母?」

 

何故か達也君は、深夜を見ながら言った。確か達也君は、通常の魔法師にはない知覚能力があるために深夜が連れてきた、と言っていた。つまり、命令したのは深夜ということになるわけで……。

ぼくが頭を悩ませていると、唐突に、深夜が会話に入ってきて、ドヤ顔で言い放つ。

 

 

「――ええ、達也は私の息子よ」

 

 

言葉を理解するまでに数瞬。

 

 

「ぇええええええええええええ!?」

 

 

絶叫を垂れ流しながら、ぼくはその場で無様に椅子ごとひっくり返った。




妹の守護者とか良く考えると凄いパワーワード……。

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