転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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長らく更新が止まってしまい、ご心配おかけしました……。
敗因はプロットとか何も無しで書き続けていたことでしょう。イベントとして深夜との再会までしか考えていなかったが故に、詰まっていましたが、ここから一気に物語を動かしていきます。






23話 揺れる真桜

目が覚めると、目の前にあったのは真っ白な天井だった。カーテンで仕切られたベッド、つんとする様な消毒液の臭い、ここは学校の保健室。もう放課後なのか、生徒達の騒がしい声や、部活動特有の掛け声が聞こえてくる。

体を起こすと、僅かに後頭部に痛みを感じた。その痛みが、朧気に、少しずつ、記憶を思い起こさせる。

 

「……思い出した」

 

そうだ、深夜が結婚してて、自分と同い年くらいの男の子が深夜の子供で、情報を処理しきれなくて、そのまま椅子ごと後ろに倒れてしまって……どうやらそのまま気絶してしまったらしい。

 

良く考えれば気がつけるタイミングは何回もあった。

 

深夜が独身、という情報はインターネットで調べた程度のもので、秘密主義の四葉家が隠蔽している可能性は確かにあったのに、今までは隠していなかったし、十師族の娘、真夜に至っては当主なのに、いつまでも独身というのは体裁も悪く、師族会議に発展しかねない案件、結婚を隠蔽しているなんて考えるはずもない。そう考えて鵜呑みにしていた。

 

達也君みたいな子供があの場で護衛をしていることには違和感を覚えたのだが、深夜が達也君は通常の魔法師にはない知覚能力があるために連れてきた、と言っていたため分析要員なのだと勝手に納得してしまった。

 

光宣の事があってから、無闇に人を『眼』で解析することをしていなかったのだが、『眼』で見ていれば、深夜との因果に気がつき、すぐに親子だと分かったはず。敵なら問答無用で使うのだが、深夜の仲間に使って、知られたくない秘密でもあったら申し訳なさ過ぎる。

 

「深夜が母親ね……」

 

今日、再会してみて姿形は変わっていても、やっぱり深夜なんだな、と実感できた。だから、無意識に、ぼくの中では12歳の深夜のままだったのだろう。結婚してたり、子供がいたり、そんな成長を感じていなかった。相変わらず素直じゃないのに、甘えん坊で、繊細で内向的。

 

母親になっているなんて、考えもしていなかった。

 

「やり直したいっ」

 

正直、めちゃめちゃ落ち込んでいる。だって達也君は深夜の息子で、それってつまりぼくの甥ってこと。何それ、絶対可愛い!あの、膨れっ面みたいな無表情も、こう可愛く見えてくるよね!あのまま死んでたら絶対会えなかった、凄い奇跡、二人の妹が生まれたときみたいな、そんな奇跡なんだ。なのに……。

 

ぼくがしたことと言えば、達也君を魔法で吹き飛ばしてドヤ顔、つまらない話を振って困らせる。

僅かに覚えているけど、何なら最後は椅子ごとひっくり返ったがためにスカートがめくれて、パンツ丸見えだったからねっ!

戻りたいっ!やり直しをさせて欲しい!本当はもっとカッコいい伯父さんなんだよ!黄昏の魔王とか称されて、ブイブイ言わせてたから!

 

布団を頭まで被って、丸まりながら枕を抱き締める。もう達也君の中ではぼくは無様で間抜けなただのシスコンってことになってるだろう。

 

そんな風に後悔に悶えていると、瞼が重たくなってきた。気絶したぼくを、どうにか四葉の工作員が保健室まで連れてきて寝かせたのだろうけど、今はもう放課後。軽く見積もっても4時間くらいは寝ていたはず。それでもまだ眠いのは、単純に寝不足だ。

 

実は昨日は殆ど寝ていない。眠れなかったのだ。深夜と再会するというのはこの上ない奇跡で、嬉しくて、幸せなこと。でもそれは()()()()()()()()なのだ。

深夜との再会はつまり、過去の自分と対面するということ。それがこの12年で培われた真桜の部分は、酷く怖かったのだろう。自分が自分でなくなってしまうのではないかと、四葉逢魔に呑み込まれてしまうのではないかと、そういう恐怖があったのだろう。

どんなことを話そうとか、どう言い訳しようとか、敵対されたらどうしようとか、そういうことを考えながら、その裏で、明日自分が完全に四葉逢魔になってしまうのではないか、と怯えていた。

 

四葉逢魔というのはもう終わった人間。彼女達の人生に、もう深く関わるべきではない。

彼女達には彼女達の人生があって、兄として死人が余計な手を加えてしまうのは傲慢。

 

言い訳のように耳に心地いい言葉を並べて、二人に会わない理由を作っていただけ。

 

再会してしまえば、完全に四葉逢魔になってしまって、真桜は消えてしまうんじゃないかと、本当はそんな臆病な理由で避けていたのかもしれない。

 

別に逢魔と真桜で人格が分かれているわけではない。元は一つ。転生魔法の性質上、生まれたときから人格としては四葉逢魔でしかないのだから、結局は意識的なものでしかない。

呑み込まれるとか、消えてしまうとか、そんなものはありもしない妄想のようなもので、それはやはり自分の中で、まだ、逢魔と真桜が一つになれていない、ということなのだろう。これまでの12年と、逢魔としての記憶で、別人の様に思えてしまう。

 

真桜になりたい。

逢魔の何もかも受け入れて、その上で新しい自分に。

 

 

「大丈夫、()は真桜だ」

 

 

逢魔に引っ張られていた精神を真桜に戻す。一人称による自身の定義には一定の効果があることは()()()()が過去に体験している。自分を定めて見失わないようにする指針になる。

最悪なのは逢魔も受け入れられず、真桜にもなれず、壊れてしまうこと。危ういバランスにある精神状態を今は保たなくては。

いつの日か、逢魔を受け入れ、本当の意味で真桜になるために。

 

「真桜先輩っ!」

 

保健室の扉が勢い良く開いたかと思うと、そんな聞き覚えのある声が響く。泉美ちゃんだ。

 

「ちょっと泉美ちゃん、保健室なんだから静かに。気持ちは分かるけど、真桜さん、眠ってるかもしれないわよ」

 

「あ、そうでした……申し訳ありません」

 

泉美ちゃんと一緒にいるのは真由美さんだ。焦ったように泉美ちゃんを止めに入る様が、しゅん、となっているであろう泉美ちゃんも込みで、見えていなくても想像できる。

 

「起きていますから大丈夫ですよ」

 

カーテン越しに声をかけると、真由美さんが、開けますね、と言いながらカーテンを開けた。

 

「具合はどうですか、真桜さん」

 

「課外授業にいらっしゃいませんでしたので、真桜先輩のクラスメイトの方に訊ねましたら、今朝から保健室に行ったきりだと聞いて、私お見舞いにも行かずに申し訳ございません!」

 

ガバッと頭を下げる泉美ちゃん。止めてくれ、こっちはただのサボりなんだ!頭なんて下げられたら罪悪感で押し潰されそうになるよ!

 

「そんな、私が保健室に行ったのなんて分かるわけもないことですから。それに眠っているだけでしたし、私こそ、課外授業があるのに、何もお伝えせずに心配させてしまってごめんなさい」

 

「良いのよ、体調が悪いのに無理してしまうより余程良いわ。今日はもう帰って、ゆっくり休まないと」

 

優しい言葉がただただ痛い。もしかしたら体調悪そうに見えているのかもしれないけど、眠いだけだから!だからその聖母の様な優しげな目で私を見ないで欲しい!

 

「ご家族の方に連絡して迎えに来てもらった方が良いわね、先生は会議でいらっしゃらないけど、私から伝えておくからもう帰りなさい」

 

私が先生に掛けた『私がベッドに寝ているものとして行動し、決して起こさず、誰もカーテンの中に入れさせない』というコマンドは既に解除されているだろう。この魔法の持続時間は数分しかない。私が学校を脱出するまでの間持てばと思ってかけたものなのだから。この魔法の良いところは相手が魔法師でなければ、魔法にかかっていたことにすら気がつかない、という点だ。30年前にどうにか自分でも使えないかと研究していた魔法だが、まさか転生してからこうも役立つとは。普通に色々な規制に引っ掛かる魔法であるため、公には使えないのだが。

 

「真桜さん?」

 

「あ、すみません、少しぼーっとしてしまっていて」

 

 

悪い癖、魔法考察で集中してしまい、真由美さんの話に対応できていなかった。またも心配そうな顔で見られてしまう。嘘の信憑性は高まっていくけど、私の胸はもう罪悪感でいっぱいだよ!

 

「申し訳ありませんが、今日は休ませて頂いてもう帰りますね」

 

「ええ、それは良いのだけど、お迎えは?」

 

「大丈夫ですよ、一人で帰れますから」

 

家族って、私の場合一緒に住んでいる響子さんということになるのだが、たぶん今頃は仕事だろう。本当に体調が悪いならともかく、嘘の体調不良で呼び出すなんて出来るわけもない。

 

「駄目よ、心配だわ!家に誰もいないの?」

 

「ええ、まだ仕事だと思います」

 

「それなら家の車で送りましょう。私も一緒にいますから」

 

うわぁー!私の嘘でまた他の人に迷惑がっ!七草姉妹は安全の問題から車で送り迎えなのだが、いつもの下校時間でもないのに、私のために呼び出そうとしてくれているのだ。私、ピンピンしてるのに!何なら少し寝たことで回復してるのに!

 

「お姉様、それなら真桜先輩には当家にいて頂いた方がよろしいのでは?家に帰っても一人になってしまうのでは私、心配です」

 

本当に心配そうな目を向けないで!むしろ一人の方が気楽だから!同居人、私を監視してますからね!

そんな私の心中を二人が察するわけもなく、私も体調不良という嘘のために強く言えず、あれよあれよと言う間に――

 

「きちんとご家族の方には私から連絡しますし、帰りも送っていくから安心してね」

 

「自分の家と思ってお寛ぎ下さい」

 

――七草家の車に乗せられ、両サイドを真由美さんと泉美ちゃんに挟まれていた。両手に花である。

最初はどちらかが、課外授業を休んで私のお守りをするという話だったのに、二人の話し合いの末、何故か二人とも課外授業を休み、私の隣にいる。私の嘘のために、二人を休ませてしまった。中学生の貴重な学びと青春の時間を奪ってしまったのである。

 

私は思った。そうだ、弘一君をいじめて、この罪悪感を吹き飛ばそう、と。

 

深夜に明かしてしまった以上、私が逢魔であることは弘一君には明かしてしまうつもりだ。真夜のことを問い質すついでに、罪悪感から来るこのストレスの解消に付き合ってもらおう。

 

何を隠そう、私は弘一君の師であり、弘一君は私の最初の弟子である。真夜の婚約者になるからには相応の強さが無くてはならないということで、あらゆる戦闘技術を文字通り叩き込んだ。具体的にはボコボコにして、解説、ボコボコにして解説、を繰り返した。どこがダメだったのか、何故ダメだったのか、どう改善すればいいのか、それを毎回懇切丁寧に、教えて上げるという優しい優しい訓練だった。

 

なのにその恩を仇で返して、真夜と別れるなんて、多少の事情ならば、ちょっとお仕置きだね。

 

あー、楽しみだなー。

 

 

 

 

 

 

七草邸まで、後数キロ。

真桜が不敵に笑みを浮かべたその瞬間。

 

「なんだ、寒気が……」

 

書斎で資料の整理をしていたある男がぶるりと震え上がった。

 

魔王はもう、すぐそこまで近づいている。

 




泉美ちゃんと真由美さんの組み合わせは、真桜に課外活動のリーダーである真由美が会いに行くのに、泉美が半場無理矢理付いてきた感じです。

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