転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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25話 師弟な魔王

「転生云々は分かりました。もう私は貴女が何をしても、何を言っても驚かないことにします。久しぶりで忘れていましたが、貴女はそういう人でしたね。今更転生やらとそんなことで驚くのは未熟でした」

 

――酷くない!?

私が四葉逢魔であること、その経緯、その根拠、なんかを十数分間でざっと説明した後に出てきた言葉がこれである。心底呆れたようにため息なんて吐いて、襟を弄ってスーツを整えている。

 

「未熟も何も、当時より弱くなっていませんか?あの程度の不意打ちで簡単に制圧されるように鍛えた覚えはありませんが」

 

「家にやって来た娘の友達が、達人級の腕前を持っていた場合の対処法は教わっていませんでしたので」

 

「達人級だなんてそんな」

 

「謝るので、照れながら腕を捻るのを止めて下さい……」

 

私が娘と同じくらいの女の子になったからか強気に出てくる弘一君がうざかったので、腕を捻り上げた。普通に本気でやっているので、腕が捻れて骨が折れる寸前をキープされているような激痛だろう。女の子の力でも、一度決まってしまうと抜け出すことは困難なため、弘一君は即座に謝罪へと移行した。このへたれ具合、懐かしいな。

 

「楽しそうな顔で次の技をかけようとしてくるの止めて下さいっ!悪夢が甦るので!」

 

弘一君には訓練と称して快く数々の技の実験台になってもらっていた。ギブアップの声を聞こえないフリして、限界まで続けるのが快感なんだよね。弘一君はいちいちリアクションが良いから私もはりきって技をかけていた。良い師弟関係だったね!

 

「私に正体を明かした、ということは何か目的があるのではないのですか?」

 

唐突ではあるが、このままでは技を受け続けるだけだと思ったのか、弘一君が強引に話題を変えた。私としてはもう少し遊んでいても良かったのだが、それほど時間がないのも確かだ。弘一君の思惑に乗るようで癪だが、私もこの話題に移行することにした。

 

「今すぐに、というわけではありませんが少々人脈が必要になることが今後ありますので、そういうのが得意な七草家に協力していただけると有難いと思ったのが一つ」

 

私が気絶してしまったため、結局大した話し合いは出来なかったが、深夜に私の正体を明かしてしまった以上、今後は四葉にも全面的に協力してもらうことが可能だ。しかし、九島家には私と四葉の関わりは知られるわけにはいかない。私と四葉には本来接点がなく、探られたところで真桜=逢魔には至らないとは思うが、だからこそ四葉との関わりを知られるわけにはいかない。

九島からしてみれば、九島の魔法師を勝手に四葉が引き抜いた、というように見えてしまう。

 

私は既に九島真言に力を示してしまっているし、両家の関係が悪化するのは必至。かといって九島に真桜=逢魔を明かしてしまえば、もうその話がどこまで漏れるか分かったものではないため、真桜=逢魔を明かすわけにはいかない。

どうすることもできないという負のスパイラルに陥ってしまうのだ。

 

そんな状況の中、私が四葉と連携するために最大のネックが響子さんだ。彼女の監視を掻い潜りながらでは、深夜の治療などまともに出来ない。

 

今日、実際に深夜の様子を見て、もうあまり時間がない状況であることを私は確信している。魔法はまだ理論上のものであり、今後も研究を重ねていかなければならないことを考えると、一日でも早く治療を開始しなくてはならない。

 

私は今日にでも響子さんに突き付けるつもりだ。

 

――私に付くか、九島に付くかを。

 

響子さんが私に付いてくれたなら、今後は何の憂いもなく動くことができる。むしろ、響子さんを通して九島への情報をコントロールできるため、万全と言える。

 

私としては響子さんが私に絶対付いてくれるように、策を練ってはいるが、それがどう転ぶのかは分からない。響子さんの勧誘に失敗した場合、もう穏便にはいかなくなるだろう。

 

そうなる前に、七草家は味方につけておくべきだ。多数決の国である日本において、七草という社交に優れた家の力は、絶大だ。

最悪、四葉と九島、家同士の争いになり、師族会議になったとして、七草が付いてくれるなら、それで四葉の勝ちは決まったと言っていい。正直、四葉と七草、この二家が揃えば国内では敵なしなのではないだろうか。四葉の閉鎖的な部分を七草がカバーしてしまえるのだから。

 

そんな政治的思惑が大部分ではあるのだが、それとは別に私個人として、七草家の人脈の力を借りたい案件もあるので、近々相談することになるだろう。

 

「逢魔さんの頼みならば、ある程度無茶は覚悟で協力させてもらいますが……一つ、ということはまだ何か?」

 

「ええ、どちらかというとこちらが本題なのですが――」

 

瞬間、弘一君は私の変化に気がついたのだろう。咄嗟にバックステップで距離を取ろうとするが、その行動は私の誘導だ。

先程手首を掴んで叩きつけたことで、私が手を少し反応させただけで、手首を捕まれると錯覚してしまったのだろう。距離を取るという判断をしながら、その注意は私の右手に集中してしまっている。

体捌きによるミスディレクションとでも言おうか。

 

距離を取るという判断をしても、私にその行動を先読みされているのだから、対処され、それが上手くいくはずもない。

そもそも、戦闘するには狭く、物が多いこの部屋で『距離を取る』という判断は咄嗟の行動としては落第である。部屋の広さ、障害物の多さのため、相手からの接触が不可能な距離まで一瞬では後退できないのに、後退することで、攻撃する権利を献上しているようなものだ。

 

まあ、もっと言えば、私がわざわざ攻撃しますね、と威圧で合図したところから罠を疑うべきなのだ。なのに私が誘導したかった通りに、『攻撃』を察知し『後退』を選び『右手』を警戒している。面白いくらい誘導通りだ。やはり、また鍛え直さなくてはなるまい。

 

私は弘一君が警戒している右手を使って弘一君に心理的死覚を作り、全く無警戒となってしまっている足元を足払いで打つ。後退しようとしている足元は、女子中学生の力でも簡単にそのバランスを崩した。そしてそのまま足払いした足で脛を蹴り飛ばしてやれば、弘一君はびたーんっと無様に床へ顔面から倒れた。うん、高級そうな絨毯だし、きっと痛くないよねっ!ボクッて硬い音したけど、きっとそうだ。

 

「で、本題の話なのですが」

 

「あの、上から退いて貰って良いですか……」

 

うつ伏せで倒れた弘一君の背に座り足を組む。やはり痛かったのか顔面を押さえながら絞り出すように弘一君が懇願してくるが、残念ながら私には聞こえていない。

 

「弘一君――お前、なんで真夜と別れた?」

 

あ、死んだ。弘一君の表情を一言で表すなら正にそれである。

 

「い、いや、逢魔さんが考えている様な真夜が傷付く様なことは決して」

 

「それはお前が判断することじゃないんだよ、なあ、()、怒ってるの分からない?」

 

折角、意識して真桜の口調のままでいたのに、ちょっと頭に血が上ってしまった。逢魔の口調になるだけならともかく、そこまで戻る(・・・・・・)のはまずい。

 

今の私は危うい精神のバランスの上で成り立っている。

 

私は真桜だ。それは紛れもない事実であり、しかし元を辿れば逢魔が根本にはいる。そもそも転生魔法と呼んではいるが、四葉逢魔が新たな肉体を得ただけであり、今の状況を単に記憶喪失として考えるならば、記憶喪失で十数年過ごし、記憶が戻ったけど、過去の自分と今の自分が違い過ぎて、上手く統合できない、という状況だ。今の私はそれがより複雑になっただけで、過去と今の統合が上手く出来ない、という根本の部分は同じだろう。精神とは繊細なもので、頭で理解していても中々上手くはいかない。

 

真桜としての自分と、逢魔としての自分。どちらも自分なのにその思考にズレがあることで、あたかも二つの人格が存在するかのように錯覚し、一つの自分を持てていないのが現状だ。

例えば私は、何をするにも真桜としての思考と、逢魔としての思考、二つのことを考えてしまう。

 

例えば光宣と模擬戦をした時、当初は真桜の思考で光宣に花を持たせようと考えていたのに、戦闘に入り、逢魔としての思考が強くなることで、この試合に勝つ、という結論に至った。

 

これは明らかに、真桜としての考えを逢魔としての考えが上書きしてしまっている。

これこそが、消えてしまうのではないか、という真桜としての恐怖心を生み出してしまっているのだ。

 

転生魔法とは本来そういう魔法だ。四葉逢魔となることが目的の魔法。しかし私は真桜も捨てたくないのだ。統合されていく二つの存在の中で、逢魔を受け入れて真桜になる。それはあるべき姿に逆らうかのような行為でもあるわけで、それこそが危うい精神バランスの正体。私は真桜になるために、このバランスを保ち続けなくてはならない。

 

『俺』というのは、四葉逢魔の一人称だ。『ぼく』という一人称は実は後から矯正したもの。

若気の至りという奴で、逢魔がちょこっとだけイキっていた少年時代は『俺』を使っていたのだ。

妹達が言葉を理解し、それなりに話せるようになる頃に『ぼく』に改めた。妹達の前では優しい兄でいたかったから、そう思われるように生まれ変わろうと一人称を改善した結果だ。妹達と過ごす内に心は満たされ穏やかになり、『ぼく』が定着したわけなのだが、こうして時折昔の一人称が出てしまうことがある。

今の危うい精神バランスで、そうした無意識の四葉逢魔としての言動は避けたい。それに、『俺』が出たということは冷静でない証拠だ。極度の怒りや興奮によって、無意識に出てしまうこれは、危険信号でもあるのだ。自分の変化に気がついている内に、気持ちを落ち着けなくては。感情に呑まれてはいけない。その感情が真桜を押し潰してしまうから。

 

心を落ち着けるのに数十秒を要した。その間、無言だった私に圧力を感じていたのか、弘一君は冷や汗をかいている。

 

 

「ごめん、ごめん、怒るなら理由を聞いてからだよね。大丈夫、納得できれば半殺しにしたりしないから」

 

「それは暗に回答次第では半殺しということですか!?」

 

「いやいや殺さないだけ優しさでしょ。大体、真夜と婚約したとき、弘一君は命を賭けたはずだろ?」

 

意図的に逢魔の口調へ変える。冷静さを欠くくらいならば、自ら逢魔を意識して話した方が良い。それに、過去の話を持ち出しながらとなると、逢魔でいた方が思考も混乱しない。

その逢魔の思考で考えると、半殺しでも優しいというのは本心だ。

弘一君と真夜が婚約したとき、ぼくは弘一君に問った。真夜のために命を賭けられるか、と。

真夜と弘一君は殆んど初対面で、それで急にこんなこと言われて頷ける訳がない。覚悟もないのにポーズとして頷いたなら、七草家との対立とか何も考えずにぼくはその場で弘一君を処刑していただろう。

 

けど弘一君は違った。

 

『真夜さんのことは、まだ何も知りませんが……妻となる女性は命を賭けて守ります』

 

言葉に嘘はなかった。真夜のことをまだ何も知らなくても、生涯を共にする覚悟も、そのために自らを犠牲にする勇気も、その言葉から感じた。

だからぼくは有言実行させるために弘一君を弟子としたのだ。真夜を守るというのなら、ぼくより強くなければ意味はないと思っていたし、何より、ぼくが彼の成長を見たいと思ったから。

 

「婚約破棄は真夜さん……四葉家からの提案でした。当然ですね……真夜さんは、あの場を逃げ出した私を、許しはしないでしょう。私は真夜さんを守るために命を賭けられなかったのだから」

 

「あれはぼくの指示だったし、君は完璧にこなしたんだろ?無傷で脱出してこうして生きてるんだから君に落ち度は無かった」

 

弘一君に撤退を指示したのはぼくだ。予め決めていた通りに弘一君は動き、それを逃げ出したとはあまりに悪い言い方だと思う。ぼくの考えとして、戦闘という手段は避けられる時は避けるべきことだ。1%でもリスクがあり、それを0に近づける手段が逃走であるのならそれを取るべきだと思う。あの時、それを判断したのはぼくで、全ての責任はぼくにあるべきなのだ。

 

「私は残るべきだったと今は思っています。命を賭けると誓ったのに、私は無意識に貴方に頼りきっていて、貴方が死ぬことなど考えてもいなかった。何事もなかったかのように、真夜さんを連れ、貴方が帰ってくるのを馬鹿みたいに待っていたのですから」

 

深夜にも言わなかったことがある。

隠そうという意図があったわけではなく、話したところで既に意味もないことであったため、混乱させるだけになるし、説明の手間を省く意味でも省略しただけなのだが。

 

「ぼくが死んだのはぼくの判断ミス(・・・・)が原因だよ。確かに弘一君が残っていれば、ぼくは死ななかっただろうから」

 

「……()が残って役に立てたでしょうか」

 

「当たり前だろ?君の師匠はそんなに柔な育て方をしたのかい?」

 

「いいえ、地獄でしたね」

 

「あはは、そんなこと言う悪い弟子には褒美として再教育してあげよう」

 

「俺はもう貴女のように若くないので、勘弁してください。死んでしまいます」

 

本気で死にそうな顔をされると流石に傷つくのだが。ぼくはきちんと死ぬギリギリのラインを攻められる素晴らしき師匠だというのに。

 

「弘一君がどれだけ自分を過小評価してたのか知らないけど、これでもぼくはきちんと弘一君のことを評価してたよ」

 

「貴方が強すぎるから尺度がおかしくなってたんですよ。それに評価していただけてたのなら何故あの時、即時撤退などと指示を出されたのです?」

 

深夜に言わなかったこと、というのは正にそのことだ。深夜から話を聞いていて、ぼくの認識と皆の認識がズレていることに気がついた。皆はぼくが死んでしまったことで、あの日、どういうことがあったのか、その真実を誰も把握していなかったのだ。

 

「真夜が襲われた場合、まずは安全確保を最優先にぼくも真夜を連れてすぐ撤退する予定だったからね。弘一君を先に逃がして安全なルートを確保してもらうのが最善って考えだったよ」

 

弘一君は馬鹿じゃない。ここまで話せば、あの日の状況に違和感を覚えただろう。

 

「私の記憶では、あの日、私がルートを確保した後も、逢魔さんは撤退の素振りを見せていなかったと思うのですが」

 

弘一君が安全を確保したことは、あの日、機器を通して聞いた。それでもぼくは撤退せずに戦闘を続けていたのだから、弘一君からすればぼくの話が矛盾していると疑問を抱くのは当然。

しかし、その矛盾が出てしまっていることこそが判断ミスがあったことの証明。

 

あの日、ぼくが死んだ原因。

 

「撤退出来なかったのさ。ぼくの判断ミスは正にその瞬間。君を撤退させてしまったこと――いや、敵の狙いが真夜だと思い込んだ(・・・・・・・・・・・・・・)ことか」

 

「まさかっ!?」

 

「うん、敵の狙いは最初から真夜ではなく――ぼく、四葉逢魔の命だったんだよ」




話の流れや、それぞれの感情変化によって、一人称と二人称がごちゃごちゃに。
二人称は後で統一してしまうかもしれません。


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