転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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一章 逢魔再臨編
1話 目覚める魔王


朝、目覚めると時折涙を流していることがある。何かとても悲しいことがあったような、そんな気がして無性に悲しく、寂しくなるのだ。

覚えてはいないが、何か夢でも見ているのだろうか。そんなに悲しい出来事も今までの人生なかったのだが。

 

 

「んぅ、おはよう、お姉ちゃん」

 

 

隣から声がした。

涙を拭いつつ、声のする方に寝返りを打つと、そこには眠たげな顔をした天使がいた。

そうだ、昨晩は甘えん坊な妹がベッドに潜り込んできたのだった。寝苦しいとは思っていたが、この妹、ずっと私を抱き締めて眠っていたようだ。甘えられるのは嬉しいのだけど、人を抱き枕にするのは止めて欲しいものだ。

 

 

「おはよう、リーナ。とりあえず、離して欲しいな」

 

「えー、もうちょっとだけー」

 

 

何が楽しいのか、ぎゅっと締め付けるようにして私の腹の辺りに顔を押し付けている。息苦しくならない?

 

 

「ほら、もういい加減起きないと学校に遅刻するよ」

 

 

妹の甘え行為を全て許容していたら夕方になってしまう。ここは心を鬼にして打ち切らねば。

妹は、はーい、と間の抜けた返事をしながらも、しっかり私の言うことを聞いてくれたのか私を解放し、自分の部屋へと向かった。

こういう素直なところがあるからついついなんでも許してしまうのだろう。妹は天使だから仕方ないね。

 

私は妹の抱き枕攻撃によってコリコリに凝り固まってしまった体を解しつつ、着替えを開始した。

通いなれた学校の制服であるが、このスカートを穿く瞬間、何故かいつも何かを失っている様な気分になる。かといってこれを穿かないわけにもいかない。私らの通っている学校はUSNAでは珍しい制服のある学校なのだ。日本人経営者の私立校で、日本式の教育を取り入れている。そのため、制服が基本だし、給食だってある。

この学校に入学したのは完全に母親の意向だ。母親が日本とアメリカの日米ハーフであるため、何かと日本式に拘るからである。

 

例えば私の名前。

マオ=クドウ=シールズ。マオ、なんて如何にも日本的な響きだ。ややこしいから学校にはマオ=クドウ=シールズで届け出を出しているが、本当は真桜=クドウ=シールズである。漢字もしっかり用意されているのだ。

 

妹の名前はアンジェリーナ=クドウ=シールズ。

勿論、漢字なんてない。これは妹の名前を決めたのが父だからである。私とリーナは双子だから、父と母がそれぞれ名前を決めることにしたらしいのだ。その結果、私の名前は母親の趣味全開となった。好きな漢字を二つ組み合わせた、ということで実は漢字ありきの名前だ。父よ、何故母の暴走を止めなかった?

 

 

「お姉ちゃん、準備できた!」

 

 

飛び込むようにして部屋に入ってきたリーナ。チャームポイントのツインテールは今日もクルクルしている。リーナは青系の色が好きな様で、お気に入りらしい空色のリボンで可愛らしく纏めていた。ただ一つ指摘するとするならば、ツインテールが不揃いだということだ。鏡を見ながらやったのか疑うレベルである。

 

 

「出来てないよ、また不揃いになってる」

 

「大体一緒よ!」

 

 

何故かドヤ顔のリーナ。優に10センチは長さが違うが、リーナ判定はとても甘いらしい。

 

 

「ほら、ここ座って。直してあげるから」

 

「これでいいのに」

 

 

リーナは天使の様に可愛い。

陽光に煌めく黄金の髪。サファイヤより青く輝く瞳。愛らしく笑う頬も、リップをしたように艶のある唇も、白く極め細かな肌も、何もかも完璧(パーフェクト)!きっと、リーナより可愛い女の子なんていない。

これだけの美貌に、ツインテールに、ポンコツ。属性過多でありながら、その全てが調和している。

妹オブ妹、私の天使!

そんな彼女を不恰好なツインテールのまま登校なんてさせるわけにはいかないのだ。

 

 

「お姉ちゃんの髪は私がやってあげようか?」

 

「今日はいいよ、また今度ね」

 

 

リーナにやらせたりしたら、どんな独創的な髪型にされるか分かったものではない。

散々リーナの容姿を褒め千切った後にこんなことを言うのはなんだが、私の容姿はリーナと殆ど一緒だ。ただ、目が常に眠たげで、爛々と輝くリーナとは大違い。それに、髪型もツインテールなんてはずか……可愛らしいのは私には似合わないため、ざっくりと姫カットのロングだ。若干内巻きになっているのがチャームポイント。リーナもツインテールにすると自然とクルクルになるし、何やら私らは巻かずにはいられない髪に生まれたらしい。

 

 

私とリーナは朝食を食べて、揃って家を出た。学校まではスクールバスだ。

 

 

「おはよう、今日も二人は仲良いね」

 

「双子の美少女って天文学的な確率から生まれるこの光景……尊いっ」

 

 

一部、朝から手を合わせて拝んでくる奴もいるが、乗り込んできたクラスメイトと挨拶を交わす。リーナは私の肩に頭を乗せて眠っている。ツインテールが鼻に当たってくすぐったい。ほんの十数分なのに、良くこんなに気持ち良さそうに寝付けるものだ。天使過ぎるこの寝顔、よだれさえ垂れていなければ満点だった。

 

 

いつものスクールバス。いつもの同級生。

それはいつも通りの登校。

 

そんな『いつも』はこんな朝っぱらから昨今珍しいカーチェイスなんてものを繰り広げていた奴らのせいで終わりを告げた。

 

 

突如として対向車線を逆走(・・)で猛スピードで突っ込んできた2台の車。

交通管制システムに制御されて、ほとんどの車が自動運転のこの時代、特殊な改造を施すか、業務上それが必要と認められた車でなければ、この明らかに管理下から外れた動きは出来ないだろう。

恐らく、片方は前者、片方は後者の理由で管理下から外れている。

 

追う者と追われる者。

 

片方が警察車両であることから、その構図は簡単に見て取れる。

 

 

このスクールバスには運転手がいるが、『運転』ではなく『引率』が主な業務。この非常事態であっても交通管制システムに従ってバスは走り続ける。

運転手はこの事態を交通管制システムに緊急連絡という形で知らせているだろうが、この交通管制システムの管理下にない非管理状態の車両が近づいている際の耳障りなアラームが鳴りやまないことからも、全く対処されていないことが分かる。

 

 

「えっ何!?」

 

頑丈なガード壁で仕切られた向こう側、対向車線の道路として別々に作られている道で起きていることとはいえ、リアルに伝わってくる緊迫感、音は、子供を恐怖させるには十分だ。

 

泣き出す子供や、悲鳴をあげる子供が出始まった。

 

こうなると、流石に呑気なリーナも目覚めた。窓の外で起きているカーチェイスにも気がついたようだ。今時、映画でもあまり見ない光景だ、危険さえなければ貴重な経験だったろう。

 

キュルキュルと、タイヤの擦れる音が聞こえた。パンクでもしたのかそのままスピンし始めて、ガード壁に激突した車。

それは、一体どんな確率か、炎上し宙返りをしながら壁を越え、バスの方へ飛んで来た。

 

 

「リーナ!」

 

 

移動系魔法を利用し、設定したエリアに設定した方向から侵入した物体の運動状態を静止状態に改変することで防壁とし、車の衝突を防ぐ。

そして、私の一声で準備を終えていたリーナが、それを常温に冷やすことで、消火。

 

バスが急ブレーキによって停止し、その勢いで隣のリーナと思いっきり頭をぶつけた。死ぬほど痛い。

 

 

「いったーいっ!!」

 

 

隣で涙目のリーナが頭を押さえてヘッドバンキングしている。

 

 

「お姉ちゃん、私、頭割れた!」

 

 

割れていないし、何故ツインテールを両手で引っ張っているの?それで痛み緩和されるの?可愛いからマオちゃんポイント10点あげちゃうけど。

 

 

「お姉ちゃんの方が頭割れそうだよ……」

 

「えっ、お姉ちゃん泣いてるっ!?い、痛かった?なでなでする?」

 

「する」

 

 

リーナに頭を撫でられながら、ぼく(・・)は自身の変化に追い付けずにいた。

つい今起きた出来事は、()の人生において、最も危険な瞬間だった。咄嗟に魔法を発動し、事なきを得たが、間に合わなければ、死んでいたかもしれない。

その極度の緊張状態が()にもたらしたものは記憶(・・)だった。

 

凡そ20年分程度の人の記憶が一瞬にして頭を駆け巡った。

頭に直接電流を流されているような激痛に、ぼく(・・)はリーナの膝に頭を預けて倒れ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

【記憶データロード――完了。転生――完了】




リーナの双子の姉に転生しました。
そしてこのバス事故は九校戦編のオマージュです。

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