転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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今作最長を塗り替えていくスタイル。
ここにきてキャラ崩壊が著しいですが今更なので気にしません。


29話 覚醒の深雪

「お兄様っ、日曜日、一緒にお出掛けして下さいませんか!」

 

ありったけの勇気を振り絞った深雪の言葉に、兄はただ微笑みながら、いいよ、と一言返した。

 

それが三日前のことで、今日がその日曜日。深雪はご機嫌だった。

三日前から選びに選び抜いた服も、三つ編みのハーフアップにアレンジしたいつもと違う髪型も、少しだけやってみたお化粧も、全部褒めてもらえた。

綺麗、可愛い、言われなれた言葉なのに、兄の口から出るそれは、その全てが深雪に幸せを運び込む魔法の言葉だ。家から一歩出る頃には、もう深雪の機嫌は最高で、それはこうして街へ出ても続いていた。いつもなら煩わしく感じる周囲の視線すらも、深雪のこの幸福感を祝福しているようにすら感じる。

変なテンションになってしまっているのか、普段なら恥ずかしくて絶対にできないことも簡単にできる。

深雪はニコニコとした笑顔で達也の腕に両手で抱きつくようにして歩いていた。

後でなんてことをしてしまったのだろうと、ベッドの中で悶えることになるのは間違いないのだが、この時の深雪は後先を考えない最強無敵の気分だった。

 

そう、この時まで深雪の気分は最強で、人生最高なくらい楽しくて、幸せだった。

 

 

「あれ?達也君?」

 

 

――天使のような金色の美少女が、それはそれは美しく、愛らしい笑みで、達也に声をかけてくるまでは。

 

 

 

「いや、奇遇ですね達也君こんなところで」

 

自身の容姿が飛び抜けて良い、ということは深雪とて客観的事実として理解している。

その深雪ですら、嫉妬してしまう程にその少女は美しかった。

流れる金髪は光の糸の様で、神秘的なまでに整った容姿で微笑む姿は北欧の女神かと見紛うばかりの美貌だ。

 

「……そうですね、真桜さんは買い物ですか?」

 

「ええまあ、ところでそちらの方は?」

 

それは、無敵モードの深雪であっても、大変な勇気が必要であったが、衝動に身を任せて、達也の言葉を遮るように力の限り声を張り上げた。

 

「ああ、いも――」

 

「彼女ですっ!」

 

 

周囲の視線が集まったのを感じる。いや、視線に熱心さが加わったというべきか。そもそもこの稀有な美少女二人は人の視線をお互いに集めている。

 

「おお、そうでしたか!なんだ、達也君、真面目そうな顔して、しっかりプレイボーイじゃないですか!こんな美少女捕まえてデートだなんて羨ましい限りですっ」

 

達也を肘でつつきながらからかう様に笑う真桜。深雪の想像していた様な反応では無かったために呆気に取られてしまうが、よく考えれば彼女のことを全く知らないで、勝手に兄に恋慕の情を抱いているのではないかと疑っていたに過ぎない。

興奮が冷めていき、羞恥がやってきた。今更ながら自分が何を叫んだのかを理解してしまったからだ。

 

深雪の白い肌は、みるみる赤くなってしまい、俯き、顔を隠そうとするも、耳まで赤いのではどうしようもない。

 

「折角の縁ですしこの後お食事でも、と思ったのですが、彼女さんとご一緒ではお誘いするわけにも行きませんね」

 

達也が深雪の発言を否定する間も無く、それでは、と立ち去ろうとする真桜に、声をかけたのは深雪だった。

 

「――あ、あの、私のことはお気になさらずっ」

 

それは殆ど条件反射のようなものであったが、声をかけた理由を頭では理解できていた。

達也の彼女である、と言ってしまった以上、もはや妹とは中々言い出せなくなっていたが、このまま誤解をさせたまま帰してしまうわけにもいかなかった。

 

「そうですか?それならどこかでお食事しませんか?」

 

嬉しそうに微笑む姿に、深雪は頷く。どうやら選択権は無さそうだ、と悟った達也は歩きだす二人に黙って付いていくしかなかった。

 

深雪と真桜が休日で賑わう街中を二人で歩けば、注がれる注目は並ではない。慣れている深雪と、外人だからかと30年前の価値観で受け流している真桜は何でもなさそうな顔をしているが一緒に歩いている達也は堪ったものではない。早く腰を落ち着けたい、と達也はすぐ近くの店を勧め、三人でそこへ入った。

日曜日ということで混み合っている店内の喧騒が一瞬で途切れる。深雪と真桜、この二人が並び立つ光景は神話のワンシーンを切り取ったのかと錯覚してしまう程に、見慣れていない人間には神聖なものに映っただろう。1分程、その場で固まっていたウエイターが慌てて動き出し、やっと席へ案内された。

四人がけの席であったため、達也と深雪、その対面に真桜という具合に分かれて座る。

 

「真桜さんもショッピングですか?」

 

メニュー表を覗きながら、深雪が問いかける。

 

「はい、実は同居人に記念のプレゼントを、と思いまして」

 

顔を赤くして照れたように俯く真桜の姿は、同性の深雪ですら見惚れてしまう程に可憐で、それ故に、先程の達也への反応から察するに、やはり恋慕の情を抱いているのではないのだ、と確信できる。

 

「同居人、ですか?」

 

達也が真桜について知っていることは少ない。真桜が四葉逢魔としての記憶を持ち、その能力を使えること。達也が状況から察したのはそれだけであり、この深瀬真桜という少女の情報に限ると何も知らないに等しい。

真桜が驚きのあまり気絶してしまったことで大して話すことも出来なかった、というのが原因なのだが、それから数日が経ち、未だ深夜からも何の説明もないため、達也の好奇心はまるで満たされていない。四葉逢魔という人物は四葉家にとって半場禁忌(タブー)とされており、その人物像についても殆ど知らなかったが、その功績は四葉家に連なる者ならば嫌でも知ることになるだろう。

四葉家本邸のある地図にも載っていない名も無き小さな村には、認識を阻害する魔法によって構築された結界が張られ、その村へ通じるトンネルには無系統魔法を鍵とした自動ゲートが設けられているため、村へ続くルートには、決まった地点で特定の波形を持つ想子波を照射しないと入れない仕組みになっている。このシステムの構築を開発したのが四葉逢魔であり、それは四葉逢魔にとって小さな功績でしかない。

四葉家秘匿の技術であるフラッシュキャストも四葉逢魔の発案だ。CADが現代程の性能が無かった時代、動作の中に魔法を発動する結印を混ぜる特殊な技術によって、世界最速の魔法発動速度を誇っていた四葉逢魔がその技術を汎用化しようとする過程で生まれた技術。記憶領域に起動式をイメージ記憶として刻み付け、記憶領域から起動式を読み出し、起動式の展開、読み込み時間を省略する技術は世に出れば魔法界に革命が起こることは間違いない。現実的には洗脳技術の応用と言うこともあり人道上の問題で日本の正規軍隊では採用できないだろうが。

この二つの技術だけでも、四葉逢魔が世界的魔法研究者であることは間違いない。尤も、彼が世界的に有名となったのは、そうした世に出ていない研究成果ではなく、さらに言うならば魔法師としてではない。そもそも『黄昏の魔王』という異名は、彼の魔法師としての異名ではなかったのだから。

 

とはいえ、達也にとって興味があるのは魔法研究者としての彼だ。四葉家に厳重に保管されている達也ですら閲覧することを許されない彼の研究資料は、長年読みたかったものであり、未だその許可はないものの、こうして本人がいるのならばその口からその話を聞くことができる。

 

しかし、現状は、未だ真桜の正体を知らない深雪がいる上に、そうした話をするには相応しくない場所でもある。達也の好奇心は四葉逢魔としての側面ではなく、深瀬真桜に向けられているのは確かだった。

 

その真桜の同居人。その言い方からして家族のことではないだろう。

 

「留学中とはいえ中学生の一人暮らしは認められませんからね、保護者が必要ですから親戚の方と一緒に住んでいるのですよ」

 

真桜は深雪ですら嫉妬を覚えずにはいられない卓越した美貌の持ち主であるが、その顔立ちは純日本人的顔だちの深雪とは違い、金髪碧眼の西洋人的容姿だ。しかし、国際化の進む現代ではそうした容姿を持つ日本人もそう珍しくはなく、達也が真桜をその名前から勝手に日本人であると思い込んでいても無理のない話である。真桜もさらりと留学中であることを当然のように話しているが、達也にしてみれば全くの初耳だ。深夜に話したことは達也にも伝わっている、と思っている真桜はそんな達也の心情も知らずにそのまま話を続ける。

 

「記念のプレゼント、というのは誕生日プレゼントですか?」

 

深雪が何とはなしにそう問いかけると、真桜の頬は再び赤く染まった。

 

「誕生日とかそういうのでは無くて、私にとっては記念日というだけで。私が勝手に記念だと認識していて、それを相手にも共有して欲しい……なんて、そんなの押し付けなんでしょうか……う、気がついてしまうと、恥ずかしいですね」

 

恥ずかしさのあまりか、机にうつ伏せて赤くなった耳をそのままに、唸り始めた真桜を見て、深雪は率直に思った。

 

――可愛すぎませんか、何なんですか、この可愛い生き物。持ち帰って良いですか、頭撫でてもふもふしたら絶対可愛いじゃないですか、やるしかないですね、そうですよね!

 

真桜の中学生にしては大人びた、それでいて神秘的な雰囲気さえあるその顔が、恥ずかしげに歪められ、赤く染まる様は、深雪の思考を侵食し、新たな領域へと至らせるのに十分だった。

 

一方、そんな妹の目覚めに気がつかぬまま、恥ずかしがる真桜すら華麗にスルーして、達也は話を進める。

 

「プレゼントはもう購入されたのですか?」

 

コミュニケーション能力に問題があるわけではないのだが、致命的に空気を読めていない達也の発言は、この場合、真桜にとっては助け船となった。

 

「それがまだでして!そ、そうだ、彼女持ちの達也君に是非ともプレゼント選びについてご教授頂きたいですね!」

 

達也の女性経験は皆無に等しい。それ故、彼が教授できることなど、極一般的なことに限られ、真桜のキラキラとした期待の眼差しに応えられるとは到底思えなかった。

 

「ご予算は?」

 

「500円ですっ!」

 

「無理ですね」

 

「ぇえええええ!?」

 

どや顔で声高らかに宣言した真桜を達也はバッサリと切り捨てた。驚愕のあまり思わず大声をあげて立ち上がってしまったが、周囲の視線が集まったのを感じてしょぼしょぼと座り直した。既にもう何かが壊れかけている深雪は何故か右手を上下に振りながら言葉にならない湧き出る感情を発散していた。それを人は萌と呼ぶ。

 

「相手は大人の方ですよね?記念のプレゼント、というような特別なものを買うのであれば500円というのは不可能でしょう」

 

「わ、私の全財産なんですよっ!」

 

「実際、無理だったから購入できずに街をさ迷っていたのでは?」

 

「………………ウィンドウショッピングというやつです」

 

痛いところを突かれ、真桜は顔を逸らしながら呟く。真桜とて500円でプレゼントを購入できるとは考えていなかったが、頭を悩ませているよりも街を歩けば何かあるかもしれない、という希望を持って歩いていたのだ。

 

「こうしてご飯を食べたり、友人と遊ぶための交際費は支給されているのですが、それを購入に充てるのは駄目なのです。よって、私はこのお小遣いとして支給された500円でどうしてもプレゼントを購入しなくてはなりません」

 

真桜は、結局どちらにせよ与えられたお金であることは確かでも、自らのものとして良いお金で購入することに、プレゼントとしての意味を見出だしていた。少しでも良いものを買いたいが、お金はお小遣いとして与えられた500円しか使いたくはない。そのジレンマによって真桜は朝からずっと街を歩き続け、気がつけば真桜の住むマンションからはそこそこ離れているエリアまで来てしまっていたくらいだ。

魔法に限らず、真桜は逢魔の時から考え事をしていると周りが見えなくなってしまうタイプであった。妹達が逢魔の欠点として、最初に挙げるのも恐らくそれであろう。集中力の高さは評価されるべき点であるが、それが行き過ぎるとこうなるという典型的な悪い例である。

 

「手作りするというのはどうでしょう?」

 

最初、敵意剥き出しだったとは思えぬ程の、花が咲いたような笑顔で深雪が提案する。

 

「それも考えたのですが、500円で作れるもの、というのもまた難しくてですね」

 

もじもじと指をテーブルの上で動かしながら言い訳するように真桜が言う。

妹達のプレゼントを選ぶのは簡単だった。欲しいものが分かっていて、好みも知っているのだから。

 

「少しでも良いものを、と500円しか使えないのに考えてしまいまして……」

 

相変わらずもじもじと話す真桜がどうしようもなく愛らしく、深雪は撫でくり回したいのを堪えるのに苦労しつつ、提案をした。

 

「それならテーラーマシンを使って自作するのはどうでしょうか?」

 

テーラーマシンというのは、洋裁、和裁、刺繍を自動で行う商業用に普及した機械だ。店で安くレンタルすることも可能で、日本では中学校の選択教科でその操作を教えることから、自分でデザインした服を自分で仕立てることが出来る女子は少なくない。自分で仕立てるのが難しい人でも、安価に仕立てを依頼することも出来るため、自作するというのは決して敷居の高いことではないのである。

 

「ですが、テーラーマシンも材料もありませんし、私の手持ちでは……」

 

「それならば家にテーラーマシンはありますし、余っている材料もありますから、そちらで作ってみませんか?」

 

深雪の提案に驚いたのは達也だった。達也たちの立場では人を家に招く、という行為はリスクを伴う。そのため、軽々しくそういうことをしないように厳しく教育されているのだが、深雪はそんなことはもうすっかり飛んでいるのか全く気にした様子はない。真桜の正体を知っている達也からすれば家に上げることは問題ないと判断できるが、深雪は違うはずなのだ。

何か致命的におかしなことが起きてる。やっと達也が深雪の異変に気がついたが、口を挟む間もなく会話は進んでいく。達也にはガールズトークに割り込んでいくスキルはまだまだ無かった。

 

「甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか……あの、私はテーラーマシンをまともに使ったことがないので迷惑をかけてしまうかもしれませんが」

 

「そんなっ!私がいくらでも教えて差し上げますから一緒に良いプレゼントを作りましょう!」

 

「深雪さんっ」

 

涙ぐんで深雪の手を握る真桜に深雪は優しく微笑む。なんて良い娘なんだっ、と感動する真桜と、計画通りと内心ほくそ微笑んでいる深雪は、それから運ばれてきた料理に舌鼓を打ちつつ、ガールズトークを展開していく。

 

同級生の女子と仲良く会話をすることを夢見て、日夜、女子中学生を研究している真桜は、深雪の話題に何とか食らいつき会話を楽しめていた。深雪が家庭環境から普通の女子中学生よりも大人びた思考で話していることもその要因だろう。

真桜は同い年の女子と話せていることが嬉しくて仕方がなく、話は弾んだ。

勿論その間、達也は黙々と料理を口に運ぶ機械と化していた。彼はまだこの空間で戦えるだけの境地には至っていない。

 

「では、来週の日曜日に」

 

会計を達也が全額支払い終え(遠慮する真桜を深雪が強引に黙らせた)店を出ると、再び三人に様々な意図を持った視線が集まる。

それをものともせず、三人は円になるようにして話をしていたのだが、今日のところは解散することにした。初心者の真桜では今から製作を始めて、完成させるのは難しいからである。二人は次の日曜日に会う約束を取り付けていた。

 

「あの、深雪さん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

首を傾げる深雪に、真桜は緊張した面持ちで口を開いた。

 

「わ、私とお友達になって頂けないでしょうか!」

 

その一言に、深雪が何を思ったのかは、そのハートが浮かび上がってそうな目を見れば誰でも一瞬で察することが出来るだろう。

 

「勿論です!私達はもうお友達ですよ!」

 

深雪がそう言うと、飛び上がりそうなくらい嬉しそうな顔で真桜が笑う。その時の深雪の表情を見た達也は思った。

 

あー、これ最近の母さんと同じ顔をしている、と。

 

 

真桜は初めて出来た同い年の友達にルンルン気分。

深雪は新たに覚醒し、沖縄での時のように生まれ変わったような感覚で晴れやかで。

達也は深雪の変貌に戦慄した。

 

三者三様それぞれの想いをそのままに、今日のところは解散となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

 

「ところで深雪」

 

「なんでしょう?」

 

「結局、お前は俺の彼女だと誤解されたままになっているが……」

 

「あー!なんでもっと早く教えてくれなかったのですか!」

 

「え、あー、すまない」

 

なんか理不尽じゃないか?そう思いながらも、それを口にしなかったことは賢明であったが、それこそが今後の兄妹の関係性を決定付ける致命的なものであったことを、このときの達也はまだ知らなかった。




深雪さん本格参戦。
キャラも出揃ってきたので、シリアスも交えつつ物語を動かしていきますので、今後もよろしくお願いします。
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