転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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あけましておめでとうございます。
今年も、百合あり、魔法あり、バトルあり、百合あり、笑いあり、シリアスあり、百合あり、なハッピーな作品になるよう頑張りますのでよろしくお願いします!



二章〈下〉
31話 組手する魔王


拳が空を切ったのだと認識するより前に、達也の視界は急激にぶれ、気がつけば天井が広がっていた。自分の拳が空を切り、回転しながら地面に転がされたのだと気がついたのは、ひんやりとした床の感触が、背中越しに伝わってくるよりもずっと後だった。

 

「少しゆっくりやりましょうか」

 

全身真っ黒の女子向けスポーツウェアに身を包み、長い髪を後ろで結び、ポニーテールにしている真桜は、ただ佇むようにして立っていた。闘気や殺気とは無縁のリラックスした佇まいは、飛びきりの美少女という点を除けば、ランニング帰りの女子と何ら変わりない。

 

夕暮れ時、達也と真桜は都内のトレーニング施設を貸し切り、訓練に励んでいた。以前、達也を見て中々に訓練を積んだ動きをしていると感心していた真桜は訓練相手兼実力チェックとして深夜を介して達也を呼び出したのだ。

以前から真桜の実力に興味のあった達也もこれに応じて、二人はこうしてここに揃ったのである。

真桜は逢魔の記憶が戻る前は運動能力こそ高かったが、特にスポーツクラブに所属していたわけではなく、武術なども嗜んでおらず、日本へ来てからも体育でしかまともに体を動かしていないため、運動不足を感じていた真桜としては早急に訓練をしたかったのだが、真桜の動きは素人のそれではなく、気軽に見せられるようなものではない。一人では組手も出来ないため、訓練相手が欲しかったのだが、同年代で戦えそうな達也は適任であった。

 

その達也は仰向けに転がって天井を見上げていた。

 

達也は何が起こったのかを考察しながら、ゆっくり立ち上がる。ダメージは殆どない。しかし、この状況も既に3回目だった。達也が攻撃を仕掛けると、いつの間にか吹き飛ばされ、転がされている。

達也が3回の攻撃によってやっと理解したのは、ほんの一瞬だけ手首を掴まれている、ということ。達也の拳をかわし、手首を掴んで投げ飛ばす、それが一連の動作であると推測することは出来た。

ただ恐ろしいのが、それが達也に認識できない程の速さで行われているということ。

 

そして、真桜が一歩も動いていない、ということだ。

 

「私の身体能力は現状、それほど高くありません。男女の差もありますし達也君の方が遥かに上でしょう。達也君に必要なのは先を読ませない工夫です。型に嵌まった動きを脱すること、それだけで飛躍的に対人戦が強くなりますよ」

 

真桜が解説してくれるが、達也としては声を大にして言いたい。先を読ませない工夫なら既にしていると。フェイントを織り交ぜて、最速最大の一撃を放っても、いともあっさり返されているのだ。

 

実のところ、真桜は戦闘面では感覚派なところがあり、口では理論的に説明するものの、その肝となる部分にえげつない要求をしてくる。本人は何気なくやっていることであるため、何故出来ないのかが分からず、じゃあ体で覚えさせた方が早いね、という結論に至るのが真桜の指導スタイルだ。口での解説を交えつつ、理解できるまでボコボコにするこのスタイルを七草弘一は天才型脳筋拷問と呼んでいた。

 

「そろそろ私の動きは見えてきたのではないですか?」

 

5回程転がされて達也に分かったのはこれが無理ゲーであることと、真桜が理論派に見せかけた感覚派で、技巧派なのに脳筋思考なのだということだった。

確かに、真桜が動きをゆっくりにしたこともあって動き自体は捉えることが出来るようになったが、それは達也が既に掴まった後の話であるため根本的な解決にはならない。どう攻撃しても、手足や服の襟などを掴まれ転がされてしまう。

 

「私の動きから逆算して考えて動いてみましょう。私が技を仕掛けるにはどうしたいのか、それを防ぐにはどうするか」

 

それも疾うの昔に試していているのだが、どう仕掛けても真桜の懐に入るともう技に捕らわれてしまう。

と、そこまで考えて達也は気が付いた。一体何故自分は()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

何かに気が付いた様子で真桜から距離を取った達也に真桜は嬉しそうに笑った。可憐で花が綻ぶような笑みである。

 

「正解です。そもそも体術で勝てない相手の懐に態々飛び込む必要はありません」

 

真桜は訓練を始める前、体術の訓練だとも、魔法が禁止だとも言っていない。ただ一言、「とりあえずどこからでも攻撃してきて下さい。適当に返しますので」と言っただけだった。

 

「勝てない相手とは戦わない。戦いの鉄則です。常に自分が勝てる方法で、自分に有利なように、相手に条件を押し付けること。これが対人戦の極意と言っても過言ではありません」

 

言ってることは分かる。感心する。ただ達也はボロボロになった体で、ニコニコ笑顔で解説する真桜を床に座り込んで見上げながら思った。

 

それ、口で伝えてくれたら良かったんじゃ……と。

 

自分で気がつくことが大切なのは分かる。それによって自分の発見として糧になるのだろう。ただ、些かボコり過ぎなのである。当初こそ手加減していたのか、ふわりと転がしていた真桜であるが、久し振りの訓練で段々と興が乗ってきたのか、技のキレに加減がなくなっていた。達也とて今まで幾度も辛く厳しい訓練に耐えてきた戦士ではあるが、達也の再成も知らないはずなのに、それがギリギリ発動しない程度に何十回も床に叩きつけられては堪らない。口から胃が飛び出そうな、一瞬視界が真っ白になる程の衝撃なのだ。拷問である。泣き言の一つや二つ言いたくなるというものだ。

 

「さて、ウォーミングアップはこの辺にしてそろそろ動きましょうか」

 

何かヤバい事言ってる人がいる。達也は心底美しい笑みを浮かべている真桜が悪魔にしか見えなかった。再成を使えば体は大丈夫だが恐ろしいのは再成がバレてしまった場合である。真桜が自身と同系統の異能を持っていることをその言動から何となく察していた達也は、再成を一度使ってしまえばその時点でバレてしまう可能性が極めて高いことを簡単に予測していた。そうなれば、よりえぐいレベルの訓練になることは間違いない。達也とて強くなるためならば厳しい訓練にも耐える心積もりはあるが、真桜はあえて遠回りさせて覚えさせる手法を好んでいるように感じた。効率重視の達也とはあまり合わないと感じる。そう、考え方の違いであって、決して真桜にボコボコにされるのが嫌で逃げているわけではない。

 

達也は頭を高速で回転させる。

体はボロボロだ、柔軟体操をして準備を整えている真桜とまた戦うなど普通に嫌だ。それを回避する方法を少ない情報から導き出す。

 

達也の天才的頭脳は、真桜が立ち上がり構える前に、その答えを導き出すことに成功した。

 

「真桜さん、門限は大丈夫なんですか?」

 

真桜の楽しげだった顔がピシリッと固まった。達也は真桜との会話の中で、真桜が同居人によって中学生らしく門限を設けられていることを知っている。今日、真桜は課外授業を休んで達也と訓練をしていたわけだが、もう訓練を始めてから二時間ほど経っていて、外はすっかり薄暗くなっている。

 

「い、今何時ですか!?」

 

このトレーニング施設に時計はない。達也は精霊の眼を無駄遣いして、壁を透視し、壁の向こう側の時計を見た。

 

「午後6時59分ですね」

 

達也が言った瞬間、カチリと針が動いた。

 

「今、7時になりました」

 

真桜の顔が青く染まる。どうやら門限は7時の様だ。真桜は久し振りに戦えるのが楽しくて時間をすっかり忘れてしまっていた。

 

これは回避できそうだと、達也は真桜の同居人に激しく感謝した。

 

「た、たたた達也君、申し訳ないのですが私はこれで失礼します。また来週やりましょう!」

 

真桜と響子の家族のルールには門限が存在しており、それを破ればどうなるか。真桜の頭には響子が嬉々として大量購入していた衣裳の数々が過る。サイズからして明らかに真桜用だったが絶対に着るもんかと思っていたのだが、門限を破ったりしたら、難癖付けられて着せられることになってしまう。既に門限は過ぎていたが、響子が残業などして帰ってくるのが遅かった場合、それより早く帰れば門限を破ったことはバレはしない。

まだ希望はある。

真桜は大慌てでバタバタと荷物をまとめて、達也に大きく手を振りながら駆け出した。

 

「……また来週か」

 

絶世の美少女からまた会いましょう、とにこやかに伝えられたものの、出てくるのはため息だけだった。

どうにか門限をあと1時間早めてはくれないだろうか。そんなことを考えながら、達也もトレーニング施設を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり真桜ちゃん。バニーガールの衣裳とナースの衣裳、どっちが良い?」

 

真桜が大急ぎで家に帰ると、満面の笑みで両手にそれぞれ衣裳を持った響子がいた。

 

「……………………ナース服で」

 

真桜はそう答えるしか無かった。

 





何故か達也が不憫でどこか残念なキャラに(笑)

アンケートを初めて使ってみたのでよろしければ投票お願いします。

恐らく本編ではもう書かなそうな、作者が苦渋の決断でカットしたり、別の案に変更した話についてなのですが、一番読みたいのが聞きたいです。

  • 四葉逢魔時代の過去編
  • 真桜が男として転生した場合のIF
  • 真桜がシールズ家ではない家に転生したIF
  • 四葉逢魔生存ルート
  • 記憶が戻る前の真桜の過去編

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