転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった 作:カボチャ自動販売機
ガバガバな設定なのでニュアンスだけ伝われば……。
四葉英作は高度な精神干渉系魔法の使い手で、他人の魔法演算領域を解析し、潜在的な魔法技能を見通す精神分析系の能力を備えていた。
だから、当然ぼくの魔法演算領域の殆どを占有している魔法も解析したのだが、結局何なのか分からず仕舞いであった。
英作叔父さん曰く、眠っている状態なのではないか、ということであったが、引きこもりのニートよろしく、占有するだけ占有しておいて、結局死ぬその瞬間まで正体不明なまま、役に立つことはなかった。
いや――死ぬ瞬間までそれは、発動しない魔法であったのだ。
転生魔法。
にわかには信じられないが、ぼくの魔法演算領域を占有していた魔法は、そういう魔法であったらしい。
既に役目を終え失ってしまった魔法であるから、推測に過ぎないのだが精神干渉系魔法の一種であると考えられる。
四葉家の魔法師というのは二つの系統に分類される。
精神干渉系魔法を得意とするタイプで生まれながらに精神干渉系の異能を強化された者。
極めて強力でユニークな魔法を得意とするタイプで強力な魔法を魔法演算領域に備えて生まれた者。
ぼくは生前、精神干渉系魔法を特に得意としていたわけではなかったが、転生魔法というニートが魔法演算領域からいなくなった今、それは誤りであったと分かった。
ぼくは、この二つ系統両方に当てはまるタイプの魔法師だったのだ。
極めて特殊な転生というユニークな魔法を魔法演算領域に備えて生まれ、精神干渉系の異能も強化されていた。
何故なら、転生魔法は精神干渉系魔法に適正がなければまともに使用できない魔法だからだ。
ぼくの推測としてではあるが転生魔法というのは自身のエイドスを読み取り、それを他者のエイドスに上書きする魔法である。
そりゃ魔法演算領域を殆ど占有するはずだ。
現代魔法はイデアにアクセスしエイドスに魔法式を投射する。この転生魔法もそのプロセスは変わらない。ただこの魔法はイデアに一度、読み取ったぼくのエイドスを保存し、それを上書きすることが出来る相手に投影するのだ。
ぼくが死んでから転生するまでに時間がかかったのは上書き可能な対象がいなかったためだろう。
あらゆる存在物の情報体を包含する巨大情報体であるイデアを利用し、最もぼくというエイドスと相性の良い人選をしたはずだ。
一度、発動のプロセスをまとめよう。
①四葉逢魔のエイドスを丸々全て読み取りイデアに保存。
②あらゆる存在物の情報体を包含する巨大情報体であるイデアに四葉逢魔のエイドスに最適な情報体が現れるまで待機
③最適な情報体のエイドスを四葉逢魔のエイドスで上書きし、転生完了
ざっくりまとめると恐らくそうだろう。
そうしてエイドスの情報量が少ない赤子の内に四葉逢魔のエイドスを上書きし、その膨大な情報量が大きな負荷とならないようある程度の年齢まで制限されていたと考えられる。
それが事故の際の心的ストレスによって解放され、今に至るというわけだ。
「もういっそ一生封印しておいて欲しかったよ」
四葉逢魔としての人生にぼくは満足している。
勿論、やり残したことはあるが、後悔はなかった。幸せだったと胸を張れる。
それなのに、こうしてぼくは甦った。
四葉逢魔という人間のために、一人の人生を上書きして。
ぼくが転生をしたことで、赤子だったとはいえ、この体の人格を上書きしてしまった。
四葉逢魔の時の様に、好きなことして、好きなように生きて、若くして死んだりするわけにはいかないな。
「お姉ちゃん!」
顔を涙でぐちゃぐちゃにしたリーナが飛び込んできた。受け止めた腹にべっちょりとぬるっとしたものが付いたのが分かる。まさかこれ、鼻水じゃないよね?
「リーナ、病院だから静かにね」
記憶の解放によって魔法演算領域を限界まで酷使した結果、酷い頭痛とともに意識を失ってしまったぼくは病院に搬送されたらしく、目覚めた時には病室だった。
目覚めてすぐに、転生魔法の考察に没頭していたが、どうやらリーナは部屋の外でぼくが目覚めるのを待っていたらしい。ぼくの微かな動作を感じ取り、部屋に飛び込んできたのだろう。
「どうして部屋の外で待っていたの?」
「お姉ちゃんが気を失ったのは極度の精神的ストレスが原因だろうから、静かに寝かせてあげようって追い出された」
どうやらリーナがうるさかったらしい。いや、恐らくこうして抱きついたり、手を握ったりしていたのではないだろうか。
「もうお家に帰りなさいって言われたけど、お母さんもお父さんも来れないって言うから、私、絶対お姉ちゃんが起きるまで残るって言ったの」
父も母も、私達を愛してはいない。疎ましく思っていると言っても良いだろう。
私達には魔法の才能がある。シールズ家は魔法師の名門というわけではないが、クドウは違う。
クドウ、つまり九島は日本において十師族に選ばれる資格を持つ二十八家の一つ。
そして、その十師族という序列を確立した人物であり、「最高にして最巧」と謳われ、「トリック・スター」の異名で約20年前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた九島烈の家系だ。名門中の名門である。
母はその九島烈の弟の娘だ。
そんなクドウの血を引くぼくらが魔法師としての高い資質を持っていることで、シールズ家の風当たりは強い。そもそも警戒され、肩身が狭かったのに、ぼくたちのせいで、シールズ家はUSNAを裏切る反乱分子となるのではないか、とまで思われているのだ。
それに、そもそも母も父もそれぞれに愛人がおり、完全に仮面夫婦だ。私達がいなければ、とっくに離婚しているだろう。
そもそも二人は政略結婚。
USNAを安住の地とするためにシールズの血を求めた母と、魔法師として名を売るために九島の名を欲した父。新たな恋に溺れるのは簡単だったろう。
リーナもそんな深い事情までは知らなくても、二人のぼくたちへの愛が無くなっていることに薄々気がついているのかもしれない。
だからぼくに依存する。こんなにも甘える。きっと、愛に飢えているから。
「お姉ちゃん
顔を腹に押し付けたまま、リーナが言った。
お姉ちゃん。
どうやら転生魔法はエイドスとの相性は考えてくれても、性別までは気にしないらしく、女として生まれ変わったぼく。
それも、この可愛い妹が甘えてくれるのならば別に気にならない。
ぼくが四葉逢魔だったのだとしても関係ない。四葉逢魔は死んだのだ。それは変わらない事実。
だからぼくはこの娘が一人立ちするまでは、マオ=クドウ=シールズで居続けようと思う。
もうお姉ちゃんだなんて呼んでくれなくて、ベッドにも潜り込んでこなくて、こうして泣き顔も見せない。
そんな彼女になるまでは、ぼくはずっとリーナのお姉ちゃんでいるよ。
「どこにも行かないよ」
ぼくが答えるとリーナはどこか安心した様に笑うと、静かに寝息を立てて眠り始めた。
時計を見てみればもう午後7時過ぎ。12時間近くもここでぼくが目覚めるのを待っていたのだ。疲れたのも当然だろう。
ただ、一つ言いたいことがある。
「リーナ、お願いだから私の上から退いて!実はずっとトイレ我慢してるんだ!」
なんだか良い雰囲気が台無しだが、元男とはいえ一応女子として死ぬようなことになるわけにはいかないのである。
「リーナ、リーナ、リーナさん!?起きて!」
ぼくがトイレに行けたのは10分以上後のことだった。鬼畜な天使だよ、うちの妹は。
どうやらお寝坊な魔王はリーナさんだったようです。