転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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4話 改名する魔王

リーナの説得は困難を極めた。

三日三晩説得し、その後リーナのワガママをひたすらに叶え、毎日電話をするという約束をして渋々オッケーが出た。

 

その反面、両親からの許可はあっさり降りた。

母方の祖父に留学の話を伝え、国からの留学の許可も降りて、トントン拍子に話は進んでいった。

祖父はUSNAの軍部にも覚えが良い。通常、魔法師の海外留学は厳しく規制されているが、既に資格を持った魔法師ならまだしも、12歳の子供、それも大した成績は収めていない私なら許可を取るのは難しくなかっただろう。

 

 

「お姉ちゃん、行っちゃうの?」

 

 

私の袖を掴み、潤んだ瞳で上目遣いに見詰められると、めちゃめちゃ決意が揺らぐ。

でもそういうわけにはいかない。こうしている今も深夜は苦しんでいるのだ。入退院を繰り返しているということは治す手立てがないということ。

ぼく(・・)が行かねば、深夜は死んでしまうかもしれない。

 

私は、一時間はそんな感じでブレブレに揺れながらリーナと別れを済まし、日本へと飛び立った。

 

 

のだが。

根本的に解決しなくてはならない大問題があることに、この時は気がついていなかった。

ただただ、リーナが恋しかったです。

 

 

 

奈良県(正確には元奈良県であるが)生駒、生駒山東山麓にある九島家の本宅。

3階建ての豪華な洋風建築であり、魔法技能師開発第九研究所の魔法の成果を取り入れた『一種の砦』のような屋敷となった、と聞いている。

 

 

「こうして会うのは初めてだね」

 

 

九島真言。

現九島家当主。職業としては様々な軍需産業会社の株主、出資者、債権者、ということになるだろう。

職業として魔法師と名乗るのはフリーランスの魔法師だけだ。基本的には所属している組織の役割を職業とする。その点、彼は魔法師としてどこかに属しているわけではない。

 

十師族というのは、表向きは民間人。よって表の権力はそれぞれの職業の範囲であり、大したものではないが、政治の裏側では司法当局を凌駕する権勢、超法規的な特権を持っているのだ。

勿論、それぞれの家に国から役割を与えられており、その役割は家によって様々だけど、それぞれの地域の監視、守護はどの家も共通して任されている。

 

九島家はその中でも、京都・奈良・滋賀・紀伊方面を監視、守護しており、今尚、国際商業都市である大阪の監視、外国人魔法師工作員の跳梁を抑えることを主な目的としている。

 

 

「はい、マオ=クドウ=シールズです。突然の留学に対応して頂いたこと、大変感謝しております」

 

 

四葉逢魔としては、彼には何度か会ったことがある。いつも自信無さげな目をしていて、劣等感を隠しきれない弱々しさがあった。

今はそれも無くなっている様だが、九島烈のような強烈なオーラは感じられなかった。

 

客観的に見れば、というか魔法演算領域の殆どを占拠されていた四葉逢魔からすれば、十分な魔法力を有していると思うが、九島烈という『最強』に及ばないことに劣等感を抱いていたあの頃から、彼も人生経験を積み、折り合いをつけたのだろうか。

 

四葉逢魔の頃の知り合いと会うのはこれが初めてだけど、なんだか浦島太郎にでもなったような気分だ。まあ、私の場合若返っているわけだけど。

 

 

「いや、子供が遠慮するものではない。子供の向上心を妨げないでやること、それが大人というものだ。これからも困ったことがあったなら頼りなさい。私も君のお祖父さんにはお世話になっているからね」

 

お祖父ちゃんが日本での生活については九島に頼んであるって言ってたけど、本当に厚待遇だ。迷惑がられているとばかり思っていたから意外である。

何せ、留学後の学校や家など何から何まで用意してくれたのは九島家だ。USNAではお祖父ちゃんのコネ、日本では九島家のコネをフルに使って、私はこうして留学しているというわけだ。

 

 

「これが、君の通うことになる中学校の資料だ。本当はここから近い所の方が良いかとも思ったが、魔法技能の向上という点を一番に考えるのならば、ここが良いと思ってね」

 

 

パンフレットを見て驚愕した。

この中学校、女子校じゃないですか……。いや、私も女子ですよ、はい。紛うことなき女子なんですが、四葉逢魔としての自覚を持ってしまった今、それはあまりに気まずい。ルール的にはオーケーだけど、それってスポーツマンシップに反しますよね、みたいなそんなグレー感がある。

 

学校の指定は特にしなかったけど……そうか、女子校という可能性もあったのか。

こうなってしまっては仕方ない。学校では慎ましく壁の花となって過ごそう。

 

 

「学年は一つ下になるが七草の双子もいる。君たちも双子だからな、良い刺激になるだろう。彼女たちは珍しい乗積魔法の使い手だ。参考になるかは分からないが一度見ておくと良い」

 

 

突如として決まった女子校暮らしに困惑している間も無く、新しい情報が入ってきた。

えっ、七草の双子?それってつまり――。

 

 

「七草の双子、というのは七草弘一さんのご息女ということですよね?」

 

「ああ、紛れもなく七草家現当主、七草弘一の娘だよ」

 

 

やっぱりだ!あいつ、真夜がまだ独身なのにぬけぬけと結婚して、中学生になる娘が二人いるだと?事と次第によっては処刑だ。

 

七草弘一、弘一君は当時、真夜の婚約者だった。四葉と七草の政略的なものであり、真夜が嫌がるようであればぶち壊してやろうと思ってはいたものの、あの、ぼく(・・)が死んだ、少年少女魔法師交流会の日はまだ婚約者で、真夜と一緒に出席していたのだ。

 

もし、もし、真夜を泣かせるようなことをしていたら、七草だろうと関係なく、即刻、ご当主を交代させてやるよ。

 

 

「USNAで暮らしていた君には分かりにくかったかもしれないな。七草家の当主殿は前妻との間に二人、後妻との間に三人の子供がいるんだよ」

 

 

まさかその前妻ってのが真夜じゃないよね?だとしたら首の骨へし折るくらいじゃ済まないけど?

あまり、弘一君について尋ね過ぎると不審に思われるため、後日調べたが、前妻は真夜とは全く関係なかった。命拾いしたな、弘一君。まあ、事と次第によっちゃ結局、血祭りだけどな!

 

 

「ああ、そうだ、君から頼まれていた件だが何とかしておいたよ。正式に国から受理されたもので、これがその証明だ。身分証も渡しておくから失くさぬようにな」

 

 

深瀬真桜。

それが私の新しい名前。

 

マオ=クドウ=シールズという名前を日本で使う訳にはいかなかった。日本では『クドウ』という名は『九島』として認識され、私は九島の一員として認知されることになる。それでは駄目だ。

私は九島の血族として生まれたが、九島として生きるつもりはない。

 

ぼく(・・)は四葉であり、私はマオ。

九島という名を背負う気はなかった。

 

ただの自己満足なのだが、一時的にでも九島として見られたくなかった。

 

少なくとも真夜が当主の内は、そのこだわりを捨てることはないだろう。

 

だから今回、私の扱いを無理矢理に帰化の様な形にしてもらったのだ。帰化とは外国籍を持った人が日本国籍を取得すること。私の場合は仮の帰化という形にしてもらった。

仮の帰化、なんて普通あり得ない措置であるし、順当な手段で帰化を申請しようとすると、大量の書類を収集したり作成しなくてはならずとてつもない手間暇がかかる手続きだ。

さらに許可が下りるまで一年以上かかるし、要件が整わなかったりで不許可になる場合もある。

 

九島の権力ゴリ押しで通してもらったのだ。

ごちゃこちゃこだわり語ってたけど、利用するときはいくらでも九島の名を利用するぜ、私は。

 

 

「この深瀬という姓には何か意味があるのかね?」

 

 

苗字は自由に決めて良いということだったから、『深瀬』にした。

深瀬にしたのは大した理由ではない。ただ――

 

 

「妹が決めてくれたんですよ。まあ漢字の雰囲気で決めたのでしょうから特に意味はないと思いますよ」

 

 

――真桜で、真夜の字が入っているなら、苗字は深夜の字を入れたいと思ったからだ。

妹が決めてくれた、というのも嘘ではない。深夜の名前から決めたのだから。

 

 

「そういえば、まだ住む場所の話をしていなかったな。実はこれについては君の意見を聞いてからにしようと思っていてね、まだ決めていないんだ」

 

 

タブレット端末に写し出されたのは数々の物件の見取り図や写真だった。正直、近いところならどこでも良いのだが、折角用意してくれたのなら一応目は通すべきだろう。

 

「寮もあるが……」

 

「寮は止めましょう」

 

 

かなり食い気味に断った。寮とか、私はずっと罪悪感に苛まれながら生活することになるじゃないか。

 

 

「ここでお願いしても良いですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。もし住んでみて不便があるようなら言ってくれ」

 

 

物件の一つを指しながら言うと、簡単に了承された。しかも、気に入らなかったらチェンジもいけそうな雰囲気だ。

 

「それと、流石に12歳の子供を一人で暮らさせるわけにはいかないからね、こちらで人を派遣するよ」

 

 

住み込みのメイドさんまで付いてくるだと……?(※誰もメイドとは言ってません)

私は料理は出来るが他の家事はきっとやらないだろう。面倒くさがりな私は、自分が興味のあることなら頑張れるが、無いものには極端にやる気が出ない。

洗濯とか掃除とか、好んでやる人の方が少ないようなもの、私がやりたいわけがない。

この提案はありがたいものだ。恐らく女性だろうか、同年代でなければ別に一緒に住んでも罪悪感はない。

 

 

「さて、では話はこれで終わりだ。部屋の手続きはやっておくから、編入までの間はここの客室で暮らしなさい」

 

「お気遣い痛み入ります」

 

 

至れり尽くせり過ぎて、利用できるものは利用する主義の私も、流石に悪い気がしてきた。

九島真言からすれば、私は従姪ということになるが、今までずっとUSNAにいたのだ、他人も同然である。

それをこんなに良くしてもらって、心が痛い。12歳の子供だったならまだしも、四葉逢魔としての自覚があるから、辛い。

 

 

「部屋に案内しながら、息子を紹介しよう」

 

「はい、伯父さん」

 

 

九島真言のことは伯父さんと呼ぶことになった。

本当は従兄弟伯父(いとこおじ)と呼ぶべきなのだろうが、ややこしいということで、そう呼ぶことになったのである。

 

 

「後二人は今日いなくてね、末の息子を最初に紹介しよう」

 

 

紹介された末の息子を見て、私は伯父さんの劣等感が如何にして和らいだのか、また、それがまだ心の奥底で燻っているのだということ、私にこうまで親切にしてくれる理由など全てを悟った。

 

 

「九島光宣です」

 

 

そして、九島真言の狂った執念と執着を、知ることとなる。




物語の進行上、リーナと別れることに……。
日本に到着し、いよいよ多数の原作キャラ達と絡める環境が整いました。お楽しみに!

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