転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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6話 戦う魔王

九島家の本邸には魔法を訓練できる施設がいくつか存在する。その内の一つで私と光宣君は向かい合っていた。

 

「本当に手加減しませんよ?」

 

「全力でどうぞ」

 

先手は譲るつもりで、開始の合図があっても私は動かなかった。私の意図を悟った光宣君は、右手を前に突き出した。ブレスレット型のCADを介して放たれるのは移動魔法だった。私を吹き飛ばすつもりだったようだが、魔法は不発に終わった。

 

 

「仮装行列、ですね。でもそれは――」

 

 

仮装行列(パレード)

 

日本人の祖父から母へ、そして私とリーナへと受け継がれた九島家の秘術である系統外魔法。

可視光の操作による幻影、赤外線の操作による幻温、加重系魔法による幻体。

それに精神干渉系魔法を使った幻覚を被せ、無系統魔法でエイドスですら偽装する。

様々な魔法を少しずつ組み合わせ、足し合わせることで、魔法を使っていること自体を覚らせない偽装魔法の極致。

 

偽装魔法と侮ることなかれ、これを使うと相手の魔法を不発させることができる。

 

本体と異なる色、形を映し出すことで仮装することがこの魔法の用途として正しいが強力なのは、座標の偽装だ。情報の次元における座標まで偽装してしまう事が可能な為、作り出した幻影と本体の関連付けをキーとしてエイドスを探しだし魔法式を放っても偽装したダミーに作用してしまい何も起こらない結果となる。

 

魔法師同士の戦闘において、これは直接作用するタイプの魔法を封じられるということに等しい。

仮装行列を破る手段は存在するが、それを普通の魔法師がすることは難しく、何より、この魔法は発動を悟られず、使用しているのかどうかも分からなくする。この魔法を知っていなければ対処不可能。

 

肉眼や魔法的な視力で照準を付けることができなくなってしまうのだ。

 

 

私はお返しとばかりに、移動魔法を放つ。しかし何も起こることはなかった。光宣君が笑う。

 

 

「――僕も同じ事です」

 

 

仮装行列は九島家の秘術。光宣君が使えないわけがない。

魔法師はサイオンを物理的な光や音と同様に知覚する。私に見える光宣君の体は解析した仮装行列発動前と全く同じサイオンパターンを備えていた。つまり、魔法的な感覚では間違いなくそこに本人がいる、と感じるわけだ。それは光宣君の仮装行列が恐ろしい精度だということ。

 

お互いに一歩も動いていないこの攻防。この攻防の中で、既に私は光宣君の高い魔法力を感じていた。そしてそれは確信へと変わる。

 

 

「お互いに仮装行列の使い手、魔法の撃ち合いは無意味でしょう」

 

「はい、そうなると確実なのは――」

 

 

光宣君の右手で起動式が展開され、一瞬で吸収された。即座に光宣君の一歩先から、地面が発光する。

 

光宣君が使ったのはスパーク。

物質中から電子を強制的に抽出し、放電現象を起す放出系の基礎魔法だ。しかし、本来はごく狭い範囲の空気分子を対象とする魔法。

電離という自然界で比較的起こりやすい現象とはいえ、物質の構造に干渉しこれを改変することになる。そのため、要求される事象干渉力は高い。一般的な魔法師では密度が低い気体をごく限られた対象範囲で電離するのが精一杯だろう。

 

光宣君はそれを、ほぼ視界内一杯の表層土に対して発動したのだ。

言うならば広域スパーク。

本来局所的な魔法を広範囲に撒き散らしたのである。仮装行列で偽装しようと周囲のどこかに本体は存在しているのだ。選択した魔法の技術的難易度はともかく、仮装行列に対する対抗策としては最も簡単で容易な方法と言えるだろう。

 

「光宣!やりすぎだ!」

 

 

伯父さんが叫ぶ。確かにこの魔法は子供に向けるには強力過ぎる。

しかし、伯父さんは止めに入らなかった。いや、割り込むことすらできなかった、と言うべきか。

 

軍に所属する平均的な戦闘魔法師で通常の歩兵の一個中隊分に匹敵する。

そのため、魔法師同士の模擬戦となれば、厳しい監督の下に行わなければ思わぬ事態で大事故に繋がり兼ねない。この場合、監督者として、九島真言は不足であった。如何に名門、九島の当主であっても、務まるものではない。

 

それ程までに、この九島光宣の魔法力は優れている。いや、魔法師として完成している。

一点に特化しているのではなく万能。欠点のない圧倒的な魔法力だ。体運びからして格闘術の心得はあまりない様だが、これ程卓越した魔法師には必要なものでもないだろう。

 

手放しに称賛しよう。

彼は天才だ。九島真言の執念が生み出した怪物。九島烈をも越えた至高の才能だ。

 

 

「素晴らしい魔法発動速度と干渉力です」

 

 

魔法師というのは世代を重ねる度に強くなる。

 

物心がついて自我が明確になる3歳になれば潜在的な魔法素質の計測が可能となる、ということが判明し、遺伝子解析によって魔法素質を決定づける遺伝子が特定されてからというものの、 魔法素質を決定づける遺伝子を持つ人間間の意図的な交配が始まった。

 

それは、モンスター同士を配合してより強いモンスターを作り出すように。

 

魔法師という力に取り憑かれた欲望の連鎖は続いていく。

 

それ故、四葉逢魔の生きた30年前の時代よりも、今の世代の魔法師が優秀なのは当たり前なのだが、それでも驚愕せずにはいられない。

 

リーナこそが至高の才能だと思っていたのだ。こんなにも早く、私達と同世代でこれ程の魔法師に出会えるとは思っていなかった。

 

これは、ぼく(・・)の悪い癖が出てしまう。

 

 

足元から這い上がってくる電流。これは私に照準をつけている魔法ではないため、仮装行列で不発には出来ない。仮装行列の私を放電がすり抜けていき幻影が消える。そして、それでも尚辺り一面を電流が這い回る――が、私の足元の電流は、弾ける様にして消え去った。

 

現代魔法はイデアを経由してエイドスに魔法式を投射するもの、イデアにアクセスし、存在を認識することができる能力を持った私には、発動されようとしている魔法の起動式を理解することができる。

つまり、光宣君がスパークを発動しようとしていることを理解し、それに対する対抗策は既にとっていた。まあ正直、光宣君の起動式を読み込むのが予想以上に速すぎてちょっと焦ったが。

 

そんな焦りを悟られぬ様、余裕の表情を浮かべたままスパークを相殺した私を、光宣君は手で指差した。瞬間――後方から電流が流れた。

 

それはスパークによって生み出された放電に指向性を持たせたもの。スパークを相殺した際に、私の仮装行列は消え去っている。

つまり、今の広域スパークはただの囮。私の本体の位置を炙り出すための下準備でしかなかったのだ。

 

電流の威力は精々強い静電気、一瞬体が硬直するくらいのものに調整していたのだろう。

電流が直撃し、体が痺れ、膝をつく私――が、光宣君には見えている(・・・・・・・・・・)

 

 

「――光宣君、女の子に少々手荒過ぎませんか?」

 

 

びくりっ、とそれは幽霊でも見るような目。その光宣君の目がすぐ横の(・・・・)私の顔を捉えた。

私は光宣君を後方から抱きすくめるようにして首を右腕で捕らえ、その右手のブレスレット型CADに添えるようにして左手を置いていた。いつでも魔法を発動できる状態である。

 

 

「な、何故」

 

「簡単なことですよ、私は最初から貴方の近くにいました。光宣君が移動魔法を発動した時に駆け出していたんですよ」

 

 

仮装行列によって作り出したダミーによって移動魔法を不発させたが、それと同時に私は光宣君の近くにまで移動していた。光宣君が気がつかない程度の距離を保って。

 

 

「では、広域スパーク後に現れた貴女の姿も……」

 

「仮装行列ですよ」

 

 

広域スパークによって最初の仮装行列を消したと思わせるのと同時に、次の仮装行列を発動。その仮装行列を出現させたエリアのスパークを相殺した。

そうすれば光宣君には、スパークによって仮装行列が無意味となり私が消し、本体の私がスパークを相殺したように見えただろう。

それによって私の位置を錯覚した光宣君は、スパークに指向性を持たせ私を狙った。

勿論、狙われた私は仮装行列だ。私は放電を喰らったように仮装行列を操作し、勝負が決まったと思ってしまった光宣君に一気に近づき捕らえた、というわけだ。

 

 

「魔法は騙し合いです。先に騙された方が負け。光宣君は正直過ぎましたね」

 

「まんまと騙されてしまいましたか……完敗です」

 

 

光宣君程の力があれば殆どの場合、正面突破できてしまうだろうが、だからこそ、こうした搦め手に警戒しなくてはならない。一対一で正々堂々、戦いとは常にそうではないのだ。勝った者がルールであり強者、そういう世界だ。

 

 

「あの……そろそろ離してもらっても」

 

 

顔を赤くした光宣君が遠慮がちに言った。こうして体を密着させているから暑かったのだろうか?

 

 

「……真桜さん、色々当たってる……」

 

 

口許を押さえて、光宣君が何やら呟いたが分からなかった。

私は首を傾げて、真っ赤な顔のまま離れていく光宣君を見ていることしかできなかった。




おませな光宣君。
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