転生したら妹がブラコン拗らせて独身のアラフォーだった   作:カボチャ自動販売機

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ついに、彼女が登場です。
テンション上がって、今話は長めになりました。




7話 うっかりさんな魔王

悪い癖が出てしまった。

最初は善戦して負けるつもりだったのだ。なのに、光宣君が思った以上の強敵で勝ちたくなってしまった。この負けず嫌いは転生しても直らなかったらしい。子供相手に大人気なく、安牌で勝ちにいったからね!

 

そんな後悔を抱えつつも、模擬戦を終えた後、夕食までの間荷物の整理をするため部屋へと戻ってきたのであるが、私は今、大問題に直面していた。

 

九島の力をこれでもかと利用し、日本へと留学し、新たな戸籍を入手し、住むところも手に入れ、来週から女子校での中学校生活が始まるわけだが……落ち着いて考えてみると、私は深夜の居場所が分からないのだ。なんてこったい。

 

そりゃそうだ。秘密主義の四葉が弱っている深夜の居場所なんて秘匿するに決まってる。

実家の住所ですら非公開(正確には住所すらない)、家族構成や親族などの情報だって、十師族にですら隠しているんだから。

 

 

「実家いけばいいだけの話なんだけど……」

 

 

四葉の家は特殊だ。

立地としては、旧長野県との境に近い旧山梨県の山々に囲まれた狭隘な盆地に存在するわけだが、住所がないことからも分かる通り、地図にも載っていない名も無き小さな村の中になる。

 

 

「もしぼく(・・)が考案していたシステムが完成していたとしたら……」

 

 

ぼく(・・)の死から三十年以上。技術も進歩しているだろうし、間違いなく村は部外者侵入不可能の要塞となっているだろう。

 

ぼく(・・)が考案していたシステムがそのまま採用されていたとすると、村には認識阻害の魔法による結界。

村へ通じるトンネルには無系統魔法を鍵とした自動ゲートが設けられ、村へ続くルートには、決まった地点で特定の波形を持つ想子波を照射しないと入れない仕組みになっているはずだ。

 

つまり、村へ辿り着けない。

ただ山で遭難することになるだけだ。

 

 

どうやって深夜と接触するかなんて、何も考えていなかった。実家にいるのか、入院しているのかも分からず、実家には辿り着けない。四葉の情報秘匿能力をぶち破る程の情報収集能力は私にはない。

詰んだ。

 

 

「一応、電話してみるか……」

 

 

30年以上前に深夜が使っていたプライベートナンバーにかけてみることにする。ぼくが外泊したりしたら、毎晩電話していたし、同じ家にいるのに夜中にかかってきたりした番号だ。当然、暗記していた。

携帯端末のシステムも変わっているし、番号なんて変わっていて当たり前なのだが、やるだけやってみよう。そんな軽い気持ちだった。

5コール程して、諦めようとした瞬間――コールが終わった。

 

 

『……誰かしら?このナンバーを知っている人間は限られているはずだけれど』

 

 

出たぁぁあああ!?

えっ、深夜30年以上同じナンバー使ってるの!?どんなものぐさ!?

 

声は少女だった時と変わっていたが、話し方というか、声のトーンというか、話し始めた時の雰囲気で深夜であると確信した。

私は予想外の事態にテンパっていたが、まさか出るとは思っていなかったため、何の対策もしていなかったことを思い出した。

はやる気持ちを抑え、この場は切ることにした。

 

 

「また後で」

 

『ちょっ――』

 

 

深夜が何か言いかけていたが、盗聴の心配があるこの電話では何も話すことはできない。まさか出ると思っていなかったから何も対策をしていない携帯端末でかけてしまった。こういう機械は進歩していて、私の30年前の知識では足りない。どうにか盗聴対策をした端末か、秘匿回線を手に入れなくては。

 

目下のところそれが目標になってしまった。

 

勿論、他の方法での接触も考えるが今のところこれが一番確実。深夜はもう殆ど表舞台に現れないようだし、コネクションのありそうな九島にも今回ばかりは頼るわけにはいかない。後は学校が始まればあいつ(・・・)に協力してもらう手もあるが……それは最後の手段としておこう。

 

まずはこの一週間で出来そうなことからやっていく。

 

 

「日本まで来たけど、まだ遠いか……」

 

 

私はベッドの上に寝転び、そのまま夕食までふて寝することにした。

妹達のセキュリティがキツすぎてつらいよ。

 

 

 

 

 

司波深夜、旧姓、四葉深夜は庭を眺めていた。

握り締めた携帯端末を離せないまま、もうすぐ二時間が経つ。

 

「どうかされたんですか?」

 

「なんでもないわ」

 

「それ、本当に通じると思ってます?もう二時間もそうしてるんですよ?」

 

 

呆れた様に深夜に言ったのは桜井穂波。

彼女は深夜のガーディアンだ。ガーディアンとは四葉におけるボディーガードの呼び名であり、役目。 その生涯を主を守ることに費やす者。

 

 

「穂波、貴女、何故ガーディアンという制度が生まれたか、知っているかしら?」

 

「それは勿論。2062年に当時12歳だった当主様の誘拐事件、それを庇った逢魔様が亡くなられた悲劇を繰り返さないために、四葉の血を守る為に作られた……ですよね」

 

最初から護衛がいれば、逢魔が庇うこともなかった。死ぬことはなかった。あの日の後悔が作り出した仕来たり。

 

「私はあの日、その場にいなかった。お兄様の顔を最後に見たのは家を出る前、最後に声を聞いたのは、帰ってくることのなかった行ってきます……それが私にとってどれ程の絶望だったか」

 

 

穂波はもう深夜とは長い付き合いであるが、こうして深夜が自分の気持ちを素直に話すのはそうないことであった。

 

 

「この歳になってもまだ後悔してるわ。もっと我が儘を言って、もっと素直に甘えておけばって。それくらい私達にとってお兄様の存在は大きかった……」

 

 

穂波は四葉逢魔という人間のことを殆ど知らない。逢魔の話をすることは四葉家では禁忌の一つとなっていたし、何より穂波は逢魔があまり好きではなかった。

逆恨みなのは分かってる。それでも、深夜が体を壊した原因であると思うと、悪感情の方が上回る。

 

深夜が体調を崩したのは、精神干渉魔法を過剰に繰り返したから。そうなってしまったのは、逢魔を失ったことで、真夜のために自分が何かしなくては、兄の代わりにならなくては、という強迫観念によって数々のミッションを無理にこなしたからであった。

 

 

「この携帯端末はそんな私の未練……もしかしたらお兄様からかかってくるのではないかと、そんなあり得もしない妄想を抱えて、30年以上ナンバーを変えていないわ」

 

「っ!まさか!?」

 

「――ええ、かかってきたのよ。そんなことはこの30年以上一度もなかったというのに」

 

 

最初はずっと携帯端末を握り締めて眠っていた。

真夜の前では泣かないと決めていたけど、一人の夜はどうしても思い出してしまう。真夜と二人で夜に兄の部屋へ行って、眠っている兄を叩き起こして、遊んで、一緒に寝る。そんな光景が思い出されて辛かった。

かかってくるはずのない携帯端末には兄のナンバーだけが登録されていて、それが音を鳴らしながら画面に表示されやしないかと、妄想に耽る。

いつしかそれが意味がないことで、乗り越えなくてはならないことで、兄はもう戻ってこないのだと、やっと理解できても、深夜はそれを手放せずに肌身離さず持っていた。

 

だから今日、唐突に電話がかかってきて、娘の前で驚きに飛び上がってしまったのは、とてつもない羞恥であった。なんでもない様な感じを装いはしたが、そのせいで、穂波から生暖かい目で見られることとなってしまった。

 

 

「では、逢魔様が生きているとっ!?」

 

「――それはないわ。当時、私も遺体を確認している。それに声は女性……いえ、女の子の声だった」

 

 

通話が切れる直前、たった一言しか声は聞いていないが、それは明らかに逢魔のものではなく、幼い女の子の声だった。

どうして今なのか、30年以上経って、今更誰がこのナンバーにかけてくるというのか。

兄はもういない。そんな当たり前のことを今更思い出させるのか。

 

 

「このナンバーを知っているのはお兄様と真夜の二人だけだけど、真夜は新しい方のプライベートナンバーにかけてくる。態々こっちにはかけてこないし、誰かにナンバーを教えもしないでしょう」

 

「つまり、その女の子に深夜様のプライベートナンバーを教えたのは逢魔様……?」

 

「それも計算が合わない。お兄様が亡くなったのは30年以上も昔、お兄様が直接教えることは不可能よ」

 

 

声からの推測でしかないが、女の子の年齢はどう考えても10代前半、30年前に死んでいる逢魔では直接教えることは出来ない。

 

 

「勿論、声なんていくらでも変えられる。あくまで推測の一つということになるけど、今は声の主が女の子だったと仮定して考えましょう」

 

 

態々声を変えてまでイタズラ電話なんてしない。意味がある電話ならあんなにすぐ切っては意味がない。

結局、いくら考えたところで正解と思えるような回答は得られないのだ。一つの指針としてそこは固定して考えることにした。

 

 

「お兄様が私の個人情報を勝手に漏らすとは考えられない。でも、何らかの方法でそれを残していた可能性はあるわ」

 

「恋人や友人に教えていたとか、ですか?」

 

 

穂波の答えに深夜がくすりっと笑った。

 

 

「お兄様に恋人はいなかったわ、言い寄る人はいたけど、真夜が(・・・)べったりだったから中々恋仲にまでなる人はいなかったの」

 

 

穂波は『真夜が』ではなく『私達が』の間違いでは?と思ったが懸命にも口には出さなかった。

 

 

「ではご友人ですか?」

 

「お兄様の友人と言える人は一人しかいなかったわ。表面的にはいたけれど、私から見てそう思えたのは一人だけ。その一人も、お兄様は友人だということを否定していたけれど」

 

 

深夜は逢魔がその友人にプライベートナンバーを教えた、とは思えなかった。そういう関係には見えなかったし、もし彼ならばプライベートナンバーなんて教えなくても、必要になればどこからともかく情報を手に入れ、深夜に会うことは容易い。

つまり、逢魔が友人に伝えていた、という線も薄かった。

 

「まあ、ここで考えていても答えはでないわね。まずはこの携帯端末を調べてみましょう。もし向こうが何もセキュリティをかけていなければ、それでどこの誰がかけてきたのか分かるわ」

 

 

四葉家では携帯端末の通話情報から、相手の端末を割り出せる。そうなれば、相手が位置情報をオンにしたりすれば、居場所を。自身で契約した端末なら個人情報を。という具合に芋づる式に情報を得ることができるのだ。

そんな簡単にはいかないと深夜は考えているが、逆にこれで情報が一切出てこないようなら、イタズラという線は無くなり、より本格的な捜査が必要になってくるだろう。

 

 

「丁度退屈だったの、面白くなってきたわ」

 

「退屈って……私達死にかけたばかりなんですよ?」

 

 

2092年8月11日。

大亜細亜連合が日本の沖縄へ侵攻した。沖縄でバカンスをしていた二人もこの戦争に巻き込まれたのである。そこで二人は九死に一生の経験をしていた。

特に穂波は一度生死の狭間をさ迷い、何日も寝込んでいた。その上、今も魔法を使うことは控えるように言われている程だ。

 

 

「もう一週間も前よ、穂波もこうして復帰したのだし」

 

 

ニタリ、と穂波が笑うのを見て、深夜は自分が墓穴を掘ったことに気がついた。

 

 

深夜様(・・・)、ずっと私についていてくれましたものね」

 

「同じ部屋にいただけよ」

 

 

どうにかこの状況をやり過ごそうとする深夜。寝込んでいる穂波の側を片時も離れなかった言い訳にしては随分と弱い。既に深夜の防御力は0に近かったが、ここで穂波は最近手にした伝家の宝刀を抜いた。

 

 

「あの時は嬉しかったです、達也君を迎えにいって死にかけた私に、死んだら許さないわよって涙ながらに言ってくれたんですから」

 

「な、泣いていないわよ!あの時穂波は意識が遠退いていたから、きっと勘違いしているのねっ!」

 

 

言い訳を続けようとする深夜であるが、じーっと見詰める穂波に観念したのか、俯いて、小さく呟いた。

 

 

「穂波が死ぬと思うと……少しだけ寂しくなってしまったのよ……」

 

 

穂波は思った。可愛すぎか、抱き締めてやろうか、と。そして、穂波の中の悪魔がもっといじめろ、と囁いている。このガーディアン、死線を潜ったことで内に秘めていた嗜虐心が完全に目覚めていた。

 

 

「穂波大好きよ、とも言ってくれましたよね?」

 

 

これには深夜も飛び上がって穂波の方を向いた。もう羞恥心が振り切れている。

 

 

「だって、もう助からないと思ったのよ!穂波の衰弱は達也の再成ではどうにもならないもの、あの時(・・・)みたいに何も言えないまま死んでしまうなんて、そんなの……」

 

 

穂波が達也の元へ向かう時、深夜は必ず帰ってきなさい、と言った。その時の表情は穂波に、ここで死んではいけない、と思わせるだけのものであったし、何より、穂波の死を、兄の死と重ねているのであろうことが、不謹慎にも嬉しかったからだ。

兄と重ねられる程に、自分が深夜の中で大切な存在となっていたのだと知れたのだから。

 

そうして死地へと赴き、達也が艦隊を撃破するまで対物・耐熱防御魔法によって盾となり、短時間で大きな魔法を連続行使した負荷によって衰弱してしまったのである。

深夜も魔法の行使による負荷によって今のような体になってしまったのだ、穂波を見てすぐに原因は分かっただろう。だからこそ、達也の魔法ではどうにもならないことを悟り、涙した。また失うのかと。こんなにも突然。大切なものが消えていく、と。

 

だからせめて、言いたいことは言っておきたかった。どれだけ伝えても、後悔はするだろう。でも普段言えないことを、伝えたいことを伝えられるチャンスがあるなら、深夜は手放さないと決めていた。

 

それがまさか、深夜を羞恥によって苦しめることになろうとは。

 

衰弱していた穂波であったが、深夜がその場に現れてしばらくすると、徐々に体調が戻ってきたのだ。全快とはいかないものの、死ぬことはないだろうという程度まで回復したのである。

 

その原因は未だ分かっていないが、穂波は確信している。深夜の願いが、私には届いていた、と。

もう意識が殆どないそんな状態ではっきりと深夜の声だけは聞こえていた。そして、ここで死んではいけない、あの人を一人にはできない、そう心の奥底から沸き上がった感情が、衰弱から復活したエネルギーであると考えている。

 

 

「そんなに恥ずかしがらなくても良いじゃないですか、私は嬉しかったのに」

 

「そうやって穂波がわざとらしく言うから恥ずかしいのでしょ!胸の内にしまっておきなさい!」

 

 

これ以上やると本格的に深夜がいじけてしまうことを知っている穂波は、ここで撤退することにした。

 

 

「では私はご夕食の準備をしてまいります」

 

「ええ、そうしてちょうだい!」

 

 

すっかり赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた主が可愛らしくて、穂波は思わず笑ってしまいそうになったが、そんなことをすれば撤退した意味がなくなってしまう。穂波はなんとか堪えて頭を下げると夕食の準備へと向かった。

 

 

――貴女は私が一生お守りします

 

 

そんな決意を胸に、穂波は今日はお詫びも兼ねて、深夜の好物を用意することにした。

意外と深夜が、好物で機嫌が直るタイプであることも、穂波は知っていたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 




光宣にあれだけ偉そうなこと言っておいて自分も友達いない主人公。
そして、イチャつく大人達。

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