とある少年の波紋疾走   作:イヌガミケ

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第10話「素質」

ジョジョが歴史的瞬間のような出来事に遭遇してから数日後。彼はいつものように河原に向かった。河原に着き修業が始まると思いきやツェペリからとんでもないことを言われる。

 

「ジョジョ、今から最終試験を行うぞ」

 

「ど、どうしたんですか突然」

 

「言った通りだ。ワシが教えることは全て教えた。後は波紋使いとして見込みがあるのかをワシ自身が見極める」

 

「ちょっと待ってください! 最終試験ってどういうことですか! 俺はまだ先生に一太刀すら入れることが出来ないし波紋もまだまだ未熟です。それで先生と勝負したところで勝てる見込みなんてありません。それに波紋使いの見込みって何ですか!? 俺に見込みがあるから今まで波紋を教えていたのではないのですか!」

 

「お主は何か勘違いをしているようだな。よいか、波紋使いと波紋を使える人間。言葉は似ているが全く異なるのじゃ。波紋はコツさえ掴めば誰にだって使える。その波紋を使える人間の中で師に認められた者のみが波紋使いを名乗れるのじゃ。ワシがチベットで修業していた時も修行者は何百人といたが波紋使いの称号を与えられたのはワシを含め3人だけじゃ」

 

更に続ける。

 

「それに直接戦って勝負にならないことは承知している。そこで試練の内容は……」

 

一息ついて口を開いた。

 

「ワシの帽子を落とすことだ」

 

「……?」

 

「聞こえなかったのか? 今まで学んだことを生かして帽子を落とすことができればお主を波紋使いと認めよう」

 

「い、いいのですか? そんなことで決めちゃって」

 

「問題ない。それに帽子を落とすだけでも十分見込みがあるかどうか分かるからな」

 

そう言い構えをとった。

 

「準備はよいか!」

 

「ええ、いつでも!」

 

「ならばどこからでもかかって来るが――」

 

「なら先手必勝ゥ!」

 

開始の合図と同時にジョジョは足に力を入れて一気に近づき帽子に手を伸ばす。それに対しツェペリは立ったままの姿勢でジャンプをしてかわした。そしてジョジョの後に回り無防備な背後からパンチを繰り出した。それをジョジョは体を捻ってパンチを避け、バックステップで距離をとった。

 

「ほう、よく避けたな」

 

「そう何度も同じ手は通用しませんよ」

 

そう言ってもう一度ツェペリに肉薄する。今度は左右の腕で帽子を狙うがどれも防がれてしまう。その最中もツェペリは反撃してくる。その中の一発――小指を突き立てたアッパーがジョジョのみぞおちに迫る。

 

これを喰らったら呼吸がまともにできなくなり戦いどころではなくなってしまう。そう判断したジョジョは思い切り後ろにのけぞった。ツェペリのアッパーはのけぞったジョジョの体に沿うような軌道を描いた。普通なら攻撃は外れるはずだ。しかし今のジョジョには通常ではありえないところが突出していた。ツェペリの小指は彼の付けていたマスクを打ち抜いたのだ。突然のことに驚きながらもジョジョはそのまま足に力を入れて後ろに飛びのいた。が無理な体勢だったため後ろに倒れてしまった。追撃されまいとすぐに起き上がる。

 

「痛ってェ!」

 

「ほう、今のをかわすとは……」

 

強引にマスクを外された痛みから顔に手をやる。

 

「久しぶりにセクシーな唇をマスクの外に出せたのによぉ~。ちょっぴり焦げ目が付いちまったじゃねーか」

 

「お主は何を言っているのだ?」

 

「……いえ……気にしないでください……」

 

「それにしても今日はついてるな。風が吹いてない。これなら風で帽子が飛ばされる心配はなさそうだ」

 

その様子はまさに余裕そのものだった。

 

「(やっぱり格闘は先生の方が上だ。正面からやりあっても勝ち目はない。といっても波紋も先生の方が強力。打ち込んでも全て防がれるのがオチだ……。どうする? 手元にはコーラもない。というか俺炭酸飲めないからコーラの栓を飛ばす技を使えない。何か、何か使える物は……)」

 

周りを見渡すが帽子を落とすのに使える物は落ちていなかった。だがさっきまでと違い、芝生などの雑草が生えている場所にいることに気付いた。

 

「(……! これは使えるかもしれない)」

 

「どうした? 来ないのならこちらから行くぞ」

 

今度はツェペリが肉薄してきた。ジョジョはその場でしゃがみ雑草をむしり始めた。

 

「!?」

 

コオォォォ! と奇妙な呼吸音が響く。

 

「『生命磁気の波紋疾走』」

 

むしった雑草同士がくっ付き1本のロープみたいになった。人間や植物などの生物には微量ながら磁力が含まれている。その磁力を波紋によって強化し雑草を磁石のようにくっ付けロープに仕立て上げたのだ。

 

「近づけないなら遠距離攻撃だ」

 

「なるほど考えたな。だが」

 

ツェペリが帽子に伸びていたロープに触れるとくっついていた雑草が剥がれた。

 

「ワシがこうして逆の波紋を流してしまえばロープはちぎれる」

 

「まだまだァ!」

 

ジョジョはまた同じようにロープを作るが、ツェペリによって全て分解された。

 

「そんな甘っちょろい波紋ではワシの守りは崩せんぞ」

 

ツェペリは波紋のロープを崩しながらじわりじわりと近づいてくる。彼が2mまで近づいたところでジョジョは雑草をむしるのをやめ、地面に両手を付いた。次の瞬間、2人の周りに大量の雑草が舞い上がった。

 

「なるほど。ワシが崩した雑草を利用してどこから攻撃が来るか分からなくさせる気じゃな」

 

舞い上がる雑草の中でジョジョは再びロープを作り出す。

 

「だが今のお主では作れてせいぜい2本といったところかな」

 

先ほどと同じように1本、また1本分解する。

 

「どうした。2本あったロープが1本になっているぞ。疲れるにはまだ――」

 

そう言いジョジョの方を見た。彼は左手でロープを操っていたが右手は握りこぶしを作っていた。親指を拳の中に入れ、指の先には緑色の球体――雑草を巻きつけた小石を乗せていた。

 

「切り札は最後までとっておくもの……でしょ?」

 

右手をほのかに光らせ、親指を弾いて石を飛ばした。指で弾いた勢いと弾く波紋の勢いによって小石はかなりのスピードで飛んでいきそのまま帽子に直撃した。そして彼の約5メートル後ろまで帽子を飛ばした。

 

「…………勝負ありのようだな」

 

ツェペリは後ろへ歩き落ちた帽子を拾う。

 

「雑草のロープも崩した雑草の巻き上げたのも全てはその一撃のためだったのだな」

 

「ええ、まあ。うまくいって正直ホッとしています。ああやって小石とかを飛ばすのって初めてでしたし」

 

「それならもし狙いが外れたりワシが反応して小石をとってしまったらどうするつもりだったのだ?」

 

「その時はまた新しい策を考えていましたね。さっきの雑草飛ばしも戦っている時に思いついたものですし」

 

「なるほど」

 

しばらく黙り込む。

 

「合格だ。お主を波紋使いと認めよう」

 

「い……いいんですか?」

 

「始める前に言ったはずじゃ。これは波紋使いとしての素質を見極めるための試練じゃと。お主は格闘術、波紋どちらもワシよりも未熟だ。だがお主はワシの示した条件をクリアした。なぜだか分かるか? それはお主がその場の状況を最大限に利用したからじゃ。戦いというものは力がある方が有利なのは間違いない。じゃが力があるものが確実に勝つわけではない。お主はこれから様々な相手と戦う日が来るかもしれん。その中には自分より格上の者もいるじゃろう。そういう者たちと渡り合うために試したのだ。力が強さ、波紋の強さではなく自分より強い相手に勝つために身の回りのモノを活用できるのか。それこそが波紋使いの素質だとワシは考えている」

 

その言葉を聞いて修業の休憩中にツェペリが話していたダビデとゴリアテの事を思い出した。羊飼いをしていた少年ダビデが巨漢で重武装のゴリアテを一騎打ちで倒したという話だ。決め手になったのはダビデが投石器で放った石が鎧から唯一出ていた眉間に命中したことだ。彼が投石器の扱いに長けていたのも勝因の一つだったが一番の要因は自分の能力と状況を最大限に利用したことだ。彼は戦いの直前に鎧や武器を貰ったが慣れていないという理由で使わなかった。彼は自分の能力と置かれた状況を活かして自分より強い相手を倒したのだ。覚悟や勇気は大事だ。だが気持ちだけでは強くなれない。思っているだけでは何も起こらない。実現するには行動が必要なのだ。そのために考える事が大切になってくる。何も考えず闇雲に突っ走るのは勇気とは呼ばない。それはいわばノミと同類だ。と彼は言っていた。

 

「何はともあれおめでとう。これでお主も1人前の波紋使いじゃ」

 

「でも本当にいいんですか? 俺は波紋とか大して強くないのに……」

 

「波紋の基礎は叩き込んだつもりだ。後は鍛練を怠らなければ波紋の力も自然に強くなっていく」

 

「……」

 

認められたと言われてもジョジョは素直に喜べずにいた。今までの修業で一度も及第点をもらったことがなかったのに一番難しいと思われる最終試験で簡単に認められたのだ。そのことに対して何か嫌な予感を感じた。そしてその予感は的中した。

 

「ではこれでお別れじゃな」

 

「! どういうことですか」

 

「言ったはずだ。わしが教えることはもうない。ということはもう一緒にいる必要はないということだ。よいではないか居候がいなくなって食費も浮くぞ」

 

「でも!……」

 

自分が厄介者になったからなのか。本当は見込みがなかったからではないのか。疑いの念をジョジョが抱いているとツェペリが口を開いた。

 

「いずれ独り立ちしなければならないものだ。そんな悲しい顔をするなジョジョ。そうだ、お主に最後の教えをたくそう」

 

そう言って右手を差し出す。ジョジョも渋々手を差し出し握手をする。

 

「お前を見てると思い出すよ。お前みたいに波紋を教えた青年に似ておる」

 

すると手が勢いよく輝きだす。

 

「いいかジョジョ。お前は力を手に入れた。だが忘れるでないぞ。大いなる力には大いなる責任が伴う。そして波紋を手にした今。過酷な運命が待ち受けているだろう。だが恐れるな。力は確かに未熟だがお主には困難を乗り越えようとする気持ちとそれを実現しようと考える頭脳がある。それがあればきっと乗り越えられる!」

 

そう言うと二人を包んでいた光が収まった。するとジョジョは言葉では説明できないやすらぎのようなものを感じていた。何となくだが彼の言葉を信じられる。そんな気がしていたのだ。

 

「では達者でな」

 

ツェペリ踵を返し、歩き始めた。

 

「先生!」

 

ジョジョが叫ぶがツェペリは振り返らず歩き続ける。

 

「ありがとうございましたァ!」

 

ツェペリが見えなくなるまで頭を下げ続けた。

 

 

 

 

 

「すまないジョジョ。ワシにはやることができてしまった」

 

その呟きはジョジョに聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 




技の解説
「生命磁気の波紋疾走(せいめいじきのオーバードライブ)」
人間の体が持つ微弱な磁気を波紋によって強化する。ジョジョの奇妙な冒険の原作では自身の磁力を強化して枯葉を集めていましたが、この作品では引き合う力と反発する力を組み合わせることで物体を引き寄せるだけでなく突き放すこともできるようになります。
波紋の力が強くなると鉄骨にくっつけるようになります。
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