「何だよこれ!」
ジョジョが傷ついたインデックスを発見し神父姿の男と対峙してからすぐに上条が帰ってきた。
「…………お前がやったのか」
「だから僕じゃないって言ってるんだけどなあ」
男が話したことを纏めると、10万3000冊の魔道書はインデックスの完全記憶能力によって彼女の頭の中にあること。他の連中に渡らないように彼女を「保護」しにきたこと。斬ったのは自分ではないことを言った。
この時の男の話し方は悪役そのものだったが「彼ら」の事情を知っているジョジョはそこまで憤ることはなかった。しかし事情を知らない上条はむき出しの敵意を神父に向けていた。
「テメェ……何様のつもりだぁァァーー!」
上条がステイルに向かって走り出した。
「何様ねえ……ステイル=マグヌスと名乗りたいところだけど――」
ステイルと名乗った神父はくわえていたタバコを手すりの向こう側へ投げた。
「魔法名はFortis931」
するとタバコは突然炎に包まれた。燃えカスすら残らなかったことが炎の熱さをものがたる。
「僕たち魔術師は魔法名をあまり名乗らないようにしている。なんでだか分かるかい?」
今度はステイルの周りに炎が出現する。
「……それは殺し名だからだよ」
炎はステイルに合わせて動く。そして上条に向かって炎を繰り出した。
「Kenaz(炎よ)」
炎は一直線に上条へ向かい彼は炎に包み込まれてしまった。
「ぐああぁぁ!」
彼の悲鳴と共に煙が立ちこめる。
「ご苦労様だったね。まあ、魔術師に向かった勇気だけは褒めて――」
「誰がご苦労様だって」
「!」
煙の中から上条が現れる。さっきの炎で目の前の少年が跡形もなく消し飛んでいたと思っていたステイルは予想外の事に驚いていた。マグレではないかと考えもう一度炎を繰り出すが彼の右手によって再び炎はかき消されてしまった。偶然ではないと悟ったステイルは次に呪文を唱え始めた。
「出でよ『魔女狩りの王(イノケンティウス)』ッ!」
ステイルの声と共に炎を纏った怪物が現れる。怪物は上条に向かって炎を纏った剣を振り下ろすが彼は右手て剣ごと怪物を消し飛ばした……はずだった。怪物は一度バラバラになったがすぐに集まり元の姿に戻った。
「なっ! 幻想殺し(イマジンブレイカ―)が効いてないのか!」
「『魔女狩りの王』をいくら攻撃しても効果はありません」
倒れていたインデックスが口を開いた。しかしその口調は今朝話していた時とはまるで違っていた。別人みたいに話すインデックスに戸惑っている上条をよそに彼女は魔術の元になるルーンを破壊しない限り何度でも蘇ることを話した。
ジョジョはこの後上条がスプリンクラーを作動させてルーンを無効化することを知っていた。しかしこの状況では自分が行く方がいいのではないかと考えた。
「上条! 俺がそのルーンを何とかするからなんとか持ちこたえてくれ!」
「あ、ああ! 分かった!」
この場を上条に任せて動こうとした瞬間、ジョジョの足元に炎が飛んできた。
「おいおい。弱点を見破られてみすみす相手を見逃すと思っているのかい? 妙なことを考えていると……消すよ」
今のジョジョには上条のように3000℃の炎を消す術はない。自身の拳から熱を流す「緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)」という技があるが3000℃という人間の限界をはるかに超えた温度にはとても対応ができない。自分に向かって炎が飛んできた時点でジ・エンドである。
「…………なあ上条。一つだけ策があるんだが……」
「策?」
「ああそうだ。そのためにはお前の協力が必要なんだ」
「…ああ、分かった!」
「妙な動きはするなと言ったはずだが……」
「おや? じゃあ俺が次にとる行動が分かっているのか? 悪いがお前を倒す算段は既についているぞッ!」
彼の言葉にステイルは構える。それに対してジョジョは彼に背を向ける。
「逃げるんだよおォォ!」
そう叫びながらジョジョは近くの階段を駆け下りていった。取り残された二人はしばらっく呆気にとられていたが、状況を理解したステイルは笑い出した。
「ハハハハッ。何だ、策ってのは逃げることだったのか、ハハッ。それにしても君も不幸だね。友人に見捨てられて。でも彼の判断は間違ってないと思うよ。ただの人間が僕みたいな魔術師に挑もうなんて考えられないからね。君は少し違うみたいたけど……まあそれでも僕の敵じゃないね」
「くっ……」
「さて、止めを刺させてもらうよ。殺(や)れ、『魔女狩りの王』ッ!」
怪物が炎の大剣を振りかざしたその時、天井から水が溢れ出てきた。雨が降り出したわけではない。廊下の天井に備え付けられたスプリンクラーが作動したのだ。
「なっ、何だこれはッ!」
ステイルが狼狽えているとエレベーターの鐘が鳴り、扉が開いた。二人が見るとそこには腕を組み右手の手の平を顔に近づけ、彼らに対して斜めに構えているジョジョがいた。
「ジョジョ! お前逃げたんじゃ……」
「おいおい。俺が友達を見捨てるように見えたのか?」
「いや…でもさっきのはどう見ても見捨てる奴の態度だったぞ」
「みくびってもらっちゃあ困るね。この武城譲治、戦略的撤退をすることはあっても友達を見捨てることは絶対にしないッ!」
「……すると君はわざわざ殺されに戻って来たのかい?」
二人が話している時にステイルが会話に割って入ってきた。
「言ったはずだぜ。お前を倒す算段はついてると」
「まさかこれがそうだとでも言いたいのか? あいにく『魔女狩りの王』はこんな水じゃ消えるほどヤワじゃないんだよ」
「まさか! 俺の狙いはこいつさ」
ジョジョは何かの記号が書かれた紙を取り出した。
「これってさっきインデックスが言ってたルーンってやつか!」
「ああ、そうだ。こいつが下の階にビッチリと貼ってあったがこのスプリンクラーで全部ダメにしといたぜ。今ならお前の右手で――」
消せる、と言おうとした時、突然ステイルが笑い出した。
「全く、何を言い出すかと思えば。ルーンの紙っていうのはトイレットペーパーみたいに水に濡れた程度じゃ破けたりしないんだよ。折角びしょ濡れになったのに無駄足だったね」
勝利を確信したステイルは構える。
「悪いけどもう君たちと遊んでいる時間はないんだ。殺(や)れ! イノ――」
ステイルが命令する前にパキン! という音が響いた。上条が右手で怪物に触れていたのだ。無駄なことを、とステイルは思っていた。しかし彼の思惑とは裏腹に、怪物は再生することなく塵になって消えた。
「なっ、何故だ! どうして再生しないんだ!」
「気付かなかったのか?」
ジョジョは先ほどのルーンをステイルに見せる。よく見ると紙に書かれているインクが重力に従って滑り落ちていた。
「紙は破けなくても、紙に付いたインクは落ちるだろ」
「へッ、そういうことか!」
「馬鹿なっ!」
有効打がなくなり狼狽えていたステイルに上条は肉薄し渾身の右ストレートを彼の顔に叩き込んだ。
TO BE CONTINUED
・「緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)」
自身の体温を上げ高熱になった拳を放つ。物質を焼き切るだけでなくある程度の温度までならヤケドせずに触ることができる。しかし使用者も熱の影響が出るので同時に波紋のガードを行う必要である。そのため波紋の力は他の技と比べると弱い。また本編でも述べたように3000℃の炎など人間の限界を超えた温度を扱うことはできない。